【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

合成洗剤と石鹸 どっちを使うの?


大分県本部/日出町職員労働組合

1. はじめに

 地球環境によいとされる活動が様々な分野で行われ、エコと名のつく商品が次々に開発されている。私たちもごみの減量化やリサイクルなど自分たちで出来ることを行い、少しでも地球環境の改善になればと考えている。その中でも私たちは「洗い物」にはかかせない洗剤、石鹸について考えてみようと思う。今時代はリサイクル。石鹸についても食生活の中から出てくる廃油を使用した廃油石鹸が商品化され、地球環境によいものとして注目を浴びてからある程度年月が過ぎてきている。そこで廃油石鹸は地球環境にやさしいのか? 本当に合成洗剤よりも優れているのか? 今使用している合成洗剤を全て廃油洗剤に替えて洗い物をして大丈夫なのか?
 日出町という生活環境の中で考えてみたいと思う。

2. 合成洗剤と石鹸の歴史

 まず石鹸と合成洗剤がどのようにして私たちの暮らしの一部となっていったかを調べることにより、生活との関わりを考えてみたい。

(1) 石 鹸
 紀元前4000年ごろのメソポタミアで発掘された粘土板に石鹸の製造方法がくさび形文字で刻まれていた。その後文明の発達と共に18世紀には海水から苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を取り出す技術が生まれ、大量生産が始まり石鹸が広く普及されるようになった。
 日本では室町時代に入ってきたとされ、一般に使われ始めたのは明治以降だが、まだまだ庶民には手の届かないものだった。昭和30年代に入り石鹸から合成洗剤に急速に移行し始め、固形石鹸で洗濯、食器洗い、洗髪する事は時代遅れとされた。そして今、多くの人々が環境汚染やアレルギーを含めた地球の未来に危機意識を持ち始め、地球にも人にも優しい「石鹸」がもとめられている。

(2) 合成洗剤
 洗浄用の最初の合成洗剤は、1917年にドイツで作られた。当時ドイツは第一次世界大戦により食用油脂に頼らない洗浄剤を開発する必要に迫られていた。しかし大戦が終わると再び石鹸が使われるようになる。1928年にドイツでAS(アルキル硫酸エステル塩)が開発され、日本では1933年にAS製造が始まり、高級アルコール系中性洗剤「モノゲン」を発売。1959年頃からは、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)の洗剤が中心となり、1963年に石鹸生産量を合成洗剤が上回る。1970年代には、合成洗剤に含まれていたリンが、富栄養化の原因物質、すなわち水中の藻類や 植物プランクトンを大量発生させる栄養源(=肥料)になって、結果的に酸素不足の水になってしまい、魚などが死ぬという事態を招き、特に琵琶湖で大きな問題になる。このように初期の合成洗剤は環境面に大きな問題を抱えていたが、現在これらの問題は改善されて、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)や高級アルコール系、無リンを成分とするものに変化してきている。また2001年に化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)が施行され、LASが第一種指定化学物質に指定されているが、環境省がまとめた「化学物質ファクトリーシート2003年度版」によると現在稼動している下水処理場などで99%、その他の排水も水中の微生物で分解されてしまうため、人体や水生生物に影響を与えることはないとのことである。

 以上のことから人は「自然」を対象に石鹸を作り「洗い物」をしていたが、大量生産、大量消費に耐えられるものとして、また洗濯機、食器洗浄器などの機械の普及に対応できるものとして「便利さ」を追求した結果が合成洗剤の普及につながったものと考えられる。

3. 石鹸と合成洗剤の特徴

 次に私たちの生活に必要である2つの必需品。それぞれの特徴をならべてみよう。

  石 鹸 合成洗剤
毒性 水の中の生物への毒性は少なく、人肌への影響は少ない。 水の中の生物への毒性が強く、人肌への影響がある。
原料の消費量 原料の消費量が多く、一回の洗濯に使う量が多い。 洗浄力が石鹸よりも強力なため少なくて済む。
有機物汚染 BOD※が高く水中の酸素を大量に必要とするため、汚染しやすい。 有機物による汚染は少ない。
生分解性 水温は高いほうがよい。 温度による変化は少ない。
※ BOD(生物化学的酸素要求量)
 好気性バクテリアが、水中の有機物を酸化分解するのに必要な酸素量で、水質汚濁の指標の1つ。普通20℃において5日間に消費する量を、ppmまたはmg/lで示す。化学的酸素要求量(COD)が海域や湖沼で用いられるのに対し、BODは河川の汚濁指標として用いられる。


参考資料 (大矢勝著「石鹸安全信仰の幻」より抜粋)
標準使用量が25g/Lのコンパクト合成洗剤のBOD値 6.25g
標準使用量が50g/Lの粉石鹸のBOD値 42.63g

 参考資料のデータからも石鹸のほうが、数倍BOD値が高い。
 以上のことから人体や水の中の生物への影響については石鹸の方が少ないが、沢山の量を使用する石鹸のほうが有機物汚染(酸欠状態)をおこしやすいことがわかる。

4. 日出町の生活排水状況

 次に分析のデータとして日出町の現在の生活排水処理状況を調査する。

 日出町の総人口28,423人(2008年3月31日現在)のうち約54%の町民が全ての生活排水を浄化しており、下水道の普及及び浄化槽の更新に伴い整備率は年々上昇している。
 そこで日出町の公共下水道処理場ではどのような水が流入し、放流しているのかを調査することにより、今後の課題を見つけていくこととしたい。

5. 日出町公共下水道の現状

日出町浄化センター
供用開始: 1986年4月1日
排除方式: 分流式
処理方法: 汚水 標準活性汚泥法
      汚泥 濃縮→消化→脱水→搬出


現在の処理状況表
種 類 計 測 値 許 容 値
流入水量 4,200t/日 7,200t/日
放流水量 3,300t/日 7,200t/日
流入水BOD 183mg/リットル 150mg/リットル
放流水BOD 4.7mg/リットル  15mg/リットル
放流リン 1.45mg/リットル  14mg/リットル

 上記の状況表のうち流入BODについては、季節によって変動はあるものの、平均値においては処理場の流入水質を超えた汚水が流入していることがわかる。その汚水を放流する段階では4.7mg/リットルとしており、許容値を下回る数値の浄化水を放流している。
 標準活性汚泥法では、BODを改善するために大きな役割を担っているのがエアレーションタンクであり、ブロワ設備で空気を送り込んで汚物を食べる微生物を活発にさせ、汚水をきれいにしていくのである。ただこの処理は当然電力で稼動しているが、処理場全体の電力消費量のなかで図のような割合となっている。


 この図から浄化センターで消費する電力のうち、実に41%がブロワ設備(注1)に要していることがわかる。

6. 分 析

 現在ほとんどの一般家庭、及び公共・民間施設で使用されている合成洗剤を、石鹸詳しく分類すれば廃油石鹸で対応した場合の日出町の排水処理状況を分析する。

 まず合成洗剤と廃油石鹸について、もういちど大まかに比較してみると、

(1) 合成洗剤
 毒性があるため水の中の生物への影響があるが、廃油洗剤と比較すると洗浄力が強力であるため少量で洗浄が可能。単独浄化槽では毒性が消滅せず小川、海へと流れ出る可能性が高い。

(2) 廃油石鹸
 毒性はないため水中の生物への影響はないが、合成洗剤と比べると一回の洗浄に使う量が多い。またBODが高く水中の酸素を大量に必要とするため、汚染しやすく生物の生息には不利。
 なお自家製廃油石鹸は、製造過程で危険を伴い、また洗浄力にばらつきがあるので注意が必要である。

 以上の特性を考慮したうえで、現在の浄化センターに合成洗剤に替わって廃油石鹸を使用した汚水が流入すると仮定して分析を行うと、以下のとおりとなる。
 現在流入水のBODは平均180mg/リットルで、計画許容値をオーバーしている。仮に廃油石鹸を使用した汚水が流入する場合、BODはもっとオーバーする可能性が高い。その場合ブロワ設備からの空気送込み量は明らかに増え、なおかつ電力消費量も増えることとなり浄化センターの電力消費量の大部分を占めることとなる。なおかつ流入水量も増加するので、送水ポンプなど関連機械の稼動時間も増え、損耗も大きくなる。
 それでもなかなかBODが改善できない場合は、最初沈殿池を広くするなど汚泥の沈殿時間を短縮する方法があるが、これは浄化センター自体の増設を意味し、相当の事業費増額を余儀なくされることとなる。

7. 政策提言

 以上の分析結果から日出町の特性を活かした洗浄剤のあり方を考え、以下のとおり提言する。

(1) 公共下水道及び合併浄化槽が整備されている人口が集中している区域は、廃油石鹸は手洗いやシューズ洗いなど単発的な使用とし、それ以外は合成洗剤を使用したほうが良い。
(2) 単独浄化槽である約46%の世帯が集中している区域は、人口密度もさほど多くない集落部に多いことから、石鹸を使用しても水路、小川等で徐々に浄化される可能が高いため、石鹸を使用したほうが良い。

 今回合成洗剤と廃油石鹸を比較した背景には、これからの地球環境の改善について漠然と考えるより、まず自分たちの住んでいる町の環境についての方向性を示すことで、おのずと全体の方向性も見出せるのではないかと思ったからである。
 また最近の合成洗剤は技術革新が進み、より環境に優しいものに変わっているし、実際に食器洗いはおろかシャンプーや歯磨き剤まで合成洗剤が使用されていることに気がついたからである。
 4Rと呼ばれる、リサイクル(再生利用)、リユース(再使用)、リデュース(ごみ減量)、リフュース(購入拒否)の積極活用についても全体を見渡さないと本当の意味でのエコにはならないと思う。
 廃油石鹸はリサイクル製品としても、その製造過程や汚水処理過程においていろいろな副産物を生んでいる可能性も常に検証(チェック)し、本当の意味での エコ をめざしていきたい。
 春闘統一要求書への記載内容も含めて、今後の方向性について考え直すタイミングにあるのではなかろうか。現実論として、我々の生活から合成洗剤をすべて石鹸にシフトすることが可能なのかも含めて、感情論に流されずに冷静に再検討をする必要があると思う。
 今後、両洗浄剤をこれからも競合させ技術革新を図ることが、より環境にやさしい洗剤をうむことにもつながるのだから。




(注1)ブロワとはエアレーションタンクに空気を送り込む機械のことであり、汚水中の酸素が少ないと微生物の動きが鈍くなり、なかなか浄化しない事態を改善するための設備である。