【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 「大阪市家庭児童相談員労働組合」の組合活動の実践を通してみえてきた課題や問題点を、「家庭児童相談室」の設置経過、児童行政の市町村への分権化による組織改編にも言及しながらいったん整理する。そのうえで、大阪市や全国的な非正規公務員の格差問題をめぐる発言や動きにも触れながら若干の対応策と今後の課題について明らかした。さらには、今後非正規公務員労働運動が社会運動へと発展するための、角度を変えた視点での考察も加えている。



これからの非正規公務員労働運動の課題と展望
~大阪市家庭児童相談員労働組合の実践を通して~

大阪府本部/大阪市家庭児童相談員労働組合・執行委員長 西村 聖子

はじめに

 今、地方自治体の非正規公務員労働組合は、行き詰まっている。これは、筆者自身が、この数年組合活動を行ってきたなかでの実感である。「格差社会」や「官製ワーキングプア」が横行する中、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に向け労働組合が各公務労働現場や、すべての労働現場において必要とされる仕組みであることは間違いないにもかかわらず、このままでは道を失ってしまいかねない分岐点に立っている。
 では、なぜこのような事態に陥っているのか、非正規公務員の組合活動の現場で、何が起こっているのか、私たちの組合活動の実践を通して、考察したいと思う。


1. 「大阪市家庭児童相談室」を取り巻く動き

 1964年4月厚生省事務次官通達(注1)により福祉事務所内に「家庭児童相談室」の設置が義務づけられた。
 政令指定都市大阪市においては、1965年1月より、各区福祉事務所内に順次家庭児童相談室の設置を行い、1991年6月に現在の24区、各区2人体制の計48人の配置が完成した。さらに、1999年4月、勤務日数を週2日から週4日30時間労働へと増やし常駐体制をとることで「家庭児童相談室」の充実強化を図り、身近な児童相談の総合窓口の専門スタッフとして「複雑かつ高度な業務」を担ってきた。
 しかし「家庭児童相談室・家庭相談員」の位置づけは、児童福祉法の2度の改正(2003年・2004年)により市町村(大阪市では区)の業務として、子育て支援事業、児童虐待防止対策の充実・強化が法的に明確化されるなかで揺らぎはじめる。
 これに呼応する形で、大阪市では2006年こども青少年局を開局、同年7月に各区役所内に要保護児童対策地域協議会の調整機関である「子育て支援室」を開設し体制強化を図るという名目で組織改編を行った。以降「家庭児童相談室」の家庭相談員(2009年、家庭児童相談員に名称変更)は「子育て支援室」のチームメンバーと位置づけられるようになったのである。


2. 大阪市家庭児童相談員労働組合結成

 2006年7月、要綱の施行された2004年4月1日を起点に、任用期間1年、更新3回目にあたる家庭相談員は論述試等で選考しなおすという要綱改正の説明がなされた。これは通算勤続年数10年~30年以上という半数近い相談員も選考対象となった。
 この要綱改正に対し、雇い止めの危険性を感じた家庭相談員数人が自治労大阪公共サービスユニオンに相談し、2006年11月9日、自治労大阪公共サービスユニオン大阪市家庭相談員支部を結成した。
 その後2009年10月1日、支部より単組へと移行し、大阪市家庭児童相談員労働組合(以下:家児相労組とする)が結成され現在に至る。また、労働組合の前身として、1979年より家庭児童相談室協議会が職員団体・各種団体に近い形で毎年要求書を提出し、当局との協議を行ってきた経過があった。
 組合活動の結果として、現在まで再任用希望者全員の雇用継続を確保している。これは時期を少し前にして支部を結成した自治労大阪公共サービスユニオン大阪市国保徴収員支部が、要綱改正による再任用試験により、雇い止めとその後の民間委託によって支部解散に至った経緯を考えると、大きな成果であったといえるものであろう。
 また2010年4月、大阪市の非正規職員として初めて、時間外労働に関する労使協定書を交わした。これを獲得できたのは、大阪市では家庭児童相談員労組を含めて単組を結成した2団体のみであった。
 そして2011年4月、国家公務員の非正規職員に合わせて、育児休業・介護休暇の取得が可能となった。これは、実質的には継続雇用者であると認めさせたことを意味する(注2)
 しかし、課題も残る。要求書の重点課題である特別報酬(一時金・退職金)、経験年数に応じた報酬月額表の導入、繁忙区の増員などは、解決の糸口がいまだ見いだせていない。
 非正規公務員労働組合にとって、均等待遇・処遇改善は、ハードルの高い課題であり、個別の労使交渉では解決の困難な、大阪市職員、自治労、国全体を巻き込んだ大きな問題だといえる。


3. 非正規公務員組労働組合の課題の整理

 2011年10月18日、第3回定期大会では、執行委員役員の大幅な変更が行われた。家児相労組の原型をつくった前執行委員役員・組合員らの退職や、60才前後となったことを受け、執行委員役員の若返りを図ったのである。これにより、現執行委員役員は次世代の家児相労組を担える人材として成長することを期待され、同時に今後組織を発展させていく上での課題も担うこととなった。以下、現在の家児相労組において突き当たっている、いくつかの困難な点と課題を列挙する。

(1) 組合員間の意識共有化の問題
① 任用時期、経験年数による業務内容・意識の差
  「家庭児童相談室」の家庭相談員として任用された雇用年数の長い組合員と、2006年「子育て支援室」開設以後に任用された組合員とでは、業務に対する意識の差がある。従来「家庭児童相談室」は非正規職員2人が各区で専門的に児童相談業務を担ってきた。しかし、正規職員3人以上(課長代理1人係長2人 事務職含む)に家庭児童相談員2人を加えた計5人以上の「子育て支援室」開設以降、家庭児童相談員の区役所内での集団力動は変化したのである。
  また、雇用年数が1年~30年以上という家庭児童相談員が混在するなか、一般的に経験年数に応じて「スキル・責任・負担度・労働環境(注3)」は変化し、責任も重くなる。その一方で、報酬は1999年以降一律に据えおかれたままであることから生じた、業務や意識の違いも存在する。
② 職場内正規職員に対する意識の差
  「職員は、私たちの仕事(の貢献度)を理解してくれているので(雇用は)大丈夫。」といった組合員の意見を聞くことがある一方で、雇用年数が長い組合員には、経験年数と責任に応じた「同一価値労働同一賃金」の原則が正規規職員、非正規職員間で守られていない現実を経験している。この両者間での意識の差は大きいものである。
③ 組合員間の業務量の格差
  大阪市内24区、各区2人、計48人で家庭児童相談員は配置されているが、児童数、面積、生活保護世帯数、ひとり親家庭世帯数、障がい者手帳取得者数などの状況に応じて、支援が必要なリスクの高い児童の数は区ごとに異なる。これにより受け持つケース数や、重篤度に差が生じるため、繁忙区とそれ以外の区とでは業務量に対する格差が生まれ、組合員間で不公平感や対処策での意見の相違などが出ている。

(2) 組織運営上の課題
① 労働と組合活動両立の困難性
  「公共サービスユニオンに戻った方が、活動は楽なのではないか。」といった意見も耳にする。組合専従者のいない中、日々の業務と両立させて組合組織を維持していくことの厳しさの表れだといえよう。
② 労働組合としての交渉経験不足と組合の特殊性
  自治労大阪では、2004年に組織支援センターを設置し、労働組合を必要としている公共サービス労働者の組合づくりのサポート、結成後のフォロー(団体交渉サポートなど)を行っている(注4)。その力を借りながら支部結成~単組移行を果たしたが、6年余りの活動歴では団体交渉等の経験不足は否めない。
  また、市正規職員の労働組合は、地方公務員法の制限を受ける非現業・一般職の職員団体が一般的である。家児相労組のような特別職非常勤職員として労働基本権が全面的に保障され、労働組合法の適用される組合はまれであるため、当局側の理解不足等から労使交渉に影響をおよぼしている。
③ 他労働組合、自治労大阪との関係性
  家児相労組と関係があるのは、自治労大阪府本部加盟組合として同じ大阪市内第2ブロックに所属する市職員関係労働組合(市職)、区役所内で職場を同じとする大阪市従業員労働組合(市従)・区役所支部といった大阪市労働組合連合会加盟組織(市労連)の正規職員及び再任用職員の労働組合(職員団体)である。現在、市内第2ブロック幹事会において、市職との情報交換を行う機会はある。だが、非正規職員単組の問題としてではなく、大阪市職員全体の非正規職員と正規職員の格差問題ととらえ、市職、市従、市労連が自分たちの問題として取り組んでいるのかといえば疑問が残る。
  また、家児相労組と同時期に結成された大阪市消費者センター消費生活相談員労働組合は、同じ任用形態の非正規職員として、雇い止め、均等待遇実現など交渉テーマを同じくしており、組織としての共通性は高いが、単組間の連携は充分ではない。


4. 若干の対応策と今後の課題

 近年、わずかであるが大阪市の非正規職員の問題について、市労連からの発言もみられる。2012年2月、新たな人件費削減の取り組みにより非正規職員も含む報酬削減案が出された際、市労連は非正規職員への削減撤回を求め交渉も行っている。また、局との交渉の中で市労連は非正規職員についても触れている(注5)
 また、自治労は2011年非正規職員の処遇改善、雇用安定にむけた地方自治法の改正、パート労働法趣旨の適用を求めて総務大臣宛の全国的な署名活動を行った。非正規職員をめぐる運動は少しずつだが、労働組合運動のなかで存在感を増しつつある。
 しかし一方で、均等待遇を現実化しようとする上でぶつかる「正規職員の賃金を下げてまで非正規職員との不均衡をなくす気はあるのか?(パイの再分配を変える気はあるのか?)」という問題には本格的に足を踏み入れてはいない。これについては、正規職員からの反対意見が多いのも現状である(注6)。それに対し、本多は「蔓延する非『正規』雇用は使用者側によってのみ生み出された訳ではない。『正規』労働者(組合)が人員調整や困難な労働を皺寄せさせるために加担してきた要素も大きい。ここを捉え返しもせず(ツケを返すわきまえもまく)『かわいそうな非正規を正規に近づける』というのは滅び行く特権的労働運動である」であると指摘した。
 加えて、自治労が人事院(委員会)給与勧告制度の廃止(労働協約締結権回復)に標準を合わせて賃金構造の統一とシェアリングを戦略として打ち出すこと。また当事者(性)の不在を解消すること。つまり賃金シェア議論に、非正規職員当事者側が権利認識と論理を持たなければ実現しないことも指摘している。
 「結果的には正規職員から「搾取」された状況を実感として語られる運動でなければ価値も意味も生まれない」と問題提起したことに、筆者は共感を覚える。


5. さいごに ―今後の非正規公務員労働組合の展望―

 以上これまで考察した家児相労組の抱える様々な課題は、国・市レベルで「家庭児童相談室」が変遷する中、「非正規職員」であるという「身分(注7)」に限界を感じつつ、地域における継続性の要する児童家庭相談の専門職であるという連帯意識が組織化を可能にし、解決できた部分もある。しかし一方で、近年の児童相談行政の分権化(注8)により市町村の再編が行われたものの、専門性の必要度に明確な基準がないなかで、その業務と雇用形態の不安定さが正規職員との関係性のとらえなおしを必要とするために、課題解決の糸口が見いだせていないものもあるといえよう。
 さいごに、今後の自治体非正規組合と正規組合の関係性を考えるうえで、渡邊が著書(注9)のなかで引用している赤木の「『丸山真男』をひっぱたきたい―31歳フリーター。希望は、戦争。(注10)」をめぐる年長世代の左派系知識人と、赤木と同世代の雨宮処凛、杉田俊介との視点の違いを比較した論考は多くの示唆を与えてくれるので紹介したいと思う。
 渡邊は、赤木が「希望は戦争」だと表現した真意は「国民全体が苦しむ平等」であり、現在の左派・右派いずれの平等もある特定の人々の「平等」でしかなく、さらに弱い人を包み込むような「平等」ではないことへの不信感であるとした。また、角度を変えれば、左派に対し、より強く対話の可能性を信じているからこそ、人権や平等を理想に掲げる左派に対する不信の方が、より強いのだと指摘する。
 しかし、また一方で、既得権益層を批判するルサンチンマン(怨恨)に対しては「他者への過剰な責任転嫁は、他者の責任を問う自己の側の責任をなし崩しに免罪する無責任に等しい。不安定で寄る辺なき生の問題は、世代間の対立に矮小化するべきではないはずだ。」と苦言を呈している。
 「左派」や「他者」を、「正規組合(組合)」に、「ルサンチンマン」を「非正規職員(組合)」に変えてみたらどうであろう? つねに、職場は集団としての問題を抱えており、その解決には労働組合という組織集団だけでなく、個人の人間がそれにどう向き合うかという生の問題がある。当事者として個人に立ち返り、自分自身の人権感覚のあり方を問いなおす過程を経て、それにもとづき行動する「わたし」が不在なままでは、今後の組合運動が社会運動として発展することはないであろう。
 「貨幣的・権力的・低俗的なものに足をすくわれず、自分が自分自身とひとつになれるように生きていけるようになる座標軸をもつこと(注11)」そのスピリチュアルな感覚がカギとなるであろう。
 より大きな成果を生み出し(生産し)、より大量に消費し廃棄するといった大量消費的な市場原理とは異なる豊かさを、非正規労働運動は含み持っている。目に見える成果がないときでも「何か変だ」と思い「抵抗する」ということは面白いことであるという価値観をもつことや、従来の正規労働組合活動のもつ成果主義的な価値基準から自由になることも重要であろう。「正規職員なみ」になることを、最終的な目標としなくてもよいのではないか?
 法制度の整備や労働組合運動を通じた現実的で地道な権利獲得も重要ではあるが、「地道な生真面目さを忘れるような突拍子もない言葉と表現も発していきたいのである」という渡邊の言葉には、従来の組合活動とは異なる「ことば」の枠組みで現実社会を語るとどうなるのか?そこには「おもしろみ」や、「他者への共感」という社会運動へと発展する可能性と強度がひそんでいると考える。




(注1) 1964年4月22日 厚生省発児第92号 厚生次官通達「家庭児童相談室の設置運営について」各都道府県知事・各指定都市長宛に設置の通達を行った。
    1964年4月22日 児発第360号 厚生省児童局通知「家庭児童相談室の設置運営について」では各都道府県知事・各指定都市長宛に家庭児童相談室設置にあたっての、設置・運営・児童相談所との関係など留意点を示している。
(注2) 「特別職非常勤嘱託職員の育児休業、部分休業、介護休暇に関する要綱」2011年4月1日施行  
    取得対象者を「任命権者を同じくする同一の職に引き続き在職した期間が1年以上である者」としており、1年ごとの任用期間としながら在職期間を1年以上には該当するため、実質上継続雇用者であると解釈できる。
(注3) 「同一価値労働同一賃金」の原則となる主な価値基準。正社員であれ非正規であれ、性別、雇用形態、人種、宗教、国籍など個人の属性に関係なく、主に上記の4つの基準を数値化し、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用させる賃金政策のこと。ILO(国際労働機関)は、基本的人権のひとつとしている。
(注4) 個人加盟の「公共サービスユニオン」は、公務労働者においても個別課題、権利侵害を交渉内容として対応することの必要性を示した。これは、本来個人加盟のコミュニティユニオンが形成してきた、「職場の人権」を守る価値観と共通するのではないか?また、コミュニティユニオンが、資金難、個別課題解決後の組合脱退など、組合維持の困難性を抱える中、自治労という安定した組織の中で活動が維持できることは、大きな利点だといえる。
(注5) 『大阪市労連ニュース』 2012年1月19日記事
    市側が非正規職員を含めた職員全体の賃金カットを行う案に対し市労連側は「格差社会の是正を求めている労働組合としては極めて問題があると認識している。……中略……行政として格差是正すべきところ、低賃金でがんばっている非正規労働者にも対象を広げるといった姿勢には問題がありカット率の議論をする以前の問題である。」と発言した
(注6) 本多伸行「官製ワーキングプア研究会」webページhttp://kwpk.web.fc2.com/ 資料室・『労働情報800号』より~
    自治労第82回定期大会(徳島)では徳永委員長の「正規と非正規の賃金シェア」という発言に対し会場から「臨時非常勤の賃金改善は正規の賃下げ分を当てにするものではない(山形)」「目指すのは臨時非常勤の高位標準化であって正規の賃金を下げるものではない(大分)」「非常勤労組委員長も、『正規の賃金を下げた分で私達の賃金を上げろという様な要求はしていない』と言っている(香川)」など議論を巻き起こした。
(注7) 西谷 敏『人権としてのディーセント・ワーク』旬報社 2011年
    杉田俊介『フリーターにとって「自由」とは何か』人文書院 2005年 pp31~33
    ともに、日本ではパート・アルバイトが事実上「身分」の様相であることを指摘している。
(注8) 小池秀幸「分権型社会における児童相談行政のありかた ―児童虐待への対応強化に向けた体制の再構築―」『自治総研』通巻403号5月号2012年
(注9) 渡邊 太『愛とユーモアの社会運動論』2012年 北大路書房 pp87~100
(注10) 赤木智弘『論座』朝日新聞社 2007年1月号 
(注11) 伊田広行「私は大学組織・学者世界も『就社』したかったのではない―私はどこで何を模索しているのか」『季刊ピープルズプラン』第43号 2008年夏号