【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第6分科会 地域での子育ち支援

 食物アレルギーへの学校給食での対応の現状と問題点に対する問題提起。



学校給食と食物アレルギー
学校給食を食べられる環境を作るには

大分県本部/日出町職員労働組合 西原 千貴

1. はじめに

(1) 食物アレルギーとは
 現在、赤ちゃんの10人に1人が食物アレルギーを持っている(公益財団法人日本アレルギー協会ホームページより)と言われている。食物アレルギーといっても、アナフィラキシーショック症状を起こす即時性のものとアトピー症状のような遅延性のものがあり、症状の出方もいろいろとある。成長する過程で治癒することもあるが、『少なくとも10人のうち1人は食物アレルギーを経験している』という事実が存在する。

(2) 食の障害者
 先般の東北大震災において、避難所生活を余儀なくされている方が数多くいる。現在も個人や企業、自治体からたくさんの救援物資等が運ばれているが、食物アレルギーがある人は運ばれてきた物資をうかつに食べることができない。なぜなら、食物アレルギーがあるために、食べたくても食べられないという現実があるからだ。極端な例を言えば、『食べなければ餓死、食べればショック死』という二者択一を突き付けられている状況と変わらない。こういった人たちのことを考えると、ある意味“食の障害者”と言ってもいいのではないかとさえ感じる。今回はその“食の障害者”の中でも『食物アレルギーのために給食を食べられない子ども』について考えてみる。


【アレルギー患者の支援】「食べるものがない」 対応食品求める子ども

 避難所のパンやカップラーメンが食べられない。子どもにミルクを飲ませられない。人口の2~3%、幼児で10%に上るとされる食物アレルギー患者が、震災後に対応食品を入手できないケースが出ている。ショックを起こせば死に至ることもあり、患者団体は支援体制の構築を訴えていた。今も、多くの子どもや親が援助を求めている。

《急性ショック》「子どもがアナフィラキシーショック(急性アレルギー反応)を起こした。2度目。助けてほしい」。食物アレルギー患者を支援する東京のNPO法人「アトピッ子地球の子ネットワーク」に3月25日、福島県の女性から電話がかかってきた。1歳2カ月になる女性の子どもは卵、乳、小麦のアレルギーがあり、震災後にやむを得ず食べさせた食品でショックを起こし病院に。知人から「アレルゲンが表示されていないから大丈夫」と聞いた食品を食べさせ、再び急性症状が起きた。「ネット」は対応食品を女性に宅配便で送り、被災地の約40家族にも送付。「小麦アレルギーでパンやカップラーメンがだめ」「このミルクしか合わない」など多様な要請に合わせ慎重に選ぶ。微量でもアレルゲンが含まれれば激しい症状を起こす可能性があり、事務局長の赤城智美(あかぎ・ともみ)さんは「アレルギー用食物は医薬品と一緒」と話す。

《きめ細かさ》各メーカーは、震災直後から大量の対応食品をネットに寄付している。しかし現地に届けるすべがなく、最初は政府の物資輸送トラックに詰め込み、その後ボランティアの力を借り、被災地の拠点病院や個人宅に物資を送り続けた。だが物資が現地入りしても、患者からは「届かない」などと助けを求める声が途切れなかった。赤城さんは「食物アレルギーは千差万別。特定製品でないとショックを起こす人もいて、きめ細かい対応が必要だが、慣れていない行政職員や医師もいたようだ」と話す。宮城県多賀城市にある「かくたこども&アレルギークリニック」のホームページは、届いた支援物資の原材料を細かく表示している。表示をみて、自分や家族に該当する物資を見つけた患者から連絡を受け、これまで約200家族に届けた。角田和彦(かくた・かずひこ)院長は「患者の手元まで物資が届かないうちは悲惨な状況だった」と話す。対応しないミルクをやむを得ず飲ませた赤ちゃんが体調不良になったが、交通手段がなく来院できないケースもあった。

《ニーズ把握》赤城さんは「食物アレルギーは支援が必要な病気。行政は災害時要援護者登録のように、どこにどういうニーズを抱えた患者がいるのか事前に把握すべきだ」と訴える。名古屋市のNPO法人「アレルギー支援ネットワーク」は、東海地震のため対応食品を備蓄していた名古屋市や静岡県湖西市と協力し物資を送った。しかし送り先で一般用食品と区別せずに配布されるなど、行政の不慣れな対応もあったという。理事栗木成治さんは避難所を回って現状把握を続けているが、患者がすでに避難所を去っているケースが目立つ。「一律に配られるものが食べられず、知人宅などに身を寄せているようだ。今後は行政や団体とともに、地域ぐるみで患者を理解して支える仕組みが必要だ」と今後を見据えた。

(2011年4月3日 共同通信社のニュースより)


2. 現 状

アレルギー対応給食者数及び弁当持参者数
 
児童・生徒数
アレルギー対応給食者数
弁当持参者
4,000人以上
0
2
3
1
不明
不明
0
1
不明
0
189
0
4,000人未満
7
0
2
3
51
3
2
1
7
1
27
1
38
4
0
不明
1
1
27
1

 

(1) 弁当持参者の家庭では
 給食を食べられない子どものために、毎朝早く起きての弁当作りが必要となる。個々の家庭により違うだろうが、できる限り給食の献立に似せた弁当を作っているのではないだろうか。当然、その弁当を持って学校に行くので、登下校時の荷物は他の子よりも多くなる。特に荷物が多くなる月曜日は、小学校低学年にはきついかもしれない。また、夏場は腐敗の心配をしなければならないことも悩みの種だろう。

(2) 給食を提供できない子どもが存在する理由
 給食を提供できない子どもが存在する理由の一つとして、スタッフ不足の問題がある。アレルギー対応の給食はほとんどの自治体で調理員が作っているが、その担当となる人数は限られている。重度なアレルギーを持つ子どもの給食を作るためには(別対応となるので)さらに人員が必要となるが、それはスタッフ総数から考えて難しいというわけだ。次に、法律の問題がある。学校給食法の第4条には『義務教育諸学校の設置者は、当該義務教育諸学校において学校給食が実施されるように努めなければならない。』と規定されているが、これが努力義務であるため、100%の給食実施じゃなくても法令違反にならないという点が影響している。

(3) 本当の問題は
 給食を提供できない理由としては、調理スタッフの不足と学校給食法が努力義務であることが影響していると思われるが、それ以前に各自治体の教育委員会の考え方が根本的な原因を作っていることが一番の問題といえるだろう。
 今回のレポートを作成するにあたり、『弁当持参者はいますか』と各自治体に聞いてみたところ、いくつかの自治体で『把握していない』と『調査したところ……』との回答だった。これが何を意味するか……。先述の学校給食法の第5条に『国及び地方公共団体は、学校給食の普及と健全な発達を図るように努めなければならない。』と規定されているにもかかわらず、弁当持参者数を把握していないということは、学校給食の普及を図るための土台すらできていないということにならないだろうか。当然、食物アレルギーを保有していない子どもには給食を提供できるので、全体数からみれば普及は図れているかもしれない。しかし、それは結果として普及しただけであって、普及に努めているわけではない。弁当持参者への具体的な施策(普及活動)は行っていないにしても、せめて最低限の人数把握くらいはしてほしいと感じた。

3. 弁当持参者の思い

 もし、あなたの子どもに重度の食物アレルギーがあったら……と考えてみてほしい。毎日の給食の時間に、「このおかずおいしい」とか「俺、お汁おかわりする」とか「やったあ、今日給食にゼリーがついちょん」とか、皆が給食に関係する会話で楽しんでいても、給食を食べられないので会話に入ることができない。そしてそれが当たり前になってしまう。当然、『食物アレルギーがあるから仕方ない』と理解できるところはある。でも、『できれば子どもに給食を食べさせてあげたい』というのが本音だろう。
 今回、弁当持参者に対して行った調査の中で、こんな回答をくれた方がいた。『仮に月1回(または年1回)だけならアレルギー対応の給食が提供できるとした場合、その1回だけであっても子どもに給食を食べさせたいですか。』との質問に対し『食べさせたい。他の子どもと同じようにさせたい。』と。また、同様に『月1回(または年1回)であっても子どもは食べたいと思いますか。』との質問に対し、『いつもは他の人の目を気にしながら除食しているので、食べたいと思う。』と。
 また、『保育園では対応できたのに、なんで学校給食では対応できないの?』や『家庭で作れる料理なのに、なんで学校給食としては作れないの?』というふうに思っている人もいるのではないだろうか。もしかすると、『役所に言ってもダメだから』という失望感、不信感からそういった声すら聞けなくなっているだけなのかもしれない。


4. 可能性のある施策

(1) 食材からメニューを考える
 例えば、食物アレルギーがあるために弁当を持参している子どもが複数人いたとして、①小麦、②乳製品、③卵、④肉類、⑤魚介類を除いた食材で調理したものであれば全員が給食を食べられるとした場合、①~⑤以外の食材(お米、野菜類全般、果物など)を使った料理(給食)で対応できないかを考えてみてはどうだろうか。普段私たちが生活するうえで考えればそういった料理はできないと思いがちだが、『動物性の食材を使わない料理』と考えれば『精進料理』という選択肢が思い浮かぶ。あとは小麦粉の代わりに米粉を使えば、ご飯、米粉のだんご汁、がめ煮(鶏肉抜き)、抹茶豆乳で給食の提供が可能となる。


(2) 農薬、化学肥料、添加物のアレルギー
 

 食材の種類だけで考えれば、給食の提供を行うことは可能だが、食材の調達が次の課題になってくる。農産物の大量生産による弊害である農薬、化学肥料のアレルギーを保有する場合があるためだ。まず、国外産の農産物であれば、農薬・化学肥料にプラスしてポストハーベスト農薬も加えられることになるため論外だ。理想は、地元産の無農薬・無化学肥料の野菜だが、日出町内で有機農業を行っているところは数えるほどしかないため、これも実現は難しい。そう考えると、県内産または国内産のそれで対応することが現実的だろう。
 これに加えて、(食品)添加物の使用についても考えたい。うまみ調味料(化学調味料)や○○スープの素などの不使用はもちろんのこと、ゼリーや缶詰、飲料などの既製品についても配慮をお願いしたい。というのも、添加物に対するアレルギーを保有する子どもがいるためだ。そのため、できる限り手作りで調理を行う必要があると考える。
 当然、この対応給食を毎日提供することは難しいので、月1回(または年1回)程度であれば実施することが可能なのではないかと考える。

5. 問題点と解決方法

 提供できる給食を作ることが可能になっても、解決しなければならない問題がいくつかある。それらについて考えてみる。

(1) 給食費の問題
 まず給食費の問題がある。当然、弁当持参者は給食費を払っていない(払う必要がない)ので、配食された給食を食べる権利がない。そのため、その対応給食を食べる日だけ給食費を払う必要が生じる。形としては、『給食1食分の金額を学校に持っていき、学校から給食センターなどに支払う』といった流れになるだろうが、先生の協力が必要となる。ただ、クリアできないような問題ではない。

(2) 摂取カロリー等の問題
 学校給食の実施について、管理栄養士が頭を抱える問題がある。学校給食摂取基準という縛りだ。これは、エネルギーやカルシウム、ビタミンなどの摂取量を年齢別に細かく分け、その目安を定めているもので、学校給食法第8条第2項の『学校給食を実施する義務教育諸学校の設置者は、学校給食実施基準に照らして適切な学校給食の実施に努めるものとする。』という規定に基づくものだ。あくまで努力義務ではあるが、特段の理由がない限りはこれを順守する必要があるだろう。
 当然、対応給食を実施するということになれば、この基準を順守することは難しいと思われる。しかし、月1回程度であれば、この基準を満たさない(満たすことができない)日があっても問題ないのではないだろうか。弁当持参者に対して給食の実施を行うことが理由であるし、努力義務ということも含めて考えれば、必ずしも順守しなければならない基準ではないだろう。ただ、管理栄養士の努力で摂取基準をクリアできるのであれば、それに越したことはない。

(3) いじめの問題
 いつもと違う給食を提供することになるため、『アレルギーを持っているお前のせいでこんな給食になった』と言われたり、いじめを受けたりする可能性がある。当然、こういった状況にならないようにするための配慮が学校側に求められるが、それ以前に根本的な部分を変える必要があると考えられる。
 昨今の給食メニューを見ると、いわゆる現代食が多くなっており、和食(伝統食)が減ってきているように感じる。残飯を減らすために子ども向きのメニューに変わってきたのかもしれないが、食育の観点からも和食の多い給食にシフトチェンジをしてもらいたい。そうすることで、いじめの問題もクリアできると考えられる。

(4) 同じ給食を提供する必要性
 そもそもアレルギーがない子どもに対しても同じ給食にしなければならない理由があるのかという問題点が浮かんでくる。単に、弁当持参者に給食を食べさせたいというだけならそこまでする必要はない。だが、全員同じものにこだわることには理由がある。
 学校給食法の第2条第3号に『学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。』という一文があり、それが達成されるよう努めなければならないという規定がある。例えば、同じ給食を食べられれば子どもらに共通の話題ができ、学校生活が豊かになるのではないだろうか。というより、給食とは本来みんなが同じものを食べるものなのだから、そういった空間が提供されるべきところではないだろうか。また、食育の観点から考えれば、同じ給食を食べることで食事することの楽しさを学ぶことができるのではないだろうか。もちろんこれらだけではなく、『アレルギーがある子どもに皆と同じものを食べさせてやりたい』という個人の思いも汲んでほしいとも思う。
 (1)~(4)に挙げた以外にも多くの問題があると思うが、どれもクリアできない問題ではないと思う。“無理”と諦めるのではなく、“どうすればその問題をクリアできるか”が重要ではないだろうか。

6. まとめ

 食物アレルギーについては、障害者のように法の整備がされているわけではない。かといって、アレルギー保有者は法の整備を望んでいるわけではない。もっとアレルギーがある人のことを分かってほしいだけだ。まずは『どんなことで不便と感じ、どんなことを望んでいるのか』それを理解してほしい。除去給食対応の子どもに対しても、除去しているから良いではなく、皆と違うものを食べているということを理解しておいてほしい。
 除去給食者にしても弁当持参者にしても、教育委員会と給食についての話し合いの場を一度は持ったと思う。除去給食者に対しては、皆と同じ給食を提供することは難しい(できない)と、弁当持参者に対しては、重度の食物アレルギーために給食対応自体が難しい(できない)との回答をもらったに違いない。大事なのは、『できない』ではなく『どうすればできるか』だということに、行政側も気づくべきだと思う。この点については、給食に限ったことではないが……。
 今回のこの提案が100%正しいという自信はないが、問題提起をするという点では有効だと考えている。今回の提案により、県内各地にこういった動きが広がることを期待したい。広がっていく形が、組合交渉というツールを利用したものであっても構わない。このレポートが、今まで埋もれていた“声”を拾い、多様なニーズに応え得る行政サービスの一つになることを願いたい。