【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 地方分権が進展し市民ニーズが多様化・高度化する中、地域の果たす役割が重要視されています。今回のレポートは、市民が提案した事業を市民の寄附によって市民が実施した事例「坂井市寄附による市民参画制度」による「坂井マイロード事業」のかがしによるまちづくりを紹介します。



「坂井市寄附による市民参画制度」をとおして
市民協働のまちづくりを考える
「淵龍関」の活躍

福井県本部/坂井市職員組合・行政経営課 山田 雄一

1. 「坂井市寄附による市民参画制度」

(1) 坂井市の現状と制度の概要
① 合併による坂井市
  坂井市は、2006年3月20日旧坂井郡4町(三国町・丸岡町・春江町・坂井町)が合併して誕生しました。坂井市は合併時の激変緩和と地域の独自性を重視し、合併特例法による地域自治区制度を採用しました。これにより自治区独自の施策や事業について考える一種の諮問機関として地域協議会が各自治区に設置され、旧町の庁舎はそれぞれ総合支所として地域振興課が設置され、市民に身近な事業を担うことになりました。
  湊町三国町・城下町丸岡町・平地で穀倉地帯の春江町、坂井町と地域の特色を活かしながら、ひとつの市として魅力あるまちづくりをめざしてします。
② 寄附による市民参画制度
  今回取り上げた「坂井市寄附による市民参画制度」とは、市民自ら市政運営に参加するという観点から、ふるさと納税制度の有効活用を目的に2008年度議員発議により制定されました。4つの対象事業に対して、広く一般から寄附を募集し、目標額に達したところから事業を実施するというものです。4つの対象事業は、①協働のまちづくりに関する事業、②子どもの健全育成及び教育に関する事業、③環境対策に関する事業、④地域自治区の特色を活かす事業です。今回取り上げたのは、④の「地域自治区の特色を活かす事業」の内坂井自治区の事業として選定された「さかいマイロード事業」です。①から③は一般公募により坂井市全域の事業として募集し、④は各地域協議会で地域独自の事業として選定します。市民が考えた事業に対して市民が寄附という形で参画する協働のまちづくりの一環として実施されました。寄附金は、一口5,000円とし基金により管理されています。

(2) さかいマイロード事業の実施
① 自治区メニューの選定
  坂井地域協議会では、事業メニューの検討に当たり委員が各自意見を持ち寄って協議を始めました。「記憶に残るものを」との考えから、さかい夏祭りの「かがしコンテスト」の作品を展示しようということで意見がまとまりました。
② さかいマイロード事業
  坂井自治区は東西に北陸自動車道丸岡インターから福井新港への連絡道路、南を福井市に北はあわら市に接し南北に幹線道路が通っています。主要な交差点に交通安全標語を記した、モニュメントを設置して交通安全啓発を図りながら、坂井自治区への愛着心を育成していこうというのが狙いです。
  坂井自治区は、山も海もない平野部で、米作の盛んな地域です。従来から地域のまつりとして「さかい夏祭り」があり、その中のイベントとして1989年から、米どころ坂井のPRと市民のふれあいを目的に「かがしコンテスト」がはじまり、これまで1,000体以上のかがしが製作されました。最近では見られなくなったかがしですが、かがしと言えば、通常一本足のものを思い浮かべますが、坂井町のかがしコンテストには台座部門というものがあり、しっかり固定された立派なモニュメントになっています。当初の祭りで作成されたかがしはコンテスト終了後、坂井のPRのため展示されてきました。年間を通して交差点などに交通安全標語と一緒に設置され、交通安全と坂井のPRという役割を発揮しました。今ではそれが長い年月をかけて広く近隣市民にも認識され「牛の交差点」・「鬼の交差点」として名物交差点となっています。この名物交差点を2箇所増やして、町内4箇所にしようというのが「さかいマイロード事業」です。かがしコンテスト当初の作品である「牛」は色を塗りなおし細部を修繕しました。「鬼」は長年の風雨で破損した時に、「もう一度設置して欲しい」との声が市内外から寄せられ、その都度地域の手によって造り直されてきました、現在は3代目「鬼」となっています。設置された場所は田園地域で周囲に建物がないこともあり、「牛」や「鬼」は人に道を説明する上で道案内の目印として広く利用されてきたようです。「牛がいる道を……」とか「鬼の交差点を……」など友だち同士の会話にもよく出てきます。今では道路の他、JR丸岡駅舎や道の駅「いねす」にも展示されています。
  今回の事業は、2011年度事業として目標額を300万円として選定されました。実際の財源は地域活性化補助金等も活用して実施しています。今回のかがしは、坂井町上兵庫青壮年会に委託し実施されました。また今年度も「かがしコンテスト」の作品を利用して1箇所の設置をめざす「さかいマイロード事業」は継続中です。
③ 地域自治区の特色を活かす事業


事業一覧
自治区名
事  業  名
事業費
三国自治区
三国祭の保存伝承事業(山車人形制作)
200万円
歴史と文化の薫るまちづくり事業(観光案内板・レンタサイクル整備整備)
700万円
丸岡自治区
古城まつりグレードアップ事業(大名行列衣装・備品購入)
500万円
「観光地丸岡城」を全国に発信する事業(ゆるキャラ着ぐるみ作成)
300万円
春江自治区
ハートピア春江イメージアップ事業(桜並木の照明)
150万円
ゆりの里グレードアップ事業(樹木・遊具の設置)
150万円
坂井自治区
さかいマイロード事業(モニュメント設置)
300万円
さかいマイロード事業(モニュメント設置)継続事業
185万円
自治区上段:実施済み事業
自治区下段:寄附募集中事業(さかいマイロード事業は事業着手済み)

2. 地区青壮年会によるかがし製作

 今回かがし製作の委託を受けた坂井町上兵庫区は今まで23年間「さかい夏まつり」にかがしを出展してきました。かがし製作が区青壮年会の恒例行事であり、絆を深める場ともなっています。このようなことから市の委託を受け製作に取り掛かることになりました。上兵庫青壮年会では、題材・作成方法について検討を初めましたが題材は設置する地区名「大関」にちなんで「関取」を製作することになりました。今回は屋外への長期展示が条件とあって、素材に関しては様々な情報を集め、グラスファイバーにより製作することとしました。今まで何十体も製作してきたとはいえ、慣れない素材に悪戦苦闘しながら約3ケ月半を掛けてようやく完成しました。高さ3.5mの立派な「関取」の完成です。名前は平安の頃、龍が潜んでいると恐れられた「淵龍の池」から「淵龍関」と名付けられました。かがしは、夏まつりに出展の後、交通安全標語を取り付け無事交差点に設置されました。今頃上兵庫青壮年会では今年も「かがしコンテスト」に向けてのかがし作成が始まっていることと思います。
 また、坂井市職員組合でも、「市の行事には積極的に参加する」という考えから「三國湊帯のまち流し」や「丸岡総おどり」などに参加していることもあり、2011年には「かがしコンテスト」にも参加しました。始めての参加ということで一本足部門への参加となりました。作成したのは市の鳥である「かもめ」を題材に、傘やカラーコーンを駆使して約1月かけてようやく出来上がりました。惜しくも入賞することは出来ませんでしたが作成したかがしは今も職員組合事務所前に展示してあります。

3. 今後へのつながりと地域の発展

 「さかいマイロード事業」は今年の事業で庁内4箇所の設置が完了することになります。坂井町主要道路の東西南北にそれぞれ設置され、坂井市のPRと皆さんの交通安全を願っています。昨年のかがしコンテストには45体の出展があり、中学校や幼稚園、企業など10体以上が坂井町以外から出展されています。少しづつ坂井市全体の事業として広がって行けばいいと感じています。
① 寄附による市民参画制度のメリット
  この事業は、市の予算、つまり税金で実施することに馴染まないものを実施できるというメリットがあります。地域独自の事業を選択して、賛同する市民参画により実施できる、地域独自の市民のニーズに応えた事業だと言えます。
② 最後に
  坂井市は総合計画で市民協働を前面に、公民館単位でまちづくり協議会を設置してきました。まちづくり協議会では、地域団体と連携しながら地域に密着した事業を実施しています、ようやく公民館を地域の拠点として、「地域協議会」「まちづくり協議会」「各集落」「各種団体」などの新たなつながりによるまちづくりが始まったところです。
  近年、合併により設置された地域自治区が設置期限を迎え廃止される事例が見受けられます、坂井市でも地域自治区の設置期限は2016年3月末までとなっています。坂井市としての一体感と地域の独自性をどのようにバランスを取っていくのか、近い将来必ず検討しなければならない時期が来ます。
  近年地方分権の進展により公共だけの力でなく「自助」や「共助」によるまちづくりが各地で展開されています。「新しい公共」として注目されている協働ですが、「公共の押し付け」にならないよう、今回の事業は寄附による市民の参画により住民主体のまちづくりのひとつの形として紹介させていただきました。
  設置されたかがしは今後「相撲取りの交差点」として広く認識され交通安全と坂井市のPRの役割を果たしてくれると思います。今年の「さかいかがしコンテスト」が非常に楽しみであり、私の他にも新しい名物交差点ができるのを待っている人が大勢いることと思います。坂井市は三国町の東尋坊や丸岡町の丸岡城が有名ですが、その間にこの名物交差点があります。かがしが道案内をしますので一度立ち寄って下さい。

資料