【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 1990年代以降、規制緩和が進み、地域格差の拡大から「限界集落」といわれる状況も生まれている。一方、過疎地は安心・安全な食料や水、エネルギーの供給源でもある。認定NPO法人ふるさと回帰支援センターは都市住民の「ふるさと回帰」を支援すべく2002年に設立された。2011年に大阪ふるさと暮らし情報センターが実施した自治体アンケートから移住・定住施策の今後の課題を読み解き、受け皿作りに向けた自治労の役割を提言する。



都市と農村との移住・交流政策の推進で地域活性化・再生を
持続可能な自立した地域づくりに向けて

大阪府本部/認定NPO法人ふるさと回帰支援センター・大阪ふるさと暮らし情報センター・所長 
植本眞砂子

1. 「ふるさと」とは?

 皆さんは、「ふるさと」についてどんなイメージを持っておられるでしょうか? 室生犀星の詩にある「ふるさとは遠きにありて思うもの……」でしょうか? 唱歌「ふるさと」の情景でしょうか? 「帰りたい」「帰ろう」という思いがあるものではないでしょうか。
 東日本大震災以降「ふるさと」についてのイメージは変わったのでしょうか? 大阪では、9月23日に連合大阪・労働者福祉協議会・大阪府社会福祉協議会・大阪市社会福祉協議会・堺市社会福祉協議会・労働金庫・全労済・ふるさと回帰支援センターが実行委員会を作り、大阪府・大阪市・関経連・大阪商工会議所などの後援で東日本大震災復興支援「大阪から元気を届けようチャリティバザール」を開催した。その中で、「ふるさとアンケートと福島県民へのメッセージ」を参加者にご記入いただいた。アンケートでは、「3・11東日本大震災で、あなたのふるさとに対するイメージは変化しましたか?」という問いに対して、「変化した44%、変わらない51%」で、「変化した」と答えた方への「どのようにイメージが変わりましたか?」に対しては、「より近いものになったが79%、より遠いものになったが7%」でした。ふるさとについてのイメージは、「自然が豊か」「のどか」「地域のつながりが強い」「人情味がある」「自然が厳しい」「仕事がない」「生活に不便」「暮らしやすい」「豊か」「さびしい」の順でした。


2. 日本の農山漁村の現状

 1990年代に規制緩和が進み、格差が拡大し、過疎化の進展とともに「限界」集落という状況が生まれ、少子高齢化が一層進んだ中で地域活性化・地域再生が緊急の課題となってきた。これらの状況は、新自由主義による産業・経済政策と相まって、一層の過疎化、都市と農村との格差を広げていった。
 この間、過疎地対策は「活性化特別措置法」から「自立促進特別措置法」と姿を変え、過疎地域の直面する危機的な状況の一方、安全・安心な食料や水、エネルギーの供給、国土の保全など国民の生活を支える公益的機能を有しているとも言われている。
 一方、農業就業人口は、2000年の390万人から10年で260万人に33%減少した。耕作放棄地は、2000年34万haから2010年40万haに増加した。飽食の時代といわれるが、食の安心・安全は脅かされ、食料自給率は40%を切り、OECD30カ国中27番目となっている。
 都会では、生活保護世帯が増え続け、自殺者や行き倒れや餓死する人が毎年増えている状況のなかで、若者は非正規の仕事や雇用におけるミスマッチも多い状況で、農での自立を求める若者が増えてきているという状況がある。また、子どもたちを豊かな自然で育てたいという子育て世代は「エコライフ」「スローライフ」「ロハス」などをキーワードに、快適生活を求め田舎暮らしをという層が増えてきている現状がある。

(1) NPO法人ふるさと回帰支援センターの必要性
 そして、団塊の世代の定年退職が2007年から始まり、65歳満額年金支給開始の2012年度に向けて都市生活者の暮らしを検討するなかで、産業・経済が都会に人を呼び寄せたが、もう一度地域に返す時ではないかという政策提起を1998年連合が行った。それに呼応する形でJA全中が連合や生協などに呼び掛けて「食料・農林漁業・環境フォーラム」を立ち上げ、ふるさと回帰運動をNPOとして取り組むことを提言し、2002年11月NPO100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター(略称:ふるさと回帰支援センター)を設立し、2003年4月内閣府の認証を受けた。理事長は立松和平氏(2010年2月逝去、後任理事長に見城美枝子氏)、設立参加団体は、連合、全国農協中央会、全国漁業協同組合連合会、全国森林組合連合会、全国農業会議所、全農管材、日本生活協同組合連合会、生活クラブ連合会、DEBANDA、大地を守る会、などで2004年に経団連が参加するなど運動的広がりを見せている。2004年に実施した連合組合員5万人調査では、40.3%が「都市生活からふるさと暮らし」を希望していた。ここ数年、「ふるさと回帰支援センター」への若者の来訪者、相談者の想定を超えた増加がある。


3. 自治体や地域における課題
 〜移住・交流に関する各種調査から見えてくるもの

(1) 若者の田舎暮らし志向の増加=全国10万人アンケート
 「2007年団塊の世代定年退職開始、2008年リーマンショックの多大なる影響という環境の激変を受けて、『ふるさと回帰』は構造的な変質を遂げているのではないか。とりわけ『働く場』の問題」のふるさと回帰への影響はどのようなものかという問題意識で実施された「ふるさと回帰の変容〜全国10万人アンケート調査結果」(鰍モるさと回帰総合政策研究所:2009年8月実施)は、「『ふるさと回帰』は、構造的変化をはじめている。主役は、これまでの“団塊の世代”から、“若者”にシフトしはじめ、田舎で“悠悠自適”に暮らすよりも、“田舎で働く”ことが選好されはじめた。ふるさと回帰は『都会での“雇用”よりも、田舎での“起業”、生業おこし』を具体化する。」と結論付けている。

(2) 移住・交流モデルの変化=総務省調査
 総務省の都市から地方への移住・交流の促進に関する調査報告書では、移住・交流の傾向の変化を2パターンから3パターンに変更し「新たな移住・交流モデル」を示している。それは、@仕事やりがい、探究派(新規就農や起業、IT分野、趣味と実益)A生活革新、チャレンジ派(子育て環境、仕事、教育・医療環境)B悠々自適、暮らし満喫派(着地型観光、二地域居住)で、それぞれのモデルや行動期(関心⇒準備⇒行動⇒維持)ごとに「地域の窓口、世話役等に求められる機能・具体的な仕事(例)など」を詳しく例示している。

(3) 施策を推進する自治体の共通点と悩みが浮彫に=ふるさと回帰支援センター・大阪ふるさと暮らし情報センター自治体調査
 2011年の9月の(「ふるさと回帰フェア2011」の前日、フェアに出展する自治体の担当者向けのセミナー)セミナー実施に向けて自治体担当者の今後の事業実施に役立つ交流のためにとの問題意識から、具体的な事業推進体制やNPOとの連携、予算、具体的施策の中味などを詳細に記入いただく内容で調査を実施した。(2012年9月集約で第2回調査を実施中)
 その結果、16県64市町村から回答をいただき、集約を冊子化した。予想通りではあるが、受入れの地域態勢に大きな差があり、移住希望者、移住者へのフォロー体制による移住者の差や、すでに移住した人を中心にNPOを立ち上げ、受け入れ支援や地域おこし事業、ネイチャーガイド等を実施している地域や自治体でワンストップ窓口を設置し地域の受け入れ協議会やNPOと連携している自治体は、移住者を呼び込めるということがいえる。
 各自治体の悩み、自治体間交流で意見交換したい課題を集約すると、問題点が浮かび上がってくる。
 その主なものは、全国の「地方」に約300万戸存在するといわれる「空き家」で、貸したり売ったりという「市場性」を持つものは、1%の3万戸といわれているが、この課題解決のための情報収集やノウハウ、回収費用や取得に関する助成制度、行政としてのかかわり方などが一番多かった。
 次に、雇用確保・就業支援、情報発信・PRのノウハウ、その他支援制度(体験ツアー、定住奨励制度、ユニークな移住セミナーや相談会など)、各団体・地域との連携及び役割分担、地域住民等の移住者受け入れ意識の醸成、連携方法、移住者のアフターフォロー、要望対応の情報共有化、移住者の実績把握、大都市圏での移住・交流促進拠点のあり方、他県とのネットワーク・コミュニティ形成の可能性などが続く。移住・交流の促進で地域を活性化させたいと思っている自治体の悩み・問題意識は共通なものがある。
 市町村の事業の状況をみると、移住・定住情報の提供やホームページでのPR等、情報を提供する取り組みは多くの市町村で実施されているが、県では全体の半数以上で実施されていた都市部での相談会の実施は、市町村では回答市町村の半数以下にとどまった。
 また、住宅に関する取り組みに関しては県より多様に取り組まれている傾向にあり、全体の半数以上が空家バンク等を設置しているほか、お試し住宅の設置、空家改修費補助等、県では見られなかった定住住宅の支援を行っている市町村も見られた。都道府県に比べて住民との距離が近い基礎自治体の特性が、施策の実施傾向にもあらわれていると考えられる。情報、住宅以外の取り組みも広く行われており、またいずれにも分類されない自治体独自の取り組みが多いことも、住民との距離が近く特性が顕著に表れる基礎自治体ならではの結果である。なお、人口や人口密度、高齢化率等との数値指標と、施策の実施状況に明確な相関関係は見られなかった。

(4) 特徴的な「移住・交流事業」の事例の紹介
@ 和歌山県
  「田舎暮らし応援県わかやま推進会議」加盟の14市町(未加盟16市町村)には、各役場にワンストップパーソン(役場職員)と受入協議会(地元のNPOなど)を設置(顔の見える移住促進窓口)し、空き家や雇用探し⇒受入⇒定着のためのフォロー体制を整備し、成果を上げている。2012年度県レベルでの事業としては初めて「和歌山で起業する人への支援事業」を実施。ほぼ毎月「大阪情報センター」でセミナーと相談会を実施。
A 大分県湯布市(当センターでのセミナーでのご本人のお話し)
* NPOとの連携、特に移住した方の提起を地域で実践している例
  人口41人、高齢化率65.9%の地区に移住し、家を建て近隣の方との信頼関係を作り、田んぼと畑を借りて有機無農薬の野菜やコメを作っている方が、「地域の人たちと一人暮らしの老人世帯をどう見守っていくか考え抜き、ヤギを飼う」ことにしたという。「ふれあいヤギの会」を発足させ、地区の中心部に土地を提供してもらい、ヤギ小屋を建て、共同新聞受けを設置した。ヤギのえさやりと毎日の新聞受け取で「安否確認」ができる。広場に出てきた人たちの交流がある。ヤギは、雑草を食べてくれる。という状態だそうだ。この事業は、大分県の「小規模集落対策事業」を活用して、2009年から実施されている。
B 鳥取県、熊本県上天草市など
  転入者にアンケートを実施し、田舎暮らし目的の移住者の実態を把握。各事業に反映。
C 福井県若狭町
  次世代定住促進協議会設置(商・工・農・学校長・自治会・議会など地域代表)
  ⇒立命館大学政策科学部の協力で「次世代定住意識調査」を実施、実施結果の住民説明会と意見交換会を実施。調査は、町内の小学校5・6年生、中学校1〜3年生、町在住の高校生、若狭町の中学校を卒業した18歳〜22歳の全数調査で、2,340人に実施された。回収率は小学生100%、18歳〜22歳25.5%と差はあるが、トータル64.7%だった。その中で注目すべきは、「家族の地域参加と居住意向の連動」である。即ち家族が地域活動に参加する率が多い家庭の子どもほど地域に住み続けたいという数字が上がるということだった。
  加えて移住促進のために、農業生産法人有限会社「かみなか農楽舎」を活用した新規就農研修を実施し、その修了生の定住(移住)を促進するための支援を行う。


4. 移住・定住施策の今後の課題

@ 受入れの地域態勢に大きな差があるのが現状である。首長の姿勢による差なのか、危機感の差なのか?
  * 2010年9月「ふるさと再生・行動する首長会議」が約50の市町村の首長の参加で発足している。具体的な政策提言と法改正に結び付ける努力が続けられている。
A 移住希望者、移住者へのフォロー体制の強化
  * よく言われる「若者・バカ者・よそ者」の力の活用のためには、「移住者」「受け入れ者」「両者を結ぶ行政」が一体となって連携していく体制を作ることが大事である。それは、(ア)すでに移住した人を中心にNPOを立ち上げ、受け入れ支援や地域おこし事業等を実施する(イ)自治体でワンストップ窓口を設置し地域の受け入れ協議会やNPOと連携する(ウ)県や在阪県事務所に専任移住相談員(移住コンシェルジュなど)を設置するなど
の取り組みが必要ではないか。
  * 大阪における状況〜人口減少と耕作放棄地の増加、空き家の増加
  大阪府域は、大都市圏ということもあり、過疎地域の指定を受ける地域は皆無だが、抱える問題は同じという町・村がある。2012年5月には豊能町で「空き家バンク」が立ち上がった。当センターに相談に来られる方の中には、「田舎暮らしを大阪でしたい」「憧れの田舎に移住するまでに仕事をしながら農業を身につけたいので研修先を紹介してほしい」などの相談が増えてきている。

(1) 地域に根を張る労働組合の役割
 「定住促進、移住・交流政策」を推進することは、地域活性化につながることは明白である。先日、和歌山県田辺市に移住した方が当センターのセミナーで語られたことは「移住したことで自分の生活は満足しているが、自分の移住が他の方を呼び込んでいく力にもなりたい、『地域の希望のともしび』になりたいのです」とおっしゃっていた。
 「田舎暮らし」という言葉のイメージは、今や、「地域活性化に寄与する」ということに変化してきている。
 自治労は、全国津々浦々の自治体を中心にした公共サービスに従事する方々を組織し、地方分権を進め、地域再生・活性化を住民との協働で実現しようとしている労働組合であるから、その視点で、今一度それぞれの地域を見つめてほしい。Iターン、Jターン、Uターン(=移住・定住)を促進するための地域の受け皿づくりなど具体的な政策を提起し実践することで地域活性化を促し、「街づくり計画」などに現在定住している方々の参画で「わが街づくり」を進める推進役になってほしいと切に願うものである。