【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 近年は、環境問題への関心の高まりと、環境教育の重要性が大きく主張されるようになってきている。環境問題の深刻さを考えると、環境保育を通して、幼児期から生涯的に行われる必要がある。園生活の中で、身の周りの自然へ目を向けられるようなかかわりと、環境に配慮した生活意識を高めながら、将来、「自然や環境のことも考えられる人に育ってほしい」という願いをこめ環境保育を取り上げる。



環境保育への取り組み


福井県本部/小浜市職員組合・内外海児童センター 下島 明子

 小浜市加斗保育園は、園児41人、職員6人の小規模保育園である。園舎は築27年と古くなっているが、海あり山ありと、自然環境に恵まれた田園地域である。自然に目を向けて、自然を取り入れた保育をたくさん体験する中で、近年は、環境問題への関心の高まりと、環境教育の重要性が大きく主張されるようになってきている。環境問題の深刻さを考えると、環境保育を通して、幼児期から生涯的に行われる必要がある。
 園生活の中で、身の周りの自然へ目を向けられるようなかかわりと、環境に配慮した生活意識を高めながら、将来、「自然や環境のことも考えられる人に育ってほしい」という願いをこめ環境保育を取り上げる。
 自然体験と生活体験から、子どもたちが環境について関心を持ち環境を大切にする心や、人が守っていかなければならないことを、知らず知らずのうちに身につけていけるようにと考え、この研究に取り組むことにする。
 自然体験では、自然物を取り入れた癒される環境づくりを心がけ生活している。園庭の隅には菜園があり、季節に合わせた野菜を作り収穫を楽しんでいる。また、児童館、小学校と隣接しており、小学校の広いグラウンドや築山で遊んだり、いろんな樹木(葉っぱで遊べる木、花の咲く木、実のなる木、昆虫のいる木)に触れることができる。四季を通して、自然と関わり様々な体験ができる。
 生活体験では、物は大切にしよう、食べ物は残さず食べよう、季節の花を飾ろう、台風・地震について話し合う、ごみについて考えよう、等々の生活体験を保育の中に位置づけた。

1. 自然体験

 散歩コースはアスファルトの歩道よりも、山すそ・畦道・ゴツゴツした石の道・一本橋・小川を飛び越す等、いろんな体験が味わえるコースを選んでいく。

(1) 下加斗、荒木の海へ
 心晴ればれとする海。波や流木で遊んだり、貝殻やガラス、石を拾って宝物にする子どもたち。時には、タコ、イカ、カニを見つける事も。台風後の海の様変わりも自然のなせる芸。波の高い日は、「今日の海、おこっとるな」とつぶやきながら海を見る子どもたち。

(2) 黒駒の山へ
 春には、ワラビ、ゼンマイが採れ、ヤマツツジが美しく、みんなの目を楽しませてくれる。山すその田んぼではオタマジャクシ、ヤゴ、ミズカマキリ、ゲンゴロウ等の小動物を見つけることができる。
 秋にはムラサキシキブ、サルトリイバラ等、色とりどりの美しい実やドングリ、クリ、シイ等子どもたちの大好きな木の実拾いが楽しめる。

(3) 小動物が住む池や小川へ
 すぐ近くにザリガニ、イモリ、メダカ、ドジョウの住む小川がある。春には、ザリガニ釣りを楽しむ。エサは、するめ、ちくわでよく釣れるが、落ちていた棒に草をむすび草の中にいたバッタをくくりつけるだけでもよく釣れる。

(4) 小学校のグラウンド築山で遊ぶ
 授業のあい間に、グラウンドを借りて走ったり凧上げをしたり、四季を通じて広くて安全な遊び場として利用させてもらっている。小学校の行事を見学したり、地区の運動会に参加することで地域の方ともふれあう機会を持つことができる。

(5) 園舎周辺の樹木
 ヤマモモ、ギンナン等の実のなる木、四季を通じ美しい花を咲かせてくれる木に恵まれている。近所の畑の持ち主からキンカン、夏ミカン等承諾を得て味わわせていただいている。
 ※3歳児お母さんの連絡帳より
  「Yは外遊びが大好きな子どもなので、散歩した日などはとても楽しそうに話をしてくれます。ドングリなどは『宝物やで』と言いながらちゃんとしまっています。」

2. 生活体験

(1) 3歳児、梅ジュース作り
 保育士の家から持ってきた、梅とジャムの空ビンを使う
① 梅のへたをつまようじでとる。
② 梅につまようじで穴をあける。
③ ビンの中に梅と氷砂糖を交互に入れてふたをする。
 2週間後の保育参加の日
 ・新聞紙で、遊んだ後、親子で自分が作った梅ジュ-スを味わう
 ・保育参加の保護者からの感想
 「新聞を使ってあんなにも遊びが広がるんだなと感心。梅ジュ-スも個々で作ってあり、改めて身近にある素材で遊べたり、季節の食材で一緒に作って楽しめるものがあるんだと思いました。家でも何かできるか探してみようと思いました。」
 「梅ジュ-スおいしかったです。家でもみんなで飲みました。」

(2) 4・5歳児、菜園、プランターで野菜作り
 春、チュ-リップ
 夏、プチトマト・トマト・ナス・ピーマン
 秋、ラディシュ・さつま芋
 冬、ほうれん草
 夏野菜はそのまま食べたり、給食のおかずの中に入れてもらって食べる。
 秋のさつま芋は、毎年焼イモにして食べる。
① 4歳児 ラディッシュ収穫
 ・葉っぱにつく虫をとりながら、収穫したラディッシュを味わう。
 ・サラダにしてマヨネ-ズ味と塩もみにしてそのままで食べる。
 ・ラディッシュを持ち帰る
  かわいいから飾っておいた。キャベツと酢の物にして食べたらおいしかった。生で食べた。マヨネ-ズつ けて食べた。漬物にして葉っぱも一緒に食べた。味は辛かった。おいしかったです。などの感想を聞くことができた。
② 5歳児 ほうれん草の収穫
 雪が降ると色が悪くなったので、休み前に収穫し味わうことにする。
 ア きれいに洗う
 イ ザクザク切って、ホットプレートで油炒め。甘く味付けした卵でとじて 塩・コショウでできあがり。
 ウ みんなで食べよう アツアツを
   「おいしい」 「もっと食べたい」 「おかわりないの
   新鮮な野菜はそれだけでおいしい
   半分はもち帰ったほうれん草
  ・「もって帰ったら、おばあちゃん ゴマ和えにしてくれた おいしかった。」
   お母さんは、おばあちゃんのことを「料理の先生やって言うとる。」
  ・玄関で持ち帰りのほうれん草を見て「ウァ-嬉しいな おつゆにしよな。」とお母さん。翌日、「おつゆに入れて食べたらおいしかった。」とN君。
  ※自分たちで作った野菜は、どんなふうにしても「おいしかった」という子どもの感想だった。

(3) つるし柿作り3、4、5歳児
 玄関に「つるし柿作りをしたいので、渋柿をお世話してくださいませんか。」とお願いしたところ園児の祖父より渋柿を頂いた。
① 柿の皮をむく。 (3歳児、5歳児でペア-になり、ピ-ラ-で)
  初めに5歳児がやってみせ、次に3歳児も挑戦する。柿の皮と一緒に指の皮までむいてしまった子もあったが良い体験ができた。
② 熱湯につけてから吊るす。
③ からすが狙ってきたため、2週間経っただけで食べることになる。
④ つるし柿を味わう。
  「甘い」甘くておいしくなっていた。食べてみると、嫌いな子もいたが「渋い柿が甘くなった」という自然の不思議体験ができた。
  つるし柿を持ち帰って届いたメッセージ。
 ・じいちゃんとばあちゃんにあげたら「おいしかった」って言うとった。
 ・おとうさんとおかあさんがたべた。「やわらかいなあ」って。
 ・うちは、カラスがくるから吊るし柿せんのやって。
 ・「まだ、吊っといたら」って言うとった。
 ・「つるし柿おいしかったです。私が食べました。甘かったね。」
 ※つるし柿作りの体験は、初めてだったので皮むきから食べるところまで写真に撮り、玄関に貼っておうちの方にも見ていただいた。

(4) 地震・台風の体験を話し合う
 「お風呂入とったら電気が消えて真っ暗になった。おばあちゃんがろうそく持ってきてくれた。」「こわかった。」「真っ暗になったし、みんな早よ寝た。」「ごっつい風で小屋が傾いて、朝おじちゃんが直したんや。」「グラグラゆれて地震きたし恐かった。」等、不自由を体験することも大切なこと。当たり前のこととして捉えていることが(スイッチを押せば部屋が明るくなる等)どれほど大変なことかに気づくこと。

(5) お散歩で出たアメの袋のごみ
 お散歩にでかけ、「アメタイムしよう」とアメを食べることがよくある。「ごみ屋さんお願い」とアメを配るあとからごみを入れる袋を持ってごみ屋さんがまわる。いつもの事のようにとらえがちだが、深く考えてみると、これでいいのかな? 保育園から散歩に来る時はこれでいいのだが、大きくなり一人で散歩に来るようになった時ごみ屋さんはついて来ない。海や山にごみ箱はない。自分が出したごみは、自分で持ち帰えらなければならない。そのためには、保育園児のときから、自分の出したごみは、自分のポケットにしまう経験が必要になる。
 3歳児から自分の出したごみをポケットの中に入れて持ち帰るように声をかけていくと、ポケットのない服を着た友達のごみまで「ぼくのポケットに入れな」と言える子が出てくる。これには感心した。園に帰ったところで、「ポケットのごみを、ごみ箱に捨てようね」の声かけを忘れずにする。(ポケットのない子のごみは、保育士が引き受けポケットに入れるようにしてきた。)
 4・5歳児になって、初めてごみをポケットに入れる声かけをした時、子どもの中には、ごみをポケットに入れるのに抵抗があり、ポロッと落としてしまう子が見られた。また、遠足の時にも、エチケット袋が入っているのだが、自分のおやつを食べた後のごみを「先生これどうするん?」と持ってきたりした。

(6) このごみどこからきたの?
 春になると、下加斗・荒木の海には、ハングル文字のペットボトルや容器等のごみがたくさん落ちている。「アレ、この字、外国の字やな ハングル語ってゆうんやな 海の向こうから流れてきたんやなあ……」とハングル文字で書かれたペットボトルを手に保育士が話すと、次々に「先生 これも、これも、これもハングル語やで」と子どもたちが、ペットボトルやスプレー缶、ガムの容器、注射器まで拾って見せてくれる。そこで、保育園のホ-ルに集まってもらい「このごみどこから来たの?」について話し合いをする(前もって簡単な地図を書いておいた。)。海で拾った、ハングル文字のペットボトルを見せると「海に落ちとったのや」「ハングル語や」と関心を示す。「このハングル語を使う国って知ってる?」「……。」地図を示して「ここの国、韓国と北朝鮮という国です。」と言うと「韓国」という国名に反応して「ヨン様がおる国やろ 知っとるヨン様や」と人気俳優の名前が出てくる。「韓国のごみがどうして加斗まで来たんやろ?」「海から流れてきたんや」「そうやね。海はつながっているから流れて来たんやね。」「そしたら加斗のごみも韓国に流れていくかもしれないね。」「海で国はつながっているから一人の出したごみが世界のごみになっていくね。だからみんなも、どこの国の人も自分のごみは自分でごみ箱に捨てようね。」と話し合いをする。
 ※子どもたちは地図にとても興味を示した。

3. 考察と今後の課題

 この研究を通し、自然体験と生活体験を積み重ねることによって、人と環境とのかかわりについて理解と関心が深まっていくように思う。基本的生活習慣を身につけ、道徳の基礎を養い、身辺自立をする時期に、環境に配慮した生活の仕方を身につけていけるようにしていくこと。そして、保育士の環境への意識や、草の芽に感動したり、空を流れる雲のおもしろさに気づく感性と、自然への感謝の心をもちあわせることが子どもたちへの大きな環境となる。また、子どもが多くの時間を過ごす家庭へも、園生活での自然体験や生活体験を知らせたり、持ち帰ったりし、家庭からの声を受け止め広げていくことが大切である。
 これまでの取り組みで、子どもが持ち帰ったものを、大切に扱ってくださる家庭が多くなった。今後も、園と子どもと家庭とをつなぎながら、身の回りの自然へ目を向けられるような意識付けや、環境に配慮した生活意識を高めていきたいと思う。
 最後に、年長児の「保育園の思い出」の中に散歩のようすや、つるし柿づくりのようすが語られている。ここに紹介し、まとめとしたいと思う。
 「ザリガニの池に行ってザリガニ釣りをしました。池にヘビが泳いでいてカエルを食べていたのでビックリしました。」
 「秋には焼芋をしました。じゃが芋にバターがのっていておいしかったです。」
 「つるし柿づくりでは、皮をむくのが難しかったです。でも食べた時は種があったけどおいしかったです。」