【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 公立八鹿病院は、兵庫県北部但馬地域の養父市にあり、但馬の高齢化率は30.3%と県平均の22.4%に対して高齢化が著しい地域である。このような地域にある当院は診療科19科目、病床数420床の地域中核病院として住民の健康生活に貢献している。そこで当院の現状を振り返った。深刻な医師不足の中、看護師、放射線、検査技師、セラピスト等のすべての職員が、医師業務の軽減を図ると同時に地域住民のために活動している。



公立八鹿病院における地域医療の現状
~何が職組に求められているのか~

兵庫県本部/公立八鹿病院職員組合 吉田 一正

1. はじめに

 但馬地域は、兵庫県の北部に位置し、豊岡市、養父市、朝来市、香美町、新温泉町の3市2町から構成され、東は京都府、西は鳥取県、南は播磨・丹波地域、北は日本海に面している。管内の面積は2,133.5km2と県土の4分の1を占め、その83%を山林が占めている。
 人口は、2005年国勢調査によると、191,211人で県全体の約3.4%にとどまり、人口密度も89.6人/km2と県下で最も低く、人口推移をみると1950年をピークに減少し続け、過疎化が進んでいる。また、少子化や若者の流出などによる高齢化も進んでおり、高齢化率も30.3%と県平均の22.4%を大きく上回っている。近年は、コウノトリ野生復帰の推進をはじめとする、人と自然が共生する地域づくりを進めている。
 公立八鹿病院は、兵庫県北部但馬地域の養父市(高齢化率32%)にあり、地域中核病院として住民の健康生活に貢献している。深刻な医師不足の中、看護師、放射線、検査技師、セラピスト等のすべての職員が、医師業務の軽減を図ると同時に地域住民のために活動している。そこで今回のレポート作成において当院を取り巻く環境と現状を振り返り、職組・組合員に求められているのは何か考察する。

2. 病院を取り巻く環境

 医療提供体制では、各自治体病院等の医師不足が深刻化しており、継続的かつ安定的に但馬地域の医療を確保するための体制づくりが課題となっている。厚生労働省の調査によると、但馬圏域の医師数は2002年度までは微増していたが、2004年度から実施された新医師臨床研修制度等の影響により減少に転じている。
 特に病院勤務医師の減少が顕著となり、診療科の休止や廃止、受け入れ患者数の制限など、地域住民への医療提供に支障をきたしている。
 また、医師数については、総数だけでなく診療科別でも多くの診療科で全県値を下回っている。そのため市町、郡市医師会、病院関係者等により構成する但馬の医療確保対策協議会において、検討を行い、医療資源を有効に活用するために、医療機関の集約化・重点化を図ってきた。しかしながら、離職等による医師の減少は続いており、但馬圏域では、医師の確保が喫緊の課題となっている。ほとんどの病院で病院及び診療所との連携を図っており、病院への紹介件数、逆紹介件数も1999年度実績と比較すると約5倍近く増加しているものの、医療共同利用実施病院はほとんどなく、認定申請にむけ取り組んでいるが、地域医療支援病院の要件を満たす病院は現在のところない。医師間での連携や一部の医療機関間での連携にとどまり、但馬圏域全体のシステムには至っていない。
 但馬圏域においては、病院勤務医師等の減少が深刻化し、地域の医療提供体制の維持が危ぶまれているが、一方で住民の病院志向等から、一次医療であっても身近な医療機関にかかっているとは言えず、病院が本来担うべき医療機能が効率的に果たせていないのが現状である。但馬全体で継続的かつ安定的に医療を確保するため、各病院の機能分担や診療所との連携についてシステムとして取り組んでいく必要がある。
 但馬圏域には、9つの公立病院が開設されている。2007年2月「但馬の医療確保対策協議会」の基本的方向性として、但馬全体の医療を急性期2病院(豊岡病院・八鹿病院)と慢性期7病院(日高医療センター・出石医療センター・梁瀬医療センター・和田山医療センター・香住病院・浜坂病院・村岡病院)に分けて再編し、医師の集約を行った。
 また、各病院において総合診療体制を採ることにより、効率的な診療と研修体制を確立し、医療資源の有効活用を図ることになった(下図参照)。


公立病院等の配置状況(但馬圏域)


3. 公立八鹿病院の現状
公立八鹿病院の全景

 公立八鹿病院組合は、養父市、香美町から構成される一部事務組合である。公立八鹿病院、公立村岡病院の2病院を運営し、関連施設として看護専門学校、老人保健施設、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を有する。
名称 :公立八鹿病院
    診療科目:19科目
    内科、呼吸器科、循環器科、精神神経科、脳神経内科、脳神経外科、胃腸科、小児科、外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、歯科
病床数:420床、一般病床 358床(うち緩和ケア 20床 回復期リハ 50床)、療養型病床 55床、結核病床 7床
概要と沿革
1949年8月 八鹿町国民健康保険直営「公立八鹿病院」発足
1957年4月 構成町6町による組合立の病院となる
1971年より 建物の増改築が始まる
1981年   訪問看護開始
1985年   総合病院となる
1986年   社会医療相談室設置(ソーシャルワーカー採用)
1992年   看護専門学校(定員30名)開校 
      老人保健施設(定数90名)開設
1993年   南但訪問看護センター開設
1994年   へき地中核病院の指定
1996年   383床(一般359、結核24)
2001年   回復期リハビリテーション病棟(50床)認可
2002年   現地新築整備事業 工事開始
2003年   臨床研修病院指定
2004年   合併により構成町が1市2町となる
2006年   現地新築整備事業 工事終了(グランド・オープン2007年9月)
2007年   電子カルテ導入

4. 当院の財政分析



5. 当院の取り組み

 当院は全国に先駆けて1981年から大腸癌検診・乳癌検診を開始し、1994年からは県下で初めて検診バスを用いた腹部超音波検診も始めた。その結果、癌検診の受診率はこの地域は兵庫県下で毎年トップクラスであり、多くの方が、癌の早期発見で治療されている。人間ドッグにも重点を置いており、癌の早期発見とメタボリック症候群やCOPD等の生活習慣病の指導も熱心に行っている。また1981年頃から退院した患者さんの在宅医療も開始して現在病院の訪問看護センターでの訪問件数は年間2万件を超す実績があり、センターでは24時間在宅患者さんに対応している。同時に、ALS等の神経難病の介護も取り組み、脳神経内科の実績は全国的に高く評価されている。また、回復期リハビリ病棟は兵庫県で最初に認可され、一貫した急性期・回復期・在宅での維持期のリハビリテーション部門の実績が評価され、日本病院機能評価機構からリハビリ部門にも認定賞が授与された。但馬で唯一の緩和ケア病棟を有しており、最近では兵庫県外からも入院希望者が増えており、年間120例を超す患者さんが入院されるようになった。そして当院では療養病棟、老人保健施設も併設しており、地域における保健・医療・福祉の拠点として活動している。

6. 何が職組にもとめられているか



 2004年に導入された新医師臨床研修制度の影響で2003年度、55人常勤していた医師が20人近く減少した。
 2010年度、整形外科医師3人が退職し、常勤医の数も前年度の41人から34人に減少した。しかし入院延患者数は2010年度(平成22年度)124,601人、2011年度(平成23年度)123,969人、外来延患者数は2010年度125,133人、2011年度117,079人とほぼ変わらない実績を挙げた。救急患者数(救急車来院数)においても2010年度12,068人(1,391人)、2011年度11,716人(1,491人)と南但馬の一次・二次救急を担っている。年度別病院事業損益計算書、年度別職員数に示すとおり、当院の医業収益は医師の減少にも関わらず、2010年度は64億5,700万円、2011度は65億500万円と増収となっている。
 これは、勤務医師の奮闘は勿論であるが、臨床検査部、画像診断科、健康センター、看護師・リハビリ部門等の健全経営化の努力によるものが大きいと考える。最近は、医師不足の現状を知った地域住民の方々による当院の支援活動が熱心に行われており、病院職員の心の支えとなっている。また、新たな医師確保のための住宅建築、病院全体の勤務医の負担軽減施策、医学生への修学資金貸与による新卒医師確保の取り組みなど今後の明るい展望も開けつつある。我々職組・個々組合員はこの地域のセーフティネットとして地域住民の目線に立ちニーズを把握し、自信と誇りをもって各々の役割を果たさなければならない。よりよい医療を提供するために労働環境改善、経営改善に努め、近い将来地域の医師不足が解消されるまで地域住民と一体となって地域のための頑張りが求められる。