【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

救急医療体制の現状


全国消防職員協議会・会長
大牟田市消防本部・予防課・指導係 迫  大助

1. はじめに

 わが国の救急医療体制は「いつでも、どこでも、誰でも」適切な救急医療を受けられるよう、1964年の救急告示制度に加え、1977年からは、一次、二次、三次の救急医療機関ならびに救急医療体制の体系的な整備がなされてきました。また、救急現場並びに医療機関への搬送途上における傷病者に対する応急措置を充実させる制度形成として1991年には救急救命士制度が創設され今日に至っています。
 現在では、「消防力の整備指針」によって消防・救急の人員・装備は整備されてきましたが、一方では財政基盤が脆弱な地方における救急医療は医師の確保がままならず、「救急患者のたらいまわし」が問題となっています。社会問題化している医療機関における救急患者の受け入れ拒否は医療の崩壊の前兆と指摘する声も少なくありません。また救急医療に携わる消防・救急は、国の政策である「消防の広域再編」によって地域医療との関係が変化し、今後の救急医療をどのように確立させるか課題を残しています。

2. 基本的視点

 救急医療は、すべての国民が生命保持の最終的な拠り所として必要とされるものであり、救急業務についても、救急医療の重要な役割を担うことから、地域住民の安心・安全な暮らしを支えるものとして、その期待に応えるものでなければなりません。

3. 救急医療体制の基本的条件

  ① 救急時に迅速に救急医療機関に搬送できる体制
  ② 地域単位での救急医療体制の確保
  ③ 地域性の尊重
  ④ 社会構造の変化に反応し住民の要望に対応できる体制
  ⑤ 大規模災害に対応できる体制

4. 救急医療体制の課題

(1) 「救急たらいまわし」の社会問題化
 消防・救急行政は1991年に創設された救急救命士制度から17年が経過し、今日ではその質・量的にも体制が充実されつつあり、さらにメディカルコントロール(MC)を充実させるなど、救急業務における高度化が図られています。一方、救急需要は増加の一途をたどり、この10年で300万件から500万件となっています。また救急車の利用方法においては、医療のコンビニ化と表現されるように、住民のモラルの欠如による安易な利用が社会問題化しています。自己都合で地域医療の大切な二次病院に患者が殺到し、ここを溢れた患者が三次病院の機能までも麻痺させている現象が起きています。これらの状況が今日の救急医療体制の疲弊、あるいは崩壊を招く一因となっています。
 一方医療機関の状況は、勤務医が業務の過酷さ等によって地方の中核病院を立ち去り、病院が余儀なく閉鎖されるなど、各地で医療の崩壊が進んでおり救急医療制度そのものが運営困難となっています。特に急性期医療の危機は、住民の生命に危機を及ぼす深刻な問題であり、救急医療機関の受け入れ拒否は全国的に社会問題化しています。

(2) 救急現場での課題
① 伸び続ける救急需要
  救急需要は総務省・消防庁資料によると1995年から2004年の10年間で7割増、救急隊は7パーセント増隊とされています。これらの増加要因は社会構造の変化から需要が増加しているものと、価値観の変化、いわゆる安易な救急車の利用によるところが大きいとされています。この結果、現場到着時間が遅延傾向となっています。
② 搬送先病院選定
  多くの自治体は、消防救急行政の優先課題として、救急車の現場到達時間の短縮を挙げ、これにより救急分署等の適正配置を行うなどの努力が払われてきました。しかし消防側の努力が及ばない医療機関側の状況悪化から搬送病院が確定するのに多くの時間を費やすことが多々ある状況を生み出しています。
③ 救急高度化による救命率の推移
  ウツタインシステム導入前の救急蘇生指標によると心肺停止が目撃された傷病者に係る1ヵ月後の生存率は2002年5.8パーセント、2003年6.2パーセント、2007年は10.1パーセントと上昇しています。特に救急高度化の取り組みの中で、2001年に導入を開始したMCが大きく寄与していると考えます。2003年には包括的指示下による除細動、2004年に気管挿管、2006年には薬剤投与などの救急隊の措置が拡大されています。これらの高度化に係るMCの体制強化、制度の確立は医療機関と消防救急との共通認識であると言えます。しかし、これほどの救急需要に対し、救急隊は微増であり365日、24時間フルタイムに業務に当たる救急隊員の献身的な姿と過酷な条件で勤務されている救急医とオーバーラップさせる必要があります。

5. 消防・救急と公共医療機関との連携

 消防行政は、2012年度末までに国の政策によって広域化を余儀なくされており、都道府県の広域推進計画によって医療機関状況を加味されないままの政策が実行されつつあります。公共医療においても自治体医療から独立行政法人もしくは指定管理者による運営形態への移行が強行的に行われている現状があります。救急件数は今後も増加することを想定しても公共である消防及び医療の責任は大きく、いかなる場合でも住民のニーズに対応していかなければなりません。双方の組織が共に制度政策を熟考し、連携をとらなければ地域医療は存亡の危機を越えることはできないと思慮されます。「現場の声」を「住民の声」とあわせ地域の「安心・安全」のため政策構築しなければなりません。