【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 自治労滋賀県本部が主催した自治研究集会の分科会での取り組みをまとめました。分科会では、公契約条例の必要性について学びながら、県内の入札改革の状況などを把握するため、自治体に対し、工事を除く役務提供に関する業務の「積算」・「入札」・「監督・検査」・「今後の課題」について調査を実施しました。ここでは調査結果の分析を中心に、分科会の経緯と今後の課題についてまとめました。



 自治体公契約における公正労働基準の確立にむけて
滋賀県内自治体を対象とした
工事関係を除く役務提供の入札等の状況把握と今後の課題

滋賀県本部/2012滋賀地方自治研究集会・第2分科会・事務局長 佐賀 春樹

1. はじめに

(1) 滋賀地方自治研究集会における分科会の流れ
 2012年6月30日に2012滋賀地方自治研究集会が開催され、その中の分科会のひとつの「自治体公契約における公正労働基準の確立にむけて」をテーマとして集会を開催しました。これは2009年10月に開催された滋賀地方自治研究集会の分科会で議論された内容を引き継ぐもので、当時の議論では、官が行ってきたスリム化とアウトソーシングにより、民間に雇用不安が生まれ、官製ワーキングプアという言葉が語られるようになり、現時点で限界にあること、そして、自治体財政が逼迫している状況の中、公共サービスを低下させないで、労働条件の維持・向上を図りながら、地方が自ら生き残る施策を考えなければならないことを認識したものでありました。まとめとして、自治体において政策入札の導入や公契約条例の制定については、公正労働基準の確立が図れ「ディーセントワーク」の実現にむけた取り組みとなり、さらには、環境、福祉、男女協働参画、地域振興など自治体のまちづくりに活かすことができるものとして見識を深めたものでした。そして、2012滋賀地方自治研究集会の開催にむけ2010年12月に第2分科会を立ち上げ、「ディーセントワーク」、「公契約条例」といったことを再学習しながら取り組んできました。滋賀県内の自治体では公契約条例制定をするような大きな動きはおこっていない現状の中、分科会の議論において、先ず県内自治体の入札制度改革の現状を把握する必要があることを確認し合い、県内自治体に対し調査を行うこととしました。この調査をまとめ、現場で働く公共サービスを提供する立場や公共サービスを市民として活用する立場から、ディーセントワークの実現をめざす中、「地域づくり」・「まちづくり」の具体的な提言にむけた基礎資料としていきたいと考え取り組みました。

2. 自治体調査の実施にあたって

(1) 調査主旨
 ここで、自治体においては「工事や工事に関する業務等」の入札については、手は打っていることは見て取れます。そこで、今回の調査は「工事を除く役務契約」の業務に着目することとし、2007年12月に埼玉県地方自治研究センターにおいてなされた同様の調査を参考に「業務委託契約(工事を除く役務契約)に関する自治体調査」と「庁舎内の清掃を業務委託している自治体調査」の2本立てで調査を行うこととし、公契約業務に携わる労働者の賃金という視点を持ってまとめてみることとしました。

(2) 調査概要
 自治体における工事関係を除く役務提供に関する業務の「積算」・「入札」・「監督・検査」・「今後の課題」として調査し、県内市町19自治体にアンケートを配布し、10自治体から回答をいただきました。
 ・調査1 :「業務委託契約(工事関係を除く役務提供)に関する自治体調査」
 ・調査2 :「庁舎内の清掃を業務委託している自治体調査」
 ・調査対象:滋賀県内の市町の契約関係課
 ・回答数 :10自治体(配布19自治体)
 ・調査期間:2011年12月~2012年5月

3. 調査結果・まとめ

(1) 調査結果
① 設問および回答(概要)について
 ア 【積算】について
  ・「積算はどのように算出しているか」
   業者の参考見積りが支配的(90%)であり、「見積り」に頼っている実態が見える。
  ・「予算の一律カットについて、業務委託も対象になっているか」
   3自治体(33%)が「カットの対象となっている」との回答であり、近年の自治体における財政状況の厳しさが見える。清掃業務での調査において、一律カットの対象となったことによる対応策として、業務の一部を、自治体職員で行うことで対応していることが見てとれた。
  ・「積算にあたって、直接人件費とその他の経費の割合を決めている委託契約があるか」
   直接人件費割合を決めている自治体は1自治体であり、人件費がどれだけ占めているのかについて十分把握されていないことが見える。
  ・「庁舎清掃業務に関する契約の形態」
   庁舎清掃業務に関しては、比較的高い額で落札されているが、指名競争入札で落札率が60%~80%の自治体が1件あった。落札率が60%近くとなると、人件費にシワ寄せされることが考えられ、労務費への大きな影響や業務の品質低下に繋がることが考えられる。
 イ 【入札】について
  ・「業者に対し、次の法令遵守を求めているか」
   基本的には「包括的な法令遵守を求めている」ことが見てとれる。
  ・「応札額の算出根拠を示す資料の添付を求めているか」
   算出根拠の提示を求めている自治体が70%である。算出根拠から労務費という視点での確認がなされているかは不明である。
  ・「最低制限価格制度・低入札価格調査制度・総合評価入札制度を導入しているか」
   役務業務に関しては何も手が付けられていない状況が見える。「庁舎清掃業務」に関しては随意契約30%、指名競争入札70%であり、各種制度は導入されていない。
 ウ 【監督・検査】について
  ・「仕様書どおり業務が行われているか」
   業務のチェックは行われている。マニュアル化や総括的に監督する部署がある自治体が全体の20~30%であることから、業務担当課での確認に留まっていることが見える。
 エ 【今後の課題】について
  ・「複数年契約の導入」・「導入している業務」・「人件費や燃料費等の高騰への対応」
   複数年契約を取り入れている自治体は80%であり、施設の維持管理業務や運営に伴う業務の委託に係るもので、経常的かつ継続的な役務の提供を受けるものについては複数年契約が行われていることが見える。また、委託料が複数年で契約されている自治体は70%であり、そのうち人件費や燃料費の高騰への対応として「状況により協議する及び考慮する必要がある」としている自治体が50%であった。
  ・「現行の入札・契約方法の総合的検討について」
   「庁内で検討中」と回答したのは4自治体である。滋賀では現行の入札・契約方法の総合的検討が進んでいないと見てとれる。
  ・「公共サービスの質を確保するために入札制度の市民による評価制度を導入しているか」
   「導入されている」と回答したのは1自治体である。また、「市民による評価制度を取り入れることについて」として自由記述で記載されていた内容からは、「入札・契約制度は専門的な部分が多いが透明性を高める必要がある観点からも、第3者機関による評価の必要性がある」ことが認識されていることは見える。
  ・「入札制度の改善に取り組みされている自治体が増えていますが、取り組みに対する考えは」
   各自治体では、入札制度の改善の必要性は認識されていることが見える。また、公契約条例の見識は持っていることが見える。
② 調査まとめ
 ・業務価格の算定において、そこに占める適正な労務費を把握する必要がある。
 ・役務業務の入札においても、価格だけの競争入札ではなく、総合的に判断できる入札制度とする必要があるが、少なくとも最低制限価格制度を導入することの検討を進めるべきである。当然、価格設定では、適正な労務費が担保されている業務価格となる制度でなければならない。
 ・監督検査について労務関係の項目の充実を図る必要がある。
 ・複数年契約の導入では、経済情勢や社会情勢の変動に対応できる明確な実行性のある基準が整備される必要がある。

(2) 調査から見える滋賀県内自治体における入札改革の現状と課題
 分科会では、今回の自治体調査結果を踏まえ、2012滋賀地方自治研究集会において、公契約条例を制定した先進地での取り組みを学びました。また、民間労働者・経営者の方に参加していただいたパネルディスカッションでは、「毎年、同じ仕事をして、経験を積んでいても、低価格で落札されれば、賃金が下がる。」、「常に不安を持ちながら働いている。」といった職場の実態や公契約のもと働く労働者の心労などの現場の声を聞くことができ、より認識を深めることができました。
 自治体では入札改革として、総合入札方式の導入など入札改革が進んできている状況で、どちらかというとダンピング防止を主眼としてなされている様子が見られます。また、「工事や工事に関する業務等」においては、積算を行うにあたり積算基準等のルールが一定確立されており、積算で使用する「労務単価」についても全国的な調査のもと算定されてあるものが出版されていることなど、ある一定の価格算定が行えるという背景があります。また、自治体職場において、工事などは多種多様な仕様にもなることから計画や積算・現場管理などの業務に関して業務に携わる時間・職員数が一定確保されているものと考えられます。しかしながら、「工事を除く役務契約」の業務においては、「慣例的な業務」などとして、業務にあたっての時間・職員数が十分確保されていないことも考えられます。
 そのような中、調査や集会での議論を踏まえ考えてみると、自治体の入札改革については労働者賃金を視野に入れているかという点では不十分と考えます。自治体としては、工事などの分野は多額な金額でもあり、より早急に検討をすることが必要であることは理解できますが、発注金額が小さい業務などは、入札改革を行わなくてもよいとは認識していないはずです。自治体は、もっと社会的現状や自治体公契約のもとで働く労働者の実態を認識し、「労働者の適正な賃金」という視点を持つ中での「入札改革」を進める必要があると考えます。業務における適正な品質の確保・適正な労働者への賃金を担保できる制度確立にむけ、自治体での入札制度の改善の検討をさらに進める必要があり、このことがより担保できる制度として「公契約条例」の制定があると考えます。
 今回の集会での議論を通して「運動論」については深く理解できたところでありますが、公契約条例の制定にむけては、関連法令等について勉強し理解度を高めるなど「技術論」をさらに深めることも重要と考えます。また、労働者・労働組合・自治体行政・市民など様々な方が同じテーブルで議論し、共通した認識を持つことも重要と考えます。今後は、ディーセントワークの理念のもと、多種多様な関係者との議論を踏まえる中、「自治体公契約における公正労働基準の確立」を行うため具体の取り組みを打ち出していくことが必要と考えているところです。