【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

学校給食のあり方について


三重県本部/明和町職員労働組合

1. はじめに

 日本の学校給食は、1889年に山形県鶴岡町(現、鶴岡市)の私立忠愛小学校において、貧困等の理由からお昼ご飯を持ってこられない子どもたちのために、おにぎりと焼き魚などの食事を提供したのが始まりとされています。
 その後、1954年に学校給食法(以下「法」という。)が施行され、法的に学校給食の体制が整い、食事についての正しい理解や望ましい習慣をはぐくむことと併せて、学校生活を豊かにし明るい社交性を養うことを目的とするなど学校給食は教育の一環として位置付けられることになりました。
 そして、その時々の状況に応じ必要な改正が行われ、適用範囲の拡大(1956年~中学校に適用、その後、義務教育諸学校へ拡大)、学校給食への牛乳の供給(1958年~*導入当初は脱脂粉乳から始まりました。)、米飯給食の導入(1976年~)など、現在の学校給食の基礎が作られてきたとともに、給食調理現場に対しては、1985年の通達「学校給食業務の運営の合理化」、さらには2003年の事務連絡「学校給食の運営の合理化」により、学校給食の民間委託や共同調理場の推進が図られてきました。
 そのような中、2008年の法改正(2009年4月施行)により、法の根本をなす第1条(この法律の目的)及び第2条(学校給食の目標)の大幅な改正を含む大きな改正が行われました。法制定当初から、学校給食は教育の一環として位置付けられてきましたが、今回の法改正では、2005年6月に制定された「食育基本法」に基づく『食育』の観点を踏まえての改正が行われています。
 学校給食の中での食育の推進には、教職員・保育士、栄養教諭・栄養士、調理員及び行政関係者が一体となり、地域との連携も図り、児童・生徒へのきめ細やかな指導が行わなければなりません。それと相反する形で推し進められる給食運営の合理化。当町においても、給食運営の合理化が検討され、2010年からは中学校の給食調理業務が民間業者に委託されることになりました。
 今回のレポートでは、学校給食のあり方について、これまでの取り組みを踏まえ検証していくこととしたいと思います。

2. 明和町の学校給食について

(1) 経 緯
 当町においては、小学校、中学校、幼稚園、保育所の給食調理業務を町職員が行う、いわゆる「直営方式」で、かつ、ほとんどの施設で「自校調理方式(各学校等の給食室で調理する方式)」により実施されてきました。
  *当町では、小学校6校、中学校1校、幼稚園5園、保育所3園において、給食が提供され、内、幼稚園2園においては、隣接する小学校から給食を運搬しています。
 ただ、町の厳しい財政状況下のもと、併せて国の学校給食業務の運営の合理化方針に基づき、民営化・センター化が検討され、また、今後の自主的自立的な行財政運営の実現のため、2005年1月に策定された「明和町行財政改革基本方針(2005年度~2009年度)」において、「給食業務の民間委託」が本格的に検討されてきました。
 その間、給食調理員の退職者補充は十分に行われず、適正な人員配置が十分になされない厳しい職場環境下において、給食調理業務を運営しなければならなくなりました。

(2) 職員労働組合の取り組み
 組合としては、「食の安全を第一に考え、それを守るためには給食業務に携わる職員が正規職員であることが必要であり、現在の直営・自校調理方式を守っていくことが重要である」ことを訴え、行財政改革による一方的な合理化に反対するため、取り組みを進めてきました。町長・教育長との話し合いの場も持ち、現場の状況を直接訴えてきました。
 また、地域住民に対して直営自校方式の学校給食の良さを知ってもらうため、2005年からは、現業評議会を中心に町民文化祭等の場で「お試し給食」などの取り組みを進めてきました。
 2006年には、当時、三重県内で初めて、直営自校方式の学校給食の調理運営業務を民間に委託した名張市を視察し、名張市職員労働組合より民間委託までの経過や委託後の状況等を聞き取りし、委託実施直後は、様々な問題が生じたことも明らかになり、あらゆる機会を通じて、学校給食の現状等を住民に理解していただけるよう活動を進めていく必要性を認識しました。
 ただ、その後も、町当局からは、給食業務の民間委託に伴う懸念事項に対して十分な説明が行われず、給食調理員の退職補充が十分に行われず、必然的に正規職員数の削減に追い込まれ、否応なしに民間委託の体制が進められてきました。

(3) 中学校の給食調理業務の民間委託開始
 2009年9月議会において、中学校給食調理業務の民間委託が提案され、同年12月議会では、プロポーザル方式による入札の結果、委託業者決定等の報告が行われ、2010年3月から中学校において給食調理業務の民間委託が開始することになりました。
 委託開始にあたり、また、それに伴う異動の際、現場で働く職員及び組合に対し十分な説明がなされず、「食の安全第一に」を常に訴えてきた組合にとって、これまで培ってきたノウハウがきちんと引き継がれ、健全な給食調理業務が行われていくのか不安を抱えた中でのスタートとなりました。
 中学校においては給食調理業務の民間委託が始まりましたが、今後、なし崩し的に他の学校、幼稚園、保育所において民間委託が進んでしまうと子どもたちの安心安全が守れないという認識のもと、町当局との話し合いを進め、行財政改革集中改革プラン終了2010年3月以降においては、最低限の給食調理員の人員を確保するとの約束と、今後の民間委託は現時点においては検討していないとの町側の意向を確認することができました。

3. 課 題

 民間委託が開始して約半年が経過しますが、心配されていた問題は現段階では起こってはいません。これは、安全を第一に考えた仕様書に基づく契約、実績のある業者の中からの入札による業者選定によるものでもありますが、今回の業者との委託契約期間は3年間であることから、3年後に業者が変更になった際の引継ぎが十分になされるのか懸念が残ります。
 組合としても、今後も引き続き、民間委託が適正に運営されていくのか、また、民間委託により町にもたらされる効果(経費的な面以外も含めて)についても、食育の観点も含めて、検証していく必要があります。
 2008年の法改正に大きく寄与した食育基本法には、その基本的施策として、家庭における食育の推進、地域における食生活の改善のための取り組みの推進と併せて、第20条において「学校、保育所等における食育の推進」が規定されています。食育の観点からも、今後の学校給食の果たす役割は大きいと考えます。
 ただ、これまで組合として取り組んできた活動の中で、学校給食に関するアンケートを実施してきましたが、アンケート結果からは、学校給食そのものへの関心は高いものの、給食調理業務についての関心はまだまだ高くなく、学校給食がどのように運営されているのかについての住民の認識が十分ではないと考えます。そのような中で、今後、議論や検証が十分でないままに、政府主導による合理化施策が打ち出されてしまうと、町としてもそれに添った形で今後の運営を検討せざるを得なくなり、合理化の動きがますます加速してしまうことも考えられます。
 食の安全安心が叫ばれる中、飽食のため食への本質的な関心が薄れていっているこの時代。
 組合としては、今後も、住民の方々に学校給食・給食調理業務への関心をより一層深めていただくことが、現在の直営・自校調理方式の給食職場を守ることに繋がり、ひいてはそれが、食の安全安心・子どもたちの健全な育成に繋がるとの認識のもと、あらゆる場を通じて、給食業務に携わる正しい情報及び学校給食の必要性を地域住民に発信提供し、訴えていかなければなりません。

資 料

○学校給食法(2008年6月改正)抜粋

第1章(総則)
 第1条(この法律の目的)
  この法律は、学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資するものであり、かつ、児童及び生徒の食に関する正しい理解と適切な判断力を養う上で重要な役割を果たすものであることにかんがみ、学校給食及び学校給食を活用した食に関する指導の実施に必要な事項を定め、もって学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ることを目的とする。

 第2条(学校給食の目標)
  学校給食を実施するに当たっては、義務教育諸学校における教育の目的を実現するために、次の掲げる目標が達成されるよう努めなければならない。
 1 適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。
 2 日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができるよう判断力を培い、及び望ましい食生活を養うこと。
 3 学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
 4 食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
 5 食生活が食に関わる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
 6 我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
 7 食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。

 

○食育基本法(2005年6月制定、2009年6月改正)抜粋

第1章(総則)
 第1条(この法律の目的)
  この法律は、近年における国民の食生活をめぐる環境の変化に伴い、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむための食育を推進することが緊要な課題になっていることにかんがみ、食育に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、食育に関する施策の基本となる事項を定めることにより、食育に関する施策を総合的計画的に推進し、もって現在及び将来にわたる健康で文化的な国民の生活と豊かで活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。

第3章(基本的施策)
 第20条(学校、保育所等における食育の推進)
  国及び地方公共団体は、学校、保育所等において魅力ある食育の推進に関する活動を効果的に推進することにより子どもの健全な食生活の実現及び健全な心身の成長が図られるよう、学校、保育所等における食育の推進のための指針の作成に関する支援、食育の指導にふさわしい教職員の設置及び指導的立場にある者の食育の推進において果たすべき役割についての意識の啓発その他の食育に関する指導体制の整備、学校、保育所等又は地域の特色を生かした学校給食等の実施、教育の一環として行われる農場等における実習、食品の調理、食品廃棄物の再生利用等様々な体験活動を通じた子どもの食に関する理解の促進、過度の痩身又は肥満の心身の健康に及ぼす影響等についての
知識の啓発その他必要な施策を講ずるものとする。