【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 2003年(H15)医師の新研修制度が導入され地域の自治体病院の医師数は激減した。西脇病院もその例に漏れず医師が減り特に小児科医師が1人になり入院が出来なくなった。それに危機感を抱いた小さい子どもを持つ母親が立ち上がり、そして医師会の医師や商業連合会、一般市民が地域医療を守る活動に参加し、医師増員による小児科を再生した。



西脇市での市民による地域医療の取り組み


兵庫県本部/西脇市議会議員 村井 正信

1. はじめに

 西脇市は兵庫県の中央部の山あいにあり、人口4万4,000余りのいなか町である。西脇市には「市立西脇病院」という地域病院があり、古いながらも2003年(H15)には医師数50人を抱える地域では有数の病院であった。しかしいわゆる医師の「新研修制度」が導入されてから医師が少なくなり、2007年(H19)には38人にまで減少した。そして小児科医は1人となってしまい入院ができなくなった。また小児科と連動する産科も似た状況が続き出産することがピンチの状態となった。


西脇病院医師数
年 度
2003
2004
2005
2006
2007
2008
医師数
50
49
43
38
38
37


2. 「守る会」の結成

 この頃小さい子どもを抱えるお母さんが、この地域で子どもを産んで育てることができなくなるのではと危機感を抱き、仲間を募り41人の仲間と「西脇病院小児科を守る会」を立ち上げ、西脇病院の小児科の入院再開と医師の増員を目的にした署名に取り組みました。反響は大きく西脇市の人口を超える6万5,000筆も集まった。これらの取り組みの大きなバックボーンとなったのは地元医師会の医師で、署名活動のかたわら医師から病院の現状や、コンビニ受診の問題点などを教わり、その知識を署名活動に生かしていった。
(その後「西脇病院小児科を守る会」は「西脇小児医療を守る会」に名称変更)
 「守る会」は地域や会社に出向きお昼の時間に職員さんに病院のかかり方や子どもの症状への対処の仕方などの話し合いをし、また小冊子「休日・夜間の証に救急について」を作成し配布している。

3. 市民自らの取り組みへ

 西脇市の地域医療に関わる大きな特徴は、医師・商業連合会・市民が地域医療を支える活動を行っていることである。西脇市多可郡医師会に所属する医師が「地域医療検討会」を開催し、毎月「会」に参加する市民に医療の現状の話をしたり、地域の公民館に出向いて地域医療の講演会を開催してきた。また商業連合会では、5,000万円の地域振興券を作り、券の売上の1%を病院に支援金として渡している。そして家庭料理の普及を目指している「いずみ会」は西脇病院で夜間勤務している医師や看護師に毎週水曜日夜食の差し入れを行っている。また、「救急ボランティア勇気」というグループが夜間に住民を対象としてAEDの使用方法の普及に努めている。
 また、西脇市多可郡医師会・地域医療検討会より「地域医療通信」が2008年(H20)12月から発行されており、地域医療という言葉が市民に浸透してきており、その重要性も少しずつではあるが認識されてきている。この様な活動が広がるなかで2009年(H21)4月西脇病院に新小児科医が着任してきた。その医師が西脇病院に決めた理由を尋ねられると、医師は「数カ所からの依頼があったが、守る会の活動があると聞いたことが理由の一つ」とのことであった。これにより小児科入院診療が一部再開され、安心して子どもを出産できる体制に一歩近づいたといえる。

4. 市民フォーラムの開催から地域医療を守る条例へ

 地域の運動はその後も連綿と続いており、地域医療検討会を中心とした各種団体が2009年(H21)7月、「あなたが守る地域医療 今あなたにできることは」を標題に「市民フォーラム」を開催し、その後毎年開催されている。
 同年11月には320床を有する西脇病院が新築オープンし、その記念として「西脇病院フェスタ」を開催している。
 また、2011年(H23)6月には「地域医療を支える市民の会」が結成され、どうすれば看護師が働き続けられるのか、なぜ病院での待ち時間は長いのか等の話し合いを行い、今後地域での懇談会を開催し医師や看護師の働く現状等を地域の人と話し合う予定である。そして自分の症状を記入できる「自分カルテ」を作成し広めていくことを検討している。
 このように、西脇では西脇小児医療を守る会が発足してから地域医療に関わる様々な住民運動が活発で、西脇病院へも影響を及ぼしている。今年4月の西脇病院の医師は正規の医師45人、研修医9人の54人まで増えている。
 西脇市議会では、議員提案として「地域医療を守る条例」を議決し、地域医療を守るための施策の充実を進めようとしている。

5. 今後の課題

 これらの取り組みで明確になったのは、従来市民と病院の関係はややもすれば現状認識の違いから対立型になりがちであるが、市民が地域医療の課題を取り組むことにより地域医療の現状についての共通認識を持つことが出来たことである。この結果、市民と自治体病院の関係は協調型へと変化し、今後地域医療を自治体と市民で支えようとする協働型の体制が出来た時には必ず自治体病院の存続は可能であると考える。
 しかし課題もまだ多くあり、例えば医療費の増大で西脇市でも国民健康保険の診療給付費は毎年1億円ずつ増加しているのが現状である。地域医療を守ることは地域の病院を守ることに繋がり、それは西脇病院の経営の安定化をも意味することになる。病院の収入が増えることは一方で国民健康保険の医療給付費が増えることになり、それは国民健康保険税の高騰にもつながっていく。この他にも住民の問題として夜間の安易な診療や、同じ病気で2~3カ所の医院での診療で同じ薬をもらったり、同じ検査をしてもらったりとの現状がある。医療側としても大量の薬を出したり、不要な検査等も懸念され、今後の課題として複合的な視点が必要である。


資料1