【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 東日本大震災の復興支援では1年間で約100万人のボランティアが参加し、復興支援に大きな役割を果たしています。こうしたボランティアのコーディネートは社会福祉協議会を主体とする災害ボランティアセンターが担っていますが、この活動を行政が積極的にサポートしていくことで、さらに効果的な支援が可能と考えます。



自治体と災害ボランティアセンターとの連携について


愛知県本部/稲沢市職員労働組合 吉川 修司・大﨑 敬介

1. 大規模災害時におけるボランティアセンターの役割

(1) 東日本大震災を振り返って
 2011年3月11日の東日本大震災の発生後間もなくして、被災地の社会福祉協議会が中心となって、各市町村に災害ボランティアセンターが立ち上げられました。
 震災から1年以上が経過した現在では、がれきの撤去や家屋の清掃等の復興支援に対するニーズが大幅に減少し、仮設住宅入居者等に対する支援等、被災地域の生活支援を中心としたボランティア活動にシフトしていますが、震災発生後数カ月は週末ともなれば各市町村の災害ボランティアセンターに全国各地からボランティア参加者が大挙して押しかけるなど、大変な活況を呈していました。
 こうしたボランティア参加者は、震災後1年間で約100万人に達しており、ボランティア参加者を実際の被災者側のボランティア・ニーズと結び付けていく過程において、災害ボランティアセンターは非常に大きな役割を果たしました。
 各市町村の災害ボランティアセンターは、先述のとおり各市町村の社会福祉協議会が主体となって立ち上げられていますが、立ち上げや運営にあたっては、全国社会福祉協議会や各都道府県の社会福祉協議会が組織的な支援を行っています。
 しかし、被災地域の市町村は、震災により深刻な打撃を受け、また、義援金の配布や罹災証明書の発行などの膨大な業務に追われているため、復興支援に大きな力を発揮するボランティアと、その受け皿である災害ボランティアセンターへの支援を行う余力がなく、結果的に災害復興に大きな役割を果たしたボランティアへの支援までは十分に行えませんでした。
 私たちの地域も東海、東南海、南海連動地震による大規模災害の発生が想定される地域ですが、実際に災害が発生してから準備を始めても、混乱した状況の中で対応できることには限度があります。今回得られた経験をもとに、平時から自治体と災害ボランティアセンター運営を担う社会福祉協議会との連携や、各種資材、物資の備蓄等の支援を行っていく必要があると考えます。

(2) 災害ボランティアセンターとは
 それでは、自治体と社会福祉協議会が連携していく上で、具体的にどのような連携が効果的なのでしょうか。
 まずは、災害ボランティアセンターが大規模災害時においてどのような役割を果たし、どのような活動をしているのか、昨年度私たちがボランティアに参加した際の体験談も織り交ぜながら紹介させていただきます。
 災害ボランティアセンターの主な役割の一つにボランティアの受け入れ、登録があります。震災発生当初は、交通網が寸断されており、被災地自体も食糧やガソリン等の生活必需品が大幅に不足していることから、支援活動は警察や消防、自衛隊等の専門職に委ねられていましたが、3月末ごろから各市町村で災害ボランティアセンターが立ち上がり、センターが運営するホームページ上の情報を通じて、ボランティア希望者の受け入れ、登録を行っていました。
 全国各地のボランティア参加希望者は、こうしたホームページ上の情報をみてボランティア登録する形になっていますが、このような仕組みをつくることで、被災地のニーズを上回るボランティアの参加や、特定の地域に偏ったボランティアの参加を減らすことができます。ボランティア参加者の多くは個人参加ですので、各災害ボランティアセンターでの登録制とすることにより、個人参加者を計画的、継続的な支援力に変えることができます。

(写真)災害ボランティアセンターでのマッチングの様子
 また、ボランティアの派遣要望場所や必要人数、活動内容等の被災者ニーズの把握や取りまとめ、さらには寄せられた被災者ニーズとボランティア参加者とのマッチング作業も重要な役割の一つとなります。
 災害ボランティアセンターには地域のコミュニティや避難所、自治体からの情報等様々なルートを通じて被災者のニーズが寄せられますが、災害ボランティアセンターはそれらの要望、要請に対して優先順位を付け、日ごとの活動内容を決定していき、当日災害ボランティアセンターに集まったボランティアに対して、優先順位の高いものから活動を割り振っていきます。
 私たち稲沢市職員労働組合のボランティア参加者も、現地に到着してからは、まず本部テントに集まってボランティアセンタースタッフから声がかかるのを待ちました。ここでボランティアセンター職員によるマッチングの作業が行われます。参加者が何人で参加しているのか、派遣要望場所まで自前の交通手段があるのか、作業道具の運搬が可能かどうか、特殊な資格を保有しているかどうか等、当日の活動内容や各参加者の状況に応じて割り振っていきます。
(写真)災害ボランティアセンターの掲示板
 私たちが参加した側溝清掃やわらの片付け等の作業では、土のう袋やスコップ、一輪車等の作業道具が必要でしたが、これらはすべてボランティアセンターから貸し出してもらうことができました。活動場所までの作業道具の運搬もボランティアセンタースタッフが行ってくれました。
 作業終了後は、その日の作業の進捗状況をスタッフに報告して活動終了となります。ボランティアセンターではそれらの情報を再度集約し、新しく届いた派遣要望と合わせて、翌日以降の活動計画を練り直します。
 このように、災害ボランティアセンターは、現地でボランティア活動を希望する者と実際の被災地のニーズを結びつけるという面でも非常に大きな役割を果たしています。
 また、こうした活動状況をホームページ等で全国に発信することも大きな役割の一つです。現地の活動状況をいち早く発信することで、参加する側も現在被災地ではどのような活動が求められているのか、また、活動するためにはどのような準備が必要なのかを事前に知ることができ、より参加しやすくなります。


 
(写真)被災者宅に押し寄せた積み藁の清掃風景
 
(写真)家屋から流出した写真の保管作業

2. 稲沢市地域防災計画について

 このように、ボランティアによる復興支援に絶大な力を発揮する災害ボランティアセンターですが、稲沢市における災害ボランティアセンターの位置づけはどのようになっているのでしょうか。

(1) 災害ボランティアセンターの位置づけ
 稲沢市が策定している防災計画である「稲沢市地域防災計画(2009年度策定)」では、災害ボランティアセンター(計画では地域ボランティア支援本部の名称)の開設主体が市災害対策本部となっており、東日本大震災において大多数の自治体でみられたような社会福祉協議会主体による設置計画となっていません。
 また、計画上の災害ボランティアセンターの活動項目も、「ボランティアの派遣要望場所や必要人員数、種別や内容等の被災者ニーズの把握」、「ボランティアの受け入れ、登録」、「ボランティアコーディネーターの派遣要請」、「ボランティアに関する情報提供」など、災害ボランティアセンターが担うべき役割が網羅されていますが、その運営方法については、活動項目全般を市職員が直営で行う計画となっており、東日本大震災における各被災市町村の対応とは大きく異なっています。
 この地域防災計画は東日本大震災前に策定されたものであり、「大規模災害」の想定が東日本大震災前後で大きく異なります。現在、稲沢市では「地域防災・減災基本計画」として新しい計画を策定している最中です。行政機能停止等の最悪の事態を想定すると、自治体独力でボランティアセンター運営をすべて行うことは困難であり、運営方法の見直しが必要であると感じます。

(2) 社会福祉協議会との連携
 稲沢市と社会福祉協議会との連携についても、防災計画上には「その他関係団体との連携」とあるのみで、社会福祉協議会との個別の連携について特段の記載はありません。
 市と社会福祉協議会との間には、災害時に必要な資機材の確保や職員の派遣についてすでに協定を結んではいますが、災害が実際に発生した際に協定にある物資を市がどこから調達して、社会福祉協議会までどのように届けるのかといった具体的な内容までは定められていません。
 さらに、社会福祉協議会の建物自体が1981年以前の建築であり、耐震強度が不十分であるため、三連動地震のような大規模災害が発生した場合、社会福祉協議会の建物が活動拠点として活用が困難なだけでなく、最悪の場合、建物の倒壊により社会福祉協議会の職員の大半が死傷し、機能不全に陥る可能性もあります。

3. 今後の災害ボランティアセンターのあり方について

(1) 提 言
 東日本大震災では首長を始め多数の自治体職員が亡くなるなど、行政機能が壊滅的な状況に陥った自治体もありました。また、そこまでの被害ではなかったとしても、通常提供している行政サービスに加えて、義援金関連の事務や罹災証明書の発行等、想定外の膨大な業務に追われることとなり、災害ボランティアセンターの運営までは手が回らないことは明らかです。
 復興支援に大きな役割を果たす災害ボランティアセンターの運営、設置については、稲沢市社会福祉協議会を主体にして、市との連携を強化する計画に改める時期にあると考えます。
 災害ボランティアセンターを設置する場所についても、社会福祉協議会の事務所が入っている稲沢市社会福祉会館は、敷地面積が狭く建物自体が耐震基準を満たしていないため、大規模災害発生時の活動拠点としては活用できないため、再考を要します。地域防災計画では市災害対策本部内となっていますが、実際に私たちが活動した東松島市災害ボランティアセンターをみても、ボランティアの出入りも多く、テントの設置スペースも含めて相当広いスペースが必要となります。稲沢市では現在、福祉とボランティアの拠点施設を新たに将来整備することも検討されていますが、そのような適切な場所を決め、あらかじめテントや支援物資の一部を同所に保管し、災害時優先電話やFAX、パソコン等の通信機器や、コピー機等の事務機器を確保するよう提言します。
 また、市が実施している防災訓練についても、避難訓練だけでなく避難所の運営訓練も行うこととし、準備段階から社会福祉協議会職員も参加した上で実施することで、市と社会福祉協議会との連携体制の構築をはかるよう提言します。

(2) おわりに
 東日本大震災を経験した今日では、私たちは防災対策において「想定外」という言葉を安易に使うことは許されなくなっています。防災と復興支援という住民生活に直結する課題については、最も基本的な自治体の役割と言えますが、すべてが自治体単独で完結できるものではありません。例えば避難所の運営ひとつとってみても、従来想定されていたような避難期間がせいぜい2、3か月の場合は市職員による運営も可能ですが、東日本大震災のように長期間の避難所運営が必要となった際に、行政だけの運営では到底維持できません。こうした際に力を発揮するのがボランティアです。行政や民間企業の手の届かない、隙間の部分を単純な人力でケアしていくボランティアの力は、本来組織だったものではありません。しかし、災害ボランティアセンターが十分に活動できる仕組みを整えることで、こうしたボランティアを組織的な力に変えていくことができます。今後は、社会福祉協議会だけでなく、災害ボランティアセンターの運営支援の経験を持つボランティア団体やNPO団体とのつながりを模索することも必要になってくると考えます。
 東日本大震災の経験を生かして、行政と災害ボランティアセンターが日ごろから連携していく体制を強化していくことで、いざ大規模災害が発生した際に、私たちの地域、自治体が全国各地からの支援を受ける力、「受援力」を高めていくことができると考えます。