【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 今、学校給食現場では、基礎自治体の財政逼迫・施設の老朽化・耐震問題などの理由により行政の都合による合理化提案がされてきています。こうしたことから多くの基礎自治体では自校方式からセンター方式へシフトされています。私たちは、子どもたちに学校給食を通じて生きる力を養い、また、地域の資源を生かした個性あるまちづくりのため提案をします。



学校給食は生きた教材
~子どもたちのための給食とは~

広島県本部/自治労はつかいちユニオン 杤木真由美・小田真由美

1. 情 勢

 学校給食を取り巻く状況は、1985年の国の合理化通知以降、全国的に自校直営方式からセンター化や委託化への合理化が進み、加えて自治体財政悪化や市町村合併、集中改革プランによる職員定数の削減、少子化、施設の老朽化、耐震問題などの理由により、さらにその動きは強さを増しています。
 一方で、ライフスタイルの多様化による食生活の変化に伴う生活習慣病の増加や、「食を大切にする心や優れた食文化」の希薄化が懸念されています。
 こうした状況を踏まえ、2005年には食育基本法制定、2009年には学校給食法の改正が行われました。
 食育基本法は、「食育」を①「生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」、②「様々な経験を通じて食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること」と位置づけ、国民運動として強力に推進するために制定されました。その後、学校給食の更なる充実を図るため学校給食法が改正され、地産地消の推進や学校・地域・家庭が連携した食育の推進が求められるようになりました。
 廿日市市の学校給食は、平成の大合併前の旧町単位でその運営方法に違いがあります。
 旧廿日市市内の小中16校(6,870食)は「大型センター給食」、旧吉和村及び旧宮島町の小中4校(200食)はそれぞれ旧町単位の「小規模センター給食」が供給されていました。旧佐伯町の小中5校(890食)は自校直営方式で供給され、旧大野町では小学校2校(1,520食)は自校直営方式で供給されていたものの中学校2校は「弁当」でした。合併後、旧大野町の中学校2校(760食)の給食は、廿日市市の「大型センター給食」が供給されるようになり、現在の形になっています。

2. 学校給食の意義

 学校給食は、週5日、年間約190日、小中学校に通う9年間で約1,700日もあり、これは教育の一環として、まさに生きた教材です。この教材を用いて、児童生徒一人ひとりが食について学び、自らの健康、成長について自覚を持つことが何よりも大切であり、それが“食育”であると考えます。そして、きちんとした食育を行うためには、「安全管理」「栄養教育・食育指導」「学校内調理」の3点が必要であると考えます。
 なぜなら、まず「安全管理」では、調理員や設備、調理方法、食材における衛生管理の徹底が図れるからです。次に「栄養教育・食育指導」では、栄養教諭、栄養士、調理員の存在があるからです。具体的には、栄養バランスを考えた給食の提供、児童への食育指導や食事マナーの指導、日本文化、郷土料理などの学習、また保護者に対しての家庭での食育指導推進ができるからです。そして、「学校内調理」では、子どもたちの五感を通じた給食への関心の向上、児童生徒と調理員のコミュニケーション、個々のアレルギーに対するきめ細やかな対応などができるからです。このほかにも、自校直営であれば、災害時の避難所として調理場の効果的な活用といったことも考えられます。

3. 大野西小学校の状況

 旧大野町では、質の高い学校給食を実現するため、自校直営での運営を町の方針とし、栄養士の資格を有する調理員を採用してきた経緯があります。そのため、旧大野町にある児童数約600人の大野西小学校では、開校以来約50年間「自校直営」で給食を提供しています。しかしながら、隣接の大野中学校では、2005年の合併を機に「弁当」から「センター給食」へとなっています。
 こうした中、大野西小学校・大野中学校両校とも耐震上問題があるとして、この2校を一体型小中一貫校として建て替え、5年後に開校することが決定しました。しかしながら学校給食のありようについては未だ方針が示されていません。
 そこで、開校後の学校給食は、どうあるべきか。「より良い学校給食とはどうあるべきか」について、提案したいと思います。

4. 大野西小中一貫校における提案

 私たちは、食育推進の観点と学校給食を子どもたちの生きた教材としてより感じやすい、「学校内調理」を提案します。センターから配送された給食を提供するのではなく、今までどおり自校方式の給食を提供し続けるべきです。
 なぜなら、経費や人件費削減のために、これからの未来を担う子どもたちの食教育の現場をなくしてはいけないと考えるからです。そして、子どもたちには、小中学校の9年間、自校で作られた給食を通して様々な食教育を受けて学び、健やかに成長してもらうことを強く願っているからです。地域の子どもたちに、『給食を通して、将来、自分で食材を選び・作り・食べるという「生きていく力」を養ってほしい。給食を通して、地場の農水業や食文化・環境を知り、将来、「地域を誇れる」大人になってほしい。』と願っているからです。
 私たちは、子どもたちの将来のために、この生きた教材を守りたいのです。


 大野西小学校で働く給食調理員の正規職員と臨時職員が自分たちの似顔絵を書いて自己紹介と給食に対する思いを児童に伝えています。

5. 将来もセンター方式か

 センター方式が悪いと言っているわけではありません。より質の高いものを追求するのか、コストを追求するのか、地域性を尊重するのか、これは選択の問題です。廿日市市は、1968年7月にセンター方式を先駆的に取り入れ一定の成果を上げていると思います。しかし、将来も集中型の大量調理で良いのか、それが市民から本当に求められているニーズなのでしょうか、食育重視という時代の流れの中、再検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。


6. 充実した小中一貫校へ

 今回の900人規模の一体型小中一貫校は、おそらく廿日市市のモデルになると思われます。そうであるならば市内で最も充実した教育環境を目指すべきです。そのためには、教員の体制の強化も大切ですし、充実した食育環境も大切です。
 そもそも大野西小学校と大野中学校の関係は、小学校の卒業生がそのまま中学校へ入学しており、小中一貫校の大きなメリットとして言われている「中一ギャップの解消」という効果はあまり期待できません。保護者は、学習やスポーツでの効果があると期待していますが、一方で教員の体制や指導要領の縛りが予想されるといった不安もあります。こうした状況の中で、これを機に調理場(自校給食)を無くしてしまうことになれば、結局「合理化」だったということにならないでしょうか。

7. 地域との対話による選択を

 どんな学校給食にするのか、どのくらいの費用をかけるのか、そういったことは、市教育委員会が市民・地域・保護者・現場と十分に対話した上で決定すべきものです。
 「市民と協働のまちづくり」「市民との信頼関係」「地域の資源を生かした個性あるまちづくり」を目指している廿日市市においては、あまりにも当然のことであるということは言うまでもありません。
 学校給食は、地域の独自性を発揮できるまさしく「自治の鏡」ではないでしょうか。

8. 子どもたちのための給食とは

① 工夫の余地が多い学校給食(きめ細やかな配慮ができる給食)
② 子どもの近くにある学校給食(あたたかい給食、顔が見える給食)
③ 教育の可能性が高い学校給食(食育が感じやすい給食)
④ 食の安全のリスクが低い学校給食(地産地消に適した規模の給食、リスク分散、目が届きやすい)
⑤ 地域・保護者が参加できる学校給食(調理員との距離が近い)
⑥ 災害対策で生かされる学校給食(避難場所となったとき大量の炊き出しが可能)

 そのためには、大型センターから配送された給食よりも自校方式の給食から学ぶことの方が沢山あるのではないかと思います。

自校方式の給食のよさは……
 学校内に調理場があることで、より子どもたちが安心しておいしく給食を食べられるといったことがまず考えられます。また、実際に働く人たちの様子を見ることができ、調理場からのおいしそうな匂いを感じることで、嗅覚を刺激し、唾液の分泌を促し、ご飯の吸収を助けます。さらに、食に対しての興味が一層増してきますので、栄養教諭と地域、保護者、調理員の連携した取り組みも可能となります。


 吉和給食センターは、吉和小学校と隣接する吉和中学校の2校分の学校給食を市直営で運営しています。

学校給食の概要
旧市町村
学校名
食 数
運営形態
備 考
廿日市市
廿日市小学校
740
給食センター委託
(7,630食)
大型センター
(調理能力:9,000食)
平良小学校
710
原小学校
60
宮内小学校
560
地御前小学校
360
佐方小学校
460
阿品台東小学校
310
阿品台西小学校
560
金剛寺小学校
150
宮園小学校
230
四季が丘小学校
490
廿日市中学校
570
七尾中学校
430
阿品台中学校
390
野坂中学校
460
四季が丘中学校
390
大野町
大野中学校
340
大野東中学校
420
大野西小学校
630
自校直営
 
大野東小学校
890
佐伯町
佐伯中学校
330
浅原小学校
30
津田小学校
160
友和小学校
310
玖島小学校
60
宮島町
宮島小中学校
130
センター直営
小規模センター
吉和村
吉和小中学校
70
センター直営
小規模センター
合計27校
10,240