【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 労使対等とは言っても、厳しい経済状況のもとでは、労働者にとって権利行使の難しさや雇用不安が常につきまとうといった現実があります。個別労使紛争解決のために神奈川県かながわ労働センターでは、労働者や事業主から労働相談を受けています。また、トラブル予防の観点から、労使や若者に対する労働教育・啓発の取り組みは重要です。今年度の自治研集会においては、労働相談の現状と労働教育の取り組みについて報告します。



労働相談・個別労使紛争解決支援と
労働教育・啓発の取り組み
問題解決型の相談とトラブルの予防をめざして

神奈川県本部/自治労神奈川県職員労働組合・労働支部 和田 聡子

1. 労働相談・個別労使紛争解決支援の取り組み

(1) 相談窓口
 神奈川県では、解雇や賃金などの労働条件に関する問題や職場で起こる様々な労使関係のトラブルについて、かながわ労働センター(本所)及び3支所(川崎・県央・湘南)に「労働相談」の窓口を設置し、労働者や事業主の問題解決を支援するため県職員等が相談に対応しています。

(2) 相談体制
 県職員が相談を受ける「一般労働相談」のほか、高度な法律問題については弁護士が対応し、社会保険や労働保険に関する問題などについては社会保険労務士が相談に応じています。
 また、「外国人労働相談」の窓口も設置し、専門相談員と通訳(ポルトガル語、スペイン語、中国語の3か国語)が相談に応じています。職場の悩みや心身の不調については、医師やカウンセラーが相談に応じる「メンタルヘルス相談」も実施しています。
 さらに、年間を通じ県内の主要駅等で「街頭労働相談会」を実施し、かながわ労働センターの存在を広く県民にアピールするためのPRも行い、広報の効果も上がっています。

(3) 労働相談の状況
① 相談件数
  2011年度の相談件数は11,834件となり、前年度比では493件、4.3%の増加となりました。相談件数はリーマンショックの影響を受け急増した2008年度の翌年から減少していましたが、3年ぶりに増加しました。男女別では、女性からの相談の増加が顕著になっています(前年度比13.0%の増加)。
  正規・非正規雇用労働者別では、パートタイマー・派遣社員等の非正規雇用労働者の相談が労働者の約4割を占め、特に、女性パートタイマーからの相談が増加しました。



② 相談内容の状況
  2011年度の相談項目数は全体で19,615件(※)となり、前年度比で8.4%の増加となりました。最も相談の多かった項目は解雇や賃金、労働時間などの「労働条件」に係るもので、11,529件と全体の58.8%を占めています。「労働条件」のなかでは、「解雇・雇止め・退職」(3,888件)と「賃金」(2,404件)が前年度に引き続き上位2項目となっており、合計で相談項目全体の32.1%を占めました。以下、有給休暇や時間外労働の「労働時間」に関するものが1,839件(全体の9.4%)と続いています。
(※)1件の相談で複数の項目にわたる相談があるため、相談件数を上回る。

  また、職場のいやがらせ・パワハラ・セクハラ等の「職場の人間関係」に関する相談(1,808件)が大幅に増加しました(前年度比23.8%の増加)。
  「労働福祉」の相談で最も多いのは、「健康保険・年金保険」に関する相談(906件)で、以下、「雇用保険」(736件)、「労災保険」(563件)と続いています。
  なお、東日本大震災関連では、175件の相談が寄せられ、相談内容は「解雇・雇止め・退職」が65件と最も多くなりました。


(4) 「あっせん指導」の状況
 当事者間で自主的な解決が困難な事例に対し、当事者の一方、あるいは双方からの要請を受けて労働相談担当職員が話し合いの仲介や和解の勧奨を行うことを「あっせん指導」と呼んでいます。2011年度の労働相談のうち、「あっせん指導」を行った事案は166件あり、そのうち100件(60.2%)が解決しています。
「あっせん指導」の解決事例

<ケース1> 雇止め
【相談】 短期の有期契約を5回更新したところで使用者から暴言を受け病状が悪化し、雇止めになった。会社に対し謝罪と契約更新がされない理由の明示を求めたい。
【結果】 相談担当職員が使用者に事情を聴いたところ、会社側に不適切な発言があったことを認め、労働者に謝罪文が渡された。契約の更新については、体調面から考えると難しい状況があったので、解決金の支払いで労使が合意した。

<ケース2> 賃金不払い
【相談】 未払い賃金について何度も会社に請求しているが、経営難を理由に支払ってもらえない。
【結果】 相談担当職員が使用者に事実を確認したところ、会社側は賃金の未払いがあることを認め、その後、未払い賃金全額が労働者に支払われた。

<ケース3> 職場のいやがらせ
【相談】 同じ部署の上司やスタッフからいじめられて体調が悪くなり、使用者から自宅待機を命じられた。その後何の連絡もなく、このまま辞めさせられるのではないかと不安に思っている。
【結果】 相談担当職員が使用者に事情を聴き調整したところ、労働者の配置転換が行われ、別の部署で働けることになった。自宅待機中の賃金も100%支給された。

(5) 人材育成の課題
 労働相談の内容は複雑で多様化しており、特に「あっせん指導」に取り組んでいくためには、相談担当職員の積極性と相当の経験が必要です。経験を積んだ職員が年々退職していく中で、相談担当職員の人材育成が喫緊の課題となっています。
年間を通じて、相談の解決能力を向上させるための様々な研修が職場で行われていますが、労働組合としても労働相談に適する職員の配置を毎年要求しています。相談の場面では、法律の知識はもちろんのこと、相談者との円滑なコミュニケーション能力や問題解決に向けた実践力が重要なポイントになるからです。

2. 労働教育・啓発の取り組み

(1) 労働教育推進の体制
 神奈川県では、安心して働くことができる労働環境の整備と就業支援の事業をかながわ労働センター(本所)及び3支所(川崎・県央・湘南)で行っています。労働教育の推進のために、外部講師を招いて行う労働大学講座(委託事業)、中期労働講座、短期労働講座、特定課題講座及び労働センターの職員が講師を務める出前労働講座を実施しています。

(2) 労働講座等の実施状況
① 労働大学講座(有料)
  1952年度からスタートした歴史と伝統のある講座で、労働関係法の知識を中心に、労働者を取り巻く社会・経済問題等を多角的に取り扱い、体系的な知識の習得を図るために開催しています。2011年度からは民間委託方式で行うことになりました。平日夜間に2時間の講座を年間30回開催、2010年度は255人が応募し、そのうち講座修了者(全日程の6割以上受講)は78.8%となっています。
  講座の科目としては、「労働法総論」に始まり、「労働組合法」、「労働基準法」、「労働契約法」、「労働安全衛生法」等の労働関係法のほか、「職場のメンタルヘルス」、「賃金・人事考課・退職金制度」、「仕事と家庭の調和」、「社会保障制度」といった幅広い内容となっています。
② 中期労働講座(有料)
  労働大学講座のカリキュラムからテーマを絞り、労働基準法など労働法を中心に、労働問題や社会経済に関する知識を短期間でコンパクトに学ぶ全8回の講座で、2010年度はかながわ労働センターの3支所(川崎・県央・湘南)で開催しました。申込者177人のうち、講座修了者(全日程の6割以上受講)は83.1%となっています。
③ 短期労働講座(無料)
  話題性のあるテーマや労働センターとして啓発を急ぐべき課題を扱う講座で、2010年度は県内3つの地域で延べ9日開催し、357人が受講しました。テーマの中には、「業務命令と労働条件の変更」や「パワーハラスメントの定義・具体例・対応策」といった内容も含まれています。
④ 特定課題講座(無料)
  非正規雇用問題、仕事と家庭の両立支援、労使関係の安定など時宜に即した課題を設けて開催する講座で、2010年度は県内各地域で開催し、406人が受講しました。
  非正規雇用対策としては、「非正規雇用社員の人材活用と関連法令」、「労働者派遣法と今後の動向について」、「非正規労働者の労働条件」等のテーマが取り上げられました。
  また、仕事と家庭の両立支援としては、「ワークライフバランスマネジメント実践術」、「就業規則と次世代育成」、「産休・育休から職場復帰までに知っておくこと、やっておくこと」等のテーマで行われました。
  さらに、労働組合セミナーとして、「魅力ある労働組合の可能性~労働組合の活性化に向けて~」を開催し、労働組合の存在意義や活性化に向けての課題を取り上げました。
⑤ 出前労働講座(無料)
  労働組合、中小企業団体、大学、高校等からの要請に応じて、年間を通じ労働センター職員が講師となって出前労働講座を行っています。2010年度は県内各地域で延65日開催し、4,559人(労働者:214人、使用者562人、若者:3,783人)が受講しました。講座のテーマは、労働センターの担当者がその団体から希望を伺い、調整をしながら決めていきます(下表参照)。特に最近は、これから社会に出て働く若者に労働者の権利・義務や労働関係法の基礎知識を身につけてもらうことにも力を入れています。
  毎日労働相談を受けていると、“労働関係法を知らないこと”や“労使での話し合いによる問題解決の意識が失われていること”が原因で、トラブルが発生してしまうことが多いという印象を受けます。相談の現場で実際に労使から生の声を聴き、問題解決の支援をしている労働センターの職員が積極的に外に出て、講師を務める意味は大きいと考えます。


【使用者団体等】
テ ー マ
団 体
延日数(日)
参加者数(人)
労働相談から見る最近の労働事情等 株式会社
1
74
労務トラブル予防のための労務管理のポイント 商工会議所等
1
31
あなたの職場の労働環境診断 使用者団体
1
30
経営者が押さえておきたい労務管理上のポイント 商工団体等
1
30
労使トラブル予防のための労務管理のポイント 株式会社、使用者団体等
3
216
最近の労働相談の事例から 商工団体等
1
30
最近の労働法改正のポイント 商工団体等
1
41
管理職として労務管理上知っておくべきこと 学校法人
1
19
労使間のトラブル防止のポイント 商工会議所等
2
33
働くときに知っておきたい法律知識 株式会社
1
15
労働センターの業務及び労働関係資料紹介 商工会議所等
2
43
合   計
 
15
562


【労働組合等】
テ ー マ
団 体
延日数(日)
参加者数(人)
これだけは押さえよう! 働く時に役立つ簡単な知識 NPO
3
14
働く時にアルバイトでも最低限知っておきたい法律相談先 財団法人
1
19
働く時に最低限知っておきたい法と相談機関 財団法人
3
33
就労支援に役立つ労働法~こんな場合は? 県機関
1
46
労働基準法について 労働組合
1
30
改正育児・介護休業法のポイント 労働組合
1
17
働くための法律 協同組合
2
55
合   計
 
12
214


【教育機関等】
テ ー マ
団 体
延日数(日)
参加者数(人)
働く時に知っておきたい労働法の基礎知識
高等学校
11
1,157
大学・短大
10
1,452
県技術校
12
894
その他(※)
5
280
合   計
 
38
3,783

(※)その他は若年非正規労働者、県立高校進路指導担当者、専門学校キャリアアドバイザー等


3. おわりに

 かながわ労働センターでは、安心して働くことができる労働環境の整備と就業支援をめざして、労働相談や労働教育の推進に力を入れています。労働相談は、労使関係のトラブルが発生した、あるいはしそうな場合に、その問題をどうしたら解決に導いていけるかということを相談者とともに考え、個別に対処していきます。
 一方、労働教育とその啓発は、ある程度まとまった集団を対象として、労働関係法の基礎知識や労務管理上のポイントを学んでもらうといった予防的な側面が強い取り組みです。
 労働相談と労働教育は車の両輪であって、安定した労使関係を構築していくためになくてはならない存在になっています。今後も、それぞれの取り組みを充実・強化していくための予算や人材の確保を強く求めていかなければなりません。