【論文】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 財政危機のなかで、呉市では2008年度から、財政集中改革という名のもとに、賃金カットや極端な採用抑制などを行いました。そのような情勢のなか、2011年度末には、更に公営交通事業の廃止が断行され、多くの組合員が現在の職を失うこととなりました。この間の財政再建にむけた地方公共団体とその中での労働組合としての取り組み、役割等について考察・分析していきます。



呉市における財政健全化にむけた取り組み


広島県本部/呉市職員労働組合 阿井 直規

1. 呉市の財政状況について

 呉市では、地方交付税の削減や土地造成に係る本市独自の課題、合併に伴う人件費の増大等を発端とした財政危機により、2008年度から2012年度末まで5カ年で384億円の不足が見込まれるとして、財政健全化プログラムと題し、財政改善に向けた集中的な取り組みを行っています。
 財政集中改革プログラムでは、当局から、職員の人件費の削減(全職員を対象とした給与の減額措置(一般職2.5%・管理職5%))が提案され、組合は、財政状況についての年2回の労使学習会による進捗状況の検証と、予定より早く改善がみられた際は、人件費削減措置を見直すことを前提にやむなく導入に合意しました。
 2008年度財政集中改革プログラム導入当初、384億円の不足額のうち、157億円は、事業・施策の見直しを行うことによって対応を行い、残り227億円は、市有地の処分と人件費の削減等により行うとの方針が当局から示されました。
 本年度がこの取り組みの最終年度にあたり、今年3月の労使による財政学習会では、採用抑制や給与の減額措置、事業の見直し等により、今年度で最終的に384億円の不足額の解消は達成できるとの報告がありました。
 384億円の不足額解消の内訳をみると、当初の計画と比較すると、情勢も大きく変わり、歳入部分では、市の税収が世界的な景気の悪化に伴い112億円減額し、一方で歳出部分は、生活保護等の社会保障費が132億円増額するなどしており、不足額の解消は実質のところ、国の地方交付税の歳入増124億円と施策の見直しによる支出減157億円・人件費削減123億円に頼っているのが実情です。
 本市独自の課題である阿賀マリノ・天応埋立地等の売却については、天応埋立地が売却できるなど、30億円の歳入がありました。(財政健全化プログラムにおける呉市の歳入・歳出予算の概要は、「別紙」参照)
 これに伴い、今年度末には財政集中改革プログラムを予定通り終了させ、来年度からは給与の減額措置を撤廃することができる見込みです。
 しかし、職員の人件費の削減や事業の見直しの取り組みを5カ年継続して行い、384億円の不足額の解消をはかることができたという成果とともに、反面では採用抑制に伴う職員への負担の増加や給与減額に伴う不満も出ています。
 また、呉市においては、今年3月末に呉市交通局が事業廃止され、それに伴い200人以上の職員が現在の職と市職員としての身分を同時に失うという状況になりました。
 財政集中改革が終了しても、国の財政が厳しいなかで、地方交付税が削減されていくことが想定され、厳しい情勢は変わりありませんが、再び財政危機という事態に陥らないためにも、組合は各自治体の財政状況について、適宜、学習と検証を行っていく必要があります。
 財政再建に向けた地方公共団体とその中での労働組合としての取り組み、役割等について考察・分析していきます。

2. 財政健全化プログラムと給与減額について

 財政健全化のための給与減額措置の申し入れが当局からあった際には、具体的な減額率の提示があった後、労働組合において協議を重ね、呉市の財政状況を鑑み、苦汁の選択でしたが、以下の条件のもとで当局からの提案を受け入れました。

① 2012年度までの時限措置ではあるが、5年以内に財政危機から脱却するため、当局として積極的に取り組むこと。
② 財政健全化に向け、各部・課で積極的な取り組みを行うとともに、昨年の事業見直項目の再検証を図ること。
③ 財政健全化プログラムの内容や進捗状況について、全職員が情報を共有し、理解ができる体制を整えること。また、市労連において年2回の状況検証を行うこと。
④ 財政健全化に向けた歳入確保や住民負担の公正性を図るため、条例・規則面の整備、法的手段の適用、人材の配置などを積極的に検討し、公租公課・貸付金等の回収など市の実収入の向上強化のための組織・制度を構築すること。
⑤ 造成地で販売が進まない土地や未使用になっている市有地・建物について、一定の基準のもと、一時的に市民等に貸し出しを行うなどの有効活用を図ること。

 組合員に給与の減額措置の内容及びこれらの諸条件について、オルグを行ったところ、当然、様々な意見が出ましたが、財政再建を行っていくという目標のもと、何とか一定の理解を得ることができました。
 しかし、給与の減額措置を受け入れるということは、組合としては、大変厳しい結果であることは間違いのない事実であり、職場を回る際には、一刻も早く減額措置の撤廃がなされるよう取り組みを行うことが、組合として強く求められていることを痛感しました。
 また、このような独自の給与減額措置の状況下で、人事院勧告に基づく一時金の減額(2009年△0.35月、2010年△0.2月)も同時になされようとしました。
 このため、組合では、財政健全化プログラムによる人件費削減目標額は、人事院勧告による一時金の減額で対応できており、2重の減額はさせないとして、2009年の人事院勧告以降は当局と協議・交渉を行い、4月分から12月分までの給与減額分を差額として返還させ、一般職については、1月分から3月分の給与については減額しないとする成果を得ることができました。併せて今回の人事院勧告でなされた現給保障についても維持することができました。
 今後も人事院勧告等の状況をみながら、適宜交渉を行っていく必要がありますし、給与と一時金については組合員も大変に関心が深い部分となります。
 特に給与が容易に上がらない昨今、組合員のモチベーションの維持のため、どのように組合活動を行っていくか、その方針づくり、舵取りが複雑かつ重要になってきています。

3. 財政健全化プログラムと職員の削減について

 財政危機と称し、当局が提案してきた本市の財政改革プログラムは、事業の見直しや経費削減を進めていくことを前提とはしながらも、その主たる内容は、退職者不補充、新規採用者の抑制(毎年70~80人の退職者に対し、7人の採用ベース)による人件費削減です。 
 この施策のもと、給与減額と併せて人件費約122億円の削減を目標とし、財政改革集中プログラム終了の2012年度末までに、2007年度当初の2,528人から、2,140人に削減される見込みとなっています。
 しかし、現在、職員の採用を極端に抑えることによる若年層の空洞化が急速に進んでいます。このような採用抑制のもとでは、職員一人当たりの業務負担と時間外労働の増加、そして将来の組織体制づくりに支障をきたすため、組合は、職種・年齢別の職員数のデータ等をもとに、2012年度以降の職員の採用人数について、現在、当局と継続的に協議・交渉を行っています。
 当局は、今年4月の窓口協議において、職員の年齢バランスの不均衡は認めたものの、呉市の人口当たりの職員数は、合併で急増しており、同規模の全国の特例市と比較した場合、40市中の38位で多いという調査結果と、合併時の特例として設けられた普通交付税の優遇措置が間もなく切れ、その影響額が40億円程度(職員人件費500人規模)になるとの理由から、将来的に一層の職員削減を進めたいという方針を組合に示してきました。
 そして、職員削減に伴い、業務の見直しを進め、民営化や指定管理などのアウトソーシングを適宜行っていきたいとの方針も併せて示してきました。
 組合では、同様の人口規模でも、各都市で面積・人口密度・高齢化率・産業の状況・予算規模なども異なりますし、特に呉市においては、島嶼部の町も多く海岸線も長いこと、急傾斜地が多く災害も発生しやすい土地柄であるなど、防災・住民の安全確保といった面からも職員定数を考慮していく必要があり、一概に人口だけでは職員数の適正規模は量れないとし、また、今後の人員計画について、業務の見直しと併せて検証するのであれば、業務見直しの部分が具体的に示されなければ協議ができないとして、早急に資料を提示するよう求めています。
 本市では現在、技能労務職員(現業職)や保育士などは、採用が行われていない状況にあり、早急に中・長期的な視座に立った雇用の在り方・方向性を当局と協議していく必要があります。
 また、近年、地方公共団体の職員は、警察・消防などの防災部門以外は削減される傾向にあり、特に一般行政職員は、その削減率が非常に大きくなっています。

4. 財政健全化にむけた具体的な政策・制度要求について

 財政集中改革の取り組みの結果、384億円の財源不足が解消される見込みであるとはいえ、国・地方ともに引き続き財政は厳しい状況にあり、今回は給与減額という措置もされた以上、労働組合として再びこういった事態に陥らず、適切に財政再建を果たしていくという目的のもと、2011年度末に、当局に以下のような要求を行いました。
 また、要求書での取り組みのほか、市の財政状況を検証するため、労使での学習会を適宜開催していく予定です。

① 財政健全化に関する事項について、公用地の売却や市税等の増収など、未達成事項について確認・検証し、それを解決するための具体的な方策を提示すること。

 (当局回答)
 未達事項の原因については、経済不況等によるものと推察され、今後これらに対し、必要な方策を講じる。なお、最大の未達事項である阿賀マリノポリス地区・天応第2期埋立地等の公有地の売却については、昨年天応第2期埋立地の売却が完了し、阿賀マリノ大橋が開通するなど、企業誘致を推進する上での好条件が整いつつある。今後更に企業誘致推進に向け努力をしていきたい。
 また、未達事項であった市税の増収についても、2011年度には庁内公募を行うなど収納率の向上を図っている。
 このほか、各種事業についても、事務事業評価を適切に実施するとともに、事業の見直しと経費の節減を行い、財政状況について、適宜労使で検証を行っていきたい。

② 財政健全化には、国内外の経済情勢が大きく影響してくるが、このような事態を繰り返さない様に、中長期にわたる財政見通しを示すこと。

 (当局回答)
 財政健全化においては、市労連との勉強会を含め、再度このような事態を引き起こさないよう中長期にわたる財政見通しを立てていきたい。

5. まとめ

 昨年3月の大震災の影響や世界的な円高等の影響などから、景気は悪化し、我が国の経済・財政は疲弊しています。これに伴い、2カ年の時限措置ではあるものの、今年4月からは、国家公務員の給与が平均で7.8%も減額されることになるなど、私たち公務員を取り巻く環境も一層厳しさを増しています。
 今後、2013年4月には、労働協約の締結権が回復される見込みですが、これは、各自治体において、労使間での交渉・合意によって、それぞれの賃金を決定できるということだけではなく、その自治体の財政状況によっては、私たち公務員の賃金が著しく下げられてしまうという可能性も秘めています。
 また、恣意的な判断を強行に行う首長等がいる自治体では、当局から一方的に賃金や労働条件を決められることにもなりかねません。
 呉市における財政集中改革5カ年の取り組みは、今年度末で384億円の財源不足が解消される見込みとはなっていますが、今後、給与の減額措置の廃止が確実に行われるよう、最終的な確認を行っていく必要があります。
 そして、再びこのような事態に陥らないよう、適宜財政状況について労使で継続して検証していく必要もあります。
 今年3月末の呉市における交通局廃止の問題では、200人以上の組合員が現在の職を失うこととなりました。そして、それに伴う公営交通労組の解散大会では、一生懸命仕事をしてきたにも関わらず、自らの意思に反して、その職と生活を奪われる組合員の無念の表情と涙を目の当たりにしました。
 私たちの労働運動の根幹は、組合員の生活を守ることにあります。そういった意味では、今回、交通局が廃止されてしまったことは、私たちの労働運動が十分に至らなかったということを大いに反省すべきであると感じています。
 しかし、その反面でこの度の交通局存続のための活動を通じ、私たちは、多くのことを教訓として学ぶことができたとも感じています。
 景気や財政状況の悪化する中で、私たち公務員に対する風当たりが厳しさを増しており、公務員という自分たちの職も身分も必ずしも保障され得ない時代に変わってきています。
 組合として、勤務・労働条件の改善要求のみならず、しっかりと各自治体の財政状況を把握・検証した上で、財政健全化のための取り組みを行うことはもとより、今期、春闘で行ったように、自治労として、新たな賃金の到達目標を設定し、その目標額をめざし、組織的な取り組みを行い、賃金の全体的な底上げを図ることが重要となってきます。
 また、私たちの勤務・労働条件に関する重要事項が一方的に議会にはかられ、改変されることがないよう、日ごろから、組織内議員や協力議員と連携し、議会への影響力を確保するとともに、地域活動等を通じ、住民の理解を得る活動を行い、組合員に対して行政サービスを担う者としての意識を向上させ、市民目線に立ったサービスを提供していかなければなりません。
 公務員としての私たちの仕事は、地域住民の安心・安全の確保と質の高い公共サービスを提供することです。つまり、私たちの職は、地域住民なくしては成り立たないものであることを再度、自覚・認識しなければなりません。
 そして、行政としての活動のみならず、組合活動においても、各地域において、イベント参加や清掃活動・平和活動等へ積極的に参加し、日ごろから、公共サービスを担う職員で構成する労働組合としての存在意義を示し、地域との交流を深めることも重要です。
 各組織において、それぞれの自治体の財政状況について日々学習を行い、その状況を適正に把握し、何か動きがあればすぐに対応ができる体制をつくっておく必要があります。
 しかし、それ以上に、各組織において、日々の活動を通じての組合員との信頼関係の構築・組織強化が重要になってきます。
 市民なくして行政が成り立たないのと同様に、我々の活動は、組合員の支えという礎があってこそ行えるものであり、様々な制度改革がなされようとしている現在だからこそ、この原点に立ち返り、労働組合として様々な取り組みを行っていく必要があるのではないでしょうか。


財政集中改革プログラムの進行管理表

プログラムの総括