【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 東日本大震災から1年余りが過ぎ、今、被災自治体では復興・再生に向け動き始めています。千葉県においても液状化や地震による家屋の倒壊により、地域がさま変わりしました。
 これまで地域で大切に守られてきた町並み「香取市の観光復興」に向けた、現業組合員の現場力と地域活動団体との協働活動をレポートします。



東日本大震災からの復興・再生への取り組み
~生きる町並みの復興を願って~

千葉県本部/県現業評議会

1. はじめに(香取市の概要・被害状況)

 香取市は、千葉県の北東部に位置し、北部は茨城県と接しています。東京から70km圏にあり、世界への玄関、成田空港から15km圏に位置しています。2006年、香取市へ旧佐原市・栗源町・小見川町・山田町の1市3町が合併し、現在の「香取市」となりました。人口は83,194人(2012年4月)、面積262.31平方㎞です。
 北部には水郷の風情が漂う利根川が東西に流れ、その流域には水田地帯が広がり、南部は山林と畑を中心とした平坦地で北総台地の一角を占めています。
 日本の原風景を感じさせる田園・里山や、水郷筑波国定公園に位置する利根川周辺の自然景観をはじめ、東国三社の一つ「香取神宮」、舟運で栄えた佐原のまちには日本で初めて実測日本地図を作成した「伊能忠敬」の旧宅(国史跡)、江戸時代から昭和初期に建てられた商家や土蔵が現在もその姿を残し、関東地方で初めて「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されるなど、香取市は水と緑に囲まれ、自然・歴史・文化に彩られたまちです。
 行事も年間を通して盛んに行われ、4月には城山公園や佐原公園を初めとする市内各所に桜が咲き誇り、6月には東洋一の規模を誇る水郷佐原水生植物園において、400品種150万本の花菖蒲が色とりどりに咲き誇ります。  夏(7月)と秋(10月)には佐原囃子の調べに乗って山車が市内を曳き廻される、勇壮絢爛な「佐原の大祭」(国指定重要無形民俗文化財)が盛大に開催されるほか、関東でも有数の歴史と規模を誇る「水郷おみがわ花火大会」や黒部川での水上スポーツも盛んです。産業面では温暖な気候と肥沃な農地に恵まれ、首都圏の食糧生産地の役割を担っています。古くから水郷の早場米産地として知られる「米どころ」です。
【重要伝統的建造物群の町並み】 【水郷の町佐原を代表する花菖蒲】

【勇壮絢爛な佐倉の大祭】 【夏の夜を彩る水郷おみがわ花火大会】

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、東北3県と比較すれば千葉県の被害は小規模でしたが、津波被害では外房地域、液状化被害では浦安・習志野・千葉市の東京湾沿岸部,内陸部の香取市・神崎町がそれぞれ大きな被害を受けました。
 特に香取市(旧佐原地区)では、市街地を中心として地震による家屋の倒壊や液状化による道路損壊・上下水道の断水・下水道の使用制限など多大な被害を受け、街並みは一変してしまいました。
 また、「観光の町・佐原」における観光収益の激減、またメインストリートである「小野川沿い」や「香取街道沿い」の重要伝統的建造物も倒壊の被害を受けました。
【震災により倒壊した家屋】 【液状化により水没した幹線道路】

東日本大震災による千葉県内の被害状況           
【人的被害】 ○死  者 20人 ○行方不明 2人 ○負傷者 251人
【建物被害】 ○全  壊 798棟 ○半  壊 9,923棟 ○一部破損 46,828棟
       ○床上浸水 154棟 ○床下浸水 722棟  ○建物火災   15件
香取市の被害状況
       ○建物全壊 95棟 ○建物半壊 2,197棟 ○断水 19,800戸
2012年3月1日現在 千葉県防災危機管理監防災危機管理課調べより

2. 現業組合員の東日本大震災ボランティア活動と地域団体との連携

 東日本大震災発生後、千葉県現業評議会では、ボランティア活動への積極的参加を決定し、すぐさま東北地方(福島県)での支援活動を行いました。福島県を始めとした人的支援活動の計画が一区切りしたことにより、地元千葉県における災害の状況などの情報収集のため被災単組訪問を実施し、あらためて現場のすさまじき光景を目にしました。千葉県も被災地という現状を再認識するとともに、県現業評議会でも地元千葉にてどの様な支援行動ができないか幹事会をはじめとして検討を行いました。「震災から時間が経ち、被災地の住民は何を望んでいるのか。今現在、困っている住民はだれなのか、どのくらいなのか。住民との間で一番近くにいる自治体職員(現業職員)の多様な職種と行動力・現場力を生かす取り組みをしてはどうか。」など議論を重ね、地域団体との連携による復興支援活動を基本とした取り組みを開始することとしました。県現業評議会では、支援自治体として、県内被災地の中で、「被害が大きく、支援ボランティア等があまり入っていない。また、住民や地域団体が復興に向け活動している。」などの理由から、支援先を「香取市」に決定するとともに、あらためて被災単組である香取市職員組合や観光誘致活動・福祉活動など行い香取市を盛り上げる活動している「佐原おかみさん会」と意見交換を行い、香取市(佐原の町)の復興の手助けをすることとしました。
【佐原おかみさん会】
 佐原の重要伝統的建造物は、昔からの家業を引き継いで今も営業を続けている商家が多く、「生きている町並み」として訪れる人々を魅了してきました。
 「佐原おかみさん会」は、佐原を大切に思っている女性の集まりです。他の地域から来たお嫁さんや、佐原生まれ、佐原育ちの女性などが、このまちの良さを見直し、もっとたくさんの人々に知ってもらおうと立ち上がりました。
 単なる「観光地」ではなく、「人が人を惹きつける町」としての佐原の町づくりに活動されています。

【発会から8年を迎え、おもてなしの心で香取市を盛り上げる活動している「佐原おかみさん会」】

3. 地域イベントなどを通じた交流を始めとして

 県現業評議会では、これまで住民とともに活動できるイベント(市民まつり、給食フェステバル、地域清掃)などへ積極的に取り組んできたところです。
 しかし、今回の復興支援活動は従来の活動と大きく異なるとともに、被災地住民は気持ちが沈み元気がなく、また、今までイベントに参加していた団体の東北地域への支援派遣など、多くの課題がありました。「おかみさん会」との意見交換では、自治体職員(現業職員)の多様な職種と行動力・現場力を生かしながら復興支援の行える場所・内容を話し合い、手始めとして「おかみさん会」の会員の商店「福新呉服店(有形文化財)」の蔵出し作業と、「おかみさん会」が主催する祭事「盆ふぇすた」への支援活動をすることとしました。被災家屋の後片付け・イベントでは多くの人手が求められている中、私たちの組織力・普段の仕事がそのまま活用され大きな即戦力となりました。特に同様に支援活動に参加されている団体の方々から、「公務員のイメージが変わった。」、「勇気と活力を頂いた。」と言われたところです。
 今回の復興支援活動を通じて、①地域の中における「町並みの保存」の重要性、②地域活性化に向けた観光の推進、③地震による家屋の倒壊と液状化被害によるインフラ整備等が大きな課題が明らかになりました。
 被災地支援事業は、これで終わったわけではなく、今始まったばかりです。引き続き、「町並み・観光復興」に向けたイベントサポート・蔵入れ作業など、息の長い支援活動を行い、復旧・再生に向け取り組んでいきます。

(1) 県重要文化財家屋の 「蔵出し」作業
 小野川沿いや香取街道沿いの商店には、重要伝統的建造物である国指定史跡の伊能忠敬旧宅をはじめとした、県指定文化財が軒をつらねています。(8軒13棟)そのひとつ、「福新呉服店」が所有する県指定有形文化財の土蔵では、震災により瓦の落下、土壁の崩落などの大きな被災をうけました。土蔵を修復する為には、蔵の中にある年代物のタンスなど大きな家財具が多く保管されているため、それらを整理し一時移動する「蔵出し」を「佐原おかみさん会」からの要請を受け行いました。
【蔵出し作業に取り組む現業職員の仲間たち】

(2) 8月15日に行われる「盆ふぇすたin佐原」へのサポート実施
 佐原では年中行事として多くの祭事を開催しています。その中でも「盆ふぇすたin佐原2011」は、「佐原おかみさん会」が主催する祭事であり、「観光の町佐原」の復興のシンボルとして地域住民の沈んだ心を盛り上げることができる「再生・復興」のための重要なイベントとなりました。県現業評議会では、日ごろの公共サービス業務で培った技術、営繕などの経験を生かし、「盆ふぇすたin佐原2011」の準備から当日の開催サポートを行いました。
【瓦のオブジェ】
 震災で落ちた瓦は、落ちることによって住民の財産・家屋そして命を守りました。この歴史を刻んだ尊い瓦に、支援活動参加者からメッセージを書いてもらい、オブジェとして展示しました。(瓦の保管場所からの運び出し、洗浄、ドリルにて穴を開けての展示)
【灯り小路の警備・キャンドルナイトの設置】
 情緒豊かな小路にキャンドルを設置し、灯り(火)の管理とイベント参加者の誘導・警備を行うとともに、「観光の町佐原」の復興にかける、みんなの夢や願いイメージとしたキャンドルオブジェを作成しました。
【夢灯ろう流し】
 夏の涼を楽しむイベントとして小野川のライトアップを行うとともに、現評職員も組み立てに参加した灯ろうが流れる様はとても幻想的な雰囲気です。
【炊き出し・揚げパンの提供】
 今後の被災地支援活動への震災実習を兼ねた、炊き出し活動を実施するとともに、普段学校給食を作っている調理員による、お祭り会場での「揚げパン」づくりの実施。イベント参加者に提供するとともに、震災カンパを行い、参加者からの善意のすべてを、今後の活動資金として「佐原おかみさん会」に寄付しました。
【瓦のオブジェ】 【キャンドルナイトの設置】 【夢灯ろう流し】
【震災実習を兼ねた、炊き出し活動】

(3) 幸運のお守り瓦」の販売
 「佐原おかみさん会」が作製した、地震に遭いながらも屋根から落ちなかった瓦を小さな巾着袋に入れた「幸運のお守り瓦」を、メーデー等の組合行事などで販売しました。


4. 地域団体と共に歩む「町並みの復興」に向けて

 今回、東北地域を始めとして発生した東日本大震災は、私達の住む千葉県にも甚大な被害を与えましたが、各被災地にはその被害から立ち上がり復興へと必死にがんばっている人々・町の姿が見られました。
 今までは、自分達の職場や近隣での出来事への取り組みだけでありました。今回の活動で、自ら地域に出かけ、地域住民と一緒に活動することにより、公共業務に携わる職員への「期待される実感」「地域での役割」をあらためて実感したところです。
 香取市(佐原地区)での私達の復興支援活動は、そのほんの少しを手助けしたにすぎません。自分たちの力で、自分たちの地域を盛り上げることが出来るようになった時が、支援活動の終りと感じています。
 今後も「佐原おかみさん会」を見守り、香取市を応援し千葉県を元気にすることが日本全体の活力へと繋がっていくよう、千葉県現業評議会は公共サービスで養った経験と技術を生かし、今後も復興支援活動を行っていきます。
【佐原おかみさん会より、支援活動への感謝の寄せ書きを受け取る松本現業評議会議長】