【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 町の財政が逼迫する中、業務の公共性や現場で働く組合員の声、直営と委託、指定管理など、そのメリットとデメリットについて議論を重ねていく中、何が住民にとっての利益なのかが見えてきた。安全・安心な行政サービス、住民の満足度は、「コスト優先」だけでは得られない。
 今後の町行政が担うべき役割とは何かを学校校務技師業務に焦点をあて、考えてみることにした。



行政として校務技師が担うべき役割とは


島根県本部/斐川町職員組合・自治研委員会

はじめに

 斐川町は島根県の中で非常に恵まれた地理的条件を有し、従来から道路河川・土地基盤等の社会資本の整備を積極的に行うことにより、地域経済の活性化を進めてきた。しかし、そのことにより斐川町は公債費の割合が高くなり、交付税削減と共に極めて硬直化した財政に陥った。そのため、斐川町当局は財政健全化に取り組まざるをえなくなり、2003年に「財政健全化3カ年計画」、2006年に「斐川町行財政集中改革プラン」を策定した。
 そのような情勢下で急遽作成された「集中改革プラン」は、財政運営のつじつま合わせの要素を多分に含んでおり、抜本的な改善計画と呼ぶには程遠いものであっただけでなく、人件費削減に偏った問題の多い内容であった。
 そこで、斐川町職として、財政状況が逼迫する中で今後の町行政が担うべき役割とは何かを検証することとした。その中の一つとして、学校校務技師業務を取り上げ提言する。

1. 校務技師の概要

  学校用務員(斐川町では校務技師)とは、学校教育法施行規則に「学校用務員は、学校の環境整備その他の用務に従事する。」と定められている。学校教育法において、学校には必要な職員を置くことができるとされ、必要である場合は、校務技師を置くことができる。
 1980年代前半までは、校務技師が夫婦で校舎内の専用室や学校構内の片隅に設置された住居に住み込みで生活し、施設の管理や深夜の校舎巡回、忘れ物を取りに来た子どもにも対応した。しかし、機械警備が普及したため、かつてのような住み込みの校務技師は、ほぼ完全に姿を消している。校務技師の業務が簡易であると捉えられる風潮もあるが、実際には、学校全体の諸事に携わることから、多岐に渡る技術が要求される。
 全国の常勤学校用務員の配置実態はすでに学校数を下回り、減少を続けている。全国の民間委託の割合は2007年で28%である。総務省の「新地方行革指針」、「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」の策定、「地方公共団体の技能労務職員等の平均給与月額等について」の公表によって、人員削減への圧力が高まっている状況である。

2. 校務技師の職務内容

  斐川町においては労使で、教育環境及び労働条件の向上、安全で円滑な学校運営を目的とし、「校務技師の職務内容に関する協定書」を締結している。内容は以下のとおりである。

(1) 子どもの安全に関する業務
① 安全点検時に発見された危険個所の安全対策業務
② 給食準備時の安全衛生に関する業務
③ 侵入者防止などの安全対策に関する業務
④ 警報機器・防災施設の点検等、防災に関する業務

(2) 環境整備に関する業務
学校給食の準備作業
① 校舎・校地の整備に関する業務
② 樹木・花壇の管理業務
③ 施設設備の維持管理に関する業務

(3) 管理運営に関する業務
① リサイクルの推進及び廃棄物の処理に関する業務
② 冷暖房機器の整備、及び燃料に関する業務
③ 学校諸行事の準備及び整備に関する業務
④ 文書・物品・金品の送達、受領に関する業務
⑤ 給食の取扱いに関する業務
⑥ 非常災害及び事故等における緊急業務

 

壊れていた天井の修繕
中学校の校務技師はボランティアで部活動の指導

3. 斐川町の校務技師の人員の変化と近隣自治体との比較

 斐川町の校務技師の配置は、各学校正規職員2名体制であったのが1980年代前半に退職者不補充などにより各学校に正規職員1名、臨時職員1名となった。2005年から、パソコン等の整備に加え、校務技師業務内容を町で統一することで、労使合意の上、臨時職員は半日勤務となった。ところが、2006年の「集中改革プラン」の原案段階に、唐突に校務技師の臨時職員化が盛り込まれていた。この臨時職員化を含めて労使交渉によって、労使合意を経ない項目は「集中改革プラン」に記述しないことを確認し、削除させることができた。しかし、それとは別に2007年には、町当局が学校側の校長・教頭に精査をした結果だとして、一方的に臨時職員の勤務を1日2.5時間に削減した。
 今回調査を行った近隣自治体においては、校務技師正規職員数が学校数の半数程度であり、1割程度の自治体も存在している。その上に、行革や適正化との名目で、さらに正規職員を削減する動きがある。実際には、過去にもその流れが進行しており、配置転換を余儀なくされた正規職員がいる一方で、非正規職員である嘱託職員が増加している。
 近隣自治体の嘱託職員に聞き取りを行った状況では、業務は嘱託職員でも正規職員と同等であった。しかし、嘱託職員では意見反映してもらえないことがあるようである。また、生徒支援、防災などに関しては正規職員であればこそできるとの意見があったが、これらが校務技師の業務と正式に位置付けられているところはない。

4. 調査結果の検証

 校務技師の職務内容について細分化し検証すると、学校敷地内の施設の維持管理はもとより、子どもの安全確保、災害時の対応等、校務技師の職務が非常に多岐に渡ることが改めて確認できる。この他にも教員から依頼される仕事等、協定書に無い業務もあるのが実情である。修繕一つとっても、知識や技術を習得していないと実施は困難で、日頃からの自己研鑽や共同での研修などによって培われている。
 子どもの安全確保については、学校への侵入事件が全国的に発生し、不審者事案も増えている中で、これまで以上に重要になっている。学校現場におけるヒアリングでも、道路事情に詳しい校務技師は登下校時の立哨等で非常に助かっているとの声があった。
 給食については、1日の中でも最も忙しい時間であるが、異物の混入(テロ的事案も含む)が無いように監視する等、安全の確保の点からも正規職員が張り付いている。臨時職員がこれ以上削減されれば、学校内での他の状況に対応できない状態となる。
 緊急時の対応については近隣自治体では災害非常時の対応を業務と位置づけているところはなかった。しかし、避難所となる学校施設に精通している職員が必要なことは明らかであり、かつその任に当たるべき職員は正規職員のはずである。
 また、中規模以上の修繕や環境整備は、夏休み等に校務技師が集まって行う共同作業や、ボランティアの協力による校地の整備等をより進めていく必要がある。これらのことは正規職員であればこそ企画立案して進めていける部分である。近隣自治体に対する調査結果においても共同作業は正規職員が中心であり、正規職員がいない自治体は実施されていない。
 その他、学校現場におけるヒアリングでは、非正規職員化によって教育環境が悪化する危惧が指摘されている。学校は授業ばかりでなく生活の場として、教員以外の人的環境も大きな影響を与える。特別な支援が必要な子どもが増える中、校務技師は教員とは違う立場で子どもに接することで貢献している。ヒアリングでも正規職員であればこそできるとの意見があることに留意すべきである。このことは、校務技師の本来業務ではないかもしれないが、子どもが学習に励みながら、集団生活の中で良好な人間関係を築くためにも重要である。

5. まとめ

 校務技師が正規職員としていることの重要性及びその効果や役割について、以下の3項目に分けて整理するとともに、業務協定には無いものの、職務上、関わりのある子どもを支援する業務について提言を行う。

(1) 経費節減の取り組みによる施設環境整備
 環境整備は、校務技師の主たる業務の一つである。町内小中学校は、敷地面積も広く管理する樹木も多い。四季折々の花や木々で季節感を保ちながら、いかに経費をかけずに効率的に維持管理していくかが課題である。このため、校務技師が維持管理年間計画を作成・提案し、学校管理職と共に、PTAや地域ボランティアに説明や協力要請を行うことによって、一体的な取り組みになるように工夫している。こうした地域との協働の取り組みは正規職員であるからこそできることである。 
 この他、業務内容には各施設管理、補修などがあるが、多種多様な学校設備等のトラブルに対応できるよう自主研修による技術の習得や共同作業により業務の効率化に努めている。また、全校集会等で子どもに対して修繕する人の気持ちを話して、公共物を大切に使うように訴えたりすることもある。この取り組みは、教師以外の者が現場の声を直接伝えるので、道徳教育の一つとして教師からの評価も高くなっている。

(2) 危機管理対応(ライフライン)と関係機関との連携
 ライフライン管理は、学校で子どもたちに安全で安心して生活できる環境を提供していくため必要不可欠である。毎日の点検(電気・ガス・水道・灯油)と、教育委員会、関連業者と校務技師の連携によって即応できている。このことは、毎年の人事異動で多くの職員が変わる学校職場において重要である。加えて、町内の小中学校すべてが非常災害時における避難場所となっており、緊急時の対応では、学校の事を誰よりも熟知している正規職員の存在がますます重要となっている。

(3) 子どもへの支援
 現在、学校においては、発達障害等、集団で教育活動を進める上で支援を必要とする子どもたちが増加してきている。こうした子どもに対しては、個々に適した対応が必要となる上、週5日制による影響もあり、空き時間がなく教職員は余裕が無い。県や町による支援員の派遣は進んできたものの、まだまだ人員不足の状況は続いている。こうした中、校務技師の新たな役割としてこのような子どもとの関わりが出てきている。保健室登校や特別支援学級の生徒と竹とんぼや椅子作りを一緒に行い、成功体験を与えている。このことは、個々の特性や良さが失われがちな今の子どもたちにとって、それぞれの得意分野を発見し、自分や人の良さを認め、信頼感を持つことに繋がる非常に大切な試みである。

 「学校」とは、社会情勢に即しながら、多様な子どもたちの個性を守り、育てる、大切な人間形成の場である。校務技師も教職員と共に、子どもたちの日々変化する環境へ「即対応する」姿を見せている。仕事そのものは前述のとおりであるが、「常に子どもたちへの安全・愛情・人間育成の視点」がある。子どもと共に清掃をし、道具の使い方を教え、動植物への関わりを持つ中で、現代の子どもに一番必要な「対話」をしている。学校では、授業する人だけが先生ではなく、生活に携わる人も含めてすべてが先生である。学校教育を円滑に行うための校務技師は、学校に必要不可欠な職員であり正規職員であるべきである。

おわりに

  近年、国は「官から民へ」をスローガンに行政の民間委託を推進し、指定管理者等の制度を導入している。我々の職場を奪い、働く者の誇りを奪うこれらの動きは、労働組合としては受け入れがたいものである。しかしながら、国全体の大きな流れに抗して、職場を守り通すには相当の労力が必要である。
 一方、行政サービスのあり方を考えるとき、最も優先されるべきは、「住民の利益」である。住民の利益には、当然「コスト」も含まれるが、それはあくまでも一つの指標であって、それのみを目的とするべきではない。行政サービスは継続性が重要であり、長期にわたって安全・安心な行政サービスが結果的に低コストで実現できることが理想である。
民間委託は、コスト削減の王道のように言われ、行政直営よりもサービスが向上するかのように喧伝されるが、果たしてそうであろうか。町から仕事を手放すことは、大切なノウハウを放出することでもある。行政としては総合的、多角的に検討するべきであり、単に短期的なコスト削減のために民間委託が進むとすれば、それは将来に大きな禍根を残すことになりかねない。
 校務技師をはじめとする我々組合員は、それぞれの職種・職場で経験を重ね、知識、技術、あるいは地域との連携等、行政能力・職務能力を向上させている。行政運営・執行に必要な力は、時間をかけて養成・蓄積されるものが多い。人件費をコストだけと考えることは誤りであり、職員自体が自治体の大きな資産である。自治体当局は、現に持っている資産を有効に生かす方策をまず考えるべきである。
 一方で、我々組合員にも、自らの「資産価値」が評価に耐えうる存在であり続けるための努力が求められる。「民間委託に賛成」という意見が住民から支持される背景には、コスト以外の評価指標を住民が持っていないことの現れである。組合員自らがコスト論に流されず、行政サービスの多面的価値を住民に説明し実証していく必要がある。
 そして組合に求められるのは、職場を守る取り組みが、住民の満足度向上の延長線上にあるとの認識である。遠回りのようだが、それこそ職場を活性化させ、結果として行政サービスが住民に理解されることにつながると信じる。自治体の生き残りをかけた真の行財政改革の成功の鍵は、きっとそこにあるはずである。