【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第13分科会 温暖化ガス25%削減 地域での可能性を模索する

ふたたび環境の時代がやってきた


大分県本部/日出町職員労働組合 松本 義明

1. はじめに

 近年の地球温暖化問題から発生した環境論議は、1960年代の公害問題から発した環境保護運動の熱気を思い出させるかのように、人々の間に身近で切実なものになっています。それだけ、事の深刻さが日々の生活のなかで実感できるということでしょうか? 経済活動の間違った方向性を是正した結果、先進国ではレイチェルカーソンの「沈黙の春」の実現を阻むことに、ほぼ成功しました。その時に我々が学んだことは、環境問題を共通の認識にして人々の協力を得るには、膨大な時間と関係者の努力が必要だということです。今、二酸化炭素問題をはじめとした地球温暖化防止対策を論議する場において、今後予想される事態の進行スピードに対して、はたして有効な手段をとる同意がとれるものか? 不安を感じざるを得ません。また、環境問題は本質的に人口増加の影響をうけており、本来は都市部と地方部ではその事態や深刻さに違いがみられるものですが、地球温暖化問題では大気の循環によって原因が人口密集地で発生しても、その影響は地球的規模の災難をもたらしてしまいます。

2. エネルギー問題について

 地球温暖化防止の観点からは、エネルギー問題をさけて通ることはできません。原因物質の一つとされている二酸化炭素の増加は、人類の経済活動の増加による化石燃料の使用増加とほぼ一致していますし、人口の爆発的増加によるエネルギー需要は今後ますます増えることでしょう。産業革命以降の人類の英知は、化石燃料の効率的利用法のみならず、水力や風力や太陽光、原子力などの新エネルギーの利用を開発してきました。その過程でエネルギーの利用効率を追求してきた結果、経済活動が貨幣という普遍的要素を入手して、爆発的に発展したように、いったん電気エネルギーに変換して再利用する方法に収束しているようです。
 車などの移動手段は、化石燃料を動力エネルギーに直接変換して利用してきましたが、今や鉄道と乗用車は、電気エネルギーで効率的に動くシステムが実用化されています。トラックや船などの大規模運輸部門でも、バイオ燃料や水素等を電気エネルギーから変換させて使用する燃料システムも研究されています。そこで、これからの諸問題を語る時には電気エネルギーを主体に考えないわけにはいけません。
 その電気エネルギーを温室効果ガスの発生なしに生み出す方策と、いかに産業の基礎価値である電気エネルギーの無駄をなくすかの方策が、車の両輪のように二つの方向からの今後の対策として考えられます。もちろん、森林を増やすこと等により増加した温室効果ガスを物理的に減らす対策も、方向性としては可能ですが即効性があり持続可能な効果的対策となると、未知数なところが多すぎると想像します。

3. 再生可能エネルギーを利用した発電について

 水力や風力、太陽光などの自然エネルギーを利用した新たな発電設備の建設は、エネルギー需要の抑制による経済活動の低下を伴わずに、持続可能な対策として有望視されています。また、新たな設備への投資はエネルギー産業への投資効果を伴って、経済活動に貢献するとも予想されます。ちょうど、2~30年前に排水処理技術が次々と開発され、今や日本の先端技術として輸出されるようになった姿を重ねることができます。しかし、全発電量に占める割合として、水力発電は昔からの実績もあり5パーセント程度ですが、風力や太陽光などの新エネルギーは1パーセントしかありません。(電力量換算、九州電力)

 今後は、大規模水力発電所用の新たなダム建設は困難で、必然的に風力、太陽光発電を普及させるしかありません。ここで、問題を解決する手段として、設置コストの回収をいかに早くさせるかという目的で今年から始まった、電気料金の上乗せ分で電気の買取価格を48円/kWhまで高く設定する制度が注目されます。我々が、ごみの減量化対策で経験したごみ袋の有料化と同じように、住民の同意さえ得られれば経済問題として簡略化したほうが、理念を普及させるより効果的だからです。直接的な設置補助金とあわせて、費用をかけても元がとれる制度を確立させることが普及を図る方法の一つだと思います。

4. 省エネ対策について

 持続可能な温室効果ガスの削減方法のもう一つの柱として、省エネ化の推進があります。しかし、こまめな消灯やクールビズ、暖房温度の人的管理には、啓蒙効果は期待できたとしてもはたして持続可能か検証が困難です。ここで、注目したいのは省エネ技術が未だ推進されていない分野・施設での省エネ化の普及です。

(平成19年度 日出町公共施設別二酸化炭素発生割合:%)

 日出町には自前のごみ焼却施設がないので、上下水道施設で全体のほぼ半分を占めています。ごみや上下水道施設の管理・運営は地方自治体にとって非常に重要でコストを占める分野ですが、工場等の民間生産施設に比べて省エネ化が極端に遅れています。それは、競争原理が働かないことや安定運用が必要なことなどの理由はありますが、省エネ化対策を実施するコストと縮減されるランニングコストが見合わないことが大きな原因だと推定します。たとえ、市町村の財政が厳しくとも、縮減効果が見込めれば積極的な投資は可能ですが、設備投資の額が小額ですむか縮減効果が莫大でないと採択は困難です。上下水道施設の機械類は、最大需要量をもとに設計しているので機械の省エネ制御がなじまないこともありますが、今後、この分野の省エネ技術を推進することが有望であると確信します。
 次に、日出町の上水道省エネ化事業計画でポンプの高効率化と20kWhの太陽光発電を導入する際の試算を示します。太陽光発電と省エネ化対策の複合事業で総事業費は約30,000千円ですが、今の電気料金体系では、何年たっても元はとれません。それは、個人の電気買取価格(48円/kWh)ではなく、節約できる大口電気料金(12円/kWh)で試算しているからですが、これでは、財政部局を説得できるはずがありません。

小田城浄水場 
 
電力量(kWh)
電気料金(千円)
 CO排出量(t)
平成18年度
241,332
3,235
88.086
平成19年度
272,424
3,538
102.159
平成20年度
254,988
3,575
98.680
日出町役場本庁舎(参考)
 
電力量(kWh)
電気料金(千円)
CO排出量(t)
平成18年度
423,084
19,235
154.426
平成19年度
449,574
19,900
168.590
平成20年度
440,234
20,779
170.371

・省エネ改修後の収支改善予定
 2,166(kWh)+21,634(kWh)=23,800(kWh)
 23,800(kWh)×12.02(円/kwh)≒286(千円)

 このことから言えるのは、現時点では省エネ対策の導入を図っても経済比較が伴うかぎり実現不可能であることです。もちろん、省エネ化対策にはインバーター制御の導入や夜間電力を利用した最大需用電力量の平準化などの比較的安価な対策も考えられますが、節減できるものが二酸化炭素であるのか、コストであるのかで、理解の得られ方に差があると感じられます。

5. まとめ

  いまや地球温暖化問題は、研究室や会議室のものではなく現場で実際に起こっています。かつて私達は、公害問題をきっかけとして環境問題克服にはコストがかかることを認識しました。今では、車の排ガス浄化装置設置による価格上昇や、上下水道料金の支払いについては一定の理解を得ることができています。さらに、最近はゴミ袋やレジ袋の有料化制度においても、廃棄物行政にコスト意識の追加を了解していただきました。そのためには、長い年月と先人の努力が必要でしたが、今や、地球温暖化問題の解決にも一定のコスト転嫁が必要なことに広く理解を得ることで、問題解決の加速をはかることが重要ではないでしょうか?
 理想や理念だけでは、環境問題の克服には時間がかかりすぎます。昨今の異常気象による災害の発生状況と、それによって失われる財産価値を加えて、環境問題を経済と組み合わせてわかりやすく説明していくのも、我々の方向性だと確信いたします。さらに、技術開発の促進や省エネ対策の普及に、新たな産業育成効果を加えて社会の改革を後押しするのも自治体の努めではないでしょうか? 広く住民の同意を得るために、環境基本法の改正または環境基本条例制定のなかで「コスト転嫁」をうたい、新たなビジネスチャンスを自治体が明言・保証することを提言いたします。もちろん、その採択の決定権を持つのは住民なので、我々自治体職員はその同意を得るために困難な道のりが待っているでしょうが、すべては未来の子ども達のためです。