【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 「平成の大合併」により誕生した熊本県宇城市の財政状況の推移を見ることにより、市町村合併の財政運営上の「メリット」、「デメリット」を検証してみる。合併後のまちづくり・行財政改革に真剣に取り組めば、大きなメリットが発揮されることになり、逆であれば、デメリットとされる問題ばかりが生じて、合併しないほうが良かったということになりかねない。



合併後の財政分析
熊本県宇城市の場合

熊本県本部/宇城市職員労働組合・財政課 天川 竜治

1. はじめに

(1) 宇城市の概要
① 位置と地勢
  熊本県宇城市は、2005年1月15日、旧宇土郡三角町、不知火町、下益城郡松橋町、小川町、豊野町の5町が合併して誕生した。東西約31.2km、南北13.7kmと東西に長い形状で、188.5平方キロメートルの面積を有し、地勢は、有明海、不知火海に接し、南向きの斜面からなる宇土半島部と、九州山脈へと連なる中山間部、さらにその間をつなぎ、熊本都市圏及び八代圏域に隣接する平野部からなる、変化にとんだ自然環境と都市機能を併せ持もった豊かな地域である。地目別では農用地、森林がともに約32%、宅地約8%、道路・河川など約28%となっている。
② 交通アクセス
  国道3号が南北に走り、国道266号が熊本市から宇城市の中心部を通って、宇土半島南岸部を走り、天草へと伸びています。松橋駅前の県道松橋停車場線は、国道3号と交差し、以東は国道218号として宮崎県延岡市へし続きます。宇土半島北岸には、海岸沿いを走る国道57号もあり、これらを補完する形で県道や市道が縦横に走り、県央の交通の要衝となっている。また、九州自動車道が宇城市の東部寄りを南北に縦断、国道218号と交わる位置に松橋インターチェンジがあり、熊本空港までを約20分、福岡市までを約75分で結んでいます。鉄道は、JR鹿児島本線が市のほぼ中央を南北に縦断し、熊本駅から松橋駅まで15分、八代駅から小川駅まで13分で連絡している。
③ 人 口
  2010年度国勢調査では61,897人、2005年国勢調査時の人口は63,968人、合併後5年間で1,211人減少しています。そのうち旧三角町が一番減少しており、旧松橋町以外の他町についても減少傾向です。逆に旧松橋町は唯一増加しています。宇城市内において他旧町から旧松橋町への人口異動も見受けられるものの、それ以上に市外への流出が大きく過疎化に歯止めがかかっていない状況で、周辺部と中心部の人口格差が大きくなってきている。宇城市全体では過疎地ではないが、旧三角町は過疎地域自立促進特別措置法の適用を受けている。


 ≪参考≫旧町毎の人口推移             (単位:人)
国勢調査年度
三角町
不知火町
松橋町
小川町
豊野町
合計
2000年度
10,305
9,804
25,010
13,808
5,041
63,968
2005年度
9,697
9,608
25,335
13,588
4,861
63,089
2010年度
8,589
9,265
26,103
13,199
4,722
61,878


④ 職員数
  これまでの定員管理計画では集中改革プランの数値同様、合併後5年間で120人削減し2010年度には550人体制を目指すため退職者補充を見合わせ新規採用も抑制してきた、このため、年代によっては空洞化している状況にもあった。しかし、その後支所充実等の方向性が示され、組織体制の見直しの為の検討を行っていく中で、合併当初(新市建設計画)に掲げられた合併後10年で110人抑制に準じた形で、2014年度までに550人体制とする計画に変更となった。これにより、今後は、若干減少幅が緩やかになると思われる。


普通会計職員数

   (単位:人)
年 度
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
職員数
556
567
554
539
552
527
491
484
478
473
伸び率
-1.6%
1.9%
-2.3%
-2.8%
2.4%
-4.7%
-7.3%
-1.4%
-1.3%
-1.1%


2. 宇城市の財政状況

(1) 過去10年間の歳入歳出比較
① 歳入総額
  宇城市の歳入総額を10年間の経緯で見てみると、ほぼ270億円の歳入規模となっている。2003年度が突出しているのは各旧町が合併に備え施設整備を行ったためで、特に統合中学校の建設が大きい。2005年度が減少しているのは、合併初年度であり、暫定予算であったため普通建設事業が少なかったためである。2010年度は普通交付税及び臨時財政対策債発行可能額の大幅な増による。
② 主な歳入
  地方税:2007年度国税(所得税)から地方税(住民税)への税金の移し替え(税源移譲)実施及び定率減税廃止の影響で増加。
  地方交付税:2005年度生活保護費の需要額算入、合併に伴う増額。2008年から合併特例債等償還開始による公債費需要額の増額が始まる。
  国庫支出金:2009年度定額給付金給付事業、2010年度子ども手当及び小学校耐震改築による増。
  地方債:2004年度統合中学校建設の皆減、臨時財政対策債の減。2011年度普通建設事業の交付金振替による減。
③ 歳出総額
  宇城市の歳入総額を10年間の経緯で見てみると、ほぼ260億円の歳出規模となっている。2003年度が突出しているのは各旧町が合併に備え施設整備を行ったためで、特に統合中学校の建設が大きい。2005年度が減少しているのは、合併初年度であり、暫定予算であったため普通建設事業が少なかったためである。2010年度は子ども手当及び小学校耐震改築増による。
④ 主な目的別歳出
  総務費:2004年度財政調整基金等積み立ての影響で増加、2006年度庁舎新館建設による増、2008年度定額給付金による増。
  民生費:2005年度市制施行による生活保護費皆増、2010年度子ども手当支給開始による増。経常的な生活保護費等の扶助費増。
  教育費:2003年度統合中学校建設、2007年度不知火中学校改築、2010年度小学校耐震改築による増。
  公債費:2008年度から合併特例債等償還開始による公債費の増額が始まる。
⑤ 主な性質別歳出
  義務的経費:2005年度市制施行による生活保護費皆増、2008年度合併特例債等償還開始による公債費の増、2010年度子ども手当支給開始による増。経常的な生活保護費等の扶助費増。
  その他経費:2005年度以降合併により経費削減、近年は指定管理者の導入等により増加傾向にある。
  投資的経費:2003年度統合中学校建設、2007年度不知火中学校改築、2010年度小学校耐震改築による増、近年は普通建設事業の抑制傾向にある。


(2) 財務諸表の比較
○普通会計貸借対照表
(単位:百万円)
① 貸借対照表
  「総務省改訂モデル」による財務諸表を2005年度分より作成しており、2005年度と2010年度と比べて、普通会計が所有する道路や庁舎、預貯金などの「資産総額」は19億4千万円と大幅に増えた。要因は公共資産と預金(基金)の増加による。一方で、この資産を形成するための将来世代の負担である「負債総額」は2億8千万円の減である。これにより、この6年間で将来の負担が軽減されたことが分かる。
  資産総額1,036億円に対し、負債総額は397億円となり、資産の約38%は将来世代の負担になる。2005年度は約41%であったため、約3%の負担が軽減された。資産のほとんどは市が保有する公共資産であり、この公共資産の多くは長期間に渡って行政サービスに利用されるものである。また流動資産では財政調整基金の積み立てなどにより現金預金が17億7千万円増加した。負債の部においては、固定負債のうち退職手当引当金が6億3千万円減少となったが、流動負債のうち翌年度償還予定地方債(市債償還金)が6億6千万円増加となり、負債全体は2億8千万円の減となった。財政の健全性の視点から考えると、一概には言えないが、現世代までの負担や国県からの補助金の割合が高く、将来世代への負担の割合は少ない方が望ましいと考えられる。
② 貸借対照表の指標分析
  ここでは、経年比較をするとともに人口が同規模である宮崎県日向市と市民一人当たりの貸借対照表を比較分析してみる。資産に対する負債の割合を見ると、宇城市の割合は2010年度が38.3%と割合的には減少したものの、日向市の2010年度の割合は32.7%であるため、宇城市の将来世代の負担割合(負債)は、他自治体と比べると高い。また、2010年度の資産合計を比べて見ると、宇城市の165万6千円に対し、日向市は199万3千円になり、日向市のほうが人口一人当たりの資産も多い。




2010年度末人口 61,571人
資産の部
公共資産 145万3千円
投資等   12万4千円
流動資産  7万9千円
負債の部
計 63万5千円
純資産の部
計 102万1千円
資産合計
  165万6千円
負債・純資産合計
  165万6千円 


2010年度人口 64,202人
資産の部
公共資産 183万5千円
投資等   10万9千円
流動資産  4万9千円
負債の部
計 65万1千円
純資産の部
計 134万2千円
資産合計
  199万3千円
負債・純資産合計
  199万3千円

※各年度末の人口で按分計算

③ 行政コスト計算書

○普通会計行政コスト計算書

(単位:百万円、%)
  行政コスト計算書では、1年間の行政サービスの提供にあたって、どのような費用がかかったのか、またその行政サービスの提供に対する使用料や手数料といった受益者負担がどの程度あったのかを把握することができる。
  2010年度の経常行政コストは約224億3千万円となっており、性質別にみると社会保障給付や他会計への支出金などの移転支出的なコストが約半分を占め、物に係るコストが約24%、人件費などの人に係るコストが約22%となっている。人に係るコストは職員数の削減などにより2005年度から減少しているが、物に係るコストや移転支出的なコストは年々増加している。2010年度は、特に社会保障給付が子ども手当事業費や児童福祉費の増加などによる増、他会計等への支出額が国民健康保険特別会計や介護保険特別会計への繰出金の増加となっている。これらのコストは今後ますます増加すると思われる。

3.  まとめ

(1) 今後の宇城市の展開
① 収入に見合った支出への転換
  宇城市収入の大半は、地方税や地方交付税などの一般財源や国・県からの補助金などが占めています。その地方税は景気の影響を受けやすく、また、合併市町村においては交付税の一本算定があり、地方交付税は2015年度から段階的に減額※(現在は旧五町分を合算した交付税額を宇城市一本算定するため25億程度の減額)することが見込まれます。その他に国・県からの補助金も将来どのようになるか未定である。そこで歳出面では、建設事業を中心とする起債事業の抑制や計画的な執行、職員数の削減、施設の統廃合、事務事業の見直しなど、一本算定に対応した歳出削減を行う必要がある。また歳入面としても、新たな収入となる財源の確保や収入率の向上などに努め、収入に見合った支出を心がけ、財政のスリム化を図る必要がある。

○普通交付税の合併算定替(イメージ図)
 ※地方交付税のうち普通交付税の算定においては、本来、合併により交付税一本算定(市として算定)となり、通常、普通交付税は減額になり、その減額の影響を合併後10年間(合併特例期間)は、減額前(合併前の旧町算定の合算)で交付されることになっている。その後、11年目の2015年度から一本算定になり、その影響による交付税の急激な減額の緩和措置として、5年間で本来の一本算定での交付額になる。
② 財務書類から見えること
  財務書類4表の分析を総括すると、宇城市は近年、負債の軽減やコスト削減などが図られてはいるものの、他自治体と比較すると依然として資産に対する将来世代の負担割合が高いということが分かる。資産の多くは道路や学校、庁舎などの公共資産であり、将来世代も利用するものであるため、住民負担の世代間公平という点からすると、一概に現世代までの負担割合が高い方がいいとは言えないが、財政の健全化から考えると、将来世代への負担割合は低い方が望ましい。将来世代の負担を減らすためには、一般家庭と同様に歳出削減に努めながら、借金(市債)を減らし、なおかつ預貯金(基金)を増やすことが肝要である。
③ 合併して良かったか?
  個人的な意見であるが、一般的に指摘されている市町村合併のメリットを宇城市の合併に当てはめると、次のようなメリットが考えられる。①公共施設の広域的な利用による住民の利便性の向上、②行政サービスの内容の充実、③効果的な行財政改革、④専門の職員や組織の設置、⑤困難化する財政運営への対応能力の向上、⑥国の新市町村合併支援プランの活用、いずれにも行政の「効率化」がキーワードとなっており職員削減は進んでいるが、行政サービス、財政運営の「メリット」があまり感じられない。
  市町村の合併のデメリットとされているものについては、①市町村の規模が大きくなるとキメ細かな行政サービスができなくなるのではないか、②合併される町村の地域がさびれる・声が届きにくくなるのではないかなどがある。現在、国では地方分権を目的とした「三位一体の改革」によって、受益と負担の関係を明確化し、地方税を中心とする地方の自主財源を重視する政策が進められている。このことから、財政面においては、合併の有無にかかわらず、自主財源に乏しい市町村が従来のようなキメ細かな行政サービスを行うことは困難になってきている。また、宇城市の中で旧三角町の状況を見ると、中心となる市町村地域は一層繁栄するが、周辺の市町村地域は次第にさびれてしまい、住民の声が行政に届きにくくなるのではないかといった不安が現実となりつつある。「平成の大合併」の功罪が少しずつ現れてきている。