【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 福岡市では市内235校で256人の学校用務員が日々環境整備に努めているが、業務内容を定めているものの、基本的に1人配置のため、業務内容の種類と質が個人の経験技術や考え方の違いにより、一定となっていない実態がある。教育現場で働く私たち学校用務員がどのような実務を行っているのか? 何ができるのか? 求められる役割とは? を検証した。



学校教育の一翼を担う職員に求められるものとは
―― メニュー作りで学校環境の均一化を進める ――

福岡県本部/福岡市役所現業職員労働組合・教育第1支部 苑田 正徳

1. はじめに

 現業職場の活性化を推進するため全国各地で集会や学習会が開かれてきましたが、「活性化ってなに? 何のために活性化するの? 活性化したらどうなるの?」の疑問が、ふわっと空高く浮かんだ風船のように捕まえることができない感覚をおぼえてきました。そこで現業定数確保と直営堅持のため始められた「活性化」の行き先を導き出すために2009年6月「学校用務員エボリューション・ワークショップ計画」を企画することとなりました。

2. ワークショップで問題を洗い出し、意識改革を行う

(1) 自主参加で問題課題の共通認識を高める
① これまで諸先輩の取り組みで整った労働環境のもとで、業務内容の質の向上と均一化を進め、各学校で学校用務員の役割を高めてきました。しかし、全国の現業職場同様に「民でできるものは民で」の考えのもと、福岡市でも市議会で学校用務員の体制を質される事態となってきました。そこで、活発な意見交換を行い、多くの仲間と問題課題を共有するために自主参加方式のワークショップ開催を呼びかけました。
② 第1回目のワークショップでは「九州・福岡県内の学校用務員の実態について」をテーマに近隣自治体での配置状況についての基調講演の後、「シナリオ1=合理化担当主査として学校用務員を合理化する」「シナリオ2=組合役員として合理化提案に反論する」をテーマに討論しました。

講演を受けての主な意見
① 民営化が導入された自治体の学校は問題が生じていないのか。
② 法律的な知識を、学習会などの形をとってもっと理解していくべきだ。
③ 他都市の学校用務員と福岡市とは業務内容自体が違うから民間でも対応できるのではないか。
④ もし用務員職場がなくなり、後になって用務員の大切さがわかっても、用務員が戻ることはないのではないのか。
⑤ 教育現場で働いている意義と役割を内外に認識させる必要がある。
⑥ 教職員に必要とされることが大事である。
⑦ もっと子どもたちや教職員、PTAとのコミュニケーションが必要である。
シナリオ1の主な意見
① 仕事の内容と個人の資質を調べ、不必であることを証明する。
② モラルやルール違反、法令順守違反がないか調べる。
③ 合理化が進む他都市の状況を調査して民間でできることを実証する。
④ 民間との比較を行う。
⑤ マスコミ等を利用して合理化キャンペーンを行う。
シナリオ2の主な意見
① 業務内容のメニュー作りを行う。
② 業務の内容と必要性を市民に説明するため労使で業務研究会を開く。
③ 学校用務員は何を求められているのか教職員にアンケート調査を実施する。
④ 合理化が進んでいる自治体を調査して、非正規での業務実態を検証する。
⑤ 組合内で親睦を深め、結束力を高める。
⑥ 民間との比較を行う前に正規業務以外の実務を検証する。
⑦ 研修の実施や管理体制の強化を行う。
⑧ 教育委員会、管理職、PTAとパネルディスカッションを行う。

③ 第2回目の「用務職場削減の波を乗り越えるため、真に必要とされる職域を創造する」をテーマに法律で定数削減された状況や各地での合理化の手法と、学校に直営で学校用務員を配置するための講義を行い、その後、事前に学校用務員にアンケート調査を行った正規業務以外で個別に対応している要件について討論を行いました。
④ 第3回目は、実行委員が民間委託となった近隣の自治体を視察して状況報告を行い、その後、スタッフが事前にサンプリング調査した「学校用務員の役割と実績、問題と課題について」のアンケートを基に、実際に携わってきた多岐にわたる業務内容を書き足す作業を行いました。管理職や事務職員、調理業務員、教職員の意見要望を集約することで、今まで学校用務員の目線でしか業務を捉えていなかったことに気がつくことができました。
⑤ 第4回目は前回の作業のまとめと、日ごろ使用している営繕申請書について理想の様式を検討することができました。また、これまで意識していなかった「学校用務員とは」についてさらに追求したい意見が多く出されワークショップを継続することになりました。

(2) ワークショップの効果
① ワークショップの参加者は30人から50人程度でしたが、私たちは各学校でさまざまな仕事を担っているものの、単独配置のためやり方や係わり方がおのおの違っており、有益なことであっても表に現れてくることが少ないことがわかりました。子どもたちのために不必要なものは排除して、良いものは取り入れていく取り組みの必要を感じました。
② 当初は組合役員の発案で催したワークショップでしたが、自由な発想で幅広く意見交換を行うことと、次世代のリーダーの育成のため、役員以外で実行委員会を立ち上げ、これまで企画立案を経験したことがない中堅、若年層で運営を行うこととしました。これまでの組合の取り組みは役員の主導で組合員は動員形式で「なにげなく」参加している集会や学習会が多くありましたが、土日の勤務を要さない日に志のあるものが積極的に自主参加することにより、これまで出されることのなかった各自の意見や考えが出され活性化の効果が表れました。

ワークショップで検証した業務の種類(一部省略)

(1) 環境整備等に関する業務
   ア 校舎内外の営繕及び整備
   ① 営 繕
     ドア・窓の営繕 各教室の扉、掃除用具、扉開閉ストッパー、ガラス入れ替え、ビート、カーテン、ボッコミ、戸車、クレセント、網戸、レール、鍵、取手の修理交換・開閉の調整
     床・壁・天井の営繕 床(パーケット、Pタイル、塩ビシート)、天井ボード、壁クロス張替え・壁の穴ヒビ修理・体育館ラインテープ塗装張替・校舎内部塗装・床の土間打ち・黒板の再塗装・掲示物用ワイヤー取り付け
     その他校舎内施設営繕 自転車、リヤカー修繕・児童机いす、給食台、テーブル、各種棚、園芸用具、材料保管庫、保健室ベッド、ボール入れ修理
     校舎外の営繕 アスファルト、インターロッキング施工・校内外部塗装・花棚、フェンス、清掃用具、側溝蓋の製作・グレーチング修理・落書き処理
   ② 整 備
     校舎内の整備 ワックス、ドライメンテナンス清掃作業・扇風機、暖房器具、エアコンの清掃保管点検・各種計器調整・教卓、机いす、各種棚、施設案内板、各種掲示板、受付台、リサイクルコーナー、傘たて、靴箱、カギ札の製作・ささくれ、金属の露出撤去・タイルのヒビ割れ補修交換・通路補修・便器内尿石取り・各種フックワイヤー取り付け
     校舎外の整備 運動場、校庭、遊具、ビオトープの整備・校舎外の清掃・各種塗装・各種保管庫製作
  イ 電気及び水道の応急処置
   ① 電 気
     蛍光灯、電球、コンセント、スイッチの修理交換・停電時の復旧・延長コード、ケーブル類の製作
   ② 水 道
     パッキン、蛇口交換・各種点検・水道栓設置・パイプ洗浄・水漏れ対応・冷水機設置  
  ウ 排水溝及び溜桝の清掃
    側溝土砂除去・配水管クリーニング・スクリーン清掃・大雨時の排水溝点検・ストラップの取り付け
  エ 可燃物不燃物処理保管
    収集物立会・機密文書処理・リサイクル分別整理・リサイクル分別指導・資源コーナー製作
  オ 樹木及び花壇の手入
    除草・低木剪定・花植え・水配・土、堆肥製作管理保管・害虫駆除・花壇製作整備
  カ 教具等の補修及び整備
    各教科教材の製作、修理、メンテナンス多数あり記載省略
(2) 施設、設備等の管理
  ア 校門校舎校庭出入口管理 イ 校内の点検及び巡視 ウ 火気の点検 エ 業務に係る災害発生の予防
(3) 学校連絡等に関する業務
  ア 学校連絡業務 イ 電話及び外来者の受付
(4) 定められた業務以外
児童生徒支援 児童生徒会、委員会の補助・授業に入れない生徒への声かけ・体調不良による生徒の介護保護・物を壊した児童、生徒への指導・挨拶運動・落し物探し・高所のボール取り
児童生徒の持ち物修理 かさ・自転車・めがね・靴・文房具・水筒・かばん・防犯ブザー・名札等の修理
安全対策 登下校指導・遠足校外学習補助・行方不明の児童生徒の捜索・犯罪発生時の見回り・災害時の点検・通学路の点検
授業支援 社会学習・小学1年生の授業講師・環境教育・糸鋸授業・のこぎり釘授業・体験講話・生活科稲作補助・TA主催学習講座・職場体験・勤労奉仕的活動・学校探検での交流・部活動での指導
その他 工具準備・校地外の清掃・改築工事のアドバイス・夜間パトロール・PTAや父親、諸会議の参加学童保育室・近隣公民館の営繕

3. 業務研究会が始まる

(1) 業務を精査検証する
 2009年11月当局は現業職種の必要性を広く説明する必要があるとして、現業各職種で業務研究会を立ち上げることとなりました。教育委員会も当然ながら学校用務員の業務内容を精査検証したいと申し入れを行ってきました。組合は、学校用務員の状況を市民に説明する必要があり、また、今後の学校用務員の役割を高め、子どもたちによりよい教育環境を提供する意味でも研究会を立ちあげることとしました。

(2) 公式アンケートの実施
 精査検証作業は、①現在行っている学校の環境整備等に関する業務のあり方、②共同作業及び応援作業のあり方、③技術力向上等のあり方、④業務分掌等に関する規程に直接定める業務以外の業務のあり方、⑤学校連絡のあり方、⑥人員配置及び再任用のあり方、について労使で意見交換を行うこととしました。その中で、全校に学校用務員の業務や職場環境等に関するアンケートを実施して「もっと充実(力を入れて)してほしい業務」「新たに実施してほしい業務」「現行の実施方法等を改善してほしい業務」「あまり必要とは思わない業務」など学校現場の現状把握と分析を行い、業務の検証・検討の参考にすることとしました。

(3) 業務の検証の結果
 アンケートの結果はワークショップで集約したサンプルアンケートの結果と同様で、8割から9割の管理職がおおむね満足できる内容となっており、教育的効果がある業務も認められました。しかしながら、剪定や園芸など選り好みでなおざりにしてきたり、逆に本来の業務と規定されていないものを要求されたり、私たちも管理職も業務内容の詳細を十分に把握できていない状況がありました。
 ほんの一部ではありますが、満足できない内容として次のような意見交換を行いました。
① 学校教育現場に関する項目
  作業計画が相談周知できていない・用務員間の交流が少ない・県費市費職員の労働条件が複雑である・管理職の認識が低い(教育活動に重点をおいている)・サービスを提供するのは児童生徒、保護者だけではなく教職員にも提供している認識が労使共に少ない。
② 資質に関する項目
  嫌いな業務を避けたがる・作業に取り掛かるのに時間がかかる・教育を担っている自覚が少ない・業務内容の認識がない・コミュニケーションしにくい雰囲気・業務にむらがある(精度が足りていない)・後始末ができていない・業務が多く手が回らない項目がある・何をしているのかわからない・高圧的態度をとる。
  これらの問題解決を教育委員会に提言を行って少しずつ改善させてきましたが、1993年の業務内容の明確化以前から積み残された課題でもあり、具体的に誰もが納得できる改革が必要となってきました。

4. 今後の取り組み

 ワークショップや研究会での検証の結果、業務内容の共通認識が必要であることがわかってきました。本当に必要な業務をやっている人とやらない人の温度差をなくすことが求められています。そこで学校用務員ワークショップエボリューション計画は、時代のニーズに即した進化を追求して、教職員を支援する研究を行うとともに、最低限行わなければならないMust的な業務と、することができるMay的な業務のメニュー作りを進めています。メニューには多岐にわたる項目があり、個人の経験や技術の差、工具の所持状況や作業環境等で対応が出来ないものも生じますが、福岡の子どもたちに平等で学びやすい学校環境を提供するため、制度化された共同・応援作業等で対応できるシステムを活用して、市内全校で同様の環境整備を行うことも必要となってきます。また、教育委員会と、業務中にエリア会議で全学校用務員が仕事に関わるワークショップができるように協議を行っており、今回参加したメンバーが各エリアでリーダーシップを発揮して様々な問題を解消することを期待しています。

5. 活性化の先に学校教育の向上を求める

  ワークショップと平行して労使研究会で業務のあり方の精査検証を行ってきましたが、学校には環境整備等の業務が必要であることは一致しています。問題なのは誰がどう行うかであり、研究会でも個別の業務は民間委託が可能であるが、学校という特殊な環境で学校運営ニーズに協同した職員が総合的に業務を遂行するとなれば直営で維持する必要性を市民に説明できるとしています。
 保護者が子どもの為に今日の学校に期待しているもの、それは健康やしつけの生活力であり、教育による学力の向上です。私たち学校用務員がその保護者の期待に添える業務展開を行うことができれば、学校には直営の学校用務員が必要であると誰もが認め、やりがいのある仕事となるでしょう。たとえば、教育は教員の役割ですが、子どもたちがより理解し学びやすい環境を作るのは私たちの仕事です。教員やPTA役員、子どもとのコミュニケーションで生まれる「不便だな」の解消や「あればいいな」の要求を実現化させることも私たちには可能です。教員が授業を進めやすい環境や教員と協同した生活指導を提供することによって子どもの生活力と学力の向上につながるのではないでしょうか。

6. 最後に

 これまで培われてきた安全体制の確立や研修制度、業務の質の向上と拡大は、現場で働く公務労働者だからこそできた教育政策の提案の結果です。私たちは現場を熟知した学校教育運営を担っている直営の職員だからこそ問題改善を教育委員会に要求することができます。時代の流れで変化していく学校環境を現場からの声で進化させる必要があると考えています。