【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第5分科会 医療と介護の連携による地域づくり

 公立病院改革プランと地域医療再生計画の策定という国の方針に振り回される形で、2012年10月に小野市民病院と三木市民病院が統合することとなった。北播磨総合医療センター基本理念にも掲げられた「マグネットホスピタル」づくりの実現は、医師のみならず、利用者、医療技術職・看護職から声を吸い上げる努力が不可欠と考えられる。経過を見ながら、統合までの時間に限りはあるが、改善の余地が十分にあると考えられた。



病院統合におけるマグネットホスピタル化作業の検証


兵庫県本部/小野市職員組合 上田 雅康

1. 公立病院統合発表の過程

(1) 公立病院統合の発表
2000年
6月
兵庫県が「小野長寿の郷」構想を策定
2007年
11月
神戸大学より北播磨地域にマグネットホスピタル設置の提案
2008年
11月
三木市・小野市に統合病院建設の合意
2009年
4月
地域医療再生臨時特例交付金制度発表
5月
三木市・小野市統合病院建設協議会開催
10月
北播磨総合医療センター基本計画を策定
2010年
1月
兵庫県地域医療再生計画を策定
北播磨総合医療センター企業団が発足
2011年
3月
建設地の造成工事に着手
4月
関西国際大学・企業団・三木市・看護学科の設置及び運営に関する協定書締結
2013年
4月
関西国際大学が保険医療学部看護学科を開設
10月
北播磨総合医療センター開業
 地域医療の確保という重要な役割を果たしている公立病院をめぐる状況は、医師不足や看護師不足の問題もあり、年々悪化している。特に三木市民病院における経営状態の悪化は顕著で、2004年から始まった新医師臨床研修制度実施により大学病院が地方の病院に派遣していた医師を引き上げ始めたことによる医師不足、院内保育所閉鎖や2006年診療報酬改定により導入された7対1看護基準などによる慢性的な看護師不足等を理由に、2008年度には資金不足比率が経営健全化基準(20%)を超える23.6%となり、経営健全化団体に転落した。
 先立つ2007年5月、神戸大学医学部は、以前のように地方の各病院に医師を派遣し続けることが難しくなったとして、二次医療圏域である兵庫県北播磨地域内の5市1町に対し、小規模の公立病院が林立している現況を改善し、中核病院1か所にまとまれば全力を挙げて理想の病院を作る、との統合提案を行った。
 5市1町における合意はまとまらなかったものの、病院の統合を水面下で進めていた三木市・小野市の2市は、2008年11月、既存の病院は廃止し、全国でも2例目となる市立病院同士の統合を行い、新規に病院を建設することで合意したと発表した。翌2009年5月に統合協議会が設置され、10月には総事業費200億円、事業用地は両市民病院の中間に近い小野市の市場地区の丘陵地約9ha、建物は地上7階建てとする、費用負担は国の補助金、病院事業債などを除き2市の一般会計から折半とすること等を定めた統合計画が発表された。2010年1月には、小野市長を企業長、三木市長を副企業長とする、特別地方公共団体「北播磨総合医療センター企業団」(以下、企業団)も発足している。

 
(2) 建設予定地の検討経過
 その場所に決まった理由は主に2つあり、①2市の市民病院をつなぐ国道175号線バイパスに接した、道路アクセスが良好な場所に位置しているから、②兵庫県の「小野長寿の郷構想」ゾーンに位置していて活用が図れるから、である。
 「小野長寿の郷構想」は、高齢者が健康で安心して住まい、生きがいと誇りを持って暮らすモデル構想として県が2000年に提案したが、県の新行革プランの影響もあり、事実上の凍結状態に陥っていた。ゾーン内には市有地もあることから、用地確保や開発申請のメドもつきやすく、小野市側が積極的に県に構想の見直しを求めていった。利用者側の視点ではなく事業者側の理由で決定した立地である。

(3) 地域医療再生計画
 計画がスピード決定された理由は、両市民病院の事業主体である市当局や、神戸大学医学部などの識者の間で、「公立病院改革プラン」対策による経営の見直し、医師派遣の確保の道筋などが考えられるが、もう一つ重要な要素は、国の補助金制度の創設スケジュールによるものも大きい。
 麻生政権は、2009年春、都道府県が行う地域における医療課題の解決に向けた取り組みを支援するため、各都道府県に対し11月までに2か所(1か所25億円)の2次医療圏を対象とした「地域医療再生計画」に対し臨時特例交付金を出すと発表した。兵庫県では、公立病院統合の声が上がっていた阪神南地域(県立病院の統合)と北播磨地域の2地区を計画として策定した。そのうち北播磨地域分の25億円の内訳は、北播磨総合医療センター整備に17億円(心疾患・小児・ER救急医療体制強化のための救急室、ICU等)、市立西脇病院整備に5億円、地域住民の理解促進、協働体制の確立として2億円などとなっている。
 このバラマキともいえる交付金の存在については、2,000億円超の一大補正予算であるにもかかわらず、北播磨地域の住民はほとんど耳にしたことがないのではないか。北播磨地域全体に還元される良い事業なのであれば、なお一層のPRがあってもよい。


2. 利用者への周知は

(1) 利用者の意見集約機会
 北播磨総合医療センターの基本理念には「患者と医療人を魅きつけるマグネットホスピタルを地域とともに築き、理想の医療を提供します」とあるが、まずは利用者に対し、両市は統合計画策定にあたり、利用者への意見聴取の場があったかを検証する。


 三木市では、市域から市民病院が消えるという不安をぬぐうため、市民対象、外来患者対象、市内診療所の医師対象の3つのアンケートを実施し、統合に賛成するという回答がそれぞれ50%以上寄せられたと2008年9月号の広報で発表している。あわせて市内10地域で住民説明会を行い、その質疑応答についても市のホームページで掲載するなど、統合し小野市に新病院が建設されることはやむを得ないというムードを醸成した。
 一方、同じ市内に建て替わるとはいえ、現行位置から離れ、利便性の低下が免れない小野市側の進め方はどうだっただろうか。広報の2008年12月号に特集ページおよび以後、広報に折込まれた数回の「統合協議会だより」を中心に決定事項を知らせることはあっても、特別に意見の聴取の場が設定された経過はないといえる。
 日頃から小野市では市民から意見を聞く制度として、一市民であっても自治会長や議員であっても市への意見は1意見として聴く「市長への手紙」制度があるが、病院統合の経過や過程を病院理事者から直接聴き対話する機会は乏しい。市政懇話会は3~4年に1回程度の開催、近隣市で開催されている市議会の議会報告会なども開催されておらず、市民は市議会の一般質問を傍聴するか限られた紙媒体(広報、議会だより等)から情報を得るしかない。
 統合協議会が発足してからも、協議会の構成員名簿には一般市民の名前はなかった。特に市外から通院している利用者は、市が発行する紙媒体を見る機会さえない。利用者への説明責任や意見集約については、統合を1年後に控えた今からでも、もっと積極的に行うべきではないだろうか。

(2) 統合病院へのアクセス確保
 統合病院移転にあたり、必要不可欠な対策が、アクセス方法の検討である。新旧の病院間の距離は自動車で15分程度なので許容範囲といえるが、車を運転できない交通弱者への影響は大きい。現行の市民病院は市内の中心駅から徒歩10分圏内だが、統合病院は勾配のきつい坂の上に位置し、徒歩や自転車での通院は現実的ではない。
 アクセスの確保策として、両市で運行中のコミュニティバスの路線を見直し・延長・相互乗り入れも検討することが発表されている。これについては、両市の公共交通に関する審議会などで別途検討が進められているものと思われるが、計画に交通弱者の声が反映されるよう望むところである。

(3) 統合病院開業後の跡地利用
 統合病院開業後、現行の両市民病院は廃止されることとなっている。三木市民病院については、診療所等の賃貸や介護付有料老人ホーム用地等としての売却を、小野市民病院についてはリハビリテーションや療養に特化した病院と特別養護老人ホームの複合施設として売却するという。
 地域発展と統合病院との連携のためには、地域内の法人の参画が望ましいが、周辺には民間資本の医療施設や介護施設も少なくなく、思い描いた通りに実現するかは不明である。北播磨総合医療センター基本方針は「地域の医療機関と連携を深め、地域で完結する医療を提供する」とうたっているが、統合病院を建てれば、跡地に医療機関が整備されればすなわち地域医療の充実ということではなく、統合病院と地域医療、さらに跡地に整備する施設群との効果的な連携方法を、現段階から構築していかなければならない。


3. 両市民病院で働く医療技術職・看護職への説明責任

(1) 職員の声を届けるため協議会を結成
 統合の検討経過や統合発表について、両市民病院で働く者へ事前に説明が行われたことはなく、むしろ新聞発表を見て知るといった状態であった。近隣の加古川市民病院と神鋼加古川病院の合併においては、早々に全員の継続雇用と賃金労働条件の現状維持の確約が得られていたとの報との落差もあり、職員の間では大きな不安となる。病院職員に何ら否があった訳でもなく、いわば望んでいない統合であるにも関わらず、である。
 労働環境や人員配置計画の行方について分からないままで黙っていられないとの危機感から、統合までの間、統合後に採用される予定の職員の意見を集約し、企業団への団体交渉を申し入れていくため、三木市と小野市の職員で構成する両職員組合は、2010年5月、「三木・小野統合病院対策協議会(以下、協議会)」を結成した。
 翌年7月、企業団に対し労働条件の交渉相手として協議会を認めさせるため、協議会役員が正副の企業長を訪ねて結成通知を行った。その場で企業長は経営重視の姿勢から人件費カットの必要性を示し、副企業長は「協議会は任意の団体である」と発言するなど、ますます労働者が結束することの重要さを知る場となる。
 また、交渉の場を毎月などの定例開催とすることを求めたが、企業団回答は「必要な時に交渉すればよいので定例開催はしない」だった。その他、自治体合併事例や医療問題の指揮者として自治労兵庫県本部播磨ブロック事務局長を交渉の場に同席させることも固く拒否するなど、協議会の意向を聞こうとしない姿勢が続く。

(2) 福利厚生条件の確認
 事務折衝の場で、設計図上での福利厚生施設の確認を求めたところ、企業団は、入札企業への情報漏えいの危険等を理由に、協議会への設計段階の設計図の提供も制限してきた。協議会に提示された時には、ほとんど変更が効かない段階となっており、意見するも「配置計画を動かすことは難しい」「現場の意見は聞いた」といった具合の回答を繰り返しながら、建設はどんどん進められている。スタッフが使いにくい施設となってしまえば、人材の確保にも暗雲が立ち込めることとならないか。

(3) 賃金労働条件のたたかい
① 退職手当制度
 2011年11月、企業団は、両市が参加している兵庫県市町村職員退職手当組合から脱退し、企業団が同内容の退職手当制度を独自に運営していきたいとの旨を申し入れてきた。理由は、一般行政職が大半を占める退職手当組合の掛け金率を、継続年数が少ない看護職が多い組織がそのまま加入して払うことは、開業時当初の経営を圧迫するからであるという。実際には、両市民病院の職員に、2012年9月をもって全員退職手当を組合に請求手続きを行い、企業団に全額預けてほしいという、手を煩わせる上に身勝手な運用である。
 協議会では、これまで退職手当制度の運用実績がないこと、独自運用とすると経営上の理由から手当支給割合も独自にする危険性、他の労働条件の協議に入る前に退職手当制度から協議するという姿勢に対する不満、退職手当を請求しなければならない精神的な苦痛などから、退職手当組合からの脱退をせず統合後の継続加入を求めている。
② 給与・賃金制度
 2012年1月、給与モデルについて資料が提出されたが、昇級・昇格基準、初任給決定基準が不明、職員一人一人が統合により給与が上がるのか据え置きになるのかも分からないものであった。協議会では、まず統合の大前提として、統合前の現給保障と統合後は同一職種で同一年数であれば同一賃金であることを申し入れたが「経営を考えれば、低い方に合わせてもいいか」という回答も出されたものの、後日、少し譲歩された内容が提示された。
 また、企業団は労働条件資料の随所に「国公準拠を原則とし」という表現を入れている。しかし、国家公務員に認められている制度の一部割愛なども見られ、企業団側の都合でのみ構成された一方的な制度案でしかない。

(4) 医療技術職の継続雇用問題
 前述の地域医療再生計画における有識者審査において、「同センターは、確保可能な数の医療スタッフで計画されているのか。また、スタッフ数に対して無理のない規模になっているのか。」とする意見があった。
両市民病院と統合病院の概要
  三木市民病院 小野市民病院 北播磨総合医療センター
開設日 1955年
11月
1961年
3月
2013年10月
建物建設日 1975年
7月(東館は1983年7月)
1985年
3月
許可病床数 323床 220床 450床
診療科数 19診療科 15診療科 27診療科
正規職員数(主な職種) 医師48医療技術職56看護師212 医師31医療技術職30看護師131 医師64医療技術職74~101看護師350→2018年には医師75看護師400体制へ
 右図の通り、企業団は医療技術職については業務量の精査に時間が必要であることを理由として、幅を持たせた計画を出し、希望する者全員の継続雇用をいまだ確約していない。
 交渉の場の発言では「企業団と同じベクトルを持つ職員に来てもらう」とのことだが、内実は「企業団の提示する勤務条件にそのまま従う職員に来てもらう」ことであり、寄せられる意見に傾聴する姿勢は見せていない。
 本来の職務に加え統合に向けた作業が加わり激務となっているにも関わらず、継続して働き続けられないのではという環境下で、ミスのない万全の職務が遂行できるだろうか。

(5) 職員対象説明会後も労使の溝が埋まらず
 協議会から企業団に際し再三統合後の身分と保障について納得のいく説明を求め続けていたところ、企業団はようやく職員対象説明会を2012年4月に各病院3回ずつ開催した。同時に統合後にも雇用を希望するかどうかを聞く意向調査を記名式で実施すると通告してきた。
 多くの質問が職員側から出されたが、持ち帰って検討するとした項目は少なく、「これでいかせていただきます」との回答も目立ち、職員の素朴な疑問でさえ「説得」しようとしており「納得」をさせようという姿勢は見られなかった。説明を行う事務職自身は両市からの出向となることも、医療職からの共感を得られない態度に映った。
 意向調査の結果が開示されないことも分かり、協議会では、意向調査の傾向を知るため、2011年7月に続き、2012年5月、両市民病院職員に対し、継続雇用への希望の状況について無記名アンケートを行った。通常、説明会をすれば企業団の方針への理解が深まると想定されるものであるが、結果はむしろ働き続けるかどうか「まだわからない」が看護職を中心に増え、説明会自体の説明について理解できたとする回答は少数であった。
 看護職は全員継続雇用を行っても開業予定人数に満たないにもかかわらず、統合まで1年余という段階でこの深刻な数字が出ていることについて、企業団へ伝えたが、まだ看護職において大半が継続してきてもらえると考えている始末である。
 賃金労働条件の不満などと重なり、両病院とも職場全体の士気が低下している。看護学部の三木市への誘致など、新人看護師の確保策を進めていると企業団は力説するが、看護学部生がこの実態を知れば就職したい職場と思うだろうか。決めた方針に沿って進めたい企業団は、なおのことその決定した経過と内容について、職員に対し十分に説明責任を果たす義務がある。


4. 今後の課題

 患者と医療人を引きつけて離さない(マグネット)病院(ホスピタル)を目標とした統合計画、利用者を引き付ける仕組みについては、両市民病院へ寄せられている要望をもう一度精査し、既に決まったことと片づけてしまうのではなく、開業してからも利用者の意見に耳を傾け、利便性を高める工夫と姿勢が重要である。また、患者一人一人にあった医療サービスの提供および地域医療との連携どちらも実現しなければ、病院が物理的にも心理的にも遠くなったと思われてしまうであろう。このことを企業団は心得て事業を展開してもらいたい。
 統合病院に雇用される予定の両市民病院職員へは、企業団は一刻も早く雇用の確約を行うべきである。あわせて、お互いが賃金・労働条件について忌憚ない意見を出し合い、時には歩み寄った上での条件の決定とすることが、企業団と労働者との間で損なわれている信頼関係を改善し、よりよい病院づくりの一歩となる。
 これまで数十年間、地域医療を支えてきた市民病院のよさを、さらに発展させた統合病院こそ、地域・医療人が望む「新しい地域医療の姿」である。




参考資料 ・「地域医療再生計画(北播磨圏域)」兵庫県・2010年1月
     ・「週刊ダイヤモンド」ダイヤモンド社・2009年11月30日号 ほか