【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 知名度の無い町のセールスプロモーション



知名度の無い町のセールスプロモーション


北海道本部/別海町職員組合 松本 博史

1. 無名の新人「別海町」

 2008年9月、札幌市が秋のメインイベントにと初開催した「さっぽろオータムフェスト」において、「別海町の知名度」に関するアンケートを実施しました。
 900人を越える方の協力を頂いたその結果は、「別海町がどこにあるか」、「別海町と野付半島のマッチング」といった地理的なことから「西別鮭」等の食材の認知度に至るまで想像以上に知名度が低いことが判りました。
 別海町のように生産地である場合、地域の生産物の付加価値をどれだけ高めるか、域外からどれだけ外貨を獲得するかが勝負であり、結果的に福祉や教育等の住民サービスにつながっていきます。
 日本全国各地とも地域の生き残りをかけてセールスプロモーションに力を入れている昨今、基本的なことが道民に知られておらず、まちの名前そのものすら本州においては無名に近い別海町の知名度は余程の努力をしないと高まらないのです。ユニークな話があります。一昨年の秋に千葉県の幕張で市町村アカデミーの研修がありました。自己紹介の場面があり、各人とも観光担当ですから、めいめいご当地の観光資源から話を切り出します。だいたい決まって「うちのまちは○○が有名で」と紹介しますが、私が伺う限り「そのみなさん自慢の観光資源」を知りません。一方で、別海町が「酪農日本一のまち」など本州の人は誰も知らないのです。
 北海道では有名な「北海シマエビ」などは、本州の人は食べたことすらなく、どのようにして食べたらよいのか戸惑う程です。まちの名前を知られていない。食材にブランド価値があっても埋もれている。まさに無名の新人「別海町」は、知名度をあげるためにありとあらゆる「まちのセールスプロモーション」を必要とするのです。

2. 物産で自己満足するのは勘違い

 多くの自治体職員は、観光担当、あるいは商工担当に配属されると物産の経験をします。
 物産は、まちのセールスプロモーションの一手法としては単純で消費者にとっても判りやすくファンもつくりやすいのです。当然、私も物産に汗を流し、情熱をかたむけました。いまもそうです。別海牛乳を飲んだお客さんは決まって「おいしい」、「えーこんなの飲んだことない」と評価されます。こうした反応は嬉しいものです。また、ビッグイベントに参加したり、提供する商品が人気になると多数の消費者に別海産の食を売り込むことができます。例えば、「さっぽろ雪まつり」ですと1日に1,200人を超える方にホットミルク等を提供することができました。このように物産で結果を出していくと、いつしか「いい仕事をした」とか「たくさん食べてもらった」とか、「前回よりよく売れた」とかそういった評価のみ意識してしまいます。おそらく多くの自治体職員はこうした考えに陥ります。あるとき、ふと悩みました。「あれ? 物産だけやってて意味あるかな?」無論、やらないよりはよいのです。ただ、体は一つ、時間も限られている中で、毎年、毎年、物産ばかりやっていてよいのだろうか。そうした疑問が沸いたのです。販売数や満足度の評価軸ではなく、多くのセールスプロモーションの中で物産そのものの効果を推し量るような、もっと大きな視点での評価軸を大切にするべきだと考えたのです。別海町の生産量と首都圏の消費者の数を考えたときに、たとえ2日間首都圏で2,000人の方に別海牛乳を飲んでもらったところで別海牛乳の知名度がどれほどあがるのか? と考えるようになったのです。

3. スポットだけでなく通年で売り込む

 物産に力を入れて「東京で2日間」、「札幌で3日間」といった限られた日数、限られたお客様を相手にPRすることは地道なファンの獲得方法として重要な仕事であり、現在も取り組んでいますが、ここ最近は、物産に加えて「通年で別海町のセールスプロモーションをする事業」を手がけるようにしています。重要なのは、スポットだけでなく通年で売り込むことを常に考えることです。通年のセールスプロモーションとして次のような事業を実施していますので、本レポートではその内容をご紹介します。
  ○ 新・ご当地グルメの開発   ○ 料理専門学校との連携事業    ○ 人材の登用と情報発信
  ○ 別海町酒場         ○ ご当地商品とご当地土産     ○ 別海ミルクガール

4. 新・ご当地グルメの開発~救世主「別海ジャンボホタテバーガー」

 別海町は「通過型観光」と言われます。
 実は、観光消費があるかないかで考えると「非通過型観光」であったと思います。「美しい景観」を見ても地域にお金が落ちなければ、観光に関連する宿泊業、飲食業、ガソリンスタンド、小売業等の中小企業の原動力になりません。素通りするのと、一旦足を止めるのでは、まちの活力が見た目も地域の子どもたちのまちに対する印象も違います。
 そうした「非通過型観光」であった別海町に、いまや明確な目的をもって観光客が訪れている観光資源が「別海ジャンボホタテバーガー」です。
 デビューから3年を経過し、45,000食を提供しています。
 「別海ジャンボホタテバーガー」は「別海ジャンボホタテバーガー」を売るために開発したのではなく、「別海町」を売るために開発しました。
 このため、地方の催事に出店するときは、飲食店は店を休むことがあります。決して楽な経営ではありませんし、その催事での売上げは店の収入とはなりません。旅費その他の経費となります。飲食店は、「地域貢献」のために店を休んででも「別海町」を売り込んでいます。
 北海道大会で2年連続のグランプリを獲得したのも「別海ジャンボホタテバーガー」を売るのではなく、メディアで「別海町」を取り上げてもらうために勝負しているのです。
 グランプリを獲ると獲らないではメディアの露出が断然変わってくるため、各地、戦略を練り、地域をあげて全力で臨みます。2年連続グランプリは決して簡単なものではないのです。
 別海ジャンボホタテバーガーのデビューから3年がまもなく経過しますが、この間「別海町」は頻繁にメディアに取り上げられるようになりました。
 さて、この新・ご当地グルメ「別海ジャンボホタテバーガー」。私が普及推進組織の事務局をしておりますが、富良野市の「富良野オムカレー」、芽室町の「十勝芽室コーン炒飯」、釧路市の「阿寒やきとり丼」、清水町の「十勝清水牛玉ステーキ丼」に共通するのが、自治体職員が事務局をしていることです。道外では鳥取県の「境港新かにめし」、鹿児島県の「いずみ親子ステーキごはん」も役所の職員が事務局です。役所の仕事としてはやっていません。昨年のB-1グランプリで優勝した「甲府とりもつ煮」も20代から30代の甲府市役所の中堅職員20人程度の公務員チームが戦略を練り、官民一体の体制を創りあげ初参加で全国優勝を成し遂げました。
 いわゆる「公務員バカ」が全国には多数いるのです。自治体職員は地方を元気にする可能性と素養を充分に備えているのです。自治労運動もそうですが、やはり他の自治体の職員と情報交換、切磋琢磨することは自身の自己研鑽の貴重な機会となります。公務員に限らず民間の方も含めて、食による地域おこし活動に携わる多くの全国の仲間との情報交換からパブリシティ獲得の仕掛け等、セールスプロモーションの手法を数多く学んできました。

5. 料理専門学校との連携事業 ~将来の料理人との関係づくり~

 通年で別海町の食材を売り込む方法として、国内の飲食店で別海町の食材を使っていただき、メニュー表でご紹介していただくことを考えました。このため、「札幌ベルエポック製菓調理専門学校」と連携しています。専門学校生の彼らが別海町で食材の学習をし、学校でレシピを考え、調理する。この経験が将来、料理人になったとき別海町の食材を思い起こしてくれて、ともすればグランドメニューに別海産の食材を使っていただくかもしれない。このような将来設計を描いて、同校とは様々な形で連携、協力しています。

6. 人材の登用と情報発信 ~観光情報の充実と積極的な発信~

 4月、別海町観光協会に事務局長が民間から採用されました。別海町観光協会ホームページも4月下旬から本格的に更新となりましたが、彼女が日々魅力的な情報を発信しています。
 ときには休暇に25メートルの高さのサイロに登り、別海の景観を動画編集し、ユーチューブで公開したり、地域を取材して回り、ブログだけでなくツイッターやフェイスブックを駆使して情報発信に努めています。ホームページ等ICTによる情報発信は、通年でかつ予算をあまりかけずに行うことができます。彼女は、道内の観光協会事務局長の中でも新人事務局長であるものの、ICTを活用した情報発信という分野では全道でトップクラスです。地味な作業ですが、日々、観光情報を発信することは、着々とホームページのアクセスを増やすことにつながりますので大変重要なミッションです。

7. 別海町酒場 ~行政経費ゼロのアンテナショップ~

 今年の4月、全国約200店舗の飲食店を経営する「サッポロライオン社」の皆さんが町長を表敬訪問されました。首都圏において「北海道」の魅力をもっと掘り下げて消費者に提案したいために特定の自治体とパートナーになりたく、その第一候補として「別海町」を考えているというものでした。
 私は、町長との面会後、アテンドし、町内の生産現場をご紹介しました。結果、「これは行ける」と判断していただき、すぐに社内決定のあと4月の下旬に再度、町長に「別海町酒場」開店決定の報告にお越しいただき、5月の上旬には支配人になる方が別海町の勉強にお出でになり、5月16日には東京都神田にグランドオープンとなりました。道内10の候補地がある中で、首都圏の消費者にとって無名の新人「別海町」が採用になったのは食材の魅力も去ることながら、「まちが観光に力を入れていること」、「話が早いこと」だったそうです。丁度、根室管内では道の支援により、首都圏にアンテナショップを出す構想が道から提案されましたが、首長同士の考えが一致せず破談となった経過がありましたので、民間の力で行政経費ゼロのアンテナショップが首都圏に誕生したことは別海町にとって大きな成果となりました。なんと、8月1日には大手町に2号店、3号店がデビュー予定です。この2店舗はわずか200メートルしか離れておらず、そして同じ日にデビューすることでインパクトを狙うそうです。
 店内には、観光ポスターや祭りのポスター、漁協や加工業者の漁具、酪農家がかつて使っていた集乳缶等、別海町の雰囲気を前面に出した外観、内観となっています。基本的には、別海町の食材でグランドメニューが構成されており、それだけだと足りませんので、釧路・根室管内の食材も使われています。

8. ご当地商品とご当地土産 ~地域を売るアイテムの開発~

 丁度、一昨日、札幌において有名企業との商談を行いました。別海の生乳を使って、当該企業と商品開発をし、さらに別な企業のネットワークを活用し、販売促進を図ろうというものです。また、別海町のチーズを使ったチーズタルトもまもなく商品化されます。某有名スープカレー店でも別海牛乳を使ったスイーツの商品化の研究を行っていただいています。このように地場食材を使った加工品、所謂「ご当地商品」の開発に力を入れています。
 観光協会自身も、ウシが漁師の格好をしている「べつかいりょウシくん」のキャラクターグッズや新・ご当地グルメの別海ジャンボ牛乳のジョッキグラス等、「ご当地土産」の開発に取り組んでいます。
 新・ご当地グルメを食べて、ご当地商品もお召し上がりいただき、さらにご当地土産を買って話題にして頂くような仕掛けを進めています。

9. 別海ミルクガール ~歌って踊れて牛乳の消費拡大をする社会派ユニット~

 別海町は、野付半島が最大の観光地であり、年間に数十万人単位で来訪がありますが、野付半島から他地域に流れる人が少なく、別海町の中心市街地には観光バスが訪れません。どうやって、観光客を多数呼ぼうかなと深夜に考えていました。また、物産で別海牛乳を売り込むことのマンネリ化や限界も感じていたときでした。どうにかして全国に「酪農日本一・別海町」を売る込むことができないかと悩んでいました。深夜午前1時、神のお告げがありました。アイデアが閃くことを私は「神のお告げ」と呼んでいます。それが「別海ミルクガール」だったのです。そこから妄想が膨らみ、気が付いたら午前4時でした。興奮したまま眠りに付き、起床・出勤後、すぐにメンバー集めに奔走しました。昨年の5月上旬のことです。数日後、「別海ミルクガール」が誕生しました。


別海ミルクガールとは?

・ コンセプト
  酪農日本一のまちから全国の酪農家を応援します
・ ネーミング
  レモン、いちご、まっちゃ、ハニー、カルーア、バナナ、ココア
  全て牛乳に合うフレーバー
・ 曲
  カバー曲「ミルク好き」
  オリジナル曲「ミルキータウン」
・ 宣伝戦略
  2次元キャラによるインターネットでの情報流通
  現地に行かないと会えない、ステージに行かないと会えない
・ 採用基準
  プロデューサーが決定
・ 公式サイト
・ メディア
  STV「どさんこワイド」
  STV「Dアンビシャス」
  NHK「おはよう北海道」
  UHB「U型テレビ」
  酪農情報誌「デイリーマン」最新号カバーガール

 「別海牛乳」だけPRしても、本質的な乳製品の消費拡大につながらないため、活動の目的を「全国の酪農家を応援する」というものにしました。
 オリジナル曲の「ミルキータウン」は、全国の酪農生産地にはすばらしい生乳が生産されていることを各生産地に赴く乙女の恋心とクロスオーバーさせた内容にしています。
 「別海、宗谷に、岩手の金ヶ崎、青森十和田に栃木の那須もあるよ」「千葉県嶺岡酪農発祥地、熊本阿蘇山、なんと実は沖縄も」という1番、2番の曲の歌い出しは、全国各地に生乳の生産地が広がっているということを紹介しています。
 「いろんな人たちといろんな牛が生きているから今日も元気に歩いていけるんだ」「いろんなところから いろんなおっぱい届いてるから明日も勇気が湧いてくるんだ」という歌詞には、全国の生産者と乳牛ががんばっているからこそ、いつも店頭で健康的でおいしい乳製品を買うことができるという酪農の素晴らしさ、社会的役割を表現しています。
 いま、メンバーは各地の催事に引っ張りだことなっています。プロではないがきっちりと踊り歌いこなしています。日頃は、別海町役場で働いている7人です。
 役場職員を限定して募集したわけではありませんが、結果的に役場職員のメンバーになっていることが話題となり、地域のみなさんには高い評価を頂いています。
 生乳の生産調整以降も乳価の引き下げやTPP等、酪農を取り巻く課題は解消されませんが、彼女たちの活躍が全国の酪農家の皆さんの励みとなり、一方でまだ成人したばかりの彼女たち、そして私自身も活動を通じて皆さんから数多くのことを教えられ、一層地域に貢献するよう成長していきたいと考えています。

10. セールスプロモーションに終わりはない

 以上の他にも、今年度は「最大8,000円のキャッシュバック」という宿泊増進キャンペーン、旬の時期の尾岱沼でしか食べられない「新・旬感グルメ」の開発、別海町の宿の朝食で味わえる「新・朝食グルメ」の開発、「新・ご当地グルメグランプリ北海道2012」の別海町開催を予定しています。
 何も知られなければまちは衰退します。とくに本レポートのように知名度のないまちは、セールスプロモーションを絶え間なく行う必要があります。
 ありとあらゆることを、可能な限り多くの町民のみなさんと一緒にアクションを起こしていくことが必要です。
 「観光」は「国の光を観る」という語源です。まちを光らせる観光資源を創出する仕掛け作り、ひとたび観光資源となったら、これを磨き続ける町民組織の立ち上げと普及推進の努力、このモデルをより多く地域にプロデュースしていくことで、いつしか光り輝く観光資源が数多く存在する「観光地」となります。
 別海町は、「食観光日本一を目指す北海道の新しい観光地」というキャッチコピーで売り出し中です。「食観光日本一」になれる食材と町民がいて、日本一を目指したオールアクションによって、北海道の新しい観光地になろうという目標を掲げ「食による観光まちづくり」に取り組んでいます。
 今後も、食を中心とした「セールスプロモーション」をエネルギッシュに実践し、「別海町」の知名度がより一層高められるよう職場の仲間と地域のみなさん、そして別海町を応援してくれる関係者のみなさんと一緒に取り組んでいきます。