【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 全国的な自治体現業職員の合理化が進み、釧路市においても、定員適正化計画やアウトソーシング推進指針に基づき行財政改革が行われ、現業職場を重点職場とした職員の削減が進んでいます。大幅な削減によって、現業職場の仕事の幅が大きく変化し、これまで定義されていた単純労務の域を超える業務を担わざるを得ない職場が多くなっています。現業職員・現業職場の今後のあり方について、釧路市の取り組みを報告します。



現業職場における職種のあり方
──労務職場の一般職場化をめざして──

北海道本部/釧路市役所労働組合・組合専従 山口  透

1. 現業職場の職種のあり方の検討に至るまでの経過

(1) 2008年における検討委員会の設置と議論経過
① 検討委員会設置までの経緯
  釧路市当局は、2006年に「活力創生釧路市集中改革プラン」(以下「集中改革プラン」)を策定し、徹底的な内部管理経費の削減や事務事業の見直しなどにより財政難を乗り切ろうとしましたが、更なる財政悪化が見込まれる中、集中改革プランと一体になった「定員適正化計画」「アウトソーシング推進指針」に基づく行財政改革断行の方針を提示してきました。当局は、2008年度から2010年度までの現業職場における削減計画を示したものの、その内容は現業職員の退職動向を無視したものとなっており、2008年1月に開始した行革交渉の冒頭で、個別行革案の協議ではなく現業職場全体に対する議論が不可欠であることを申し入れ、釧路市における現業職場の将来へ向けた方向性について結論を出すことを合意し、2008年5月に「現業職場のあり方検討委員会」(以下「2008年検討委員会」)を設置しました。
② 検討委員会設置と議論経過
  2008年検討委員会は、当局側からは職員監をはじめ任命権者ごとの交渉当事者である課長級を、労組側からは市労連(釧路市役所労働組合・釧路水道労組)4役に加え関係職場代表者を選出しスタートしました。会議では、今後10年スパンでの現業職場の全体的な方向性を確立するとともに、清掃、給食、学校、動物園、道路、下水道など個別業務のあり方について結論付けることを目的とし、当局案をベースとして、将来にわたり直営とすべき業務か、外部化すべき業務かといった方向性をめぐり検討が進められました。課題の検討にあたっては、「現業職場のすべての業務内容を再点検し、労使双方が業務実態に関し共通認識に立った上で結論を出すべき」との労組側の主張に沿って進められる形となり、12回にわたる協議を重ね、一定の整理が図られました。

(2) 検討結果と明らかになった課題
① 検討結果
  2008年検討委員会の確認事項(抜粋)は、次のとおりです。
 ア 個別業務の検証により、多くの業務において現業職場が単純労務のみからの構成とはなっていないことが確認され、今後も現状の業務内容をベースとし、業務ごとに直営か委託かの判断をする。
 イ コストの視点だけにとらわれることなく、安全・安心という観点からも判断する。
 ウ 未曽有の財政危機からの脱却という至上命題がありながらも、現業職場で業務を遂行している職員の退職までの雇用確保を第一義とし、直営で業務をするもの、民間に委託するものの見極めを行う。
  以上を踏まえ、直営とする業務及びアウトソーシングとする業務を、次のとおり整理しました。


直営とする業務
アウトソーシングとする業務
行政的な判断要素を含んだ業務 清掃指導業務 ・ごみ・資源物の排出指導及び啓蒙業務
・ごみ・資源物の住民苦情処理業務
・不法投棄の防止及び強化対策業務
段階的に委託化が図られ、全面委託化になっても実施可能な業務 電話交換業務
福祉バス運転業務
病院電話交換業務
 
専門的な知識を有する業務 動物園飼育業務 ・給餌及び給餌計画に関する業務
・動物の健康管理に関する業務
・動物の飼育計画及び繁殖計画に関する業務
・動物に関する教育普及・啓発に関する業務
既に委託化の実績があり、受入れ業者も確保可能な業務 ごみ収集業務
除雪業務
・ふれあい収集については、現状の業務内容では委託になじまないため直営とするが、状況変化によっては再度検討する。また、小型収集については、苦情対応業務との兼ね合いを引き続き検討する(ごみ収集業務)
・2008年度の受入れ業者の業務実態等を検証する(除雪業務)
災害時等の緊急対応が求められる業務 道路補修業務
下水道管理業務
・災害時における住民の安全確保の初期対応業務
・早期復旧に向けた迅速な初期対応業務
他都市でも委託化が推進されている業務 学校給食業務 ・職員の雇用確保の観点などにより、小学校給食センター業務については、当面の間(少なくとも10年)直営とし、その後に再検討を要する業務とする
迅速性が求められる業務 車両運転業務 ・市長公用車としての迅速性及び機密性の確保が求められる業務 既に段階的な減員が確認事項となっている業務 病院営繕業務  
施設が当面は直営として運営され、且つ法的な規定がある業務 保育園給食業務
療育センター給食業務
・法により施設内で給食を調理しなければならないと規定される業務
業務実態などから別途整理が必要な業務
・業務実態から委託化というよりは直営の方が必然的であるが、現状の運転手が担う業務であるか否かの判断が別途必要である
道路パトロール業務(道路河川課)、救急車両運転業務(社会福祉課)
現状の業務形態から外部化が馴染まない業務 学校用務員業務
学校公務補業務
学校事務補業務
看護補助業務
・学校での業務として児童生徒の安全確保が要求される業務
・現状も正職員と臨時職員との共存のなかで効率的な業務展開が図られているもの

② 今後に向け明らかになった課題
  2008年検討委員会のまとめでは、今後とも労使双方による協議を続けていく必要があるいくつかの課題が明確化されました。中でも、将来、現業職員が不足する時期には、採用職種は別として職員を採用するとともに、現業職場の業務内容を再精査し、職種の変更も視野に入れた整理の必要性を明らかにしたところです。

2. 現業職場の職種のあり方の見直し

(1) 現業職場の職種のあり方検討委員会設置
① 新たな検討の場を設置
  現業職場の業務内容を再精査し、職種の変更も視野に入れた整理を図ることを目的として、2011年7月に「現業職場の職種のあり方検討委員会」(以下「2011年検討委員会」)を設置しました。これは、2008年検討委員会のまとめにおいて継続協議の必要性が提起されたことに基づくものですが、その背景としては、現業職場の業務が必ずしも単純労務だけで構成されていないことが明らかになったという要因に加え、国が地方自治体に対し、現業と同種の民間労働者に準じた給与水準の設定を促す動きを活発化させていることに鑑み、釧路市当局としては、現業総体の規模縮小を優先課題と捉えていたという、もう1つの要因がありました。
② 協議方法
  2008年検討委員会と同様、当局側は任命権者ごとの交渉当事者が中心となり、労組側は、市労連(釧路市役所労働組合・釧水労)4役及び該当職場代表者により会議を構成しました。

(2) 具体的協議内容
① 現業の範囲の整理
  2011年検討委員会では、今後も直営として維持するとした現業職場のうち、現行の業務内容を変更(拡大)することなく一般職の範疇であると認められるものを一般職場とし、これらに該当しない職場については、今後段階的に事務的又は技術的要素の業務を付加することによって一般職場化を推進するという方向性の案が当局側より示されました。これらの詳細は、別図「現業職場における職種の整理に関する概念(素案)①②③」(以下「当局案」)のとおりです。


現業職場における職種の整理に関する概念(素案) ①

現業職場における職種の整理に関する概念(素案) ②

現業職場における職種の整理に関する概念(素案) ③

② 人事管理上の考え方
 ア 当局案により「一般職場B」に位置付けられることとなる現在の現業職場では、現行の業務内容を変更しないことから、労務職として採用された職員本人の意向に関係なく配置が行われます。
 イ 労務職として採用された職員が、上記アにより「一般職場B」に配置された以後において、本人の意に反し「一般職場A」へ配置されることはありません。
 ウ 一般職として採用された職員は、職員本人の意向に関係なく「一般職場A」又は「一般職場B」への配置が行われます。
職  場
業務の性格
動物園管理飼育展示担当
       ツル担当
専門的な知識を有する業務
道路維持事業所
下水道管理課
災害時等の緊急対応が必要な業務
環境事業課指導担当 行政的な判断要素を含んだ業務
③ 労務職場から一般職場へ移行する職場
  現行の業務内容を変更することなく、労務職場から一般職場へ移行する職場及びその理由については、2008年検討委員会の検討結果を踏まえ、右表のとお りとなります。
④ 総合職採用試験の実施
  当局案では、現業職場の職種の整理とあわせて職員採用試験に係る実施方法の変更案も示されました。
  これまで釧路市が実施している職員の採用方法は、大きく「一般職(事務・技術)」「労務職」「消防職」の3区分でしたが、2012年度採用者からは「総合職」と「消防職」の2区分とするという内容です。これは、今後、釧路市においては順次現業職場の一般職場化を検討することから、職員を労務職に限定して採用した場合、人事管理上の制約を残すこととなることなどが理由として説明されました。

(3) 2011年検討委員会の議論経過
 上記2.(2)が当初の当局案です。基本的に労使双方が、今後も直営とすべきとした現業職場をいかに維持するべきかというスタンスに立っていることから、当局側が提示した概念を基本に、制度上の矛盾や現業職場全体の公平性の観点などからの修正点を点検することを主眼として検討委員会に臨みました。
 6回にわたる開催ごとの議事概要と論点は、次のとおりです。
① 第1回検討委員会
  当局案の説明を受け、この中で、総合職採用試験の実施に関し、試験日などのスケジュールを勘案し、当局責任において当該事務的手続きを先行させたい旨の申し出があったところでありますが、そのことが会議における主要課題の議論の幅を狭めることへの懸念を指摘し、議論の方向性に制約が課されない公正な協議の場を保証することを当局側に確認させました。
② 第2回検討委員会
  当局側が、現業の範囲を整理する理由の1つとして挙げている現業給与水準の見直しを促す国の動向に関し、具体的な通知や調査の実態を提示することを求め、次回の会議において資料の提出と説明を受けました。
  また、現行の現業業務に事務的又は技術的な要素を付加することにより一般職場化を検討した結果、それが不可能と判断された職場についての当局側の考えを質したところ、現業独自の給料表を導入しないという労使の確認を尊重するためには、更なるアウトソーシングや嘱託職員化、臨時職員化への転換なども考えなければならないという姿勢が示されました。
③ 第3回検討委員会
  第2回検討委員会が終了した時点で関係職場ごとに集会を開催し今後の方向性を確認したところ、基本的に当局案に対する反対意見はなかったものの、一般職場化が難しいと思われる職場からの不安の声が聞かれたほか、当局案の「一般職場B」には一般職採用職員、労務職採用職員、総合職採用職員が混在することとなるにもかかわらず、労務職採用職員の昇任のみが主任職にとどまることに関する制度的矛盾が指摘され、さらに、「一般職場A」と「一般職場B」が混在する職場の混乱も予測されることから、それを回避するための技術的措置を求める意見が寄せられ、第3回検討委員会では、主にこれら3点の是正が必要であることを主張しました。
④ 第4回検討委員会
  前回の課題3点のうち、「一般職場A」と「一般職場B」が混在する職場の混乱回避のための発令上の工夫(内容は省略)について是正案が示され、その他の2点の課題については、次回へ結論を持ち越しました。
⑤ 第5回検討委員会
  結論を持ち越していた一般職場化が難しいと思われる職場への対応策と「一般職場B」における昇任矛盾の解消について是正案が示され(内容は、後述の(4)検討結果を参照)、検討委員会全体がこれを了承しました。
⑥ 第6回検討委員会(中間報告)
  これまで5回にわたる検討結果を報告書としてまとめることとし、引き続き、次年度以降においても検討すべき課題があることが確認されたことから、この報告書の取扱いを「中間報告」として整理することとしました。

(4) 検討結果
 2011年検討委員会の「中間報告」の概要は、次のとおりです。
① 2008年検討委員会の報告書により今後も直営として維持するとした職場のうち、現行の業務内容を変更(拡大)することなく一般職の範疇であると判断できる労務職場(環境事業課指導担当、道路維持事業所、動物園、下水道管理課)については一般職場とする。これにより、一般職場へ移行する労務職場を「一般職場B」、それ以外を「労務職場」とする。なお、従来の一般職場は「一般職場A」とする。(制度の概念は、当局案①②③のとおり)
② 職制については、労務職採用職員についても主査職までの登用を可能とし、「一般職場B」の労務職採用職員における職名を「主査」、労務職場における職名を「業務(技能)主査」とする。(下図参照)
③ 「一般職場B」のみの異動に限定される可能性があることに承諾した職員は、「一般職場B」において専門員(係長相当職)以上に登用される可能性がある。ただし、採用区分は労務職のままとする。(下図参照)
④ 2012年度以降の職員採用試験の区分は、「一般職採用試験」と「労務職採用試験」を統合し「総合職採用試験」とする当局決定に伴い、今後、総合職試験で採用される職員は、配置先によって一般職か労務職(「一般職場A」又は「一般職場B」に配置された場合は一般職、「労務職場」に配置された場合は労務職)となる。(下図参照)
⑤ この検討委員会は次年度も継続することとし、「労務職場」と位置付けられた業務(廃棄物収集、調理業務、用務員、事務補等)について、一般職場化への可能性を検討することとする。

3. おわりに

 経済が低迷すると、安定した公務職場に対する批判が増大し、公務員改革を謳い文句に政治をはじめ社会全体が公務員労働者攻撃を強めます。この間、現場では再三にわたる合理化が進み、多くの職場が廃止、外部化されてきました。現業職員だけではなく、事務・技術職員も合理化の対象となり人員が減る一方で、仕事量は減っていないのが現実です。結果、事務職や技術職が担ってきた仕事の一部を労務職が必然と担わざるを得ないようになりました。全国的にもこういった状況が増えているのではないのでしょうか。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、自治体職員を含む多くの国民が犠牲となりました。被災した自治体では、合理化によって現業職員が不在となっているところも多く、瓦礫を処理するパッカー車、グレーダー、ダンプなどの機械はもとより、災害監視パトロールなどの車両を動かす職員すらいないなど、自治体が住民を守るための初動体制が欠落していたと言わざるを得ません。民間委託化後の実態は、元請・下請け・孫請けの関係で仕事が行われているのが実態であり、初動が遅れることは明らかで、また、日常から住民の命を守るという使命感の要求されない民間企業に果たして災害対策を任せられるのでしょうか。組合としては、地公法第57条の規定廃止に向けた取り組みと賃金に新たな差別を持ち込む「行二表」を導入させない取り組みに重点を置きながらも、真の住民自治を維持するためには、現業職場を守ることが重要であり、この間の働き方、働かされ方を議論する中から、単純労務の枠を超えた仕事を行っている実態を明らかにし、合理化が進んだ現在の現業職場をベースにした一般職場化と、一般職場化の推進による新規採用職員の配置を図ることが必要と判断し、これからもこの取り組みを進めていきます。