【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 介護保険制度が始まって12年目を迎えています。全国的に高齢化が進み、2025年問題が大きな課題となっています。野々市市においても例外ではなく、確実にしかも急激に高齢化は進んでいます。この高齢化社会に対応する地域包括ケアについて、野々市市の取り組みを述べたいと思います。



これからの高齢化社会にむけて
~地域ネットワークと医療の連携~

石川県本部/野々市市職員労働組合 古谷亜希子

1. はじめに

 我国では全国的に超高齢化社会を迎えようとしています。
 そこで、国ではこの高齢化に対応するため、「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。
 野々市市では、高齢になっても安心して暮らせるために、住民同士のネットワークを中心に関係機関の連携が大切であると考えているところです。その連携こそが、国の言っている「地域包括ケアシステム」と考えています。
 はじめに、野々市市の「地域ネットワーク」の取り組みを紹介し、次に医療との連携から「地域包括ケアシステム」の全体像に焦点をあててみたいと思います。


2. 野々市市の取り組み

(1) 住民同士のネットワーク(地域サロンの立ち上げ支援)
 地域住民が自分たちの住んでいる地域の集会場に定期的に集まり、茶話会をしたりゴム体操等をしたりするのが「地域サロン」です。普段から地域住民が顔の見える関係であることが大切であり、このような関係が、災害時の避難支援だったり、高齢者のごみ出しや買い物などの支え合いにつながっていくと考えています。私たちは次のような機会をとらえて、地域サロンの立ち上げ支援を行っています。
 ○ 包括支援センターが民生委員や町内会長等と協力し、地域の集会場で健康教室を開催し、体操を体験してもらった、それを契機に
 ○ 住民自らが「サロンがしたい」「自分たちが年をとった時のことを考えて集まる場を作りたい」という声が上がり、包括支援センターが体操の仕方を教えたのを契機に
 ○ 集会場を改修したので、住民たちのために使いたいと言って相談があったのを契機に現在19カ所になり、少しずつ増加しています。
 サロンに参加している方々は、「地域住民と近くなった」「どこに誰がいるか分かった」など、住民同士の顔の見える関係づくりとなっていることが分かります。
 また、介護予防の体操は、筋力低下を予防したり、それによって転倒・骨折を予防できる効果があるので、積極的 に取り組みたいと考えています。
 今後は全ての町会に広がっていくように、住民へのPRをしていきたいと思っています。

(2) 住民同士のネットワーク(地域支え合いマップの推奨)
 「地域支え合いマップ」とは、そこに住んでいる地域住民に集まってもらい、住宅明細図を広げ、どこにどんな人が住んでいるのかを印をつけ、住民同士の行き来を矢印で表します。
 これは住民が自分たちの住んでいる地域を自分たちで見ていくことによって、自分たちの地域の課題が見えたり、困っている人を発掘することが出来る効果があります。現在4カ所で作成が進んでおり、今後も町内会長や民生委員と連携を取り、作成を進めていきたいと思っています。

  この「地域支え合いマップ」の効果として、
 ◎誰ともつながっていない住民の発掘
   →住民がさりげなく見守ることで孤独死等を予防し、さらに心配な場合は包括支援センターに報告する。
 ◎地域住民の困りごとが見えてくる
   →ごみ出しや電球の取り換え、一人暮らしを狙った詐欺などに対して、地域で対策を検討できる。
 ◎おせっかいおばさんの発掘
   →地域には何人もの面倒を見ていたり、地域のことを何でも知っているおばさんがいるので、その人を見つけ、その人と社協・行政がつながることにより、ネットワークの構築になる。
  現在、行っている4カ所の町会でも、上記のような効果が出ており、住民同士の助け合いが広がりつつあります。

住民同士でマップを書いている様子

(3) 医療と介護など関係機関のネットワークづくり
 住民同士のネットワークとつながり、専門的に住民の生活を支えるためには、関係機関が連携できることが大切です。特に、住民の健康を管理している医師と生活を支援しているケアマネジャーが連携できることは大切です。野々市市では医師とケアマネジャーの連携構築のために、2008年度から「医療と介護のシンポジウム」と題して、医師会とケアマネ協会と包括支援センターが共催で合同研修会を年1回開催しています。

日 時

内 容

参加者数

2008年10月 午後7時~

医療依存度の高い方の在宅支援

136人

2009年10月 午後7時~

認知症の方の支援を考える

153人

2010年11月 午後7時~

高齢者虐待を考える

166人

2011年11月 午後7時~

医療と介護の連携を考える~先進地の取り組みから~

103人


 医師の参加をいかに増やしていくかが大きな課題です。医師会長と何度も話し合いをし、医師会の研修会として医師のみなさんに周知してもらうなどしました。その結果、2011年度の研修会では19人の医師の参加があり、連携に関する率直な意見が聞かれました。連携を望んでいる医師がいることも分かりました。
 その結果、2011年のシンポジウムをきっかけに、医療と介護の連携を考える「在宅連携委員会」が2012年度に発足しました。これから医師とケアマネジャーの連携の在り方が検討され、この連携がスムーズに動くことによって、国の言う地域包括ケアシステムの医療を中心としたシステムの確立につながると考えています。

3. 国が進める地域包括ケアシステムと野々市市

 厚生労働省によると、地域包括ケアシステムに関する説明を次のように言っています。
 「急速な高齢化の進展(特に、独居高齢者、認知症の高齢者の増加等)、高齢者像と地域特性の多様化等、高齢者の保健医療福祉を取り巻く環境の変化等に適切に対応し、高齢者が要介護状態になっても、可能な限り住み慣れた地域において継続して生活できるよう、介護、医療、生活支援サービス、住まいの4つを一体化して提供していく」としています。
 具体的には、高齢者の生活を地域で支えるために、必ずしも介護保険の保険給付だけでは十分ではないことから、まず高齢者のニーズに応じ、①住宅が提供されることを基本としたう上で、高齢者の生活上の安全・安心・健康を確保するために、②独居や夫婦二人暮らしの高齢者世帯、あるいは認知症の方がいる世帯に対する緊急通報システム、見回り、配食等の介護保険の給付対象でないサービス、③介護保険サービス、④予防サービス、⑤在宅の生活の質を確保する上で必要不可欠な医療保険サービスの5つを一体化して提供していくという考え方です。
 野々市市の面積は東西5km、南北7kmととても小さいので、市内の移動に30分程度あれば可能であるため、市内を一つの区域としてとらえることが適当であると考えています。そこで、市区域内では上記のサービスが一体的に提供されていくことが大切になってきます。


4. 野々市市の現状と課題

(1) 野々市市の高齢化
 野々市市は狭い地域に大きな大学が2つあり、またアパートなどの集合住宅も多く、学生や若い世代の世帯が多い「若いまち」のイメージがあります。そして、高齢化率は県内でも低い水準にありますが、年々確実に高齢化は進んでおり、2014年度の推計では17.9%となっています。

高齢化の現状と将来推計

(2) 高齢者の住まいの現状
 野々市市は持ち家率が低い地域です。加えて、介護保険制度が始まったころは、介護保険3施設(指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設)と、老人福祉法によるケアハウスや養護老人ホーム、有料老人ホームなどがありましたが、最近では高齢者専用賃貸住宅やサービス付高齢者向け住宅など、様々な形態の高齢者の住まいが存在するようになりました。今後はこのような高齢者向けの住宅が増えていくことにより、さらに一人暮らし世帯が増えてくることが予想されます。

(3) 医療機関の現状
 在宅での療養生活を支えるためには、総合病院のかかりつけ医に対する支援体制が大切であると言われています。しかし、野々市市内には公立の総合病院がなく、かかりつけ医の支援は近隣の総合病院にゆだねているのが現状です。よって、医療機関同士の連携や医師とケアマネジャーとの連携に関しては、野々市市内にとどまらず、近隣関係機関と情報交換を密接にしていく必要があります。現在、医師とケアマネジャーは連携が取りにくいと言われている状況にあるので、顔の見える関係づくりを積極的に取り組む必要があると思っています。

 (1)から(3)のように、今後急速に高齢化が進み、一人暮らし高齢者や高齢者世帯が多く、持ち家率も低い現状から、孤独死等の様々な問題が地域で起こることが想定されます。よって、地域の住民同士が顔の見える関係づくりを行っていくことが大切で、顔が見えてくるとお互いに助け合えることが可能になってきます。住民で出来る地域活動を推進し、支えていくことが大切になってくると思われます。
 また、急速な高齢化と医療機関の早期退院によって、疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者が増加します。野々市市ではかかりつけ医とケアマネジャーの連携が出来ていないといわれている状況であるため、住民が安心して在宅サービスの利用が出来ない恐れがあります。在宅での看取りの問題も含めて、医療と介護の連携が急務となっています。


5. 今後の課題・まとめ

 地域包括ケアシステムは高齢者を支える様々なサービスが連携してスムーズに提供されることが大切になってきます。私たちはその中の最も大切であると考える住民同士のネットワークに力を入れています。いくら提供するサービスを充実させたとしても、急速な高齢化に対応できるだけのサービスが提供できるか分かりません。住民自身が自分の地域を考え、自分たちで出来ることを行っていくことがより大切だと考えます。さらに、国は高齢者向け住宅の整備を図っていますが、入居金が10万円を超えてきている現状から、経済的に困難な方は入居できないことが予想されます。よって、さらに地域での助け合いがないと生活できない住民が増えてくることが予想され、ますます、今、取り組んでいる住民同士のネットワークの構築を推進してくことが大切であることが分かります。
 また、24時間体制の医療や介護の提供がとても重要視されていますが、その時には医師とケアマネジャーの連携が大切です。今は委員会が立ち上がったばかりなので、今後も引き続き連携に関する取り組みを行っていきたいと考えています。