【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 地域が学校に何を期待しているのか。また、学校は地域に何を助けてもらいたいのか。一方通行のベクトルを、いかにして交じらせ、また繋いでいくかによって、いい学校ができ、またいい学校ができることを通していい地域ができていくのではないでしょうか。そこに学校職員である私たち用務員が関わりを持っていくことが重要になって行くと考えられます。肝心なのは私たち用務員が関わりを持とうとするスタンスでいることです。



学校用務員職場からの市民協働に向けた取り組みについて


東京都本部/小金井市職員組合・自治労本部現業評議会用務員部会・部会長 島﨑 孝明

1. はじめに

 学校というところは教育を行うことを主たる目的にした施設であり、教員は授業を行い児童・生徒は授業を受けることが事業のメインです。
 しかし、公立小中学校は一定の地域に点在し、自治体の政策を行ううえで大きな拠点となっていることも事実です。
 一方で地域住民から見ても自分たちの子どもや孫を通わせ、運動会や学芸会などの学校行事を見学し、校庭や体育館などの施設を利用するなど、親しみやすい施設になっています。
 「おらが学校」という意識が強い地域もあります。
 京都の学校では、明治維新後、都としての機能を失った京都が、自分達の町の復興を願って、家にある竈(かまど)の数を基準にした「竈金」という拠出金を元手に「地域立」の学校をつくったそうです。
 学校にとっての「市民協働」の原点はそんなところにあるのではないでしょうか。
 地域が学校に何を期待しているのか。また、学校は地域に何を助けてもらいたいのか。一方通行のベクトルを、いかにして交じらせ、また繋いでいくかによって、いい学校ができ、またいい学校ができることを通していい地域ができていくのではないでしょうか。

2. 文部科学省の学校支援地域本部事業

 文部科学省では、2008年度予算に50億4,000万円を計上し、全国1,800ヶ所(市町村数に相当)に学校支援地域本部のモデルを設置する学校支援地域本部事業を始めました。学校支援地域活性化推進委員会は、その推進組織として設置されたものであり、事業の開始に当たり、そのねらいやしくみ、実施上の留意点等について、まとめ、発表しました。
 文部科学省・学校支援地域活性化推進委員会は「学校と地域の連携による学校の教育活動の支援の取り組みが、幅広い関係者の理解と協力のもとに、社会総がかりの国民運動として展開されることを期待します。
 社会がますます複雑多様化し、子どもを取り巻く環境も大きく変化する中で、学校が様々な課題を抱えているとともに、家庭や地域の教育力が低下し、学校に過剰な役割が求められるようになっています。このような状況のなかで、これからの教育は、学校だけが役割と責任を負うのではなく、これまで以上に学校、家庭、地域の連携協力のもとに進めていくことが不可欠となっています。
 学校支援地域本部は、これを具体化する方策の柱であり、学校・家庭・地域が一体となって地域ぐるみで子どもを育てる体制を整えることを大きな目的としています。
 具体的には、それぞれの学校の状況に応じて地域ぐるみで学校の教育活動の支援が行われることで、①教員や地域の大人が子どもと向き合う時間が増えるなど、学校や地域の教育活動のさらなる充実が図られるとともに、②地域住民が自らの学習成果を生かす場が広がり、③地域の教育力が向上することが期待されます」としています。

3. 学校支援地域本部の概要(文部科学省資料より)



4. 学校用務員の役割

 学校において地域や保護者との窓口になるのは副校長・教頭がほとんどと思われます。
 しかし、副校長・教頭は他の市町村から異動してくる場合も多く、その市町村に長く勤務する市町村職員としての学校用務員が優位性を持って関われることがないでしょうか。
 市町村として今やろうとしている重要政策は何なのか、そのため課題になっていることは何かなどを知っていれば、自治体―学校―地域を繋ぐパイプ役として重要な役割を担うことも十分ありえます。

5. 学校用務員参画の可能性

 文部科学省の総合政策広報誌「文部科学時報」には連載記事で『学校を支える地域の力』というコーナー(http://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/004/1290200.htm)があり、2008年5月から北海道帯広市、栃木県宇都宮市、新潟県見附市教育委員会、東京都北区、岡山県久米郡美咲町教育委員会、大分県別府市、秋田県大館市立扇田小学校、和歌山県紀の川市、愛媛県新居浜市教育委員会、岐阜県山県市学校支援地域本部実行委員会、山形県最上町立最上中学校、山口県下関市教育委員会などが様々な実践例を報告しています。
 そのなかには「学習支援」的な、私たち学校用務員がかかわれる可能性が薄いものもあります。しかし下図の岐阜県山県市の例では「環境支援」の分野でかかわれる可能性は大いにあります。施設の補修、植木の手入れ、道具の手入れ、花壇の清掃・除草、リサイクル活動補助、生花活動、校地内清掃・除草、などはまさに学校用務員の業務そのものです。


「文部科学時報」平成21年11月号より

6. これからの地域主権時代と学校用務員のかかわり

 私は今年4月に9年間勤務した中学校を異動し、同じ学区内の小学校に異動しました。
 どちらの学校も創立50数年、130数年と古く、地域の方たちに愛されている学校です。
 これまでの中学校でも地域の方々に生徒の部活動の支援をお願いし、一緒に畑を耕し、農作物を収穫し、調理したものを食べたりしていました。
 また、ごみ減量の市民活動を行っている団体と連携をとり、休日や夏休みに学校の生ごみ処理機を貸し出したりと関わり合いを持ってきました。
 小学校に異動し、保護者・地域の方たちが、小学校の方が多く出入りしていることが分かりました。そして3年前に、「地域連絡会」という組織が立ち上がり、学校にかかわりのある団体(学校運営連絡会委員PTA、おやじの会、子ども会、町会、健全育成委員、民生児童委員、主任児童委員、学童保育所、少年サッカー・野球団体など児童指導団体)、全てが集まって学校をよくするために何かを行おうとしています。
 現在、副校長を通して、役員の方々と「秋に苗木の植栽を一緒にしないか」と話し合っているところです。
 かつては、地域の人たちも学校をよくするのは全て市役所の仕事との考え方が主流だったように思えますが、今では自分たちで関わりあいを持って、何とかよくできないかという考え方の人たちが増えて、集まってきているように感じます。
 肝心なのは私たち用務員が関わりを持とうとするスタンスでいることです。
 これからの時代は「中央集権から地方分権へ」、そして「地域主権」の時代です。中央政府・地方政府の政策を押し付けるのではなく、地域ごとのニーズに合わせた政策を地域の人たちによって実現していく時代です。そこに学校や学校職員である私たち用務員が関わりを持っていくことが重要になって行くと考えられます。


 
写真(左)地域の環境保護団体と部活動をつなぐ
写真(右)地域のごみ減量活動に学校の生ごみ処理機を活用

資料

市民協働の取り組み報告書(学校用務員部会調査)

県本部・単組名 取り組みの具体的な内容 
問合せ先(担当)
四国地連 
徳島県・阿南市職労連 広島・長崎原爆投下の日に併せ毎年8月に平和のつどいを基本組織で開催。(住民も巻き込んで)その際、用務職場の仕事内容をパネルに掲示するとともに花の苗を配布。 
阿部桃代(用務員部長)
近畿地連 
兵庫県・尼崎市職労  休日に保育所3歳児以下の保護者と日曜大工(椅子作り)を行っている。
公共施設のまわりの剪定作業を行う予定。
兵庫県・宝塚市職労   学校花壇を地域ボランティアの人と年2回、花の植えかえをしている。
田んぼ作り、稲の植え付けを地域の方と行っている。(全学校ではない)
呼び方は各自治体で異なるが、教育委員会施設課が、業者に頼まず、各学校用務に剪定作業を頼んでいる。(公共施設)
奈良県  1,000個のプランタを作り、公共施設、地域など学校のまわりに配っている。
学校花壇を地域ボランティアの人と年2回、花の植えかえをしている。
和歌山県 休日に学校近隣の奉仕活動(剪定、清掃)を地域の人と一緒に行っている。
九州地連 
大分県・大分市職労   PTAとの協同で夏季休業中の学校行事として全校除草作業を実施している。
学校主事が災害時の避難所要員として地域の自治会役員との協同により対応を行っている。
「地域が建てた学校」の意識が深く、地域ボランティアが「花さかクラブ」として学校・学校主事とかかわりを持ち活動している。(一部の学校)
宮崎県 市や地域の主催行事(フラワーフェスティバル)に協同で学校用務員が日頃学校で育てた花などを出品・参加している。