【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 2008年4月に自治基本条例が北海道平取町にも制定されました。全国的な条例ブームの中、一過性の「つくっただけ」条例にならないよう労働組合としても制定後2回の検証活動を行ってきました。新しい「町づくりの手法」として、この条例が生かされなければいけない、という気持ちと「公正・公平・納得性」により、民主的なまちづくりが住民との協働のなかで生まれることを期待して、制定後5年目に入った現状をレポートします。



自治基本条例で仕事は変わったか 私たちの進むべき道
条例施行後4年の歩みと見えてきたもの

北海道本部/平取町職員労働組合・自治研推進委員会

1. 2008年4月1日平取町自治基本条例制定

(1) 全道で21番目、全国で102番目の条例
① 第5次平取町総合計画に「策定」が盛り込まれる
  総合計画を策定する手法として用いられる自治基本条例ですが、私たちの町では総合計画に条例の制定が盛り込まれました。
② 勢いのあった策定体制
  一般公募10人を含む15人体制の「自治基本条例をつくる会」と役場内に中堅職員10人で設置された「検討チーム」が1年以上にわたり議論。つくる会は15回52時間以上の白熱した議論、検討チームも16回開催されました。
  期間中、町民講座「びらとろん」を3回、シンポジュウムを1回、集いを2回開催し住民との協働を作り上げてきました。
③ 条例の特徴
  「情報の公開と共有」、「町民参加(住民との協働)」に重きを置き、第3セクターの経営と町財政との関係の情報公開や町職員の公益通報の保護などを入れ込み、2008年3月議会で決定、4月1日より施行されました。

2. 3回目の自治研レポート

(1) 知っているか知らないかアンケート(第1回目:2009年第32回北海道自治研)
① 自治基本条例施行3か月後のアンケート調査
  多くの議論の中で誕生した条例が本当に認知度があるのか、不安の中で職員227人(全員)、町民580人(有権者4,800人)に対して条例を「知っているか、知らないか」のアンケートを取りました。結果、認知度は職員68%、住民44%でした。
② 自治基本条例を自治研推進委員会としてテーマ化
  職員の3割が知らないと回答したことに私たちはショックでした。労働組合として「民主的な行政運営を積極的に推進する立場から、必要な研修会への参加や組織としての行政チェック機能を充分に果たしていく」ことを執行委員会で確認し、引き続き「自治基本条例」を活動テーマとして取り組むことを確認してきました。

(2) 2009年度「食育推進計画」の実践活動(第2回目:2010年第33回愛知自治研)
① 基本条例に沿った運営
  「食育」という聞きなれない言葉から、専門家による講演会を、一般町民を入れて開催することからスタートしました。現状把握のための関係者だけでなく一般含めてアンケート調査を実施(回収率60%)、計画内容も行政の押し付けではなく、委員会メンバーの思いやコメントを中心に作成し、素案をHPで公開「びらとろん2010」で説明、さらには関係機関に対する説明と意見交換会の実施を行うなど条例の基本方針に沿って策定しました。
② 実践で明らかになった課題
  委員会の公開開催は周知期間の関係で作業日程を長期的に計画管理が求められ、アンケートの結果公表には印刷経費の増加、参加しやすい体制で託児所の設置経費など人手・時間、経費不足が担当者の大きな悩みとなりました。
  公募委員に対する応募が2人であったことや、公開委員会に対して傍聴が8回の委員会で6人など、自治の主体としての住民側の不慣れも見受けられました。
③ 習うより、慣れろ
  この実践でわかったことは、「従前からの脱却・意識改革」と「繰り返し、繰り返し実践する」することでした。口先や頭で考えるより実践を繰り返していくことが自治基本条例を深化させていく方法であることがわかりました。

(3) 制定5年目のアンケート調査(2012年第34回兵庫自治研めざして)
① 2回目のアンケート実施
  条例制定5年目に入ることで、自治研レポート提出に向けて意識調査を実施しました。しかし、取り組みが遅れ前回調査と同じ媒体での実施ができませんでした。最低限の調査媒体として組合員108人を対象に実施、81人の回答があり回収率75%の結果でした。前回の回収率は78%、大きな差異は見られませんでした。
② スタートと何も変わらない意識
  今回の調査も、前回同様のスタイルで簡単に答えられるように問題を設定しました。基本的な質問の「条例を知っているか」の質問に、「知っている」65%(前回68%)「知らない」35%(前回32%)で、4年間で何も変わっていないことが明らかになりました。
③ 自分の仕事が変わったと感じている36%
  条例を知っている人に「自分の仕事が変わったか」を聞くと、「変わった」36%「変わらない」64%と回答。さらに変わったと回答した人に「何が変わったか」を訪ねると、多くの人が「説明責任が増えた」「情報の公開が増えた」と答え「住民との協働が増えた」と答えた人は「説明責任」「情報の公開」の半分以下でした。説明責任や情報の公開は、広報誌やホームページの活用や説明会の開催などで行いやすく、住民との協働と答えた人は少なく、意味合いが少し理解不足なのか面倒なのかは今回のアンケートでは不明でした。
④ 自分の仕事が変わらないと感じている64%
  自分の仕事が変わらないと答えた64%の人に「なぜ変わらないのか」を訪ねると、圧倒的に「条例の中身がよくわからない」「特に指示されることがない」と答え、中には「仕事が多すぎて手が回らない」と人員不足を訴える人もいました。仕事は勉強して覚えるが条例は勉強しない。仕事は特に指示されなくても与えられた範囲は無難にこなすが条例は指示がないから行わない。極端な言い方をすれば、「条例の実践は仕事でない」このような結果が出ました。
⑤ 周りの職場が変わったと感じている31%
  同じく条例を知っている人に「周りの職場が変わったか」を聞くと「変わった」31%「変わらない」69%と、④「自分の仕事」と大きな差異は現れませんでした。変わった内容としては、「説明会」「広報・ホームページ」「委員会等に公募委員」など「自分の仕事の回答」と同じような内容でした。
  これらのことは、前回のアンケートで条例への期待度で出された「情報の共有」「町民参加」とほぼ一致しており、期待されていたものは少しは達成されているようには見えます。しかし、その度合いは低く、期待された分野で一部の実行があった程度と考えられます。
⑥ レポートを諦めた話し合いから生まれたもの
  時間のない中、アンケートの実施・集計作業を行い、結果の数字を見ながら行った自治研推進委員会「自治基本条例」担当部会では、重苦しい空気の中、数字が報告され前回アンケートと変わらない結果に予想はしていたけれど、あらためて出された数字の職場実態に諦めムードが漂い「レポート提出断念」を真剣に議論しました。
  議論の中で、知らない理由に「入ったばかりで」と新人の回答に気づきました。教えていないものに「知ってるか」は無理な質問、と考え学習会の開催を思いつきました。さらに、採用時の宣誓に「自治基本条例に則り仕事をします」と入れるとか、転入者に「自治基本条例ガイドブックを配布する」などが出され、「あきらめないで、出来るところから」精神でレポートの作成を確認し合いました。

3. あきらめの中で生まれた学習会

(1) 新人学習会の開催
① 急遽開催された学習会
  レポートをまとめる中で同時進行的に学習会は開催されました。2012年度採用者だけでなく2008年度以降採用者12人を対象に開催、条例制定の中心的な仕事に携わった課長を講師に8人が参加し開催されました。部会のメンバーも参加しあらためて条例の必要性を感じ取ることができました。
  行政に携わって数か月の職員には、仕事も充分にわからない中での勉強会でしたが、条例に初めて触れる機会にはなりました。

(2) 提案「転入者に条例ハンドブック」の配布
① 「見て、触れて」条例ハンドブックの配布
  執行部より自治体当局に「自治基本条例を浸透させるためにも、転入者にハンドブックの配布を」と提案し、直ちに実行しました。部会が「ハンドブック(条例解説)」を印刷し、町民課窓口と協力し転入届を提出した者に配布を始めました。この成果は、直ちにはわかりませんが、まず見て、触れてからのスタートを切ることが出来ました。

(3) レポート提出は運動につながる
① レポートは現在進行形
  今までも、レポート作成の中から当局に「職員研修会の開催」などを提案してきましたが、自ら積極的に主催することはありませんでした。今回、労働組合がレポートの提出に行き詰まり、悩んだ末に考え出した事が、労働組合としての運動に、そして自治研活動のレポート提出につながっていきました。
  1回目・2回目のレポートも最後に「私たちの自治研活動は現在進行形です」と発表しました。今回も同様、現在進行中の活動報告です。結構、難しく考える単組が多い中、私たちのレポートは、常に動きながらの簡単な活動報告になります。

4. 小さなことからコツコツと 芽吹く条例の種

(1) 2011年度作成された「森林整備計画」から
① 委員の公募なし、委員会の公開
  2011年度の森林法の改正で市町村の森林整備計画の変更が余儀なくされ平取町においても「平取町森林整備計画」の変更作業が進められました。自治基本条例に則った計画策定が基本となるべきでしたが、北海道の助言の下、策定委員には北海道職員を多数入れることはできても公募の委員を入れることは出来ませんでした。これはスタート時点で大きな反省点となり、委員会の公開と委員会資料の公開で情報の共有を図ろうと努力しました。
  公開された委員会には、3回の委員会に11人の傍聴者が参加、委員会資料も開催後、直ちに大半がホームページで公開されました。
② 途中でのシンポジュウム開催と計画縦覧期間中の説明会の開催
  地域住民の声を少しでも反映しようと計画素案段階でシンポジュウムを開催。また、同時期に関係者(森林所有者)アンケートと一般アンケートを実施。シンポジュウムには102人が参加、関係者アンケートは75/179、一般アンケートはシンポジュウム参加者を中心に90人を集約することが出来ました。(2012年4月平取町人口:5,528人)
  計画案縦覧中には、3地区での説明会を実施し42人が参加、説明会で出された大事な意見は計画案に追記することが出来ました。計画案を縦覧した後で計画案に文言を追記することは、今までの当町での行政運営では考えられなかったことだと思います。

(2) 少しずつ変わる雰囲気
① 教育委員会が公開で傍聴を呼びかける
  今までは傍聴が可能でも積極的に周知していなかった教育委員会が今年度からホームページなどで公開開催を周知し傍聴を呼びかけ始めました。初回は、「0人」でしたがスタートすることに意義があると考えられます。さらに次のステップとして、全国では29番目、道内では初の教育委員の公募を行った函館市が目標になります。
② 見せかけの情報公開
  その一方で最近、ホームページなどを利用して「公募型プロポーザル方式」で事業の採択を行うケースが私たちの町でも行われるようになりました。しかし、不十分な情報公開で開始のみを公開し、選定結果などその後について何も行われない場合があり、「悪用」とまで決めつけられませんが不十分な活用が気になりだしました。誤解を招くような取り組みにならないよう、順序や結果公表、そして上辺だけでなく全体像の公開など、これからの行政には自治基本条例に沿った運営が確実に求められます。

(3) 出来ることから、小さなことからコツコツ積み上げる
① 「ニセコは一晩にして成らず」
  昨年9月に自治基本条例発祥の地「ニセコ町」をレポート作成のメンバーひとりが視察に行きました。迷ったら原点に返れ、という言葉のとおりうまく進まない平取町の自治基本条例を、どうしたらいいのかと悩み先頭を走るニセコ町に触れに行きました。そこでメンバーが感じたのは「とにかく頑張る」でした。条例制定までの苦労や制定後の苦労など半端なものでない頑張りにただ頭が下がる思いで帰ってきました。
  出来ることから、ひとつずつ、小さなことからコツコツと積み上げる。
足を止めない。
  当然のことではありますが、条例制定が到達点ではありません。条例の実践の中から民主的な町が生まれる。そこに地域住民の満足が生まれる。住民満足度が向上するのです。先輩ニセコ町はいい刺激になる町でした。

(4) 自治基本条例は必要だ
① 公平で公正、納得性を高めることが民主主義
  民主主義の学校といわれる地方自治で、そこに住む人々が求める地域とは「公平で公正な地域」であり「納得性を高められる行政運営」だと思います。そのツール(手段)として、自治基本条例は必要不可欠なものだと思います。補完する情報公開のツールとしてのファイリングシステムなども当然大事ですが、条例に基づく町づくりを「行政が主体」とか「住民が先導する」とかでなく、とにかく「みんなで愚直に頑張る」、それが自治基本条例を深化させる唯一の方法と考えます。
② 全道全国の条例をもつ自治体と話がしたい
  全国のいろいろな自治体では、先頭を走る者も周回遅れを走る者もいると思いますが、思いが同じであれば情報交換をして悩みを分かち合うことで、一歩前に進むことが出来そうな気がします。一昨年から北海道本部にその場の提供を呼びかけていますが「旬でない」ことを理由に取り上げようとしていません。確かに、この条例のレポートは少ない現状ですが、民主的な自治体を作り上げるうえで必要なものと理解できれば積極的に取り組むべきと考えます。

5. 追記「函館市と平取町の地域再生計画認定」内閣府

(1) 2012年6月30日北海道新聞(総合4面)におどろき
① 北海道新聞によると「内閣府は地域再世計画に函館市の雇用創出計画と平取町の産業振興計画を認定したと発表した。(中略)平取町の計画は、特産のトマトの栽培技術や、アイヌ民族の伝統的工芸技術を学ぶ講座を開き、地域再生を図る」と報道されました。(この原稿は6/30に書いている)
② 自治基本条例が本当に実践されていれば、この報道に職員(町民)である筆者も驚くこともありませんが、相も変わらず旧態依然の手法で行政が進められていることに、激しい憤りを感じました。今回のアンケートに基づくレポートの現状報告は、この報道に驚かざるを得ない職場実態に変更しなければならないほどの出来事でした。
  ですから、私たち労働組合の自治研活動はまだ続きます。