【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

市民に愛されるせせらぎをめざして
下水処理水が創造する都市の水辺空間

兵庫県本部/神戸市・下水高度処理水を用いたせせらぎの水質や維持管理に関する調査研究会

1. はじめに

 1995年1月17日の阪神・淡路大震災からの復興を目指し、神戸市では安全で快適な魅力ある街づくりを推進してきた。「水とみどりの都市づくり」をコンセプトに、アメニティーの高い快適な水辺空間を震災の経験と教訓を生かしながら災害時の避難場所・消火用水・生活用水の確保ができる市民生活に密着した空間づくりを進めている。
 下水道が有する膨大な水資源は、水辺空間の創造に欠かせないものであり下水処理水を活用したせせらぎが市内各地で整備されている。
 復興を目指して整備されたせせらぎを良好に維持管理し、地域で活用されることが、魅力ある都市づくりや地域の活性化にとって極めて重要である。
 このためせせらぎがもたらす効果を明確にし、地域での活用や維持管理に関する課題や問題点を解決することを目的に「下水高度処理水を用いたせせらぎの水質や維持管理に関する調査研究会」を設置し、松本地区のせせらぎを具体的な題材として調査、研究を行った。

2. 下水高度処理水を用いたせせらぎの水質や維持管理に関する調査研究会

① 研究期間   2005、2006年度
② 構成員    学識経験者、市民代表、地域住民、行政機関
③ 研究テーマ
 ア せせらぎの活用や維持管理の実態を調査し、それに応える供給水源を確保する
 イ せせらぎの活用や維持管理が、地域で自立し、継続的に行えるようにせせらぎの管理主体を明確にし、地域でのせせらぎの活用や維持管理に関する制度を創設する
せせらぎの花菖蒲
生物観察会


3. 阪神大震災と松本地区のまちづくり

 松本地区は、神戸市兵庫区のほぼ中央部に位置し、古くから交通の要衝として、商業施設と住宅が混在する市街地を形成してきた。この松本地区を1995年1月17日未明に阪神・淡路大震災が襲った。
 この大震災で、松本地区は家屋の倒壊およびその後に発生した火災により、地区の81%が被災し、西側約半分の建物は焼失した。
 神戸市は、1995年1月26日に神戸市震災復興本部を設置し、同年3月に「松本地区震災復興土地区画整理事業」に関する都市計画決定が行われた。しかし、被害を受けた松本地区の住民の意見や考え方を反映したまちづくり案を提案するため、同年5月に地元住民による「松本地区まちづくり協議会」が設立された。何度もこの協議会が開催され同年12月には「松本地区まちづくり提案」がまとめられ、せせらぎのある松本通りの構想が具体化した。
 当初、幅員車道10mの大きな道路建設が計画されていたが、地元住民の「火事のときに消火用水があれば……」との発想からせせらぎのある松本通りのイメージができあがった。住民案を受け、歩道を大きく設けその中にせせらぎを通す事業計画が決定された。
 翌年、1996年3月26日にこの「まちづくり提案」を尊重した2段階目の都市計画決定を行い、「松本地区震災復興土地区画整理事業計画」を計画し、事業に着手した。

兵庫区松本地区のせせらぎ
せせらぎのある松本通りのイメージ図
松本地区事業計画図 

4. 下水高度処理水の供給とせせらぎの整備 

 この事業計画を受けて下水道部局では、せせらぎへの下水処理水供給を検討し、松本地区の北東に位置する鈴蘭台処理場に高度処理を導入し、その処理水を松本地区へ送水することを決定した。建設工事は1999年3月より着手し、鈴蘭台処理場の高度処理改造や処理水送水管の建設が進められ、2001年9月に全ての工事が完成した。
 鈴蘭台処理場では日処理量16,000m3全量を高度処理し、処理方式は、循環式硝化脱窒法、塩素滅菌及び砂ろ過法による急速ろ過、またオゾン処理などである。
 鈴蘭台処理場からの処理水は、湊川ポンプ場を経由して松本地区のせせらぎへ放流している。

松本せせらぎの位置図
松本地区周辺図 

5. 松本地区せせらぎの概要

 松本せせらぎは、松本通り3丁目~8丁目まで約800mの各丁ごとに設置され、せせらぎだけの総延長は約510mとなっている。また、初期の消火用水にも使えるよう構造上部分的に深みを設けている。2000年11月に着工し、翌2001年9月30日に松本通り5丁目~7丁目のせせらぎ約252mが完成し、当日には、まちづくり協議会主催の「せせらぎお披露目式」が行われた。この後、2003年9月に残りのせせらぎが完成し総延長510mのせせらぎが整備された。

6. せせらぎの活用や維持管理に関する課題

 子どもたちがせせらぎに生息する生き物を採って遊んだり、地域住民の方のボランティアによる月2回のせせらぎ清掃活動も行われ、このせせらぎを地域の方々が維持管理をし活用してきた。ところが、子どもが水の中に入った場合、衛生的に大丈夫か? 冬季に残留塩素によって生息している生き物が死んだりしないか? 清掃活動を続けて行かなければならないのか? などの問題が地元から上がってくるようになった。
 そこで、神戸市ではこのような下水再生水を流すせせらぎについての課題を整理し、対応を検討することになり2005年に「松本せせらぎ調査研究会」が設置され、せせらぎの維持管理に関する調査、研究を行うことになった。
 下水再生水を水源とする松本せせらぎ(以下松本)と河川を水源とする都賀川との比較をし、衛生面、維持管理面での比較調査を行った。
 衛生面では、松本、都賀川とも同量のサンプルで大腸菌群数を調査したところ、都賀川では約1,000個の大腸菌が検出されたのに対し、松本では0個であった。これにより、松本の水質は河川水源の都賀川せせらぎより良質であることがわかった。
 次に、維持管理面では、清掃ボランティアの問題である。窒素、りんの濃度が高く栄養塩類が多いことから藻類が付着しやすく、清掃の頻度が増える。
 そこで、藻類の成長を抑制するためにそれを摂食する生き物を放流したり、川底に砂を多く敷きその流動により藻類をつきにくくする方法を実施し、清掃活動の省力化につなげることができた。さらに調査の一環として地元住民のせせらぎに対する意識調査も行った。地元の方たちの主な意見として、(せせらぎは)心が和む癒しの空間・松本地区の資産価値があがる・清掃活動などを通して地域の交流に役立っているなど、せせらぎの存在を肯定する意見が全体の8割を占めた。2001年9月の供用開始以来、地域住民によって自主的に管理され、花菖蒲やホテイアオイなどの水生生物が育てられ、金魚や熱帯魚が人の目を楽しませてくれている。また、地域で行われているせせらぎの定期清掃がコミュニティの形成に大きな効果をあげていることがわかった。

7. 今後の活用に向けて(せせらぎの生き物観察会)

 今後の活用に向けてせせらぎの生き物観察会を行った。目的はせせらぎの定期清掃などで地域コミュニティの形成に一定の効果があり、今後は地域の活性化を目的として、さらにせせらぎを活用することが考えられる。これはその一つの例であり、イベントを施行し、その結果をふまえてこれからの活動をするうえでの参考にするためのものだった。


8. 最後に

せせらぎの生き物観察会の様子 
観察会の開催
下水道のしくみの説明
展示の生き物
生き物の観察
生き物の解説
パネルを使った説明
実体顕微鏡で観察
小さな生き物

 神戸市の下水道は1951年の事業開始以来、50年にわたり下水道整備を進めてきている。その結果、2008年度に普及率は98.6%に達している。下水道の基本的な役割の一でつある市民生活や都市活動により発生した汚水を処理して生活環境を改善するといった役割は達成されつつあるが、一方で下水道は処理水、汚泥など豊富な資源や未利用のエネルギーを有していることから、これらを積極的に活用していかなければならない。
 主な施策として、処理水の有効利用の他に汚泥ガスの有効活用がある。これまでは処理過程で発生していた汚泥ガスは燃焼していたが、それを精製することによって高濃度のメタンガスを得ることができ、天然ガス自動車の燃料として活用するプロジェクトがすでに立ち上がっている。
 「こうべバイオガス」と呼ばれ、日本で唯一神戸市東部の「東水環境センター」に精製設備がある。
 現在1日に約6,000m3のバイオガスを精製し、自動車用燃料に1,300m3、処理場内の熱源に2,700m3を使用している。2008年の供用開始以来、延べ1万台の市バスや宅配トラックなどに供給をしてきたが、今後は大阪ガスに導管接続し一般家庭などに送るための実証実験を行う予定になっている。
 完成すれば、約2,000戸の一般家庭が年間に使用するガス量に相当する、約80万?のガスを供給することができ、二酸化炭素の削減量は年間1,200tと試算されている。
 また、世界中に「こうべバイオガス」関連のニュースが配信されていることから、国内外から連日、視察団が訪れている。このことからも環境保全に対する関心の高さがうかがえる。
 神戸の街の持続的な発展や市民生活、社会経済活動を支えるうえで、下水道施設を健全に維持管理していくことは極めて重要である。また安全で安心なまちづくりに向けて浸水から街を守る役割や阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた地震対策、閉鎖性水域の水質保全、地球環境保全への貢献や循環型社会の構築に向けた下水道資源・施設の有効利用など、下水道に求められる使命・役割は一層多様化していると考えられる。