【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第12分科会 地域からのワークライフバランス

 政府は、ゴールデンウィークなどに集中している連休を、全国5地域ごとに分散化する案を示していますが、2010年度、当市(新潟県妙高市)をはじめ、全国8地域で休日分散化にかかる実証事業を行っています。
 今回の実証事業では、「家族の過ごし方」という教育的観点を前面に出しながらも、休日分散化による「観光産業の活性化」も狙います。本レポートでは、当市の実証実験などを通して、休日のあり方などを検証します。



休日分散化政策に見る「休日のあり方」について考える
~休暇取得・分散化促進事業に対する 
 新潟県妙高市の取り組みを通して~

新潟県本部/妙高市役所職員労働組合・書記長 斉藤  誠

1. はじめに ~新潟県妙高市(みょうこうし)のご紹介~

 新潟県「妙高市」(みょうこうし)は、2005年4月1日に、古くから自然・歴史・文化・産業などでつながりの深い「新井市(市街地)」「妙高高原町(観光地域)」「妙高村(農村地域)」の3市町村が合併し、誕生しました。
 人口は約3万7,000人で、新潟県の南西部に位置し、北は上越、西は糸魚川地域、南は県境として、長野県に接しています。地域全体の約8割が森林で、西部には、越後富士と称される秀峰「妙高山」に代表される標高2,000~2,500メートルの山岳が峰を連ね、山麓一帯は上信越高原国立公園に指定されています。また、中央部を貫流し、日本海へと流れ込む関川をはじめ、大小の河川は肥沃な扇状地を形成し、稲作の優良農地が広がっています。
 気候は日本海側特有の気候で、冬季は大陸からの季節風により、たいへん雪の多い地域ですが、降雪による豊かな水と緑豊かな自然環境に恵まれた、色鮮やかな四季の変化に富んだ美しい地域です。
 特に、妙高高原地域は、3つの湯色、5つの泉質、7つの温泉郷を持つ妙高高原温泉郷など、豊富な湯量と多様な効能のある温泉地としても有名で、初心者から上級者まで幅広い年齢層に対応可能な8つのスキー場と合わせ、全国から年間約300万人の観光客が訪れる観光地として発展をとげています。妙高市のまちづくりの理念は、「生命地域の創造」で、「人と自然が共生し、すべての生命を安心して育むことができる地域」を目指しています。

2. 休日分散化政策の概要

 政府が示している「春(ゴールデンウィーク)と秋(シルバーウィーク)に集中する休日の分散化案」は、全国を「北海道・東北・北関東」「南関東」「中部・北陸信越」「近畿」「中国・四国・九州・沖縄」の地域ブロックに分け、5地域ごとに休日をずらして5連休を設けるという案です。
 「5連休」は、春の場合は、「憲法記念日」(5月3日)と「みどりの日」(5月4日)、「こどもの日」(5月5日)、秋の場合は、「海の日」(7月第3月曜日)、「敬老の日」(9月第3月曜日)、「体育の日」(10月第2月曜日)の各3祝日を土・日曜と連続する日程に移動させるものです。
 「分散化」は、休日が集中することで収益につながる期間が限られている観光業界の要望を受けて検討が始まりました。期待される効果は、観光地における雇用の安定化のほか、旅行者も渋滞の緩和や繁忙期における旅行代金の低廉化などの恩恵を受けることを想定しています。休日分散化の導入は、今後、来年の通常国会に祝日法の改正案を提出することを目指し、早くても2012年度以降になる見通しです。
 連続する休日を設けることによって、余暇活動や、親と子どもが一緒に過ごす時間(家族時間)を充実させることができ、道路・交通機関や各種施設の混雑緩和や、交通機関の切符・宿やツアーの予約がとりやすくなることなども期待できますが、一方で、分散化を実施した場合、実際の「憲法記念日」や「こどもの日」が休日ではなくなるため、国民の祝日に対する認識が薄れることも懸念されます。また、地域で休日が異なることは、勤務地や通学地によって家族の休みがそれぞれ違ってしまう可能性もあり、地域に根差した伝統的な行事を売り物とする観光地での集客低下も懸念されています。
 本レポートでは、2010年度に全国8地域で実証実験を行う一つ、当市(新潟県妙高市)の実証実験を通して、「休日分散化」の政策の意図と、国民の意向とのマッチング、家族時間をさらに増やすための休日や制度のあり方などについて提言します。

3. 政府が考える「意図」とは ~渋滞緩和でもっと旅行して

 政府が提示している休日分散化案は、「ゴールデンウィークの地域別分散化」と「秋の大型連休創設」の二つから成っており、ゴールデンウィークの分散化とは、憲法記念日(5月3日)、みどりの日(5月4日)、こどもの日(5月5日)をひとまとまりにして地域ブロック別に割り振るというものです。割り振り方法として、月~水曜日に割り振る方法と、月~水もしくは水~金に割り振る方法が提示されていますが、いずれにしても、現行の祝日は記念日としては残りますが、「休日ではなくなる」ことになります。
 一方、秋の大型連休創設は、現在、ハッピーマンデーとして移動の対象となっている休日のうち、海の日(7月20日)、敬老の日(9月15日)、体育の日(10月10日)をやはり"記念日化"(休日ではない)し、10月の各週にひとまとまりの連休として地域別に割り振るというものです。

図1 休日分散化の全国の割り振り案
 左記で示した地域ブロックは、政府のワーキングチームが提示しているものであり、また、全国を4~6に分割する案も検討中で、人口、労働力人口などが同規模になるように割り振る予定です。仮に、今年の5月の連休に、月~水曜日に割り振る方法で分散化した場合、各ブロックの休みは上記のカレンダーのようになります。東京都に住んでいる人は、土日も含め5月29日~6月2日までの5日間がゴールデンウィークになるということです。
 観光庁がまとめた「平成22年休暇の取得・分散化に関する国民意識調査」によると、ゴールデンウィーク分散化について、「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と答えた人は合わせて49.7%。その理由として最も多かったのは、「道路や交通機関の混雑緩和に期待するから」(約87%)です。
 渋滞解消の根本である『時間と空間での車の分散』と言われる方法は、フランスではすでにかなり前から取り入れられています。東京大学先端科学技術研究センターの調査によると、1車線につき1時間に約2,000台以上の車が集中すると、どのような道路でも「確実に渋滞が発生する」ということが研究で明らかになっており、この「容量」を超えない仕組みを考えていかなければ、どんな渋滞対策も意味がないといわれています。
 実際、渋滞だけを見ても、ゴールデンウィークの混雑ぶりは突出しており、日本バス協会によれば、2009年のゴールデンウィーク(4月29日~5月6日)における高速バスの運行の遅延時間は全国平均で約4時間34分。同年のお盆期間(8月6日~18日)の約3時間23分と比べても1時間以上も遅い統計となっています。
 政府は分散化の効果の一つとして「交通渋滞や混雑の緩和による移動時間の短縮化」を挙げていますが、上で示した地域分割案の場合、例えば、千葉、埼玉、東京、神奈川の4都県は同時に連休に突入することになります。
 これで、交通機関や道路の混雑は本当に緩和できるのか疑問が残ります。人口密集地帯である首都圏、中京圏、関西圏については、県ごとに休暇が分散するような処置を取らないと渋滞が緩和されない恐れがあります。つまり、旅行に出掛けた先での渋滞は緩和されるかもしれませんが、行き帰りの渋滞は解消されない可能性があります。
 しかしながら、旅行需要が分散し、全国的に見れば渋滞はこれまでより少なくなる可能性があります。旅先での移動もスムーズになり、観光地で駐車場に入りやすくなる可能性もあります。実際、学校休業の分散化(学校の長期休暇を地域ごとにずらす政策)を行ったドイツで、アウトバーン(高速道路)の渋滞が減ったという報告もあります。したがって、交通集中に関しては、それなりの改善効果が望めるかもしれません。

4. 実施に向けた主な課題 ~本社稼働日に支社が休日? 単身赴任は?~

(1) 東京本社が稼働していて新潟支社が休めるのか?
 本社が南関東ブロックの東京、工場は中部・北陸信越ブロックの新潟というように、分散化のブロックを越える企業は多くあります。会社の事業形態にもよりますが、例えば、東京の本社が稼働しているのに、新潟支社や信越の工場の社員が一斉に休むのは無理というケースも多いでしょう。ワーキングチームのヒアリングでも、労働界から「本社と支社で仕事の調整は付くのか」という懸念があがっています。
 他にも、全国中小企業団体中央会が行った聞き取りでは、「全国的に取引をしているので、休日が分散化すると取引が止まり、在庫負担が増えてしまう」(卸売業)、「土木関係の工事で人員が必要な場合、ブロックを越えて業者に発注することができなくなる」(建設業)、「1年前からカレンダーの企画・営業を始めるため、すぐには対応できない」(印刷業)など業界ごとの様々な懸念材料が報告されています。
 また、青果物や水産物の中央卸売市場では、全国で統一して市を開く日と休む日を決めています。各産地はそれに合わせて計画的に出荷していますが、ブロック別に分散されると出荷調整が難しくなるなど、各業界に難問が生まれる懸念があります。

(2) 単身赴任のお父さんは子どもと一緒に休めない?
 分散化は『お父さんの支援策』にもなっています。ゴールデンウィークともなれば、世のお父さんは家族サービスに振り回され、交通渋滞やテーマパークの大行列で心身ともにグッタリしてしまいますが、分散化が実現すれば、そのようなお父さんたちの負担は大いに軽減される可能性があります。
 しかし、ブロックを越えて単身赴任中のお父さんにとっては、むしろ逆で、悩ましい事態となりそうです。
 例えば、「3日以上も職場を空けるのは無理」と多くのサラリーマンが実感しているかもしれませんが、単身赴任中のお父さんは、関連会社や得意先も全国に分散している場合が多く、自分の地域が休みであっても得意先などが休みでなければ仕事をしなくてはいけない場合もでてくる懸念があります。

5. 実証事業に対する妙高市の取り組み ~家族の時間づくりプロジェクト~

 休日の分散化にあたり、観光庁が全国に実証事業への参加を呼びかけ、当市(新潟県妙高市)など全国8地域が実証事業を引き受けました。実証実験では、地域ごとに季節を分けて連休を設け、その実施について、実施校の保護者に対してアンケートを行い、「分散化」が家庭や学校、地域に与える教育的、社会的効果や課題などを検証する予定となっています。今回の実証事業では、特に「家族の過ごし方」という教育的観点に比重が置かれています。
 実施にあたっては、小中学校をはじめ、商工会議所や主要企業、関係団体などに対して説明会等を行い、特に、市内企業に対しては、休業化や有給休暇の取得等について理解と協力を求めました。当市には、パナソニック(株)セミコンダクター社新井工場をはじめ、(株)コロナの100%出資の系列会社「(株)新井コロナ」などがあり、本社や支社が全国に点在している企業がありますが、市からの協力依頼の感触としては、全国的に指摘されているような問題はさほどなく、比較的、好意的にご協力をいただけることとなりました。
 実証事業の実施後、結果として家族時間の充実が図られ、観光地の活性化につながったのか、アンケート結果等をまとめ、観光庁などに対して、実証事業の結果や妙高市としての見解などを提言していく予定です。


図2 妙高市における連休化実施校の取り組み計画表

<事業概要>

【実施日・実施校】※市内5校で実施
 ○新井南小学校
  2010年10月31日(日)から11月3日(水・祝日)の4連休化
  (11月1日(月)・2日(火)の休業日設定)
 ○新井中央小学校・妙高高原北小学校・妙高高原南小学校・妙高高原中学校
  2010年11月20日(土)から11月23日(火・祝日)の4連休化
  (11月22日(月)の休業日設定)

1) 実施校の取り組み計画
実 施 校
地域
児童数
実  施  日
新井中央小学校
市 街 地
413人
11月20日(土)~11月23日(火・祝)
新井南小学校
農村地域
92人
10月31日(日)~11月3日(水・祝)
妙高高原北小学校
観光地域
153人
11月20日(土)~11月23日(火・祝)
妙高高原南小学校
観光地域
92人
同  上
妙高高原中学校
観光地域
140人
同  上
5校
890人
 

6. なぜ、妙高市が実証事業を引き受けたのか?

 なぜ、「受け入れる側である観光地」を抱えた妙高市が、この実証事業を引き受けたのでしょうか。
 実証事業にあたっては、観光庁は「家族の時間づくり」プロジェクトとして「大人の休暇改革」と「大人と子どもの休暇のマッチング」を目的として掲げています。事業の促進のため企業、官公庁への働きかけと、教育現場の協力を得て、大人の連続有給休暇取得の促進、併せて家族で過ごすまとまった時間を確保し、国内観光産業及び地域経済への波及効果を狙っているものです。
 政府が提唱し、当該事業の主目的である「家族の時間」づくりは、妙高市にとって、家族・地域などで、「心の豊かさ」を感じることができる全市的な運動「妙高市民の心」の取り組みに通じるところがあり、また、長期休暇を取得しやすい環境づくりが進み、我が国としても、諸外国並みの長期休暇取得、バカンス取得の風土が日本国内にも醸成されることにより、国内観光地における長期滞在型観光が活性化する可能性が高く、観光地が集積する「妙高高原地域」を中心として、観光産業に対するメリットは大きいと考えられるため、国の政策実施に協力したものです。

7. 実証校選定の理由と経過

 本事業は、「家族の時間づくり」を主目的としていますが、その目的と同等以上に、我が国全体で、休暇取得を分散することで「観光地の繁閑の平準化による観光振興」に協力することを目的としています。
 特に、実施校の選定にあたっては、当市の中でも、観光事業に発展した歴史を持ち、観光関連事業者の割合が高い地域である「妙高高原地域」の小中学校が本事業に参画することで、休暇取得の促進と観光需要の喚起による観光振興に対して積極的な取り組み姿勢を全国に示す良い機会ともなります。
 また、妙高高原地域については、観光関連産業の従事者が多い地域であり、住民として、通常の連休や、休日、祝日に家族で休暇を過ごす時間が他地域よりも少ない状況にあると考えられます。こうした中で、比較的観光来訪客の少ない時期に、児童・生徒の4連休化と保護者等の休暇取得を促進することで、家族での余暇時間の過ごし方や、休暇を利用した観光需要の喚起の動向などの貴重なデータが得られることが期待されます。一方、新井中央小学校は商業用地の多い市街地、新井南小学校は農村地域にあり、観光地である妙高高原地域に比べて一般サラリーマン家庭の割合が多いという社会・生活環境である地域の現状から、妙高市としても、他県等の実施地域との比較可能な実証結果を導き出すことが期待されます。
 実証校の決定経過としては、妙高市が、新潟県を通じた観光庁からのモデル事業取り組みの打診に対して承諾し、そこから、妙高市校長会へ取り組みを打診し了承を得たもので、その後、教頭会での事業説明、PTA総会で保護者への説明を実施しています。

8. まとめ ~連休化と分散化も大事だけど「有給休暇の取得促進」も重要~

 企業などでの有給休暇取得は、100%消化しているところは少ないのではないでしょうか。理由は、人員削減等で仕事が忙しくなっていることが第一に挙げられますが、「休暇を取り過ぎると上司や同僚の目もあり気になる」、「のんびり休暇を取っていたら会社が潰れる」、「病気になった時に残しておきたい」等々が挙げられると思います。
 他の先進国と比較すると、日本はまだまだ有給休暇取得率が低い状況であり、年休の取得促進も重要な課題です。
 休日の分散化を真に進めるために重要なのは「年休対策」であると思います。特に中小企業はなかなか休めないところも多く、ワーク・ライフ・バランス推進の観点からも、『有給休暇消化法』のようなものも同時に始めないといけないのではないでしょうか。たとえば社員300人以上の企業は有給消化を義務化するという案が考えられ、ドイツなど海外では実践しているところもあります。これとセットで実施することで、政府が求める効果を発揮する「意味のある休日分散化」になると考えます。


図3 労働政策研究所・研修機構「諸外国のホワイトカラーに係る労働時間法制に関する調査研究」(2005年)
「有給休暇はどのくらい取れている?」各国比較

 

フランス
ドイツ
イギリス
アメリカ
日本
法  律
労働法典中の
年次休暇規定
連邦休暇法
労働時間規則
労働協約による
労働基準法
有給休暇
30労働日
年間4週間以上
4労働週(20日)
平均17~18日
最低10日
連続休暇
連続12~24日
連続2週間
労働協約による
労働協約による
規定なし
年休取得率
ほぼ100%
ほぼ100%
ほぼ100%
70~80%
47.4%(H20)