【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 国が主導して推進してきた平成の大合併で、全国3,232あった自治体が1,760に淘汰された。現実には多くの自治体が交付税の減額や税収の落ち込みにより、事業の見直しや政策変更を余儀なくされている。
 そんな中で、憂慮する逆境にもめげず地域の子ども達の成長を願って、行政の力を借りずに自主的に知恵を出しあって学区の小中学校と連携して青少年の健全育成に尽力している団体にスポットを当ててみた。



おらが(我が)町の子どもはおら(我)が手で守る
―― 青少年の健全育成のために学校・地域と連携して ――
~地域がつくる協働のまちづくり~

新潟県本部/村上市職員組合 佐藤 俊治

1. はじめに

 本レポートで紹介する3団体は、いずれも新潟県の北端に位置し日本海に面した山紫水明で有名な村上市の岩船地区に所在しています。
 岩船は古代「日本書紀」に記され「磐舟柵(いわふねのき)」の推定地とされ、古い歴史を持つ港町です。また岩船の町は南北朝時代の文書に「岩船宿」としてみられ、中世には日本海側の主な港湾都市の1つとして発達しました。江戸時代になると港は村上藩の管理下に置かれ、村上地方はもとより出羽・米沢方面への物資流通港としても活発な経済活動が行われました。明治~大正時代には小中型の船舶による交易がなお盛んとなり、港は商港・漁港として最も賑わいをみせました。現代は鉄道などの陸送に流通が逆転され漁業の漁獲高も減少の一途を辿ってきており、少子高齢化が拍車をかけて人口・産業とも年々下降ぎみで歯止めがかからず元気がでない状況です。
 しかしながら町全体の産業が停滞していても、文化・産業の歴史を色濃く残してくれた先人たちの功績を糧に、岩船町の人達の子どもたちに対する意気込みは非常に強く、何かにつけて優先的に考えてくれます。そのせいか、地域活動を通して子どもたちの育成に何らかのかたちで関係する団体は28にも及びます。
 特に小・中学校との係わり合いが強く、児童・生徒の健全育成や地元産業の担い手の育成に力を入れている団体があります。前述にもありますように、行政からの援助も協力もできるだけ得ずに事業を企画したり、資金を工面したり、集めた浄財で子どもたちの活動の一助として寄与したりと物心両面で支えます。しかも無理することなく等身大のスタンスで異色な活動をしているのが『岩船体育協議会』・『健民少年団岩船地区隊育成会』・『新潟県漁業協同組合岩船港支所』の3団体であります。
 この3つの団体の年間活動を紹介しながら、地域・学校・子どもたちとの関係の位置づけや今後抱える問題などを検証しつつ、スポーツや地域産業とのワークショップを通して岩船町の活性化を図り、明日の青少年リーダー養成や協働のまちづくりの一環として提言します。

2. 各団体の活動の取り組み

 実際、『岩船体育協議会』・『健民少年団岩船地区隊育成会』・『新潟県漁業協同組合岩船港支所』の各団体はどのような活動しているのか単体ごとに列記します。

(1) 岩船体育協議会の独自性
 岩船地区民からは通称「体協(たいきょう)」と呼ばれ、1975年に発足以来35年もの長きにわたり、岩船町の青少年の体力向上とスポーツに気軽に参加してもらうこと、健康で明るい町づくりをねらいとしています。
 構成人員は44人で、岩船地区在住の20~40歳台の自営業や会社員などいろんな業種の人がメンバーとなっています。年間事業は図2にあるとおり、10以上ものスポーツイベントを主催もしくは共催しています。
 最近では子どもの参加するイベントや大会に力を入れて小学生が参加しやすいように、また運動不足にならないよう配慮して、サタディキッズ岩船と冬季スポーツ教室を開催してキンボールやユニホックなどの軽スポーツで岩船小学校の児童とのふれあいを大切にしています。
 他にもバレーボール大会・駅伝大会なども主催しますが運営費などは行政からの助成は無く、企画から運営・資金集めまで全て自前でやっています。資金の調達は会員の年会費と各商店による広告料によって賄われるものでありますが、決して余裕があるものではないです。この成功は、会員の情熱と商店主の地域の子どもを思う気持ちが後押ししている表れだと確信しています。
 全国を探せば何処かの地域でも同様な事例があると思いますが、35年も前から自分たちの手で毎年回数を積み上げてきた団体はそう無いことでしょう。


土曜日の休日を利用してのキンボール
 
図1 岩船地区の人口・児童・店舗の推移
 
     
商店がスポンサーとなって協力するチラシ
 
図2 2009年度岩船体育協議会事業
 
日程
事 業 名
日程
事 業 名
1/28
新年総会
8/23
岩船地区市民運動会
(協力)
2/7
冬季スポーツ教室
(主催)~3/14まで
8/25
夏季定例会
3/8
市民バレーボール大会
8/30
秋連盟ソフトボール大会
5/7
春季定例会
9/12
岩船駅伝大会代表者会議
5/10
春連盟ソフトボール大会
9/23
第19回岩船地区駅伝大会
(主催)
6/10
町内対抗バレー監督会議
10/24
岩船中学校とのスポーツ
交流会
6/13
サタディキッズ岩船
(主催)
11/10
秋季定例会
6/21
第39回町内対抗バレー
ボール大会(主催)
11/15
町内対抗バスケットボー
ル大会(協力)
7/20
暑気払い
12/3
忘年会
7/26
みなとフェスティバル
(協力)
12/12
サタディキッズ岩船
(主催)

(2) 健民少年団岩船地区隊育成会は足長おじさん?
 まず健民少年団とは、メジャー的に例を挙げれば「ボーイ・ガールスカウト」のような意味あいで活動する団体であります。
 旧村上市の社会教育を担当する部署が主管で、健民活動を通して健全育成と地域のリーダー養成などを目的に、1961年に村上市学区の子ども(小学4年生以上)を対象とした5つの地区(村上・岩船・瀬波・山辺里・上海府)から募集して発足しました。1960年代から70年代にかけて団員数がピークでありましたが、高学歴志向の高まりから塾通いやスポーツ少年団などの別な選択肢が増えたことが要因となり、人数も年々減少し村上市健民少年団全体で現在数は179人で、岩船地区隊は43人の団員が在籍しております。よって市からの補助金も大幅な減額を余儀なくされており、3年後にはゼロになると聞いております。
 紹介する健民少年団岩船地区隊育成会は、1976年に健民少年団の岩船地区隊の母体となって円滑に活動がされること、青少の健全育成に寄与することを目的に発足しました。
 岩船町在住の町内区長や商店主、主旨に賛同した有志の方が構成する45人の会員が1人年会費3,000円を寄付し、図3にあるような健民少年団岩船地区隊事業活動費の一部を補填しています。
 活動が宿泊や遠方の場合旅費など実費負担がかさむため、岩船地区隊育成会の試みは子どもたちが活動に参加しやすい環境作りと、保護者の懐状況の助けになっています。
 このような取り組みは、他の地区隊では実施していないので岩船地区独自の育成方法とも言えます。


健少岩船隊のキャンプ場面(飯盒炊さん)
健少岩船隊のスキー・スノボー活動
 
図3 2003年健民少年団岩船地区隊活動状況
 
期日
活動内容
場    所
5/10 新入団員基礎訓練 岩船地区公民館
5/10 入団式 教育情報センター
6/8 野外訓練 道玄池いこいの森森林公園
8/1~3 日本健民少年団連合全国
大会
新発田市一円
9/7 登山 上海府・能化山
9/12 天体観測 南大平・ポーラスター神林
11/8 SL列車の旅 新潟~会津若松
11/29~30 宿泊研修 県立少年自然の家
12/19 ロープワーク・救急法研修 消防本部
12/25 歳末助け合い募金活動 岩船市場通り
2/14 スキー活動 わかぶな高原スキー場
3/13 社会活動 新潟火力発電所
3/26~28 健民少年団連合青年指導者
研修会
国立信州高遠少年自然の家

(3) 新潟県漁業協同組合岩船港支所と水産教室
 新潟県漁業協同組合岩船港支所(以降、岩船漁協と呼ぶ)は村上市岩船港漁業協同組合として独立して運営していましたが、2000年に県内10あった漁協が合併し県内トップの水揚げ量を誇る漁協となりました。
 年間漁獲高は岩船漁協だけで2009年度で7億5千万円を計上していますが、1978年をピークに年々減少傾向にあります。漁業士や漁協の関係者と県の水産団体が、乱獲防止や研究を重ねてきた結果漁獲も安定してきました。
 しかし岩船漁協の漁業士も若い漁師のなり手が無く、最近は農業の方の生産関係が改善してきているものの第1次産業の共通の問題である後継者が不足していることに頭を痛めていました。
 一方、岩船小学校と岩船中学校は地元の産業を児童・生徒に「総合学習」や「体験学習」として授業に生かせないか模索している頃でもありました。
 ちょうど両者の思いが合致して1999年から「少年・少女水産教室」と名を打って、岩船漁協側は担い手の育成を目的に、学校側は漁業体験を通して小・中学校の児童・生徒と総合学習を指導する教育関係者に地域水産業の役割や魅力を十分に理解してもらうことをねらいとして授業に組み込むこととなり、学校と地元漁協・漁師等と連携しながら毎年開催しています。
① 岩船小学校の水産教室
  2009年度の実績を例にあげると、7月7日に岩船海岸において5、6年生を対象に地引き網体験をしています。因みに捕れた魚は参加者で分け、残った魚は競りに掛けられ4万円で売れたそうです。勿論、学校の児童のための物品を購入したそうですが。
  7月14日には3、4年生と岩船保育園の園児約100人が、岩船海岸海水浴場にて生後90日くらいで大きさ5センチほどのヒラメの稚魚約2,000匹を日本海に放流しました。
  9月2日には5年生が魚や漁業関係の授業を漁師・漁協職員から直接受けていますし、11月下旬には4、5年生が鮭の塩引き造りの体験をしています。
② 岩船中学校の水産教室
  昨年の実績は、11月17日に2年生を対象に魚料理実習を実施しています。内容は地元漁師の奥様や漁協婦人部の方から、サケのつみれ汁・アジのフライの作り方の指導を受けました。
  水産教室を始めてから11年が経過しようとしています。漁協の目的の後継者問題はまだまだ時間が掛かると思いますが、地引き網やヒラメ稚魚の放流などを通して漁師と子どもたちそして教員とのふれあいは学校側のねらいのとおり着実に成果を上げていると思います。


岩船小児童と地元漁師による地引き網
園児によるヒラメの放流

3. まとめ ~協働を進める行政との狭間で~

 2000年以降、小泉政権が推し進めてきた市場原理主義が、公共事業や社会保障経費の削減と地方財政の健全化・行政改革を断行しました。結果、極端な市場化政策が、特に規制緩和が企業・人など多方面にわたり格差を生じさせました。
 その格差社会の波が地方の田舎に押し寄せています。働き盛りの人や若い人が仕事をしたくても働く場所がない。働きを求めて都市部に出て行く。必然的に子どもの数が減り残された者は年輩者が多くなり町の活性が滞る。経済的な需要が減退するため、商売をしても採算が取れない、夢が無い。だから店舗を閉めてしまう。
 その悪循環が今まさに岩船地区の状況です。少子高齢化やデッドサイクルが進んでくれば、体育協議会・健少岩船隊育成会のような任意団体は、子どもや商店主への依存度が高いので活動や事業に悪影響を及ぼしかねません。
 それでも岩船の人達は前向きに進んで行くと思います。なぜなら岩船体育協議会のように、30年以上前から先輩達が青少年の健全育成を願って自前で築き上げてきた自負があるからです。事業を実行するための企画・運営・資金集めと、青少年がいなければ商店が儲かって元気が出なければ、それぞれ活動が成り立たないことを分かっているのです。
 市町村合併を目論んだところは、執拗に「協働のまちづくり」を提言してきています。市民と行政がまちづくりのために、お互いの特性を活かし協力しながら対等な立場で取り組んでいくというような要旨ですが、行政側にとってもそんなに余裕があるわけでもありません。行財政改革を進めていく上で、どこにも金を出すことは絶対にありえません。当然、恩恵に与るところとそうでないところが出てくることになり、こんな田舎でも前述のような格差が生じてきて、いがみ合うのでしょう。だから体育協議会のような行政に頼らないで且つ自由な立場で真摯に動けるのが良いのかもしれません。
 2010年度版の労働経済白書でも政府の規制緩和が所得格差を助長させたと認め、経済成長に必要な条件の1つに付加価値創造能力の向上を挙げていますし、「長期雇用」や「年功賃金」のような日本型雇用慣行を再評価しています。
 昔から、歴史は繰返されるといわれています。現政権および日本の企業には、欧米型の政治や企業の手法に感化されず、勇敢で賢い先人が創造してきた日本特有の財産を再構築してもらいたい。偏ることのない、地方がもっと元気になり若者が定着するような施策を実行していただきたいものです。