【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 地方分権の進展、自治体財政の悪化などを背景に自治体議会が果たすべき役割は大きくなっている。一方、市民からは議会の活動が見えないという声があり、二元代表制の一方の議会への期待は高まらない。そうした中で、議会としての能力を高めるための議会改革が始まっている。本稿は議会改革の流れを考察し、新潟県柏崎市と新潟県内の自治体議会の議会改革の取り組みについて報告する。



進むか 議会改革
~新潟県内自治体議会の議会改革の取り組み~

新潟県本部/自治労柏崎市職員労働組合・自治体議員連合 池田千賀子

1. 地方分権と自治体議会

(1) 地方分権の推進
 第一次分権改革は、1993年に衆参両院において超党派の地方分権推進決議が可決したところから始まると言われている。そしてその成果は、1995年の地方分権推進法の制定と、地方分権推進委員会の勧告を経て2000年に施行された地方分権一括法であろう。こうして機関委任事務制度は廃止され、自治体の長を「国の機関」の立場から解放した。第二次分権改革は、「平成の大合併」と経済財政諮問会議が司令塔となった「三位一体の改革」が推し進められたことであろう。2007年に発足した地方分権改革推進委員会は4次にわたる勧告を出し、民主党に政権が変わった後の2010年に地域主権推進一括法が提案され、2011年に成立した。
 地方六団体は真の地方分権を進めるために、意見書を提出するなどして積極的に関わってきた。少しずつ中央集権体制から分権化に向かってきたわけだが、重要である筈の執行機関を監視する議会については、あまり機能強化が進んでこなかった側面もある。

(2) 地方分権時代の自治体議会
① 自治体は首長と議会の二元代表制
  国においては議院内閣制を用いており、国会が最高機関であり唯一の立法機関であるが、自治体においては、議会と首長(執行機関)は互いに独立し対等の立場である「二元代表制」である。首長が当該の自治体の事務を管理し執行する職務であるのに対し、議会は執行機関に対する監視を行うことによって適正な行政の執行を確保する役割を担う議決機関である。制度の上では対等・独立の関係にある議会と首長であるが、議会は執行権がなく、執行責任を負わないという仕組みゆえに、首長が優位な仕組みになっている面があることは否めない。首長(執行機関)側にしてみれば、事務の執行には議会の議決を経なければならないというハードルが存在するが、執行機関の持つ情報の量の多さや専門性の高さから、首長優位性は確かに存在する。しかし首長の公約や考えが必ずしも間違いのない完璧なものであるとは限らず、議会が、首長が実行しようとする事案を監視したり是正を求めたりするからこそ、議会としての存在意義がある。議会に執行責任がないからと言って、例えば厳しい財政状況に陥った責任を首長だけが負うのか、議会としての監視の責任や議決してきた責任はないのかということも当然議論の遡上にあがるべきである。

② 存在意義を見出だしたい自治体議会
  近年、対立する首長と議会の問題が取り上げられる機会が増えた。有権者から支持されて当選した首長は自らの政策を実行することこそが民意にかなうと考え、議会がそれに異を唱えた場合に対抗措置をとるケースがある。このような場合に住民が首長を支持することも少なくない。その背景は何なのか、議会は考えてみなければならない。しかし首長が首長の意に沿うような議会をつくろうとすることは、二元代表制に反している。一人の首長が思いのまま、行政事務を執行できる環境をつくろうとしていることに他ならないからである。
  自治体において二元代表制という仕組みをとっているにも関わらず、住民の期待が首長のみに向く傾向があるのはなぜか。今、多くの議会が自問自答し、「住民に支持される議会」に生まれ変わりたいと努力を始めている。

2. 進む自治体議会改革

(1) 地方自治法の改正
 地方制度に関する重要事項を調査審査する地方制度調査会は、分権に関する答申を出してきた。それによって、地方自治法の改正がなされ、改革を進める自治体議会は法の裏付けを得てきたことになる。表1は、近年の地方議会関する主な地方自治法の改正である。

表1 近年の地方議会に関する主な地方自治法の改正(出典:全国市議会議長会 創立80周年記念誌)
改正年
改正概要
関連する地方制度調査会答申など
1999年
・機関委任事務廃止に伴う条例制定権等の拡大
・議員定数の条例定数制度の創設
・議員の議案提出要件、修正動議の発議要件の緩和
地方分権推進委員会勧告(1997年)
2000年
・地方議会の意見書の国会提出
・政務調査費制度の創設
・常任委員会数の制限廃止
議員立法による
2002年
・議員派遣について、その根拠及び手続きを明確化
・議会における点字投票を導入
・直接請求の要件緩和等
第26次「地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方財源の充実確保に関する答申」
2004年
・議会の定例会召集回数の自由化 構造改革特区提案に基づく改正
2006年
・議長への臨時会の招集請求権の付与
・専決処分の要件の明確化
・複数常任委員会への所属制限廃止など委員会制度の改正
・学識経験者等の知見活用
・政策立案機能強化
第28次「地方の自主性・自立性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申」
2008年
・議員の報酬に関する規定の整備
・議会活動の範囲の明確化
議員立法による成立
2011年
・議員定数の法定上限の撤廃
・議決事件の範囲の拡大
第29次「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」

(2) 自治体議会改革の動き
 法改正による裏付けもあり、住民に支持される議会を目指して全国で議会改革の動きが活発になっていく。その改革の中身は、情報公開や住民参加、議会運営、政策形成などに分類することができる。具体的活動としては、議会報告会や議員間討議などがあるが、これらの分類は表2のとおりである。議会の理念を明文化し具体的改革項目を盛り込んで、議会の規範として位置付けたものが「議会基本条例」である。


表2 議会改革の項目
議会改革の分野
具体的活動
情報公開
・本会議や委員会の中継  ・議会報などの発行  ・議案の公開
・政務調査費の使途公開  ・市民からの意見の受付    など
住民参加
・本会議、常任委員会、特別委員会、議会運営委員会、全員協議会などの公開
・請願者、陳情者の発言や説明機会の保障 ・公聴会 ・議会報告会  など
議会運営
・一般質問の一問一答方式  ・首長の反問権   ・議員間討議
・通年議会         ・住民投票条例   ・行政視察報告
・議長選所信表明      ・議長の在任期間       など
政策形成
・議会としての政策提言   ・議員発案の政策条例制定   など

 また「自治体議会改革フォーラム」や「日経グローカル」「早稲田大学マニフェスト研究所」などが、各自治体議会における改革の程度について調査公表するようになり、このことがそれぞれの議会改革を急ぎ競うというモチベーションとなっていった。日経グローカルは、各議会に独自の調査を実施し、その回答に加点配点を行って議会の改革ランキングを公表している。このことに、各議会は少なからず関心を持っていると考えられる。2012年5月発行の日経グローカル議会改革度ランキングでは千葉県流山市議会が全国第1位、次いで三重県鳥羽市議会が第2位、佐賀県嬉野市議会が第3位であった。
 新潟県内で最も上位にランキングされたのが上越市議会で全国第5位であった(日経グローカル№196)。他にも、新潟市議会や新発田市議会が議会基本条例を制定し、改革に取り組んでいる。

3. 新潟県内市議会の改革

(1) 柏崎市議会の議会改革
 筆者が所属する新潟県柏崎市議会は、1998年に「議会の地位と権限に関する調査特別委員会」を設置し、24の項目について検討、一定の結論を出している。これは、議会と首長がより独立した立場となるためには、議員個人の研鑽はもとより、従来の仕組みの見直しが必要との認識によるものである。しかし抜本的な改革には地方自治法の改正が必要で、一議会の裁量で改革できるものには限りがあった。(1999年2月に最終報告)
 これと合わせて、改革改善が必要と考えられる項目については、その都度議会運営委員会において協議され、改革がはかられてきた。改革を検討・実施した項目は、表3のとおりである。


表3 柏崎市議会における議会改革の主な取り組み(1998~2010年)
期  日
取り組み事項
1998年3月
行政機関とともに情報公開条例の制定
1998年6月
「議会の地位と権限に関する特別委員会」設置についての決議可決
1999年6月
正・副議長選挙における所信開陳、地方自治法改正を求める意見書提出、委員会の全文記録化の要望、委員会審査の公開、議場における質問席設置(首長と対面で質問)、議会傍聴規則改正
2000年度から
市民への議会活動の理解促進として、議員が議会だより編集委員会に参画並びに、夜間・休日議会の開催
2001年5月
会議録をインターネットで公開
2004年7月
一般質問の日程・時間、休日・夜間議会、議場のバリアフリー化、議会中継インターネット配信、議会事務局体制などについて首長に要請
2006年2月
代表質問の時期、発言内容、発言時間、通告などについて決定
2006年9月
議会インターネット中継開始
2009年9月
議会改革特別委員会設置についての決議可決
2010年6月
議員定数条例改正「30人から26人に削減」、議会改革特別委員会委員長が辞任

 柏崎市議会は2009年9月に再び議会改革特別委員会を設置し、市民の関心が高い「議員定数」問題に先行して取り組むことを決めた。しかし定数削減については議員の賛否が分かれる。結局、特別委員会委員長報告は「削減と現状維持」の両論併記とならざるを得なかった。そのため、特別委員会での検討が定数削減に結びつかないと考えた削減推進議員が、2010年6月定例議会に定数を「30人から24人」に減らす定数条例の改正を提案。これに対し削減に反対していた議員らが、定数を「26人」とする修正案を提出するという混乱が生じた。結果は修正案が賛成多数で可決した。この一連の事態によって、互いの信頼関係は崩れたとして特別委員会の委員長が辞任し、議会改革は頓挫した。
 柏崎市議会は、この後2011年9月に再び議会改革特別委員会を設置する。議会改革特別委員会の取り組み体制は、図1のとおりである。議会改革の項目の中には、議員全員の意見が一致しやすいものがある一方で、議員定数問題のように市町村合併後のそれぞれの地域事情もあり、意見が一致しにくい項目もある。


柏崎市議会 議会改革特別委員会における取り組みの体系(図1)


(2) 新潟県内の議会改革
 ここまで地方分権の流れと議会改革の機運の上昇について見てきたが、改革の歩みは足並みが揃っているわけではない。改革の意識と改革の実施には、差が生じてきている。この差はなぜ生じたのか。新潟県内の二つの市議会の取り組みについて聞き取り調査を実施した。
① 新潟県上越市議会の取り組み
  上越市議会は各議会改革ランキングで、常に上位に位置している。2011年に議員が発案し制定した中山間地域振興条例は、早稲田大学マニフェスト研究所・マニフェスト大賞実行委員会主催のマニフェスト大賞で最優秀成果賞を受賞した。
  どの議会にも、個人の議員として高い能力を発揮している議員は存在するものだが、集団としての「議会」が、改革を通して力を発揮するためには、議会全体が議会としてのあるべき姿と行うべき活動について十分に共有し理解が深まらなければならない。上越市議会だより(160号)によれば、1988年の本会議のテレビ中継を実施したのが議会改革のあゆみの始まりとされているが、2002年に第一次議会活性化検討委員会、2006年に第二次議会活性化検討委員会を設置し、議会改革の取り組みを加速させる。この後2010年には、議会基本条例を制定することになるのだが、これらのきっかけを作ったのが、山岸行則議員(現上越副市長)をはじめとした改革派の議員であった。当時、改革を牽引した議員は、なぜ改革を進めようとしたか。次の四つの背景があったという。
  一つには、財政問題をはじめとした上越市が抱える問題に対する強い懸念があった。旧上越市の財政課題に加え、間近に迫る14市町村合併後の財政に対する危機感があったという。市が実施しようする施策に財政的裏付けがあるかの監視など、議会として十分機能を発揮しなければならないという問題意識が強かった。二つ目には、議長選に見られるような大会派による数の力での議会人事を変えていきたいという、民主的議会運営をめざす必要があるということである。三つ目には当選した新人議員が、議員間での討議がないことに問題意識を持ったことや、多くの議員が「議会として市民との対話の機会が少ない」ことを変えたいと考えたことなどがある。そして四つ目には、全国で始まっていた議会課改革の流れである。
  こうした背景の併せて、合併によって旧町村の首長の中に新市の議員に当選する者もおり、強く議会改革を意識した議員たちが議会全体を牽引しようとする動きが起こっていった。
② 新潟県加茂市議会の取り組み
  2012年5月発刊の日経グローカルの議会改革度ランキングでは、新潟県内市議会の中で加茂市議会は最下位に位置している。加茂市議会は一般質問の一問一答方式を導入しているが、他の改革の取り組みはほとんど実施していない。現議長は更なる改革に取り組む必要がある考え昨年、議会運営委員会に対して「インターネット中継」や「表決した議案に対する賛否の公開」などの実施について諮ったが、一部の議員が「時期尚早」だとして意見の一致を見ることができなかった。何らかの予算を伴う改革は、実施が困難であろうというのが理由であったと言う。議長は改めて今年、議会改革の必要性を議員に訴えるとともに、「インターネット中継」「表決した議案に対する賛否の公開」「議員間自由討議」「市議会だより編集への議員の参加」「議長交際費の使徒基準と支出内容の公表」「議員定数の検討」などを検討する議会改革推進特別委員会設置を諮問するとしている。

(3) 新潟県の自治体議会改革が見えること
 これまで見てきたように、改革に共通していることは、議会改革を強く意識している議員の存在と、その声にどれくらい呼応する議員が存在するかということだ。特に議長は、議長会など他の議会の改革状況を知る機会に恵まれ、議長同士で意見交換を行う場面もあるため、議会改革の先導役になりうる。しかし議長が、自らが所属する議会の改革が遅れていると感じ、他と「見劣りしないための改革」では、改革の必要性を強く感じた改革とは中身が異なることは言うまでもない。議会改革は、「首長の反問権」や住民の前で議会報告を行う「議会報告会」など、議員としては導入を歓迎しない項目もある。改革に消極的な議員から異論を唱えられないよう、またきちんと改革の意義を理解してもらいながら進めていくためには、牽引する議員は意欲と見識を持って引っ張る必要がある。
 大きな課題は、議会による改革を市民にきちんと理解していただき、議会を活用していただくことだ。議会に対する市民の批判は大きいが、一方で間接民主主義である議会を活用し尽くすという意識はまだ希薄ではないか。議会報告会を実施しても参加者は少なく、また結局は地域要望の会になってしまうことが多いことがその例として挙げられる。自らを改革しようとしている議会に対して、議員定数や報酬だけではない意見や要望が寄せられ、市民と議会が一体となった活動が展開されれば、真の二元代表制としての自治体議会になっていくものと考えている。