【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 本レポートでは、北見農業試験場の独立行政法人移行後の問題点を提言する。北見農業試験場の組合員に意識調査を行い、意見を集約した。数多くの問題点が浮き彫りになり、主な意見として、①効率化係数による削減や試験場の統廃合の不当性、②新規採用抑制の問題、について多数挙げられた。将来に対する不安感、閉塞感が本調査の中で明らかに示され、希望を持てない職場になりつつあることが推察された。



北見農業試験場の独立行政法人移行後の問題点


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・網走総支部・北見農試支部・北海道立総合研究機構・
作物育種グループ 足利 和紀

1. はじめに

 北見農業試験場は、麦類、馬鈴しょ、てんさい、たまねぎ、牧草、飼料作物等の多種多様な作物について品種改良および栽培技術に関する試験研究を行っている。明治40年(1907年)に北海道庁立地方農事試験場北見分場として設立され、平成19年(2007年)に創立100周年を迎え、現在105年目となる研究機関である。農林水産省所管の北海道農業研究センターが主に学術的および基礎的研究を行うのに対し、道立農業試験場は現場即応型の応用研究を中心に行ってきており、様々な成果を現場へ普及してきている。これまでの成果の内、品種改良に関するものを例示すれば、小麦では日本麺用の秋まき小麦「ホクシン」、「きたほなみ」、パン用の春まき小麦「ハルユタカ」、「はるきらり」、馬鈴しょでは生食用の「スノーマーチ」、たまねぎでは「さらり」等の優良品種を育成し、北海道農業の畑作および園芸分野の安定生産に貢献してきている。また、酪農および畜産に関しても、チモシーで「ノサップ」、「キリタップ」等の早晩性の異なる優良品種を育成し、安定した飼料収穫に貢献してきている。日本の食糧自給率は主要先進国の中でも最も低い40%(カロリーベース)にすぎず、近年深刻化している穀物価格の高騰に対する影響から、その脆弱な体質は国際情勢に大きく翻弄されることが現実のものとなっており、日本の食糧基地である北海道の農業の発展のために継続した試験研究の推進が求められている。


2. 北見農業試験場の地方独立行政法人への移行

 国、地方を問わず行政改革が進められている中で、北海道においても道立試験研究22機関の一括化が進められ、北海道立総合研究機構(以下、道総研)へと統合された。北見農業試験場は、平成22年(2010年)4月から地方独立行政法人へ移行した。道から派遣される総務部門の職員や農業改良普及指導員を除いて、職員は全て公務員ではなくなり、団体職員という身分へ移行した。


3. 現在における組合員の意識調査

 このような中で、独立行政法人移行後に様々な問題点が浮き彫りになってきているが、その問題を抽出すべく組合員に対して意識調査を行い、18人の意見を集約することができた。その内訳は、20代1人、30代5人、40代10人、50代2人である。
 本意識調査において、最も特筆すべきは、現在の道総研に希望を持てるか? との問いに、はい、と答えた方は僅か2人で、いいえ、が大勢を占めたことである(図1)。希望を持てない理由の中には、「研究に専念できる環境ではない(資金面、雇用面、研究環境)。」、「人が減って自由度が無くなり、予備試験もできない状態にある。追われる仕事では良い結果が生まれないから。」、「上部の方達の話を聞くと予算削減ばかりで、職員の働きやすい環境整備をするといってもほとんど何もしていないため。」、等の意見が挙がった。他にも多くの意見があるが、かなり抑圧され、フラストレーションの溜まる中で、職員が勤務していることが推察された。現行の大きな問題点としては、効率化係数による法人への運営交付金の削減があるが、それに対する意見として、「近年の事業規模約160億円の内、運営交付金が140億円、剰余金が9億円で、単純に1%削減されると10年もたたずに赤字になる。これでよいのか?」、「一律に削減されるのは納得できない。公的機関が損得を考えずに取り組むべき研究がある。」、「運営交付金が削減されると非効率化するので、なぜ効率化なのか、意味がわからない。」、等の意見があった。また、それに関連して(当然のことながら)試験場の統廃合が近い将来に予想されるが、それに対しては、「一人当たりの給与は基本的に上がり続けるので、統廃合で体制維持ができるとは思えない。」、「統廃合の場合には内部、外部の両方から見て、本当に必要な分野は現状維持で残すべき。」、「専門性が失われ、マスコミアピールに走り、気がつけば本当に必要とする人から見放される。」、等の意見があった。一方で、「今の北海道の財政状況を考えれば、統廃合はやむを得ないと思う。しかし、その時はむやみに行うのではなく、目的と以降の仕事の継続が可能かどうか等を熟考した上で実施すべき。」、等の統廃合もやむを得ないとする意見もあった。この問題には、TPP問題も絡み、より複雑さを増す。なぜなら、TPPに加盟することで、例えば小麦やてんさい、酪農製品等で大幅な減産が見込まれるためである。「選択と集中」の流れの中で、実際そうなった場合に、ある作物に焦点を当てて人とお金を集めたが、現場ではもう求められない研究分野となっている可能性も考えられる。ただ、逆の意見としては、「独法になったのだから仕方ない、求められる部分、外部資金をとれる部門のみ残せば良い」、という意見もあった。


図1 現在の道総研に希望を持てるか? に対する答え

 研究職員や農業技能員の新規採用が抑制されていることに対しては、「就労可能な人材が不足している中で、派遣や契約職員での採用は難しく、人材を育てながら就労させる直接雇用の必要性が強い。」、「若い人が入ってこないので、組織として停滞している。」、「若い人を入れなければ、組織の未来は無いと思う。再雇用制度を中止してでも、もっと多く若い人を雇用すべき。」、「研究成果を出すのは予算もさることながら、人材によるところが非常に大きいと思われる。人材の確保、育成は最重要な課題と考えるべきである。」、「農業技能職では、技術継承の面で、何としても採用してもらわないと困る。再任用では技術は引き継がれない。」、「研究職では、修士以上をとりやめ、学士(大卒)で可とするべき。」、等の意見があり、若い職員の新規採用が抑制されていることへの将来に対する不安感、閉塞感が多くの意見を占めていた。新規採用で本場に配属になった事例は、近年では2004年に3人、2005年に2人配属されたきり、全く採用されておらず、今後も見込みがあまり無い状況である。現在、本場の20代の研究職員は僅か1人のみで、道総研全体として言えることであるが、明らかに全体の年齢構成に大きな問題が生じている。かなり刺激的な意見としては、「早期退職を45から40にして促し、再雇用の勤務先を普及センター等の道へも探ってでも、新規採用を進めた方が良い。」、という意見もあった。さらに、総務部門の職員が減り、道総研のプロパー職員への事務負担が増加している状況で、その負担量がどう変わったか、という問いに対して、事務仕事が増えているという答えが大勢を占める結果が得られた(図2)。この結果は、人員が減っている状況の中で事務負担が職員の肩に重く伸し掛っていることを表している。また、その他の問題点としては、「公務員ではないのに、何でも道準拠になる点。」、「公務員と比べて、信頼度が落ちた。」、「長期的に人材を育成する視点に欠ける。道のルールにとらわれているので、機動性を失わせている。各規定等に道のルールにとらわれない大ナタを入れた方が良い。」、「何でも道準拠にするならば、法人化した意味が無い。」、という意見があった。


図2 総務職員が減り、プロパー職員への事務負担がどのように変化したか? に対する答え
注)3人は回答無し

 これらのことも含め、図1のように、希望を持てない、と答える方が多いのだろうと考えられる。希望を持てないのは、職場内だけの問題ではなく、混迷を深める社会情勢も少なからず影響しているとは思われるが、北見農業試験場が健全な状態ではないことが、本意識調査の中で浮き彫りになった。このことに関連して、今後も道総研に長く勤務し続けたいか、という問いに対しては、はいが2人、わからないが2人、いいえが14人と転職も視野に入れている方が多いことがわかった(図3)。転職すること自体はネガティブなものではないと思うが、この数の多さは、それだけ本職場に魅力や希望、将来性を持てなくなっていることを如実に表していると考えられる。実際に転職する職員も他試験場では出てきており、今後も状況が改善されないと、人材の流出が増えていくことが予想される。


図3 今後も道総研に長く勤務し続けたいと思うか? に対する答え

4. おわりに

 今まで述べたように、明らかに問題点は多い状況であるが、いずれも効果的な解決策は見つからない。人員は減る一方で、仕事は減少するわけではなく、余裕が生まれることは無い状況である。先が見えない情勢の中で、誰しもが悩まされているのではないだろうか。しかし、短い集約期間であったにも関わらず多くの意見(紹介したのは一部の意見にすぎない)が寄せられたのは、逆説的に言えば、それだけこのテーマについて関心が強く、切実で、さらに何とか解決策を見つけるべく職員それぞれが考えているということを表しているとも考えられる。最後に、本意識調査の中で、最も印象的であった意見を記載して結びとしたい。「若い職員が極めて少なく、外部から見ても将来性の無い法人と見えるのではないか? 資金は減り、人材は補われない職場に希望などあるはずがない」。