【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第7分科会 貧困社会における自治体の役割とは

 ホームレスの多くは50歳代以上であり、昨今の雇用情勢から安定した仕事に就くことは決して容易ではありません。しかし、稼動年齢層(18歳~64歳)で就労阻害要因がなく、能力活用が可能な者に対しては積極的に更生施設の職員が関わり、側面的な援助とともに就労意欲の向上に向けた取り組みを実践した結果、就労によって自立する入所者が増加した施設の実態をレポートとして紹介します。



貧困社会におけるホームレス自立支援対策
更生施設入所者への就労促進の取り組み

兵庫県本部/神戸市従業員労働組合・民生支部 森川 明芳

1. はじめに

 厳しい経済・雇用情勢を背景として、自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされている人々が多数存在しています。ホームレスの多くは公園、河川、道路等を起居の場所として日常生活を送っており、食事の確保や健康面で問題を抱えるほか、一部では地域社会とのあつれきが生じるなど早急な解決が求められています。
 これまでの聞き取り調査等から、ホームレスとなるに至った主たる要因としては①就労意欲はあるが、仕事がなく失業状態にあること②医療や福祉等の援護が必要なこと③社会生活を望まないことの3つがあり、これらが複雑に重なり合ってホームレス問題が発生していると考えられています。
 ここでは、①の就労意欲はあるが……の支援に対して、更生施設におけるホームレスの自立支援、とりわけ就労支援にライトを当てて考えてみたいと思います。

2. 神戸市のホームレス対策の現状

ホームレスの実態に関する全国概数調査(神戸市)

① ホームレス概数調査の推移
  当市のホームレスは、阪神・淡路大震災後の長期的な不況等により、増加ないし横ばいで推移してきた。
  2007年のホームレス概数調査では2003年の323人から半数以下の135人に減少し、2008年の同調査で149人、2009年の151人と多少増加したものの、その後は年々減少傾向にあり2012年には過去6年間で最低の83人となった。
  減少の要因としては、景気の動向等の影響はもとより、ホームレス巡回相談員が配置されて個別の相談・援助活動がきめ細やかに行える体制ができたこと、また全庁的なホームレス連絡会議が設置されたことで、各局の迅速かつ適切な連携が一層図られるようになったことが考えられる。
  しかし、現在は景気動向が極めて不安定で、雇用情勢も厳しくなっており、先行きが不透明な状況にある。今後も、社会情勢には十分注意していく必要が求められる。
② ホームレス対策全般の動き
  2002年8月「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が施行され、2003年7月に国の基本方針が示されたことを受けて、2004年7月「神戸市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画」が策定された。
  この第一次実施計画の期間満了にあたり、神戸市におけるホームレスの状況および対策の実施状況を踏まえての見直しが行われ、2009年度からの第二次の実施計画を策定した。これをもとに後半の5年間、地域社会におけるホームレス問題の解決を図ることをめざした。
③ 更生施設入所者の現状
  更生センター(神戸市直営の更生施設)の入所者は、元日雇い労働者だけでなく、野宿歴の短い者や刑期を終えた者、また最近では2009年のリーマンショックのあおりから大企業出身者が含まれるなど多様化が進み、その多くが失業により生活困窮に陥ったことから、就労支援による自立可能な者の割合が増加しつつあるものと認められる。
④ 生活保護制度の現状
  保護の動向については全国的に増加の一途を辿り、2005年度に加算等の保護基準の見直しと併せて自立支援プログラムの導入が行われ、制度の目的である自立助長に比重が移されてきている。
  さらに、更生施設のあり方に関しては、居宅での保護や他法の専門的施設に移行するまでの経過的な施設と位置付ける必要があるとされ、ホームレスの受け入れや入所者の地域生活への移行の支援等の役割が求められている。

3. 更生センター(神戸市直営の更生施設)の概要

神戸市立 更生センターの外観

(1) 概 況
① 種 類
  生活保護法による更生施設
② 所在地
  神戸市中央区割塚通1丁目2番20号 電話078-221-2810
③ 目 的
  身体的又は精神上の理由により、養護及び生活指導を必要とする18歳以上60歳未満の要保護者を入所させて、生活扶助を行うことを目的とする。
④ 入所定員
  50人
⑤ 設置・運営主体
  神戸市
⑥ 規 模
  敷地面積 678m2  規模・構造 鉄筋コンクリート造3階建 1,053m2

(2) 沿 革
 1954年12月 兵庫県より移譲
 1955年7月 更生施設「立行荘」として設置、認可
 1981年10月 更生センターに名称変更し、現在地に新築移転

4. 更生センター(更生施設)においての就労自立支援

(1) 全般的な方向性
 更生センター(神戸市直営の更生施設)の目的は、安定した住居の確保によるホームレスからの脱却である。それは個別事例の状況により、就労自立、居宅保護、他の社会福祉施設への入所と様々な形態をとるが、神戸市における保護の動向や制度改正の方向から考えると、更生施設といえども就労自立に重点を置いた指導援助が求められていることは明白である。


(2) さまざまな就労支援策
求職活動対象者(求職者)への支援
① 物質的な支援
  施設に入所している方のほとんどが元路上生活者で、面接を受ける際に着用するスーツ・Yシャツ・ネクタイ・革靴等の所持がなく、施設側で個人への貸し出し目的として用意をしています。
  また、面接場所までの往復交通費なども必要に応じて支給しています。ただ、実際に就労が決まったとしても通勤にかかる費用の捻出に問題があるため、就労先の所在地は出来るだけ近距離が望ましいのが現状である。
② 部屋別担当職員と就労支援員による就労意欲の助長
  更生センター(神戸市直営の更生施設)では、稼動年齢層(18歳~64歳)の者で特に就労阻害要因のない入所者には毎月2回の求職活動報告書の提出を義務付けるとともに、求職活動の低調な者に対して部屋ごとの担当職員並びに就労支援員(嘱託職員)による面接等を利用して、就労意欲の助長を促しています。
③ 面接受験後の聞き取り調査
  面接を受け、施設に帰所した入所者から面接時の印象、質疑応答の内容、また具体的な業務内容の提示や勤務条件の説明などの有無を聞き取り、記録として残す。たとえ、今回の受験者が不採用であっても、次回の面接に活かせるよう、また他の入所者が同社を受験した際に役立てられるよう、1回の面接を最大限に活用しています。
④ 求職者ミーティングの開催
  稼動年齢層であっても、傷病を理由として就労に積極的でない者、傷病もなく他の就労阻害要因がないにも関わらず漫然とした生活をおくっている者、また努力はしているものの就労に結びついていない者など、処遇に苦慮している者に対して従来どおり個別に対応することに加え、一堂に会して求職活動のさまざまな面での支援を一体的に行うため、施設内の会議室を使用して月1回のミーティングを開催し、下記のようなプログラムを実践しています。
 ア 履歴書や職務経歴書の書き方指導
 イ 実際の面接時にあった質問事項の分析で、傾向と対策の指導
 ウ 模擬面接の実施
 エ 有効求人倍率などの指標をもとに、現在の求職状況の説明や求人情報の提供

5. 就労自立の推移

これまでの就労自立者の推移
 就労支援に関しては、2006年度に就労自立30%以上という目標を掲げたところ、2006年度28.0%、2007年度39.3%と順調に推移したため、2008年度は目標を35%に上げて就労支援を行った。結果、2008年度30.4%、2009年度30.0%、2010年度44.6%、2011年度35.3%の結果となった。


更生センター(神戸市直営の更生施設)入所者の就労自立率の推移

6. まとめ

 就労支援としてさまざまな取り組みにより、更生施設入所者の就労自立率は飛躍的に向上しました。ただ、飛躍的と言っても50%にも届かない数字には、更生施設が就労指導に特化した施設ではないことが要因としてあげられます。
 更生施設の入所要件には「身体的又は精神上の理由により、養護及び生活指導を必要とする年齢18歳以上60歳未満の要保護者を入所させて、生活扶助を行う」と記されているため、施設入所者は必ずしも就労自立をめざすものではなく、住まいを確保して居宅での生活保護を継続させる者、また他の社会福祉施設に転入所する者など、さまざまな形での社会復帰となります。よって、就労自立をめざす者だけの入所であれば、就労自立率は80%~90%台に推移すると考えられます。
 もちろん、社会復帰の方法として就労に固執することはありませんし、ホームレスの中には高齢や病気、障害などで就労自立が困難な方が多く存在することもわかってきています。
 国はホームレス対策の予算を2002年度の14億円から、2012年度に115億円に増やし、仕事に就くことや住まいを確保する支援も進みました。しかし、私たちが昼夜の巡回相談で出会うホームレスの方々は、私たちの「どのような支援を望みますか?」の質問に対して、多くの方から「仕事が欲しい」との声を聞きます。
 ホームレスが減少する一方で、今年1月には全国で生活保護受給者が209万人を超え、大きな社会問題として取り上げられています。1人のケースワーカーが担当する保護世帯の数も多く、現状ではきめ細やかな就労指導にも限界があると考えられます。
 たとえば、居宅において保護を受給している単身世帯で就労意欲のある方に、更生センター(神戸市直営の更生施設)に入所していただき、求職活動に対しての支援を強化することで保護受給者の社会復帰に繋げていくという考え方はないでしょうか?
 もちろん、ショートステイのような考えではなく、施設にしっかりと根付いての活動であるため、クリアしなければならない問題は多々あるかも知れませんが、就労促進を目的とした施設の利用方法もこれからは視野に入れてホームレスの自立支援を行うことも必要ではないかと考えます。