【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 1912年6月11日の市電運行開始以来、市電、トロリーバス、市バス、地下鉄と、時代の流れとともに形を変えながら、今年で開業100周年を迎えることができた。しかし、時代の変革とともにモータリゼーションの進展や交通手段の多様化、さらに「公営=非効率」という公営交通不要論が各地で蔓延している。そこで、労働組合として、公営交通事業の存続および、京都市内の移動手段は交通局で担うという決意で取り組む活動を報告する。



To continue to run in the Municipal Transportation
~公営交通で走り続けるために

京都府本部/京都交通労働組合・副執行委員長 佐田  悟

<地下鉄事業の概要>
 地下鉄は、烏丸線と東西線を合わせて31.2kmの路線が、京都特有の美しい景観を保ちながら、市内東西南北の地域から市中心部を10分から20分で結び、また、CO排出量が自家用車の約9分の1と、地球環境にも大変優しい、まさに京都に不可欠な都市装置です。そして、37編成、222両の車両が1日に地球1周半近い5万6千kmを運行し、毎日約33万人のお客様を、速く、確実に、そして安全にお運びしています。

<市バス事業の概要>
 市バスは、1978年の市電廃止にともない、市内の中心的な交通機関に発展し、74系統が市内を網の目のように運行する、便利で環境にも優しい(CO排出量は自家用車の約3分の1)乗り物です。現在、764両のバスが1日で地球を2周する約8万kmを走り続け、市内バス交通 の85%に当たる約31万人のお客様に、毎日ご利用いただいています。


1. はじめに

 おかげさまで1912年6月11日の市電運行開始以来、今年で京都市の市営交通は開業100周年を迎えることができました。市電、トロリーバス、市バス、地下鉄と時代の流れとともに形を変えながらも、100年もの永き間に渡り、市民の皆様の生活の足として、入洛される観光客の足として、都大路を走り続けてきました。しかしながら、時代の変革とともにモータリゼーションの進展や交通手段の多様化、ならびに、昨今、「公営=非効率」という公営交通不要論が各地で蔓延し、2011年度末においても、苫小牧・明石・呉の3事業者が廃止に追い込まれた経過があります。また、1947年1月に結成された日本都市交通労働組合(都市交)は、ピーク時の1960年には40組合、7万人を超える公営交通労働者で組織していましたが、直近では25組合、2万2千人にまで減少するなど全国的に厳しい状況が続いています。
 今回の自治研集会では、京都交通労働組合が公営交通事業存続ならびに、京都市内の移動手段は交通局で担うという決意で取り組んでいる活動について報告します。


2. 経営健全化の取り組み

 2000年から3ヶ年で実施した「京都市交通事業経営健全化プログラム21」、2003年からの6ヶ年で取り組んだ「京都市交通事業ルネッサンスプラン」、そして、2009年度から10年計画で現在進行中の経営健全化計画では、主たる目標として、法に基づく資金不足比率を、バス事業では2015年度までに、高速鉄道事業では2018年度までに20%未満に引き下げるべく、現在、労使一体となって事業存続の礎の構築に邁進しているところです。
 今日のバス事業においては、一般会計からの補助を受けつつも、2003年度の黒字決算以来、毎年黒字を確保し、目標である「2018年度以降は任意補助金に頼らない自立した運営」に向けて着実に成果を挙げています。
 一方、高速鉄道事業では、2010年度決算において、建設費などの長期借入金である企業債残高が約4,800億円、日常の運転資金の不足額である累積資金不足(不良債務)が約310億円に上るなど、大変厳しい運営を強いられていますが、2009年度決算では、初めて運賃収入で運営費と建設費返済金の利子分が賄える状態である「現金収支の黒字化」が達成でき、ようやく軌道に乗りはじめました。
 バス事業では、車両数の2分の1(382両)の民間委託化やバス待ち環境の向上など、高速鉄道事業では駅職員業務の全面委託化や、「シンデレラクロス」の実施などによるお客様利便性の向上、また、1日5万人増客を柱に「京都市地下鉄5万人増客推進本部」や「若手職員増客チーム」、「各局区のイベントとの連携」という交通局の枠を超えた市総体としての取り組みなど、皆様のご協力を得ながら様々な施策に取り組んでいます。
 なかでも、駅施設の有効利用として「コトチカ」の展開や、バス事業の健全化により削減した任意補助金を地下鉄事業への支援に活用することにより、2013年度までに予定していた地下鉄の運賃改定を見送ることができたことは、お客様サービスの観点から特筆すべき点だと言えるのではないでしょうか。京交と当局はめざす目標に狂いがないことから、互いに協力し合い公営交通存続に向けて引き続き努力して参ります。
「若手職員増客チーム」の「燃え燃えチャレンジ班」
 が作成した「地下鉄5万人増客オリジナル応援キャラクター」

左の「トラフィカ京カード」は、「燃え燃えチャレンジ」班がデザインした太秦萌を中心に合言葉「めざせ地下鉄5万人増客」のセリフに、地下鉄東西線車両と市バス車両が増客に向けて勢いよく発進するイメージで作成され、大変ご好評をいただきました。
太秦 萌 (17歳・158cm・47kg)
カードデザイン  


3. 市民・お客様を味方につける取り組み

(1) 京交エンパワメントプラン
 エンパワメントとは、わたしたち一人ひとりが誰でも潜在的にもっているパワーや個性をふたたび生き生きと息吹かせることであり、2003年3月にお客様を味方につける運動として始動しました。発足に当たり、組合オリジナルキャラクターの作成、シンポジウムの開催、支部活動助成金制度の創設をはかり、今日まで数多くの活動に取り組んできました。このエンパワメント活動は2本の柱で構成されています。ひとつは、支部が主体となって、現場の最前線という利点を生かしてお客様や市民の方と直接触れ合う地域に根ざした運動です。もうひとつは、京交本部が主体となって京都に入洛されるお客様に対して「おもてなし」の気持ちを全面に押し出す運動です。
① 京交本部主体の取り組み(都大路作戦)
  「KYOTO」は、寺社仏閣など観光資源が多数存在し、「日本に京都があってよかった」と言われるように、国内はもとより世界各地から毎日多くの観光客が入洛されています。とりわけ、春と秋の観光シーズンには異常とも言える混雑が発生し、交通網が麻痺する実態があります。そこで、入洛された観光客の皆様や普段からご利用いただいている市民の皆様に少しでも気持ちよく「市バス・地下鉄」をご利用いただくことを目的に、当局と一体となって京都駅バスのりばを中心に、走行環境改善に着眼した塩小路通の違法駐停車監視、さらには主要停留所や地下鉄主要駅に赴き、「京都に来てよかった、また京都に来たい」と言ってもらえるよう、感謝表明をはじめ各種案内活動にボランティアで取り組んでいます。
混雑する京都駅前バスのりば 塩小路通走行環境改善行動

青年女性委員会も本部とコラボして、東山三条停留所で京都駅へお急ぎのお客様のためにバスから地下鉄への振替乗車のお手伝いをしています。
~この取り組みは大変好評です~
② 支部主体の取り組み
  現在、京交傘下には11支部と青年女性委員会が存在し、愛され必要とされる市バス・地下鉄に加えて「ブランド力」の構築に向けて、日夜奮闘しています。特に、将来のお客様に繋がるお子さま向けの取り組みや支部の存在する地域性を生かした取り組みなど、各方面でオリジナリティに溢れた取り組みを行っています。
〈主な活動例〉
  自動車関係(6支部)

・全車ピカピカ宣言と題して、直営車両全車を大晦日とGWに清掃
・100周年事業の一環で、デコバスを各営業所で作成
・御園橋フェスティバルに参画し、風船プレゼントに取り組みながら、ハッピーバスを 展示し「市バス」の魅力をアピール
・廃オイル缶を使った多目的箱の作成
・支部独自で事故防止研修
・東寺の終い弘法で案内活動
・バス車内にクリスマスデコレーションなど
  電車関係(4支部)
・節電にご協力頂いているお客様に少しでも「涼」を感じていただくためウェットティッシュの配布
・醍醐車庫見学会でスタンプラリーを企画し、特製缶バッジをプレゼント
・地下鉄5万人増客に向けて主要駅で案内活動とキーホルダーのプレゼント
・100周年事業における運転シミュレーターの指導、合成写真のプレゼントなど
  本局関係(1支部)
・祇園祭に「浴衣で“はんなり”おもてなし」でお客様案内サービスなど

  青年女性委員会関係
・初弘法や初天神で、お客様に「市バス・地下鉄」の利用促進PR
・学生向けに特化した「案内チラシ」を作成し、定期券のPR
・東日本大震災の復興ボランティア in 陸前高田
・四条通(四条大宮~祇園)の清掃活動など
 上記の何れの取り組みにおいても活動したら終わりでなく、「効果・検証」を行い、次の活動に繋げています。
~1台1台丁寧に全車磨きました~ 御薗橋フェスティバル スタンプラリー
園児にプレゼントx'mas  デコレーション 浴衣ではんなり 節電協力の御礼

(2) 社会貢献活動
 公営交通事業存続には市民の皆さんはじめ、お客様の絶大なる信頼と応援が必要不可欠です。そこで、毎年4月と10月に産別全体で取り組む「安全・安心・信頼の公営交通キャンペーン」の一環として、京交では、社会貢献の意識の下、地域に根ざした活動で公営交通の価値を上げる「清掃活動」に本部並びに全11支部が取り組んでいます。決して派手な取り組みではありませんが、回を重ねる毎に組合員の意識改革に繋がり、参加者が増加する傾向にあります。近隣住民の方をはじめ、「市バス・地下鉄」をご利用いただくすべての方に「快適」を提供できるよう、引き続き取り組みを推進していきます。
~支部毎に地域に根ざした清掃活動で、社会貢献に取り組んでいます~

(3) 「市バス・地下鉄家族モニター」制度
 昨年からの取り組みとして、職員の家族に実際に「市バス・地下鉄」にご乗車いただき、接遇状況等について本来、家族という一番理解のあるサポーターに、あえて身近で親しみのある意見と、親しいがゆえの厳しい意見をいただき、交通局職員として更なるスキルアップとお客様に満足していただけるサービスの向上を図る目的で、当局と組合が掛かる経費を折半し、夏休みの期間を利用して実施している取り組みです。モニターで得た回答を、京交では機関紙で組合員に周知し、日々の業務に役立てています。


4. むすび

 世界の「京都」は、歴史・文化・先端技術など優れた観光資源を有する国際都市であります。この世界に誇る先進観光都市「京都」において、公共交通は市民サービスの一端を担う「都市の装置」として大きな役割を果たしています。
 また、「歩くまち・京都」を推進する観点や地球環境、長寿化社会で交通弱者が溢れる世の中を見据えたとき、公共交通というものが必要不可欠な存在であることは間違いありません。
 しかしながら、その公共交通の担い手が交通局である保証はどこにもありません。公営交通で走り続けるために(To continue to run in the Municipal Transportation)、市営交通開業100周年をひとつの契機として、100年分の感謝の思いを込めて、引き続き様々な取り組みを行って参ります。皆様もお出かけの際は、是非、「市バス・地下鉄」を積極的にご利用の上、「駅ナカ」でお買い物を楽しんでいただき、様々な意見をお寄せいただければ幸いです。
 日本一の公共交通事業者をめざす「市バス・地下鉄」に、どうぞご期待ください。