【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第33回愛知自治研集会
第13分科会 温暖化ガス25%削減 地域での可能性を模索する

 尾道市現業評議会清掃部会では、今まで出来ていなかった公務拡大、職の確立を推進し市民との協働を実践し、市民から必要とされる職場を構築するため「分別戦隊エコレンジャー」を制作し活動を実践してきました。その取り組みを報告します。



尾道市における、ごみ分別啓発について


広島県本部/尾道市職員労働組合・現業評議会 田村 知之

1. はじめに

  尾道市は瀬戸内のほぼ中央に位置し、渡し舟が行き交う尾道水道、点在する寺院、830余年の歴史を凝縮した景観は美しさを醸し出し、さらに山陽新幹線、山陽自動車道、瀬戸内しまなみ街道、事業中の中国横断自動車道が完成すれば、まさに「瀬戸内の十字路」としての発展が大いに注目されている町です。
 尾道市においても高度経済成長がもたらした産業活動の活発化と、都市化の進行に伴う市民生活の向上によって排出される各種の廃棄物は、その質の多様化と共に量的にも増加の傾向を示してきました。こうした中、これまでの排出したごみを処理するという、いわゆる後始末から脱却し、省資源、省エネルギーの具体化に目を向けごみの再資源化、再利用に取り組み、ごみの減量化を図るために分別収集の徹底を行ってきました。
 その結果、尾道市のごみ分別は23分別になり、市民には理解し難い状況になりました。
 このようなごみの分別詳細化を推進したのは自治体です。自治体責任として徹底したごみ分別啓発を行わなくてはいけません。しかし清掃事務所の担当職員だけでは、ごみ分別広報誌を各家庭に配布するだけの啓発活動しか出来ないのが現状だったのです。

2. 職場への提案

  尾道市では現業職員の採用は十数年無く、「自分たちが退職するまでに職場が無くなるのでは……」という思いは現業職員全員が心のどこかに持っていますが、今以上に仕事はしたくない、現業だから主事とは違うと現状から一歩前に出ることはありませんでした。しかし市民への啓発という仕事は無くなる事はないのです。ごみ収集に比べ委託されにくい仕事です。ごみ収集等の単純労務だけでは現業職場を守っていけない時代になっているのも事実です。市民への啓発活動を現業職員の仕事として位置づけるには今しかないと、そして今まで出来ていなかった公務拡大、職の確立にも繋がっていくのではないかと思いました。
 啓発のやり方の案はありました。他都市がやって好評を得ているレンジャー物の啓発ビデオです。いわゆるパクリです 幸いなことに尾道にはこれといったキャラクターがいないので間違いなく成功するだろうと言う自信だけはありました。大人だけでなく将来の尾道を担っていく子ども達にもごみ問題の重要性を理解してもらうためにはこれしかないと思っていました。インパクトもあるし清掃職場をアピールしていくにもいい素材です。そして職場集会を開き話し合いましたが、現場職員の意見は残念ながら啓発活動は自分たちの仕事ではない、そんな映画製作みたいな事が素人で出来るのか、自分たちの仕事はごみの収集だけやっていればいい等の意見が多く職場全体での取り組みという事にはなりませんでしたが、「面白い、やる価値はある」という声も少数ですがあがったので実行する事としました。

3. 企画、提案

 職場では啓発ビデオを制作する事でまとまりましたが、担当課長が決断しないと始まりません、担当課長が納得する企画を作らなければなりません。低予算で自分たちが出来ることは自分たちで、出来ないことは経験のある市民ボランティアと協働でという形に出来れば可能ではないかと思っていました。まずは経験のある市民ボランティア探しです。撮影、編集は大学の映画部にボランティア参加をお願いし、役者には高校の演劇部にボランティア参加をお願いし、台本、衣装、ナレーション、主題歌等は職員でやっていくことにし、なんとか低予算での制作が可能だと判断できたので担当課長へ、ごみ分別啓発ビデオ「分別戦隊エコレンジャー」の制作を提案しました。分別戦隊エコレンジャーのネーミングは、ごみの分別啓発なので分別戦隊、将来は環境問題全般の啓発もしたいのでエコレンジャーにしました。

4. 分別戦隊エコレンジャー制作

 担当課長は、面白い企画だし低予算で出来るのなら是非やってくれとの返答だったので、2007年11月より本格的に制作がスタートしました。スタートしたとは言うものの職員は何の経験も無い素人の上基本的にはごみ収集業務があるので、空いた時間にそれぞれが作業を少しずつ進める形で、時には夜遅くまで話し合い意見がぶつかることもありました。
 最終的に2008年3月に撮影し、2008年7月にビデオが完成しました。
  【制作期間】2007年11月~2008年7月 尾道商業、尾道大学、清掃職員、
        それぞれの都合の良い日、時間で(台本、衣装、撮影、編集、他)
  【制作費】259,117円【本編撮影日数】4日【編集】10日【オープニング撮影日数】1日
  【撮影、編集】清掃職員 尾道大学映画研究部【出演】清掃職員 尾道商業高等学校演劇部
  【衣装】清掃職員【DVDジャケット】清掃職員 【主題歌】清掃職員【大道具】清掃職員
  【ナレーション】清掃職員【脚本】清掃職員【助監督】清掃職員【監督】清掃職員
  【内容】西暦20XX年尾道の町にはごみがあふれ、地球温暖化が進み深刻な状況になっていました。その時5人のヒーローが立ち上がった。その名は、分別戦隊エコレンジャー。
      ※興味のある方は、DVDを貸し出しますので尾道市清掃事務所までご連絡ください。

5. 活動実績

(1) ビデオ啓発
 2008年8月 尾道ケーブルテレビでの放映     
 2008年10月 市内保育所、幼稚園へ貸し出し
 2008年10月 清掃事務所、図書館で貸し出し開始

(2) エコレンジャーショー(職員&学生ボランティア)
 イベント等へ参加依頼があり、ステージ上での分別戦隊エコレンジャーショー
 「2008尾道環境祭り・日比崎小学校バザー・因島JA祭り・尾道門前市・藤井川の夕べ
 2009環境の日広島大会・高須フェスティバル・木の庄東夏祭り・レッスルゲート尾道
 カルチャー&エコフェスティバルINゆめタウン広島・環境祭り&食彩祭り
 2010環境の日広島大会・吉和子ども祭り・(株)万田発酵ひまわりのせいくらべ」
 内容は、尾道の環境を破壊しにやってきたアースブレイカーと環境を守ろうとするエコレンジャーの戦いを通じ、ごみ問題、環境問題を訴えていくショーです。
 地域の祭り等にエコレンジャー出演時、祭りのごみ減量化、リサイクル率の向上を目指すことを主催者側に条件提示し出演しています。イベントの大小に関わらず市内すべてのイベントごみの減量化を目指しています。

(3) パッカー車へシールを貼り啓発

 このシールを貼ったことにより今までパッカー車を見ると鼻をつまんでいた子ども達が手を振ってくれたり、気軽に声を掛けてくれたりするようになりました。

(4) イベントでのポイ捨て防止、分別啓発活動
 尾道市の2大イベント、尾道みなと祭り、住吉花火大会はイベントごみの減量化と資源化の取り組みを掲げ「きれいな祭り事業」を市民ボランティアを中心に展開しています。清掃事務所もその取り組みに賛同し「分別戦隊エコレンジャー」として啓発活動、ゴミ拾いにボランティアで参加。(職員&学生ボランティア)

(5) 保育所、幼稚園での「環境リサイクル教室」

 この活動はかけがえのない地球環境の未来を残すため我われ現業職員が今、何ができるかを考えたとき、まず小さな子どもたちにごみの分別とリサイクルに関心を持ってもらい、その後に続く資源循環型社会を目指すためには幼少期からの啓発活動が重要と考えてこの活動を実践しています。
 この「環境リサイクル教室」はエコレンジャーを活用し寸劇方式で子どもたちにごみの分別を分かりやすく親しみの持てる参加型でやさしく教え、その中でリサイクル等について解説しています。この活動は保育所・幼稚園の年中行事や参観日等に行われることが多く、保護者の方からもごみの分別が複雑になる中、分別について勉強になった等反響もあり、さらに寸劇を見た子どもが保護者に「今日エコレンジャーがごみをちゃんと分けようねって言っていたよ」という事により保護者の分別マナーの向上にもつながっています。
 2009年度は8ヶ所での開催でしたが、この活動は徐々に浸透していき今年度はすでにかなりの件数の問い合わせ、予約を受けています。
 ※ 今後、小学校でも「環境リサイクル教室」の予定あり。

 

子どもたちに分別やリサイクルの大切さを説明し大いに盛り上がりました。  

6. 成果と課題

(1) 成 果
 分別戦隊エコレンジャーは尾道市民に認知されるようになり、イベントなどでごみ分別啓発やごみ拾いをしていると握手を求められたり、一緒に写真を撮って下さいと人だかりができるほどの大人気になりました。エコレンジャーショーも好評を得て、2009年10月には広島ホームテレビ地球派宣言で特集も組まれました。「キャラクターで教えてもらうことで、ごみ問題、環境問題が身近に感じられます」とか「ごみを分別しなかったらエコレンジャーが叱りに来るよ」と子どもに教えています、という市民の声もありました。
 イベント等でごみ分別を担当するのは市民ボランティアです、そのボランティア参加者も毎年増加傾向にあります。分別戦隊エコレンジャーがイベントでショーをする場合も学生ボランティアと一緒にやっています。エコレンジャーにボランティア参加した学生達がごみ問題、環境問題に興味を持ち、自らごみの分別ボランティアにも参加するようになりました。結果的に自然な形でボランティアの育成につながりました。

(2) 課 題
 まだまだ一部の職員だけの取り組みにしかなっていないのが現実です。今後継続していくためには職場全体の取り組みとしていかなければなりません。

7. おわりに

 始まりは現業職場の生き残りを図る為、市民から必要とされる現業職場を構築するために取り組んできた活動ですが、10年後20年後、今の子どもたちが大人になった時にはごみの分別は生活の中の一部となり、5R(リデュース、リユース、リサイクル、リフューズ、リペア)運動は定着し、資源循環型社会が構築できるよう啓発していきたいと思います。