【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

都市における集合住宅と地域社会のつながりの実態(注1)


東京都本部/新宿区職員労働組合(元新宿区新宿自治創造研究所・研究員) 大熊 賢司
せたがや自治政策研究所・特別研究員(元新宿区新宿自治創造研究所・研究員) 金  今善

1. 調査の背景、目的及び視点

① 賃貸マンションを含んだ集合住宅居住は、今日、新宿区民の主な居住形態となっている(参考1)。加えてマンションを終の棲家とする永住志向を持ったマンション居住者も増加しつつある。
② マンションの増加は、その管理をめぐって周辺環境や地域コミュニティに与える影響も大きいが、一方で地域の各種行事やお祭りなどでその共用部分を開放することで関係づくりが図れるとともに、災害時には避難場所としても活用される場合もあるなど、地域コミュニティの再構築の可能性を秘めている。
③ 一般にマンション住民は、地域から閉じられた空間に居住し、地域行事等に参加することが少なく、地域自治の担い手として登場して来ない、いわゆる「顔の見えない住民」ととらえられている。
④ しかし、町会・自治会をはじめとする地域社会側は、マンション住民との関係づくりが重要なテーマであると考え始めている。一方でマンション側でも、各種イベントや祭り、サークル活動、あいさつ運動など居住者同士の交流の契機となる多様な活動が行われており、地域の町会・自治会と一緒に防犯・防災活動を行うなど、個々に地域社会との関わりを深めている事例も多く見受けられる。
⑤ 本稿は、新宿区におけるマンションと地域社会との関係づくりの実態を把握し、それを踏まえたマンションと地域社会との良好な関係を持たせるための施策の形成に資することを目的とする。以下の3つの仮説(ア~ウ)を設定し、マンションと周辺地域社会とのつながりを成立させ、円滑に維持・発展させていく条件は何か、またそれは地域によってどのような特徴を見せているのか、について考察を行った。

 ア.マンション居住世帯の属性(年齢、家族構成など)や、管理員の対応、集会室など共用施設の有無及びその使い方などのマンションの持つ特性が、マンションと地域社会のつながりに影響している。
 イ.周辺地域社会(主に町会・自治会)のマンション居住者への働きかけなど、地域側の要因がマンションと地域社会のつながりに影響を与える。
 ウ.単身世帯の割合、高齢化率、外国人数、居住年数、定住・流動人口割合等の人口構造や、商業地か住宅地かなどのマンションが立地している周辺地域の特性が、マンションと地域社会のつながりに影響を与える。

図表1-1 マンションと地域社会のつながりの実態把握のための視点

2. 調査の対象と方法、そして経過

(1) 調査対象の選定
① 調査対象を選定するに当たっては、新宿自治創造研究所が独自に作成した「新宿区マンション実態調査データベース」(2011年1月1日現在、1,308件・60,341戸)(参考3)の中から、区関係機関等の紹介による15棟のマンションを対象に、2011年4月より事前調査を行った。
② その後、比較的ボリューム(10.3%)は小さいが、近年その増加が顕著である200 戸以上の大規模マンションと、45.6%と最も多くを占めている50 ~ 200 戸未満の中規模マンションの一部にフォーカスして整理・分析を行った。
③ その際、以下の事柄(ア~ウ)を重視した。
 ア マンションタイプの違いは、マンション管理に対する意識やマンション居住者同士のつながり、周辺地域社会とのかかわり方に特徴を生み出している。
 イ 同じタイプのマンションでも経年化に伴ってマンション居住者の年齢や家族数、暮らし方などが変わっていく。
 ウ 入居直後のマンション(およそ5年未満)では、つながりの実態を把握することは時期尚早である。
④ ただし、本稿の報告事例としては、以下の大規模マンション4棟と中規模マンション1棟に焦点を当てて、ヒアリング等から得た情報に基づき、新宿区という都市におけるマンションと地域社会のつながりの特徴を描く。

図表2-1 報告対象マンション5棟の概要
注:世帯数及び1世帯当たり人数は、新宿区住民基本台帳(2011年1月1日現在)による。

(2) 調査方法及び経過
① マンション居住者の特性の分析において使用するデータは、地図上から当該マンションの住居表示番号等を拾い出し、住民基本台帳(2011年1月1日現在)をもとに、居住者の年齢構成別や家族類型別、居住期間別の構成割合等を整理・分析し、グラフ化した。
② マンション居住者同士の交流や、マンションと地域社会とのつながりの現状及びそのつながりを規定している要因の分析においては、マンション居住者をはじめ、管理組合理事長、管理会社などのマンション関係者と町会・自治会長、民生委員、地元の不動産業者などの地域関係者に対してヒアリング調査を行った。
③ インタビューという手法によって得られた情報には、対象者の個人的な考え方が色濃く出ている可能性があり、安易な一般化を許さないという性質をもつが、統計データが示すマンション居住者の実態を一定程度裏付けていると考える。
④ ヒアリング調査対象及び質問項目は、参考4に示す通りである。

3. 事例報告 ~新宿区におけるマンション(集合住宅)と地域社会のつながりの実態~

(1) マンション居住者の特徴
図表3-1 年齢構成別割合の比較 図表3-2 世帯主の年齢構成別割の比較
注:(n)は世帯員数 注:(n)は世帯員数

図表3-3 家族類型別構成割合の比較 図表3-4 マンション居住期間別構成割合の比較
注:(n)は世帯員数
ファミリー世帯は、夫婦と子ども世帯とひとり親と
子どもからなる世帯両者を合わせたものである。
注:(n)は世帯員数

図表3-5 新宿区居住期間別構成割合の比較 図表3-6 居住期間別構成割合の比較
注:(n)は世帯員数 注:(n)は世帯員数

(2) 周辺地域社会の特性

図表3-7 マンション立地している地域の特性
注:「新宿区住民基本台帳」より作成した。
短期居住者=5年未満、中期長期者=5~10年未満、中長期居住者=10~20年未満、長期居住者=20年以上

(3) マンション居住者の近所つきあいの実態

図表3-8 マンションと地域社会との交流の現状

4. 調査を終えて

 次の図表4-1は、「3.」での検討結果をもとに、マンションと地域社会との良好な関係形成を規定している要因、又は規定しうる要因についてまとめたものである。

図表4-1 マンションと地域社会とのつながりを規定する要因の一覧

① 住宅地に立地し、中・高齢層のファミリー世帯の割合が高く、定住志向の高いマンションでは、地域社会との良好なつながりが形成されやすい。特に、子どものいる世帯の場合、子どもの通う学校のPTA活動などを通して、地域社会とのつながりがゆるやかに拡がっていく。
② 若い世帯の割合が高く、人口の流出・流入の激しい商住混在の比較的新しく開発された地区では、つながりは薄い傾向にある。例えば、Cマンションが位置する地域一帯は、業務商業地が広がっており、昼間人口が多い地域である。また、住基データからその家族構成を見ると、単身世帯が6割以上を占め、その多くは30 ~40代である。居住期間も5年未満の短期居住者が4割以上で、地縁のない世帯が多く移り住み、またすぐに転出していく。
③ 地元町会・自治会のマンション側への積極的で持続的な交流の働きかけが、マンション居住者の町会活動への参加につながった。例えば、図表3-6を見ると、Fマンションが立地するF町は、面積が小さく、F町の住民641人のうちFマンション以外のF町住民は287人で、半数以上がFマンション居住者(354人)が占めている。また、Fマンション居住者を除くF町の住民の約36%が20年以上の長期高齢者であるという特徴を持っている。
  マンションが完成した当初、F町会では当初大規模マンションの住民が一挙に入ってくることによって、既存の町会が乗っ取られるのではないかという懸念が強かった。一方、住民の高齢化や役員の担い手不足などにより、地域の力が脆弱化することを懸念していたF町会では、マンション住民との関係づくりが必要であると考え、「顔の見える町会長」「地縁いきいき」等のチラシ配布や、防犯・清掃活動など日々の地道な活動等、町会が担っている役割や機能をマンション居住者に積極的かつ10年以上にわたって発信することで、マンション居住者の町会活動への参加に結びつけた。
④ 管理組合単位での町会・自治会への参加は、必ずしも地域社会に対して関心を高めるとは言えない。すなわち、単に町会・自治会に加入しているというだけでは、地域活動への参加はあるものの、地域行事の準備等も含めた実際の活動に結びついていかない。その場合、地域の一員である意識も薄いままで、地域とのつながりが生まれる可能性が低い。
⑤ マンションには、居住者間のつながりを誘発する「広場」や「集会室・会議室」等の様々な共用施設があり、それを介して地域との連携・交流が図れる可能性が高い。Fマンションでは、マンションの集会室をF町会の定例会に貸すことで、マンション住民と町会役員との距離を縮めることができた。さらに、それは災害時には避難場所としても活用される可能性がある。すなわち、建物のハード面でのあり方が地域とのつながり・交流を図るうえで、重要な要素となる。
  ただし、Cマンションのように、若年層の単独世帯が多い場合、個のライフスタイルを重視するため、居住者同士の集会室の活用には結びついていないのが実態である。
⑥ 他に、市街地再開発の場合は、権利変換を受けた元地権者が一定割合でマンションに居住するケースが多くなっている。入居当初のマンション管理組合の理事会と周辺地域とのつながりの基盤は、この元地権者らによるところが大きいようである。

 最後に、
① 今日、都心部では、住民の高齢化や組織運営の担い手不足などを主たる要因として、町会自治会等の地域コミュニティの機能低下に加えて、マンション居住者との交流・連携の乏しさなど、地域コミュニティの運営を行う自治組織の地域代表性は低下しつつある。
② これは単に地域コミュニティの衰退のみを意味するだけではない。現在の地域分権化の流れの中で、ローカルガバナンスの一翼を担うものとして、ますます脚光を浴び役割を期待されている地域コミュニティレベルの自治組織の脆弱化を意味する。
③ ところが、これまで見てきたように、マンション内のコミュニティづくりや周辺地域社会との良好な関係を形成しようとするマンション居住者の意欲は決して低くはない。このマンション居住者を地域活動への参加に結びつけるには、町会・自治会をはじめとする多様な主体による、日頃からのコミュニケーションが重要な役割を果たすことになる。その際には、それぞれの地域特性をはじめ、マンションやマンション居住者の特徴などを十分に考慮した活動を進めていくことで、効果的な交流と連携が図れる可能性がある。

<参考資料>
参考1  建て方別にみる住宅に住む一般世帯数及び割合の推移(新宿区)
注:『国勢調査』(2010年10月)より作成。 注:『国勢調査』(各年度)より作成。

参考2 所有関係別にみる住宅に住む世帯の推移(新宿区)
資料:総務省統計局「国勢調査」
注:「主世帯」とは「間借り」(他の世帯が住んでいる住宅の一部を借りて住んでいる場合)を除いた一般世帯を示しています。

参考3 「新宿区マンション実態調査データベース」の作成手順(注)
注:ここでは、地階を除く高さ(階数)が3階以上、1戸当たりの専有面積が15㎡以上で、2010年12月までに建築された、区分所有のマンション(当初分譲に売り出されたものでも、各戸が賃貸借のように供された建築物も含む)を調査対象としている。ただし、ウィークリーマンション等の賃貸専用マンションや公共賃貸住宅は、本研究においては直接の対象としないものとした。

参考4 ヒアリング調査対象や及び調査項目




(注1)本稿は、2010年4月から2012年3月までの2年にわたり、ハードとソフトの両面からマンションの実態把握を目的として研究を進めてきた、新宿自治創造研究所の集合住宅ワーキング・グループ(WG)による研究活動の一部を再構成したものである。