【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 2010年に児童養護施設の調理員が活性化の取り組み「現場からの提案・企画施設調理員の取り組み」を発表しました。その後の、改善と今後に向けた課題を検証し、レポートにまとめました。



改善は続くよどこまでも
現場からの提案・企画 施設調理員の取り組み その後

愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・民生支部 三住 正明・後藤 喜一

1. はじめに

 名古屋市若葉寮は乳児院(定員15人)と児童養護施設(定員29人校就学前までの児童を対象)の児童福祉法に基づく乳児院と児童養護施設を一体とした施設で、家庭において養育困難な乳幼児を入所させて、これを養育・養護することを目的とした複合施設です。1965年4月に現在地である尾張旭市に移ってから47年余が経過しました。建物の老朽化が進み、数年後に児童養護施設ひばり荘(18歳までの施設)との統合計画があります。
 今回のテーマ「改善は続くよどこまでも」は厚生労働省の「児童福祉施設における食事の提供及び栄養管理に関する考え方」でPDCAサイクルPlan(計画)-Do(実施)-Cheek(評価)-Action(改善)を踏まえた食事の提供の解説で栄養管理を進めるためには、施設利用者のために施設全体(職種に関係なく)で取り組むことが必要不可欠であり、そのためには「管理栄養士といった栄養の専門職のみでなく、様々な職種で連携することが必要である」とあるように、これらを踏まえて現場の調理員から提案・企画したことを検証し、改善できたことを報告します。


2. 若葉寮調理員の主な業務内容とこれまでの取り組み

(1) 調理業務
 ・食材の検品(栄養士不在時)、保管、数量調整在庫管理(栄養士と連携)
 ・1日3食(朝昼夕)幼稚園児の弁当、行事食の企画・提案、クッキングの企画・提案 

(2) アレルギー食・宗教食・障害児への食事の対応 
 ・アレルギー児に代替え食、除去食の提供、障害のある子どもなど嚥下食の対応

(3) 厨房内の点検・清掃
 ・厨房内の清掃 (毎日、季節ごと)・厨房設備の点検、清掃(毎日、季節ごと)

(4) 献立、調理方法の検討 
 ・新たな食材の活用法、新メニューの開発・提案 (栄養士と連携)
 ・食育などの提案、企画 (栄養士と連携)
 ・検食簿、保育士の声などを反映し調理法を改善 (栄養士と連携)
 ・給食委員会(年間6回)で、保育士から意見集約 (栄養士と連携)
 ・体調不良の子どもには、お粥やうどんを提供 (栄養士・保育士と連携)

(5) 研修の参画
 ・愛知県乳児院協会(調理員部会会長を兼務)などに参加し、他の乳児院と意見交換、調理実習の企画・提案
 ・衛生管理や食育推進の研修に参加

(6) 防災の参画 
 ・災害時の献立作成、立案 (栄養士と連携)


3. 進行中の年間行事スケジュール

 前回の自治研でも紹介しましたが、その後さらに練り上げられた行事スケジュールの一部を紹介します。
4月……近隣の幼稚園に通う児童のお弁当(H24年度10人)①
5月……こどもの日ちらし寿司②、東山公園郊外保育のお弁当
8月……流しそうめん③&盆踊り

9月……炊き出し訓練
10月……遠足弁当
11月……秋祭り
12月……クリスマスパーティー
1月……お正月・五平餅パーティー④・食育カルタ⑤⑥

2月……節分
3月……おこしもち・お別れ遠足・新一年生を送る会(卒園式)⑦



4. 現場が行う仕事と今後に向けた課題と検証

(1) 離乳食について
 三つ子の魂百までといわれるが、離乳食の時期に覚えた味覚を大切にして、好き嫌いをなくしていきたいと考え、離乳食時期に行う裏ごし(茹でた野菜などを、味付けをせずに裏ごしした物)について検討してみた。乳児期にどれだけ多くの食材を口にするかで、今後の食生活に良い影響を与えることが出来ないかと考え、食への第一歩「裏ごし食」が始まると、何を食べさせたらどういう反応を示すかを厨房職員が観察し記録する。その情報を全員で共有し味覚の形成に役立てていくこととした。また、この時期の乳児食は月齢に合わせた硬さ、味付けなどの配慮が必要であるため、あらためて研修などを行い調理員のレベル向上に努めた。

(2) 措置変更に伴う食事データの作成(クッキングの様子も)
 若葉寮は、小学校就学前の児童が対象の施設のため、一定の年齢に達すると措置変更(小学生以上を対象とした施設への入寮)が行われる。慣れ親しんだ若葉寮を退寮し、まったく知らない施設に引っ越しすることになる。その際に措置変更になる民間を含む施設の職員に少しでもその対象児童のことを知ってほしいと考え、[食事データ]を申し送り書類の中に加えた。

(3) お誕生日メニュー
 お誕生日メニューが行われている施設はたくさんあると思うが、遅ればせながら若葉寮にも[お誕生日メニュー]を取り入れた。
 全児童対象(常時35人~44人)なため、月に3・4回は当日誕生日を迎える児童、保育士との念入りな打ち合わせの後、メニューが決定する。希望はかなりバラエティーに富んでいて、作る側の楽しみでもある。

(4) 体調不良児への配慮
 乳幼児が集団で生活していると、実に様々な状態の児童が現れます。単なる風邪から、近隣の幼稚園に通っている児童もいるため流行り病の集団感染や、まれにはホームシックによる食欲不振などもある。若葉寮では、そのような児童が出た場合、調理員自身も必ず顔を見て状態を確認し、意思疎通の出来る子どもはどんな食事なら食べられるかを児童本人と話をして保育士、栄養士の了解のもと決める。

(5) 子どもの何故?にどうやってこたえるのか
 調理員が毎日の食事を作っていることを児童たちはとてもよく理解していて、食べ物に関するいろんな[なぜ?・なに?]を私たちにぶつけてくる。この児童たちの知的好奇心は何としてでも、満たしてあげなければならない。絵にする、作ってみせるといったその場の対応から、時間が取れる時には[食育]としての課外授業も行う。毎日がお互いに勉強となる。

(6) アフターケアの一環として措置変更した児童の実家になりたい
 2012年3月にNPO法人が養護施設出身者を対象に「施設を出た後に困ったことは何か」といったアンケート調査を行った結果、3割の人が「相談相手なし」「施設などにいつでも泊まれ、帰れるようにしてほしい」といった回答があったそうだ。(児童福祉法は原則18歳までのケア)「私達、調理員には関係がない」ではなく「泊まる?帰ってくる?」そこで重要なのは、では食事はどうするのか。直接処遇職員でなくても、子ども達との関わりはどこにでもある。まだまだ課題は多いが、少しでも児童養護施設の暗いイメージを払拭しアフターケアの一環として実家のようにいつ遊びに来ても「ただいまお帰り」といった環境を施設全体で作っていきたい。

(7) 3・11 東日本大震災を教訓に施設全体で防災をもう一度見直し
 地域の避難場所まで大人の徒歩で15分かかる。0歳児から6歳児までの乳幼児を引率しての行動はかなり困難であることから災害時を想定した防災食を再確認した。結果、2011年度に防災炊きだしセット(まかないくん)を予算要求で購入。


5. まとめ

 名古屋市が2007年に「食育推進計画」を出し、自治労の「現業活性化運動」をきっかけに若葉寮の調理員からも「自分達にできることはないか?」と模索してきた。こうした取り組みは、施設長、保育士、全職員の理解と協力があってこそ出来る事ではないだろうか。今では、現場からの提案・企画を1回限りのイベントにすることなく、恒例行事になった企画もある。このような取り組みが、子ども福祉課の目にとまり、子ども福祉課からの依頼で、名古屋市知的障害者福祉施設連絡協議会、名古屋市児童養護連絡協議会の研修で「施設でのおすすめ献立」・「作る人と食べるひとのコミュニケーション」のテーマで発表する事ができた。はじめに述べたように、ひばり荘との施設統合をすれば、現在の0歳児から6歳児までの施設ではなく、0歳児から18歳までの施設となるため、多様な年齢構成を生かし、お腹を満たすだけの食事ではなく、食事を通じて人とのコミュニケーションができ、人の温もりを感じることができるような大人になってほしいと願っている。若葉寮の調理員も子ども達と同様に、成長していきたいと考えている。