【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 近年の都市化・核家族化・少子化等によって、家庭の教育力の低下が懸念されているところです。城陽市では、市民が生涯にわたって自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切で豊かな学習ができる機会を拡充するために、様々な講座や学習活動を実施しています。このレポートでは、城陽市が取り組む生涯学習事業と子どもの育成の実践と課題についてまとめました。



社会教育からみた子どもの育成


京都府本部/自治労城陽市職員組合・副執行委員長 米澤 尚記

はじめに

 私は城陽市に入職して以来、そのほとんどの歳月を教育委員会事務局学校教育課で奉職してきました。学校教育課での主な業務は、市立の小・中学校、幼稚園の運営に係る予算の執行・管理、教材・事務機器などの物品購入、保護者向け広報紙の作成、就学援助業務など多岐にわたるものでした。その間、市内に17ある小・中学校、幼稚園に出向くこと、窓口で保護者の方や教職員の方などの話を聞くことで、様々な人々が子どもの教育・育成に係わっていること、そして多くの人たちが子育てや教育に悩みや問題を抱えていることを感じました。10代の頃は自分一人で生きているつもりで自由気儘に過ごしていた私ですが、親族や教師だけでなく、地域の人々が様々な形で自分たち子どもを支えてくれていたことを、教育委員会で働くことで初めて思い知りました。そして私たちが大人になったときに、かつて大人たちが自分たちにしてくれたように、次の世代の子どもたちが健やかに育つように協力すること、見守っていくことが大切だと思いました。
 いつか一家庭人として、地域社会の一員となり子どもの育成に携わっていけるその時まで、学校教育課の職員として子どもの教育に係わっていたいと考えていた私ですが、2009年4月に文化体育振興課の社会教育係に異動しました。社会教育係での主な業務は、生涯学習・社会教育事業の実施や社会教育関係団体への支援などがあります。そこで私は、学校教育とはまた異なった形で、子どもたちとの係わりを持つことになりました。

1. 社会教育・生涯学習とは

 社会教育の定義については、社会教育法第2条において、
  「社会教育」とは、学校教育法に基づき、学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーションの活動を含む)をいう。
 と定められていますが、これは行政が関わることのできる社会教育活動の内容の範囲を定義したものだと思われます。
 また、生涯学習の理念は、教育基本法第3条において、
  国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
 と定められています。
 学校教育が、義務教育とその前後の期間であること、学習指導要領など明確な目的があること、教育する者・受ける者の関係がはっきりしていることなど、様々な面において限定されたものであることに対して、社会教育や生涯学習は、生涯にわたって幅広く、いつでも、どこでも、誰もが楽しく学ぶことのできるものであると解釈することができますが、学校教育の目的を果たすためにはそれ以前の家庭教育が重要なものとなり、また充実した生涯学習を行うには、学校教育が重要になることは言うまでもありません。

2. 生涯学習事業と子どもの育成

 近年の都市化・核家族化・少子化等によって、家庭の教育力の低下が懸念されているところであり、その最悪の結末として、子どもに対する虐待などの痛ましい事件が多発しているのが現状です。子どもたちを取り巻く環境はますます悪化しており、憂慮されている青少年の問題行動の背景には、家庭における教育のあり方が関係していると言われており、家庭の教育機能を高めていくことが重要課題となっております。
 城陽市では、市民が生涯にわたって自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切で豊かな学習ができる機会を拡充するために、様々な講座や学習活動を実施しています。

(1) 家庭教育セミナーの実施
 家庭や地域の教育力の向上が求められるなか、子どもの発達段階に応じた適切な家庭教育の在り方や基本的な生活習慣の形成の大切さについて学習することや、地域社会全体が子育て家庭を支援できる環境を整備することが重要になります。
 子育てに関わる成人が責任をもって活動できる知識や技術、態度を身につけ、自らの学習課題を達成することを支援するため、家庭教育セミナーを実施しています。
 子育てにおいて、しつけや教育のことで悩んでいる保護者などに、これからの子育てのヒントを提供できるような講座を開催するため、PTAの代表や関係機関の職員で構成された企画推進委員によって、講座の内容が検討されます。思春期の子育ての悩みや食育のことなど、講座に参加された保護者の方々は熱心に傾聴され、講座のあとは保護者同士でいろいろな情報交換をされています。

(2) 青少年地域活動の充実
友だちづくりゲームの真っ最中
 また、子どもたち自身の心身の成長において、自然体験・生活体験・社会体験などの活動が不足していることから、自尊感情や規範意識が低下しているなかで、子どもたちの健全育成を目的として青少年地域活動を充実させる取り組みを実施しています。
 社会教育係では、学校教育では機会の少ない、異校区・異年齢の集団の中で社会奉仕体験、自然体験、スポーツ・文化活動など多様な体験活動に自発的に参加できる場として、わくわく体験教室などの教室を開催しています。
 わくわく体験教室は、市内在住の小学3年~6年を対象として、土曜日に開催されます。主に農業体験を実施する天の川教室、教育大学の学生の指導で様々な体験を実施する銀河教室、市レクリエーション協会の指導で遊びながら環境や福祉の学習を体験する太陽教室、主に青谷地域の豊かな自然の中で観察や遊びを経験する青空教室の4つの教室から、希望する教室を選択する形式になっています。
 年6回の教室では、最初は緊張して同じ学校や同じクラスだけで固まっていた子どもたちも、回が進むにつれて他の学校や違う学年の子どもたちとも仲良く遊ぶようになり、「また来年も来たい」と言う児童もいて、事業を実施してよかったと感じられます。

(3) 成人式
 新成人の社会の一員としての自覚を高めること、新成人相互の交流を深めることを目的に成人式を実施しています。城陽市では、記念式典と新成人企画イベントの2部構成になっています。新成人企画委員については、市の広報紙での公募と、出身中学校からの推薦によって構成されており、9月頃からイベントの内容や記念品のことについて打合せをしていきます。行政のお仕着せではなく、新成人たちが自ら考え、力を合わせてイベントや作品を完成させていく様子は、これからの社会教育の充実に向けて、期待を感じずにはいられません。
 式典でのマナーの未成熟など、抱えている課題はまだまだたくさんありますが、これからの社会を支えていく新成人たちに、その責任を自覚するきっかけとなるような取り組みを進めていきたいと考えています。

私も新成人の一員としてがんばりました 

3. これからの社会教育の担い手は?

 これらの生涯学習・社会教育事業が、広く市民に周知され、多くの市民が参加しているのかというと、必ずしもそうでないのが現状です。これは、行政が広報紙などのメディアや、PTAや社会教育関係団体等の協力で啓発を行っても、地域とのつながりを持ちたがらない市民は事業を知らない、あるいは関心が希薄であることが原因と考えられます。
 そうなると、各団体の組織力による動員で講演・講座を成立させることになります。各団体に参加されるような教育に関心を持った方が、より深く学習されることは好ましいことではあるのですが、多くの市民が広く学習の機会を持ち、豊かな生涯学習をするための啓発という意味では不十分になってしまいます。
 また、文化協会、体育協会、高齢者クラブ、女性会、青年会議所、労働組合など多くの団体は、組織の高齢化・組織力の低下という共通の課題を持っており、団体の組織力に依存することに行き詰まりを感じているのも事実です。
 よって充実した生涯学習事業を長く続けていくためには、いかにして社会教育に無関心な人たちを啓発していくのか、方策を練る必要があります。
 現在の社会教育を支えている世代にお祖父ちゃんお祖母ちゃんが多いことから、子育て中や子育てを終えたところの、いわゆる団塊世代以下のお父さんお母さんに次の世代の社会教育の担い手になっていただく必要があります。そのためには、単なる講演・講座を実施するだけではなく、実際に親子一緒に参加して、他の家族や地域とのふれあいを感じるような校外学習、スポーツ、レクリエーションなどが有効だという考えがあります。
 子どもをツールとして、大人が社会で学べる機会を増やして、積極的な社会教育への参画を促していくことも、一つの生涯学習だと思っています。

おわりに

 私が社会教育係の仕事を始めて1年になりますが、生涯学習事業の取り組みのなかで、熱心に講座に参加している市民の人々や、学校を離れ地域で楽しそうに遊んだり学んだりしている子どもたちを身近に感じられることを意識するとともに、まだまだ多くの市民や子どもたちにも参加してもらう工夫が必要だと考えています。
 京都府社会教育委員連絡協議会会長の杉本厚夫さん(関西大学人間健康学部教授)が講演でよく「社会的親になる」「次世代につなぐ社会教育」という言葉を使われます。私が学校教育課で勤務していた頃に漠然と考えていたことを、的確に表現している言葉だと思いました。自分の子どもだけを大事に育て、地域のことには無関心では社会教育へ参画していくことはできませんし、家庭教育も偏狭なものになってしまいます。
 私が子どもの頃にいた、百科事典を読んだり面白い話をしてくれたりしたお向かいのお爺ちゃん、花火大会の時に屋根裏部屋に招待してくれたお隣のおばちゃん、ラジオ体操や地蔵盆でやたら張り切って子どもたちに話しかける近所のおっちゃん、イタズラしたら頭から湯気が出るほど怒鳴り散らしたカミナリ親父など、近所のおじさん・おばさんのことを今の子どもたちにも知ってほしいと思っています。そのことが、地域教育力の再構築につながっていくものと考えています。
 そして、私も将来はそんな近所のおっちゃんになる時が来るのかなと、思いを馳せながら、これからも社会の一員として励んでいこうと思っています。