【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり

 外国人生活相談窓口では、一般に考えられている以上に多様な問題を取り扱い、それぞれの問題に対峙して解決に導いていかなければならない。日本人ならば、「○○窓口へどうぞ」といえるところが、言葉の問題や文化認識の違いがあり、機関紹介だけでは充分な情報提供とはいえない。外国人窓口の今を伝えることで、多文化共生時代の外国人住民サービスについて考えていきたい。



多文化共生時代の外国人相談
~窓口からの提言~

兵庫県本部/兵庫県国際交流協会労働組合・公益財団法人兵庫県国際交流協会
外国人県民インフォメーションセンター(西語) 村松 紀子

1. はじめに

 兵庫県外国人県民インフォメーションセンター(※1)では1994年の開設以来、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語の4ヶ国語で兵庫県に住む外国人県民の生活相談を行っている。
 相談業務を担う外国人相談員は、日本語を含む2ヶ国語以上の言葉の通訳技術を持ち、日本の社会制度を理解している。雇用形態は非常勤嘱託員(週30時間)ではあるが、相談業務には経験が必要なので、一番長い相談員はすでに20年以上相談業務に携わっている。こうした外国人相談業務に携われる人材はまだ日本には少ない。
 在住外国人も、在日韓国・朝鮮の人たちだけでなく、70年代にインドシナ難民の人たちが、中国残留孤児とその家族が、90年の入管法改正で南米の日系人とその家族が来日する一方で、国際結婚も増え続けている。日本国内で外国にルーツを持つ人たちの多様化が進んでいる。そうした状況の中で外国人相談は、独自の変化を遂げてきた。来日当初、日本語が話せない、読めない、書けないという言葉の問題が大きかった人々も、定住化以降は、家族の問題や失業、貧困、病気といった日本人と同じような悩みを持ち、その内容も深刻化している。
最近の外国人相談窓口からみえる多文化共生時代の外国人相談の現状について報告したい。
 ちなみにこのレポートでは「外国人相談」「外国人相談員」という名称を使っているが、これは相談員自身が外国人という意味ではなく、相談者(クライアント)が外国人であるという意味である。また、「外国人相談者」には国籍にかかわらず、日本の制度や文化、習慣になれていない人、日本語以外の言語での相談や情報収集を必要とする人も含めることとする。

2. 相談内容の傾向と分析

図1 2009年度内容別相談

 地域での多文化共生施策の実行は、国際交流協会や地域のNPO等にゆだねられるケースが多い。すでに国際交流協会の役割は、姉妹都市交流や国際理解から地域に住む外国人住民の相談や日本語教育といった在住外国人支援にシフトしつつある。多くの国際交流協会では、外国語での相談窓口を設置したり、同行通訳ボランティアを確保したり、多文化ソーシャルワーカー(※2)を育成したりと地域性を考慮した様々な試みがなされている。
 では、実際どのような相談がよせられているかその傾向を見てみよう。図1をみて欲しい。兵庫県外国人県民インフォメーションセンターの2009年度の生活相談を内容別に分類したものである。
 第1位で約17%をしめる「くらし」には消費者トラブルや近所づきあい、広く生活一般の相談が分類されている。最近では不況の影響で、クレジットカードや消費者金融に関する相談が増えている。たとえばクレジットカードでは、リボ払いを利用して現在の負債額がわからなくなってしまっている相談者も少なくない。自己破産や債務整理を行う人もいる。そうした相談には弁護士相談を活用し、弁護士から返済方法のアドバイスをもらうようにしている。また生活苦から生活保護申請や公的貸付に関する問い合わせも急増している。セーフティネットのしくみがわかりにくい外国人にとっては、まず情報を提供することが大切である。
 2位の「労働」に関しては、労働契約のトラブルや不当解雇、会社内のいじめなどとともに、中国人研修生・実習生のトラブルが後をたたない。また、来日してずっと働いてきた会社を今回の不況で解雇され、中高年になってはじめて資格もなく日本語も不十分で求職活動をする外国人労働者の苦労は並大抵ではない。会社側が要求する日本語レベルもあがり、日常会話ができても漢字がわかる労働者から順番に仕事が見つかるというのが現状である。ハローワークに通いながら生活相談窓口で、面接の練習や履歴書を書く練習をする人たちもいる。職業訓練や資格取得に励んだり、運転免許の取得を目指す人たちもおり、手続きや学校探しなどの手伝いをしたり、テキストの読めない字を日本語で説明したりするのも、相談窓口の仕事のひとつとなっている。
 「医療」に関しては、在日年数が長くなるにつれて外国人自身も年をとる。年をとると慢性疾患や成人病などが出てくる。外国人患者であっても、労働者として健康保険に加入していたり、居住地の国民健康保険など日本の公的保険に加入していれば、帰国ではなく日本での治療を希望するケースが増えている。また、医療通訳需要の中にはうつや統合失調症、薬物依存などの精神疾患に関するものも少なくない。精神疾患の場合は、病院とのコミュニケーション、本人の精神科医療に対しての理解不足など課題も多く、一般の医療通訳より難易度が高くなる。
 また、日本の医療現場には日本独自の「しきたり」とも言えるものがあり、外国人患者の国に存在しないこの独自の医療文化が言葉の問題よりも実は外国人患者の受診を困難にしている。外国人患者、医療者ともに、言葉だけでなく、コミュニケーションの支援が必要である。こうしたコミュニケーションの支援の多くは身近な家族や友人が担っているが、守秘義務や通訳レベル、子どもが通訳をすることの福祉的な問題もあり、日本における医療通訳の制度化は急務であると考える。
 こうした医療者と言葉が通じない場合、外国人相談窓口では電話(トリオフォン(※3))通訳や問診表の記載手伝い、ファックスでの書面説明などとともに、日本の医療システムや保険制度についての説明を行っている。医療分野においては、出産、子育てから病気の告知や終末期医療まで、人間が暮らす中で必ずお世話になるため、言葉だけでなくより温かいケアが必要とされている。
「出入国」に関しては、日本人にはなかなか馴染みがないだろう。外国人が日本に合法に滞在するためには「在留資格」が必要である。「永住」以外の在留資格には期間の定めがあり、更新手続きを行わなければならない。その際提出する必要書類はもちろん自分で準備しなければならないが、日本語で記載されている書類はわかりにくかったり、役所への問い合わせが必要になったりすることもある。母国にいる家族を呼び寄せるための相談も出入国に分類される。日本の在留資格にはたくさんの種類がある。その資格によって日本における活動内容が決められている。よく「就労ビザ」とか「ワーキングビザ」を持っているという言い方をする人がいるが、実際にそういう名称の在留資格は存在しない。「就労可能な在留資格」というのが正しい。
 この「出入国」に関しては、日本人の行政窓口担当者が在留資格に関しての正しい知識を持たなければ、間違ったアドバイスを行うことになり、在留資格を理解しないことで外国人住民への人権侵害を起こす可能性もあることを忘れないで欲しい。窓口で外国人に関する業務を行う可能性のある職員には是非、最低限の在留資格に関する知識を持っていただきたいと願っているが、わからないときは、外国人相談の専門相談員や地域の入国管理局に確かめて欲しい。
 「住居」の相談は景気と共に変動する。景気のいい時には、住宅付の仕事がたくさんあった。しかし、景気が悪くなると住宅付の仕事も減少し、失業すれば即住居を失うというリスクも発生している。その場合は、可能な限り自分で民間住居を捜すか、公営住宅に申し込まなければならない。今回の不況で20年近く日本にいて、派遣会社以外の住宅にはじめて入居したという人も少なくない。公的な窓口では、具体的な民間住宅の斡旋はできないが、母語で契約書の内容や条件面の説明など手続きの通訳を手伝うこともあり、また入居要件に問題がなければ公営住宅についての案内を行っている。
 しかし、最も注目して欲しいのは、このグラフの中にあらわれてこない5項目以外の相談が42%にのぼっていることである。この中には、離婚、DV、児童虐待などの家族内の深刻な相談もあれば、交通事故の示談、いじめ、税金の還付、年金、日本語の習得など日本社会で生きていくうえで必要な相談がつまっているといっても過言ではない。こうした外国人相談は時間がかかり日本社会から見えにくいものであるが、外国人相談窓口が広く外国人の生活をサポートしていることを理解していただきたい。このように多岐にわたる相談にあたるために、外国人相談員には幅広い知識とネットワークを必要とされているのである。

3. 高度な相談技術の必要性

 外国人相談といえば「ごみの分別」「富士山への観光」といったステレオタイプ的な外国人に対する情報提供をイメージする行政関係者が未だに少なくない。
 しかし(2)でも述べたが、外国人相談として必要とされているのは日本人でも専門知識が必要な分野や交渉などである。DVや犯罪被害、交通事故などのトラブルに巻き込まれた場合は、特別な配慮が必要であるとともに適切な専門機関や専門家との連携が不可欠と考えられる。
 言葉のできる相談員は、言葉ができるだけでは外国人相談員にはなれない。同時に、外国人相談に必要な高度な相談技術を兼ね備えていなければならない。相談技術の中には、広い知識だけでなく、様々な専門家とのネットワーク、人の話を聞く技法、相談員としての職業倫理も含まれる。また精神的なタフさも必要とされる。
 また、実態を考えたとき、ソーシャルワークと外国人相談の連携は、今後ますます強化されていくと考えられる。外国人相談を担う外国人相談員は、日本語と外国語に通じ、相談の中で通訳や翻訳をする能力をもつが、福祉分野の知識は本来期待されているものではない。しかし、現実問題、失業者や生活保護家庭といった要支援世帯が増加する中、外国人世帯の中にも行政の支援が必要な世帯が増加している。こうした家族には、ただインフォメーションを提供するだけでは不十分であり、制度の説明や書面の記入、専門機関との通訳や他機関との連携といった多様な支援が必要となる。外国人相談は、具体的な支援を提供するソーシャルワークへと役割を広げている。外国人住民の高齢化も少しずつ進んでおり、要介護の世帯も出てきている。母国の文化や制度に精通している外国人相談員は、今後ますますソーシャルワーク分野での支援の必要に迫られているのである。

4. セーフティネットとしての外国人相談窓口の存在意義

図2 2009年度対応言語別相談

 日本国内での生活基盤が脆弱な外国人にとって、失業は即貧困へつながる。実際に寄せられる相談の中には、不足する生活費や仕送りのために借金し、多重債務に陥るケースが少なくない。クレジットカードや消費者金融の日本人向け貸付が頭打ちになった頃から、外国人へのカード発行や貸付が活発になり、キャッシングやリボルビング払い、貸付などを利用した外国人たちが、失業により支払いを滞らせることで、トラブルに巻き込まれるケースも発生している。
 また、国民健康保険料を滞納している人が病気になった場合の治療費や生活保護への申請についても日本人のケースよりも言葉の問題、制度理解の問題があり丁寧な情報提供と同時に案内が必要だ。
 情報には、様々な伝達手段が存在するが、日本では文字による情報量が多い。特に行政からの情報は、市報や公報に書かれてあることが多く、日本の文字、特に漢字を理解しない外国人にとっては、情報の取得は非常に困難な作業である。書いてあることと、伝わることは違う。情報を伝えるためには届く方法を用いなければいけないし、工夫をしなければいけない。多くの自治体で、情報の多言語化が進んでおり、それはとてもよいことだと思う。予算の上から、限られた言語かもしれないが、そこには外国人住民への配慮の姿勢を示すことができるからである。
 他方、相談窓口における情報提供は、窓口に来る、もしくは問い合わせをしてくる人たちに限られており、窓口を知らない人々、来ることができない人々にどう情報を届けるかが大きな課題である。そして、こうした見えない人々への施策を考えることが本当の意味でのセーフティネットを目指す活動につながるのである。
 景気が悪くなって、出稼ぎの人たちも帰るに帰れず日本に残るという選択を余儀なくされているケースも少なくない。南米日系人対象の帰国支援事業(※4)も終わり、現在日本に残る中南米の人たちは残ることを選択した人々ではあるが、その理由は、日本の治安や教育レベルの高さなどの積極的な要因もあれば、帰る場所がない、帰っても仕事がないという消極的要因もある。外国人が抱える悩みや問題は、国籍や人種のステレオタイプで考えられるものではない。それぞれがオーダーメイドであり、細やかな対応が必要になる。ちなみに図2で示した言語別相談内訳では、スペイン語の相談が非常に多いことがわかる。これはスペイン語相談をもつ全国の窓口で同じ傾向を示している。実際の外国人登録数は、中国、韓国・朝鮮、ブラジルに比べてスペイン語圏は少ないにも関わらず、スペイン語の相談が多いことの理由としてはいくつか考えられるが、単純に外国人数だけでは、相談需要の傾向は図れないことは明らかであり、また、相談件数だけでも相談の深刻さはわからない。是非、現場を自分の目で見てほしい。
 外国人相談窓口は、外国人の「最後の砦」である。地域や同国人コミュニティでは解決できないことや受け入れられない人々のためのシステムを行政が作っておかなければ、セーフティネットから外れた外国人の支援をすることができない。行政の支援体制がない地域は、宗教施設や支援団体、近隣のボランティアなどが孤軍奮闘しているが、民間任せになるのではなく、役割分担をして民間の団体とよい関係を形成することも重要である。

5. 終わりに

 外国人生活相談では、一般に考えられている以上に多様な問題を取り扱い、それぞれの問題に対峙して解決に導いていかなければならない。日本人ならば、「○○窓口へどうぞ」といえるところが、言葉の問題や文化認識の違いがあり、簡単に紹介できないのが現状である。これが外国人相談の間口の大きさであり、難しさである。
 しかし、一般には外国人相談は単純通訳か情報提供も井戸端会議レベルとしか考えられず、高度な相談知識が必要だということの理解に乏しいのではないだろうか。
 そして、まだまだ日本では、多文化共生社会の緩衝材としての外国人相談窓口を活用しきれていないのが現実でもある。外国人相談の窓口で何が起きているかということ、外国人相談が単純なインフォメーションでは終わらない時代に来ているということを行政職場の皆さんにも是非理解して欲しい。その上で、少しでも日本に住む外国人への理解を深め、それぞれの現場で対応できるように行政の職員の研修にも在住外国人支援の視点を入れて欲しいものである。




(※1) 兵庫県外国人県民インフォメーションセンターは兵庫県の委託を受けて、公益財団法人兵庫県国際交流協会が運営している。センター長1人の他、相談員5人(英1人、中1人、西2人、ポ1人)の職員のほかに、週1回月曜日に兵庫県弁護士会の弁護士による相談がある。相談件数は約4,000件。相談対応時間は、月~金の午前9時~午後5時。電話番号は078-382-2052。今回提示したデータは、2010年5月24日兵庫県記者発表資料「2009年度外国人県民インフォメーションセンターの相談状況について」から筆者が作成。

(※2) NPO法人多文化共生センターや愛知県、群馬県などが育成に取り組んでおり、相談窓口における多言語での情報提供にとどまらず、多様な社会的・文化的背景を理解し、相談者の心だけでなく、置かれた環境に対しても働きかけ解決することのできるものとされている。

(※3) 「トリオフォン」とは、NTTのサービス。基本料金525円(月額・工事不要)を支払い、電話機にフック機能があればどの電話でもかけられる。IP電話では対応していないこともある。通話中にフックボタンを操作すると、通話を保留し、ダイヤル操作で3人目を呼び出した後、再びフックボタンの操作により通訳を入れて、3者で相互に通話ができる。トリオフォン契約者は、発信、着信いずれのときにも第3者を呼び出すことができ、全国の加入電話(フリーダイヤルのぞく)・携帯電話にかけることができる。

(※4) 正式には厚生労働省の「日系人離職者に対する帰国支援事業」。失業などで帰国を希望する日系人に対して帰国旅費を支給する制度で1人当たり30万円。扶養する家族については1人20万円を支給する。2010年3月5日で終了。