【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第7分科会 貧困社会における自治体の役割とは

 2011年5月2日に公布された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(2011年法律第37号)」によって公営住宅の一部が改正されたことに伴い、今後の各自治体での公営住宅の運用と今後のあり方について提言します。



公営住宅の今後のあり方について


北海道本部/檜山地本・今金町職員組合 渡辺 泰進

1. はじめに

 2011年5月2日に公布された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(2011年法律第37号)」によって公営住宅法の一部が改正されました。これは近年の住宅事情等を踏まえ各市町村において、より住民のニーズに応えやすいようにするために改正がなされたものです。
 今回の公営住宅法の一部改正に伴い今後の公営住宅のあり方、特に過疎地域における公営住宅の需要と供給の現状を、自分が暮らす今金町を題材として提言します。

2. 公営住宅法の改正の趣旨について

(1) これまでの公営住宅の基本方針
 これまで公営住宅は、市場において自力で住宅を確保できない世帯に対し、低廉な家賃で賃貸住宅を供給することを目的としている。つまり「住宅に困窮する低額得者」をそもそもの公営住宅の入居の条件としていました。また、一般に民間賃貸住宅市場においては、間取りがワンルームや1DKといった単身者向け住宅については比較的にみて供給量が多いものの、3LDKなどの家族向け住宅については、いまだに供給が十分とは言い難く、家賃も高額となるといった実情を踏まえ、住宅に困窮する低額所得者を対象とする公営住宅におつては、同居親族を有する世帯への供給を基本とするという考えに基づき同居親族がいることが入居時の資格要件としてきました。なお、この同居親族要件には特例措置として、高齢者や障がい者は適用除外としてきました。これは、1人暮らしの高齢者や障がい者などが民間住宅を確保しようとする場合、他の単身者に比べ困難性が高いことや、バリヤフリー等の設備を有する住宅が不足している状況にあるとの考え方から、高齢者や障がい者が単身でも公営住宅へ入居できようにするものです。

(2) 近年の住宅事情
 2008年度の住宅土地統計調査によると、全道の住宅総数約234万戸のうち借家は約96万戸で、その割合は40.8%となり、その内訳としては、民営借家は約69万戸(29.4%)、公営借家は約16万戸となっています。
 借家に占める民営の割合については、都市規模に比例して高くなる傾向があり、その中でも、特に札幌市については、民営率が40.8%と道内で最も高く、戸数も約40万戸のストックを有するなど、民間賃貸住宅市場としての規模が格段に大きく、かつ成熟度の点でも群を抜いた状況にあるものの、禁煙は空き家の問題が顕在化しており、10万戸を超える状況にあるといわれています。

(3) 改正の概要と方針
 今回の公営住宅法の一部改正により、これまで入居時の条件の一つとしていた同居親族要件を廃止することとなりました。これにより、従来は特例措置として高齢者や障がい者のみが単身での入居を許されていましたが、単身者の入居の制限がなくなることになりました。
 今回の同居親族要件の廃止における利点として、若年層の単身での入居が可能となり、それに伴い住宅内での年齢層が広くなることでコミュニティの活性化に繋がる可能性があると期待されています。しかし、単身者の入居が可能になると、従来に比べ応募の倍率が上昇してしまうため本当に住宅に困窮している住民が入居できない可能性がでてきます。また、家族向けに設けられた住宅に単身者が入ってしまう可能性があり住宅本来の機能を十分に活用できなくなったり、新たに単身者向けの住宅を確保(建設等)する必要性があるなど課題が発生します。
 なお、今回の同居親族要件の廃止は、あくまでも各自治体に公営住宅の運営の自由性を設けるための措置であるため必ずしも同居親族要件を廃止しなければならないものではありません。

3. 過疎地域の公営住宅の現状について

 今金町では、近年、公営住宅の応募の倍率が上昇している傾向にあります。これは、民間の賃貸住宅では家賃が高額であるため生活が困難になってしまうことや、町中に居住を希望する人が増えてきていることなどが原因にあげられます。さらに既存で設置されていた公営住宅の多くが、老朽化が進み解体をしなければならないのに対し、財源の不足により、公営住宅の新設が不可能となっていることも原因として考えられます。
 また、公営住宅への入居希望者のなかには単身の高齢者が多くなってきているのに対し、既存で設けられている住宅は3DKや3LDKといった家族向けの住宅が多く、その住宅に高齢者が単身で入ることがあり住宅本来の性質が発揮できない実状にあります。

4. 今後の公営住宅の課題とあり方について

(1) 公営住宅の戸数の確保
 今金町では、民営・公営含め賃貸住宅が不足している状態にあります。これは、町中に居住を希望する人が増えているのに対し、民営・公営共に新設される賃貸住宅が少なく、反対に老朽化により住めなくなる住宅が増えていることが原因です。特に公営住宅は年々入居を希望する人が増えている傾向にあるなか、財源の不足により住宅の新設が出来ない状態にあります。そうした中、対応策として、既存である住宅の改修をして居住できる期間を延ばすことや、現在入居している入居者のなかで、規定以上の所得のある入居者(高額所得者)に対して退去を促すことで入居者の入れ替えを図る必要があります。

(2) 高齢者向け住宅の確保
 高齢者の入居希望者が増えていることに伴い、高齢者向け住宅を確保する必要があります。具体的には、階段等の段差がある住宅では上り下りが困難なため平屋型で各所に手すり等を設けたバリアフリーの住宅を確保する必要があります。しかし、高齢者向け住宅を設けた場合にはいくつか問題点があります。一つは、住宅内に高齢者のみが入居することにより火災や災害が発生した場合に行動が遅れる可能性があります。また、冬期間の除雪等でも、高齢者のみが住んでいる住宅では除雪作業も限られるため自治体の支援が必要になる可能性があります。また、入居者の多くが介護施設や病院等に入院しているため、入居者はいるが、事実上長期的に不在となっている住宅が多くなり、住宅本来の機能が発揮できない可能性があります。

5. まとめ

 今金町では、今後、公営住宅への入居希望者が増え応募の倍率が増える一方で、入居可能な住戸数が減ることにより慢性的な住宅の不足に陥る可能性にあります。そうしたなか今回の公営住宅法の一部改正による同居親族要件の廃止による入居可能対象者の範囲拡大は不可能ではないかと考えます。また、公営住宅への入居希望者に高齢者が多いことを鑑みると、高齢者向けの住宅の確保をする必要性があります。また、それに伴い高齢者が入居した際には福祉との連携をとり、除雪の支援などより一層入居者の暮らしを充実させられるような施策をとる必要があると考えます。