【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 新温泉町は2005(H17)年度に旧の温泉町と浜坂町の合併で生まれた。いわゆる平成の合併のひとつの例である。では、合併後の新温泉町の財政状況等については、地元メディアの神戸新聞の但馬版に報じられる程度で、その意味では課題も含めて平穏を保っているように見える。しかし、昨今の全国的な地方経済の厳しい中で、合併を経験した新温泉町はどのような状況に置かれ、またそこにはどのような課題が存在するのであろうか。



財政分析から見る新温泉町の課題


兵庫県本部/新温泉町職員労働組合 中田 剛志

1. 決算カード等の状況

(1) 新温泉町の財政の状況
① 財政の状況
  2010(H22)年度決算カードを見るだけでは、新温泉町の財政上の問題点や際立った特徴点が必ずしも見えてこない。合併前の施策の沿革や、合併後の広域の町域となった状態などを含めて財政の動向を判断する必要がある。そこで、新温泉町のウェブサイトから今日までの動向を調べてみた。
② 自治労の「財政分析入力シート」から
 ア 単年度収支
   この10年間の推移を見ると実質収支は黒字となっているものの単年度収支は「マイナス」を計上している年度もあり、特に2010(H22)年度にあっては最高の4億1,213万円となっている。同様に実質単年度収支も「マイナス」を計上している年度もあり、相当な財政上の苦慮を想像させる。
   積立金取崩し額は合併前は毎年のように行われていたが、合併後は2008(H20)年度だけとなっており、その金額も3,700万円となっている。2009(H21)年度・2010(H22)年度と各収支ともに「赤字」はなく、前年に比べ「健全化」を増したようにみえる。ただし、収入総額・歳出総額ともに、2008(H20)年度からに比べると大幅な増加となっている。
 イ 財源構成
   一般財源がおおむね60%台を超えており、特に財源を他に依存しているわけではない。とりわけ、地方税収入は12~17%という構成比を持っており、全国的な町村の中でもごく普通の財源構成といえる。その分、地方交付税は33~49%という構成比に終わっている。地方税収入の低位を地方交付税で補完している状況をみることができる。地方交付税と地方税との関係は、「負」の相関関係にある以上、当然の傾向といえよう。国庫支出金は、それまで4%だったものが2009(H21)年度が14.1%と大きく変化を見せた。これは定額給付金や財政危機対策等にかかる臨時交付金などによるものである。財源収入は金額では大きいものではないが、構成比では0.8% 2008(H20)年度、0.2% 2009(H21)年度と若干の相違を見せた。これは普通財産の売却に努めた結果である。
   繰入金は、合併前は9.26%と大きくなっているが、合併後の2006(H18)年度以降は1%未満となっている。
 ウ 地方債
   地方債は2008(H20)年度・2009(H21)年度以外は10%未満となっているが、それ以外は10%以上となっている。財政健全化に向けた執行抑制なり財政上の危機を予測して普通建設事業費を抑制した結果である。なお、地方債のうちいわゆる臨時財政対策債のウェイトが1.5%から5.08%を占める。手元現金の不足を想像させる。2001(H13)年度から10年間の推移を見てみると次のようになる。人口1人当りの金額も計算した。ここでは、地方債現在高は漸減方向にあり、人口1人当りの金額も漸減状態にある。(単位:千円)



   地方債のうち、臨時財源対策債を除くいわゆる純粋の地方債発行額は次の通りとなった。(単位:千円)



   この地方債の発行額の推移を見ての通り、2008(H20)年度からの新温泉町の財政状況を勘案した意識的な建設事業の抑制に努めている。合併前の発行が多かったことを物語る。地方債を使った事業をまとめてみた。
 エ 積立金
   積立金の状況を見ると次の通りである。ちなみに住基人口1人当りも計算した。(単位:千円、円)



   これをみると年度間の変動が結構、大きいようにも伺える。
 オ 税収入
   2010(H22)年度の町税収入は、法人への依存度が極めて低い実態にある。地方税収入のほとんどを個人の市町民税(37.3%)と固定資産税(53.0%)で占める。さらに製造業が極めて少ないことを推測させる。同時に固定資産税の占める割合からは、新温泉町のきわめて特徴的な税収構造をうかがわせる。また、安定的な財源とされる固定資産税は、いわゆる「横ばい」または「右肩下がり」の傾向を見ることができる。


(単位:千円)
 

 カ 投資的経費
   投資的経費の内訳は次の通りである。(単位:万円 構成比:%)



   合併時までは投資経費が30億程度計上されているが2008(H20)年度にいたっては6億4,857万円と抑制されたことがわかる。駆け込みで事業を実施した経過が数字上から読み取ることができる。はたしてそれらの事業の効果はどうだったのか検証する必要はあるように思われる。その後、2009(H21)年度においては19億1,869万円と増額され、財政難から抑制されるはずが、国指導の経済対策等で増加している。
 キ 財政指標
   これからみると2008(H20)年度から基準財政収入額の減少を見ており、不振が続く経済状況の反映と受け取ることができる。一方、基準財政需要額は、2006(H18)年度より微増の傾向を示しており、必要な町民への公共サービスの提供を求められている実態が想像できる。特に2008(H20)年度からの標準税収入額の落ち込みは大きい。新温泉町の実態をここにみることができる。標準財政規模は微増である。財政力指数は横ばい傾向にある。これは基準財政収入額と基準財政需要額との関連であるので、一喜一憂することはないが、引き続き注意したい。実質収支比率は黒字を保っている。また公債費負担比率は2010(H22)年度に20%台から10%台となっている。この水準は高いといわざるを得ない。過去の行政執行の結果が財政上の数値すなわち公債費負担率として表面化しているわけで、過去の政策執行上の判断の是非を含めた原因の究明は必要である。


(単位:千円、%)

 ク 健全化判断率等
   地方公共団体財政健全化法による制度の変化で指標が変わったが、かなり政治的な制度改革だった。これから言える事は、実質公債費比率で微増の傾向、将来負担比率で横ばい状況にあることで、緊急的に対応を求められる状態ではない。ただし、中長期的な財政見通しをもった将来に向けての検討はなされて良いであろう。将来負担比率は、自治体の財政規模に左右される側面を持つので、全国の市町村にとっては厳しいものになりがちである。



2. 新温泉町の課題

(1) 行政改革の問題点
 2006(H18)年度から始まった第1次行財政改革では2009(H21)年度までに人件費の抑制をはじめ事務事業、補助金の見直しなどを行って11億3,000万円の効果を出した。その後、第2次行財政改革では、2010(H22)年度から2014(H26)年度まで3億9,000万円という経済効果額を見込んでいる。2013(H25)年度に組織の機構改革を予定しているが、果たしてどれだけの結果が出るものか疑問が残る。行財政改革の確実な実行と質の高い行政サービスの提供を最優先課題とし、将来にわたり持続可能な財政基盤を確立することができるよう歳出を削減することが必要としている。しかし、事務事業評価で行っている行財政改革として数字上で上がってくるものは職員給の削減によるものくらいしかないのが現実である。このように、職員数の削減を行政改革の主目標に置いているが、それは対人サービス部門を減らすことを意味し、それが惹起する「街おこし」への「負の影響」にはならないのだろうか。
① 定員管理の適正化
  新温泉町は、合併前の旧町において、それぞれ定員適正化計画に基づき職員を必要最小限にとどめ、臨時職員等で対応して増員抑制に努めてきた。2005(H17)年10月1日の合併により、旧町の職員がそのまま引き継がれたため、国の指導する類似の自治体と比較し、数字上では多くの職員を抱えることになった。職員数としては合併時の2005(H17)10月1日現在で正規職員は375人(出向、派遣を含む)であったものが、2012(H24)年4月1日現在で306人(同)であり、69人削減したことになる。
  定員適正化計画では2015(H27)年4月1日に職員を278人にすることになっており、2012(H24)年4月1日現在から28人を削減するということになる。2015(H27)年4月1日までの60歳の定年退職予定者は一般行政職が27人、技能労務職が5人、医療職(医療技術・看護師)が4人で合計36人となる。計算では3年間で差の8人を採用できることになる。
  一般行政職は合併時に246人だったものが2012(H24)年4月1日現在で212人、技能労務職は40人が31人、医療職(Ⅱ)は17人が12人、医療職(Ⅲ)は63人が44人という減り方になっており、技能労務職については今後皆無になる可能性が出ている。
② 職員の年齢バランス
  職員を年齢別に見ていくと、2012(H24)年4月1日現在の50歳以上の行政職(役場内の事務職・保育園保母・歯科技工士・診療所看護師など)を見ると99人となっており、全体306人の32.35%となっている。また、20歳代については1人しかいない年もあり、同じ年の同僚がいないことになる。特に役場内の事務職については、職員がいない年もある。これから10年間に一度に職員が退職するため、一人あたりの業務量が急激に増大することが予測される。行政事務が停滞することがないよう、計画的な採用や、事務事業を削減など、何らかの対策が必要である。今までの採用計画は、職員数の削減目的だけが先行し、将来計画が見込めていない。今後、採用を増やすにしても年齢バランスのとれた職員構成を取り戻すことはできない。
③ 臨時、嘱託職員の増加
  正規職員の減少に伴い、臨時・嘱託職員は明らかに増加してきている。合併時には正規職員374人、嘱託職員47人、臨時職員132人の計553人だったものが、2012(H24)年4月1日には正規職員308人、嘱託職員25人、臨時職員184人の計517人となり、嘱託・臨時職員が30人も増えた。今後もこの傾向は続くであろう。ジオパーク館等の新しい施設が出来たが、嘱託職員・臨時職員で対応した。その他の施設は、指定管理に出して安上がりの行政運営を進めている。まさしく、低賃金の非正規公務員である官製ワーキングプアの増大である。また、正規職員ではなく安上がりの臨時職員で対応するあまり、保育士、看護師は不足し、保育士は資格がないものが採用されるという悪循環を生んでいる。それが果たして安心して子育てができ、安心して医療が受けられる行政運営であろうか。公契約条例に取り組んでいる千葉県野田市の根本崇市長は「無駄を省くことは必要だが、強く求めるあまり無機質な人間味のないものであってはならないというのが私の基本的な考え方である。ある程度経費がかかっても市民の必要とするサービスの質を落とさないよう工夫することが行政運営の一番のポイントと私は考える。」と言っている。考えさせられる言葉である。

(2) 財政上の問題点
 新温泉町の財政のこれからの特徴として、2016(H28)年から2町合併10年経過により普通交付税が段階的に縮減されることが上げられる。段階的縮減措置に備え基金造成及び予算規模の縮減を行う必要があるように思われるが、基金造成に力を傾注するばかりに、町づくりの方向性を誤ってはいけない。
 また、今後、町債償還の公債費は数年間高い水準で推移するため、町財政を圧迫する要因となり、加えて各種施設の老朽化に伴う維持管理経費の増加など、経常的経費の増加が本町財政にとって大きな負担となることが確実となっている。
 財政状況は一部の指標において改善の傾向が見られるものの、財政健全化判断比率の一つである実質公債費比率が、2010(H22)年度から3年連続18%以上となったため、公債費負担適正化計画の作成が義務付けられ、起債発行については県の許可が必要となっている。依然硬直化の度合いが高く、財源の多くは地方交付税をはじめとする依存財源に頼っていることから、国及び県の歳出削減による影響が極めて大きく歳入の安定的確保は困難である。また財源を町債の発行により確保することも、その残高及び後年度償還負担さらに実質公債費比率等財政指標の悪化に伴う制限の強化を考慮すると財源確保が困難となっている。
 また、経常収支比率で示されているとおり、町税、地方交付税、地方譲与税を中心とする経常的一般財源は、そのほとんどが人件費、扶助費、公債費等の義務的経費に充当され、政策的経費に充当できる財源に余裕のない状況となっている。

3. まとめ

 このように、本町の財政は虚弱な状況にあるが、限られた財源の中で町づくりをすすめていかなくてはならない。自主財源の確保、町債発行抑制、基金確保を図り、課題や住民ニーズに的確に対応できるよう、新たな姿勢で改革努力に取り組み、健全財政でスリムな財政を確立することが極めて重要ではあるが、事務事業自体をスリム化していかないことには、どうすることもできない。新たな姿勢とは具体的には何なのか、またスリムな財政を確立することとは何をめざすことなのか、さらに行財政改革の方向性やその効果を職員給の削減だけに頼るものであってはならないなど、今後の議論が必要であり、模索していかなくてはならない。そして、投資的経費については、事業の優先度という尺度を十分に協議しなくてはならない。また、過疎債の有効利用を否定はしないが、その償還が将来にかってくることを念頭に、事業に優先順位をつけられなければならない。
 どちらにしても、このように財政状況は厳しいものの、数字で見る限り財政破綻することはない。しかし、人口減、少子高齢化、地域産業の低迷等の課題は多く、何らかの手を打っていかなくてはならないことに間違いない。そのためにも、今まで以上に新温泉町にしかない資源・財産を見直し、そこに住むものが新温泉町の素晴らしさを再発見し、内外にPRして新しい町づくりを進めることが大切である。また、高齢化が進む中、それを逆手に取る発想も大切ではないだろうか。介護福祉のサービスを充実させることによって雇用の場を創出し、人口減を鈍化させる方策を考えることも一つの方法だと考える。その時には行政として何かやるべき方策はないか考える必要がある。
 以上のように、今回、財政分析をすることで明らかになった新温泉町の諸課題について、今後、職員労働組合としてできることから取り組んで行きたい。