【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり

 普天間基地問題は、昨年8月の衆議院総選挙における歴史的政権交代により政権の最重要課題として、全国民が認識する問題となった。しかし、政府は今年5月末に日米共同声明を発表して県内移設に回帰する方針転換を行い、沖縄県民の大きな反発を受けている。そのような状況下において、1996年のSACO合意から一向に進まない普天間基地問題の解決に向けた宜野湾市のこれまでの取り組みや今後の行動展開について本レポートで紹介する。



普天間飛行場早期返還に向けた宜野湾市の取り組み


沖縄県本部/宜野湾市職員労働組合 普久原朝亮

1. はじめに

 昨年8月に執り行われた衆議院総選挙で政権交代がなされた瞬間、沖縄中が文字通り、歓喜に沸いた。中には笑顔と共に涙ぐむ高齢者も多数いた。なぜなら、選挙前における鳩山民主党党首(当時)が「普天間飛行場は最低でも県外」との公約のような発言を受け、多くの沖縄県民が沖縄の基地負担軽減という悲願に票を投じ、その結果、歴史的政権交代が実現し、沖縄県民の悲願が叶ったように感じたからである。(事実、沖縄県内4選挙区ではすべて「県内移設反対」を掲げる候補者が当選した。)
 しかし、そのような状況から打って変わって、現在では沖縄県民は怒っている。
 政府は今年5月に日米共同声明を発表し、普天間飛行場を県外へ移転するどころか、前政権とまったく同一な計画のまま県内移設推進に回帰したからである。
 「裏切られた―。」沖縄県民の憤りは非常に強い。今後、政府が県内移設を強行しようものなら、激しい反対運動が島ぐるみで行われるであろう。地元の認識としては、普天間飛行場の県内移設は決して認められず、"不可能"なのである。
 アメリカ国内においても普天間飛行場の不要論を唱える民主党有力議員が出ている(添付資料1・琉球新報「ワシントン特派員」記事)。彼らは「沖縄に海兵隊はいらない」「中国と戦うとは思えない」など述べ、リーマンショック以降の深刻な財政赤字を埋め合わすため、多大な費用の係る米国外基地を削減ターゲットに本質的論議をしている。今後、米国内において沖縄における海兵隊の駐留意義について更に議論が進むことが予想される。
 沖縄は戦後60年余に渡り、大きな基地負担を背負わされ、その危険性が指摘される普天間飛行場は民間地への墜落事故も発生し、その他、在沖米軍人による悲惨な事件・事故も多い。政府は今こそ沖縄県民としっかりと向き合い、真の沖縄の基地負担の軽減と普天間飛行場の危険性除去を米国に要求する時機に来ているのではないか。
 このような状況の中において、普天間問題の決着の最大決戦として考えられる沖縄県知事選挙(11月28日投開票)に、普天間問題を抱える市長として精力的に活動してきた伊波洋一宜野湾市長が出馬を予定している。政府は知事選後に普天間問題を対応するとしていることから、沖縄の将来を決める選挙戦が行われる。

2. 米軍普天間飛行場問題

(1) 普天間飛行場の概要
■所在地:宜野湾市   ■面積:約481ha(約92%は、民有地である。) ■地主数:3,031人
■年間賃借料:約65億2,200万円 ■基地従業員数:約200人 ■軍人・軍属:約2,000人
■常駐機:計52機   ヘリコプター:CH-46など36機、固定翼機:KC-130空中給油兼輸送機など16機

(2) 普天間飛行場の状況
① 訓練の状況
 ア 米軍機による住宅地上空での低空旋回飛行訓練
 最も危険で騒音を発生させるものとして、ヘリによる住宅地上空での低空旋回飛行訓練が頻繁に行われている。訓練の方法は、早朝から夜間の間、時間に関係なく行われ、飛行訓練の基礎といえる離発着(タッチアンドゴー)訓練が住宅地上空で行われている。旋回訓練であるため、旋回コースの上空を5分間隔、頻繁の場合は30秒間隔でヘリが通過し、1~3時間継続する飛行訓練を行っている。また、KC-130空中給油機及び嘉手納基地所属のP3C対潜哨戒機の長時間にわたる旋回飛行訓練が頻繁に行われ、FA-18ホーネットも激しい爆音を撒き散らし飛来するなど、受忍限度を超える騒音被害が生じている。

② 沖国大への米軍ヘリ墜落事故
2004年8月13日沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故
 2004年8月13日午後2時15分頃、沖縄国際大学本館ビルに米海兵隊所属CH-53D大型ヘリが激突し、墜落炎上する大事故が発生した。市ではこれまで市街地に囲まれた普天間飛行場での危険な住宅地上空での飛行訓練をやめるよう日米両政府に対する再三の要請を行い、同年7月に実施した訪米要請行動直後に起きた大惨事であった。墜落時が大学の夏休み期間であったことから奇跡的にも民間人への死傷者がでなかったものの、市民の心に現実に起こりうる墜落の危険を真に受けるものとなった。墜落事故周辺地域においては飛び散ったブロック片やヘリの部品等によって物的被害が発生し、道路が米軍によって一方的に封鎖される等、市民生活に大きな影響を及ぼした。
 墜落事故を受け、市では「沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故に抗議し、ヘリ基地としての運用停止、危険極まりない普天間飛行場を閉鎖して早期返還を求める3万人の宜野湾市民抗議大会」を開催し、日米両政府に対し要求してきた。しかし、現実はヘリ墜落事故以前と変わらず米軍機は住宅地上空飛行を続け、嘉手納基地所属のP3C対潜哨戒機や岩国基地所属F18戦闘機等が頻繁に離着陸訓練を行うほか、超大型輸送機のギャラクシーやアントノフもたびたび飛来し、市民は大きな基地負担を強いられている。

③ 国内航空法の適用されない危険な飛行場
 普天間飛行場はその名の通り、飛行場機能を持った米軍基地であるが、国内法の適用されない区域であるが故にその規制は国内であっても国内航空法が適用されていない。よって、通常の飛行場に適用される滑走路の延長線上における危険区域の安全確保がされておらず、軍用機は離着陸の毎に住宅地のスレスレを飛行し、宜野湾市民は常に危険に晒される状態で生活をしている。
 宜野湾市では普天間飛行場の安全基準について米国での調査を行った結果、普天間飛行場においては米軍や米国の基準に著しく違反している事実が明らかになっている。米軍の運用基準では、CLEAR ZONE(クリアゾーン)について「滑走路の延長上をクリアゾーン(利用禁止区域)とする。このエリアは、事故の危険性が最も高く、開発することが禁じられている。伝統的に、クリアゾーンは、政府によって買収されるか、限定的地役権が適用され、飛行への障害が除去されている。海軍及び海兵隊の航空施設での飛行運用形態により、台形、または扇形のクリアゾーンが設けられる。クリアゾーンは、運用されている全ての滑走路端の延長上に義務付けられる」と定められている。
 また米軍作成の「普天間基地マスタープラン(1992年6月付)」においても、米軍は海外基地においても利用禁止区域CLEAR ZONEは設定するものとして施設内において厳格な適用をしている。同マスタープランでは、施設外においてもCLEAR ZONEは実現しているかのような記述がされている。
 しかし、実際には、施設外の利用禁止区域CLEAR ZONE内に市立普天間第二小学校などの公共施設の他、多数の住宅施設が存在している。本市としては、このような状況に対し、市民生活の安全確保を軸にして普天間飛行場の運用停止による危険性の除去を図るよう日米両政府に求めてきたが、日米両政府ともに宜野湾市のクリアゾーン指摘を無視し続けている。決して許すことのできない危険な米軍飛行場の運用が今日も続いているのである。

3. 宜野湾市の取り組み

 宜野湾市では普天間飛行場の閉鎖・返還に向けた基地返還計画「アクションプログラム」を策定し、具体的行動展開を行っている。以下、その内容の一部を紹介する。

(1) 米軍資料分析調査
 宜野湾市では、米軍普天間飛行場に関する米軍資料を分析する調査を行っている。調査は主に国防総省が公開している在日米軍基地の情報を入手して、翻訳・分析を行っている。また必要とあれば米国情報公開制度を利用し、米軍に対して文書の情報開示請求も行っている。これらの調査から得られる情報は、日本政府側から提供される情報には含まれていないものが多く、米側の視点で捉えた普天間飛行場問題に関する日米合意の詳細や米軍再編の内容を理解することが出来るため、極めて大切な作業である。この調査をする中で、前述した普天間飛行場の安全基準違反(クリアゾーン)の問題や、在日米軍再編合意における沖縄からグアムへ移転する海兵隊員約8,000人の内容などを分析している。宜野湾市ではこのような情報を複合的な観点から分析し、知り得た情報については市HPでの発信や国会議員等への情報提供など行っている。

(2) 訪米要請行動
  宜野湾市では普天間基地問題解決のための政府要請(外務省・防衛省等)を行う一方で、時機を見て直接訪米し、米国政府等へ普天間基地問題の解決要請も展開している。訪米要請を行うことは、アメリカ政府や連邦議会などに沖縄の声をしっかりと届け、それに対応する解決へ結びつけることを目的としている。また、訪米中においては米国内の基地専門家や基地所在自治体とのネットワークを広げることにも繋がり、それらは市の基地政策の多様な解決策を切り開くツールとして役立っている。

① 2004年訪米要請行動(ワシントンDC等)
  市では、米国の世界的な軍事基地再編に対する取り組みとして、米国の防衛戦略の把握、米国内及び国外の米軍基地の閉鎖再編がどのように進むのかということを中心に、①世界的な米軍基地の再編、②米国内の基地閉鎖再編の2005ラウンド、③米国連邦議会に設置された海外基地見直し委員会の三つの動きをターゲットに要請行動を実施した。また訪米期間中に開催された米国連邦議会の設置した海外基地見直し委員会では、証言についてコーネラ委員長の承諾を得て、同年11月に「普天間基地の閉鎖を勧告すること」、「沖縄の米軍基地の大幅削減を勧告すること」についての証言書面を提出した。同委員会では、2005年5月に中間報告、8月に最終報告を連邦議会と大統領に提出し、その報告書において結果的に唯一、固有名詞で普天間飛行場の閉鎖が勧告されたことは本市の要請行動の成果となった。

② 2005年訪米要請行動 (ワシントンDC・オーシャンサイド市)
 ワシントンD.C.においては、普天間飛行場問題の解決を図るため、国務省、国防総省、上院議員等の米国政府機関や連邦議会議員と面会し、普天間飛行場の県内移設によらない早期閉鎖・全面返還について要請すると共に、現在進められている日米再編協議において沖縄の基地負担軽減を実現する行動を展開した。またワシントンにおける要請後は、米国内の基地所在自治体を訪問し、ペンドルトン基地を抱えるオーシャンサイド市(ジム・ウッド市長)からは、「ペンドルトン基地と一番近い住宅地は3マイル(約5㎞)も離れている」「住民の苦情を受け、軍が飛行ルートを変更し、飛行訓練は洋上で行っている」など聞き取りした。また、米軍基地も国内法の規制の下にある上、軍はさらに厳しい基準を定めて住民生活との調和を取り組んでいるとの事であり、良好な住民生活(Quality of Life)の確保は当然の事であるという話は、沖縄での基地と住民の関係と比較して非常に印象的であった。

③ 2008年訪米要請行動 (ハワイ米太平洋軍司令部)
 1992年6月に海軍省太平洋局から出された海兵隊航空基地普天間マスタープランによると、普天間飛行場のクリアゾーンが「滑走路中心線の両側と滑走路両端から伸びる部分に設定されており、障害物を排除し離発着の際の安全を確保するためのエリアとして設定されている」と記述されているが、実際にはクリアゾーン内に普天間第二小学校を含む公共施設・保育所・病院が18箇所、住宅約800戸、約3,600人余の住民が居住しているのが実態であることから、米本国と沖縄で異なる基地運用がなされている実態を指摘し、普天間飛行場の一日も早い危険性の除去及び早期閉鎖・返還を求めて要請行動を行った。
 しかしながら要請先である米太平洋軍司令部では面談が拒否され、要請書の受け取りさえも拒まれたものの、カネオヘ海兵隊基地の所在するホノルル市の現地調査では、危険なクリアゾーン内に建築を許可することはあり得ず、米本国ならば軍主導で対策を講じられることが判明したことから、沖縄とハワイにおける海兵隊基地の運用の違いをあらためて認識することとなった。

クリアゾーン内には公共施設・保育所・病院が18箇所、住宅 約800戸、約3,600人余の住民が居住している

(3) 「国の普天間飛行場の危険性放置に関する訴訟」について
 宜野湾市では今年度4月に委託調査した「国の普天間飛行場の危険性放置に関する訴訟の可能性調査」が6月24日までに完了し報告書を受理した。
 本委託調査は2009年2月に策定した「第三次普天間飛行場返還アクションプログラム」の一環として「人権的観点から国際機関や司法の場へ訴えることを検討し、取り組んでいく」ことを踏まえ実施しているものである。
 市では、2003年4月の伊波市長就任以来米軍の安全基準や日本の航空法が適用されない普天間飛行場の危険性を指摘し、運用の停止を求めてきた。しかし、これまで幾度となく普天間飛行場の危険性や騒音被害などを国に指摘してきたにも拘わらず、被害は益々増大し受忍限度を超えた運用が続いているのが実態である。
 日米両政府は、1996年3月の「普天間飛行場の航空機騒音規制措置」や2000年9月の「環境原則に関する共同発表」さらには、2007年8月の「普天間飛行場に係る場周経路の再検討及び更なる可能な安全対策についての検討に関する報告書」などを合意しているが、合意の遵守状況も確認されることもないまま、改善がされることなく、その危険性は放置され、市民の騒音被害は増える一方となっている。
 それらを踏まえ、今回の調査を行った弁護士グループからの調査報告では、国によるアメリカ合衆国への普天間基地の提供は、①憲法92条、94条が保障する宜野湾市の自治権と憲法32条が保障する裁判を受ける権利を侵害し、②憲法14条が保障する地方自治体の平等原則に違反し、③「飛行場としての安全性」を欠く施設提供は著しく受忍限度を超え違法であるとし、訴訟を提起すること及び宜野湾市が被ってきた損害について国家賠償請求を提起することの2点を提言している。
 市としては、今回の調査報告を受けて市民の生命財産を守る責務から市民利益に即した提訴の判断を諮問機関での審議や庁内議論を通じ、提訴の時期等について判断していきたい。また市が司法に提訴するには、予算措置を含め市議会議決が必要とされることから市議会への説明と理解を得ながら取り組んでいきたい。
 今回の国に対する米軍基地訴訟は、戦後65年経過した現在まで在日米軍施設の75%が沖縄に存在し過酷な基地負担を押し付けられ、市民・県民は基本的人権さえ踏みにじられた生活を放置し続けている政府の普天間飛行場の提供のあり方を司法に問うことを目的とするが、他方、自治体が国を訴えるという前例のない事例であり、基地の負担に苦悩する自治体への有効な手法となる可能性もあることから、提訴自体が大きな社会的インパクトを生じさせるものになり得る。

(4) 今後の課題
 昨年11月20日に「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」が米海軍省からグアム州政府と住民に公表された。その中では、沖縄から約8,600人の海兵隊常駐部隊がグアムに移転すると記述されると共に、37機の海兵隊ヘリ部隊もグアムに常駐することになっている。移転してくる海兵航空部隊2,100人と海兵隊ヘリは普天間基地の部隊であることはほぼ間違いない。では何故、海兵隊はグアムに移転していくのに、鳩山前首相は海兵隊を動かせないと言ったのであろうか。
 日本が約7,000億円も負担するグアムへの海兵隊の移転の詳細を国民に隠し、海兵隊は国外に移せないという真逆の理由で辺野古新基地建設に一兆円とも言われる巨額の国民の血税が使われようとしている。政府はグアムへの海兵隊移転の詳細を国民に明らかにする責任があり、私たちは政府に対してしっかりと追及してゆく必要がある。
 また、今年5月の日米共同声明は、明らかに基地機能の強化であり、基地負担軽減は名ばかりで、新たな負担の押し付けであることを認識しなければならない。普天間飛行場問題の課題は、SACO合意の二の舞となる県内移設を前提にして、普天間飛行場の危険性が放置されることは断じて認められず、また、新たな基地建設によって今後約100年に渡り基地負担を背負わされることのないよう、普天間基地の即時閉鎖、早期返還と新基地建設を断念させることを求めて取り組むことが今後も必要になっている。

琉球新報社記事