【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第8分科会 都市(まち)と地方の再生とまちづくり

 「平成の大合併」第1号の篠山市の合併を検証するため、多方面の関係者にアンケート調査を実施すると共に、篠山市の「財政分析」、さらに関係者などの聞き取り調査を実施した。合併の「成功例」として全国に宣伝されたが、今日では、財政難にあえいでいる。合併後10年を経過し、交付税算定が減少期に入ったこの段階で、篠山市の合併の総括と、合併後の現状を分析し、今後の課題と方向を明らかにする必要があると考え取り組んだ。



篠山市合併検証報告


兵庫県本部/兵庫地方自治研究センター・篠山市職員労働組合

1. 篠山市の概況と合併の歴史

(1) 篠山市の概況
 篠山市は兵庫県の中東部に位置し、人口は約4万3千人(合併当時約4万7千人)、総面積は380キロメートルで、県内では8番目(合併当時は神戸市に次ぐ2番目)の広さを有している。
 1988年近畿自動車道舞鶴線の開通、1997年のJR福知山線の複線電化によって、阪神間への1時間通勤圏となる。市の基幹産業は農業である。主な特産物は、全国的にも有名な丹波黒大豆のほか丹波栗、日本六古窯に数えられる丹波立杭焼がある。
 篠山市の地域特性 ①低い人口密度 ②土地の9割を占める農地・山林 ③シェア低下が続く農業 ④地域差が広がる人口と高齢化
 篠山市東部地域においては、今も人口減少と高齢化に歯止めがかかっていない。

(2) 篠山市合併の歴史(別紙資料参照)

2. アンケート結果・関係者聞き取りから見る

(1) アンケート結果に基づく分析
① 合併の是非について
  合併当時は、「賛成」、「反対」がほぼ同数であったが、合併11年後では、合併して「よくなかった」が「よかった」を12ポイントあまり上回っている。
  「よかった」の主な理由―「行財政効率が進んだ」「広域的な観点からの施策が進んだ」
  「よくなかった」の主な理由―「財政状況が悪化した」「住民へのサービスが低下した」「小さな町や周辺部が軽視されている」
② 職場・仕事の変化について
  合併後の「職場環境や仕事の進め方」
  管理職―「よくなった」が「わるくなった」を少し上回っている
  組合員―「よくなった」より「わるくなった」が、9ポイント以上も上回っている
  「よくなった」理由―「仕事が効率的になった」「長期的視野で施策を検討するようになった」
  「よくなかった」理由―「待遇面が悪くなり士気に影響している」、「『役所内』『地域』ともに、関係が希薄になった」
  「待遇面が悪くなり士気に影響している」について、組合員の自由記載で、賃金カットによる「生活苦」、人員削減による「健康破壊」「仕事と家庭」「職場の人間関係」などに対する悲痛な叫びが寄せられている。
③ 行政と地域との関係、「地域サポート職員制度」について
  行政と地域との関係について、職員が「地域との関係が希薄になった」と感じている。また、地域間格差については、格差が「広まった」が7割を超えている。
  「地域サポート職員制度」は住民における認知度は低く、職員の側からは、人員削減の中で「本来」業務に加えて、「過重労働」を訴えている。
④ 合併事業と生活関連事業について
  「合併特例債」を利用して、合併事業として建設された各種施設については、「高価すぎる」と指摘している人が実に4分の3を超えている。
  施設の活用について、「利用している」は、2割強に過ぎず、「利用していない」が3分の2に上っている。
  閉鎖された施設(チルドレンズミュージアム)が出るなど“ムダの象徴”という指摘がある一方で、「道路などの都市基盤の整備に関連する行政サービス」の低下を指摘する意見が多くだされている。
⑤ 住民サービスについて
  「合併後の行政の窓口の変化」については、「住民票、戸籍、印鑑登録など」は、「不便になった」が「便利になった」を少し上回る程度であるが、税金、年金、保険など諸手続き、各種の相談は、不便を感じている人が相当多くなっている。これは、支所機能の縮小が反映したものと思われる。
⑥ 将来の生活環境について
  篠山市全体のこれから先については、「よくなる」より「わるくなる」と答えた人が倍以上となっている。
  集落(地区)でみると、「わるくなる」が半数を超えた地区が7地区ある。過疎化、高齢化が進んでおり、「住民へのサービスが低下した」「小さな町や周辺部が軽視されている」とのアンケート結果にあるように、自らの生活、地区(集落)の将来に対する不安をかかえ、不便を感じていたところに、合併が拍車をかけたと思われる。
  一方、住民が「もっとも一体感・愛着を感じる範囲」は、「自分の住んでいる地区(集落)」であり、集落行事(祭り)への運営・参加も際立って高い。つまり、住民は自分が住んでいる地区(集落)を中心に考えており、地区(集落)を基盤にした「再生」が求められている。
⑦ 議会について
  これ以上の議員数の削減はすべきでないとの意見がある一方、「議員数が多い、給与(報酬)も多い」として、議員定数のさらなる減を求める意見や、市会議員の報酬についても「高すぎる」との意見が多く出されている。
  議会の役割やあり方について、「地域選出型から市民代表型に改革され、良い傾向」との意見。また、議員の「質の向上」を求める声や、「市議会議員と住民の話し合いの機会」「市民の政策チェックを責任を持ってやってほしい」「本当に将来を託することの議論ができる議員を要請する」などの注文も多く出されている。

(2) 関係者聞き取り調査・アンケート結果からみる
① 行政・議会主導による「自主合併」
  篠山市の合併は、「自主合併」であったといえるが、行政・議会主導で進められ、決して住民を含むものとはいえない。当時の行政・議会は、「合併ありき」で進めた。合併の是非も含めて、住民の合併議論への住民のかかわりの保障、住民の意思反映が、合併に至る過程で極めて不十分であった。過去5回の失敗を繰り返してはならないとして、行政・議会は、合併「成功」を優先するあまり、住民を置き去りにした進め方であった。
② 合併によって広域課題が解決した
  行政・議会関係者は、ヒアリングの中で、合併自体は間違っていなかった。合併したことによって、水資源問題、広域斎場、清掃センターなど広域的な大きな課題が解決し、国立病院の廃止または移譲問題でも病院も存続することができたとしている。
  但し、水資源問題については、将来人口予測を見誤り、県営水道を導入したことへの反省の発言が多く出された。
③ 旧自治省が利用、そして小泉「三位一体改革」
  旧自治省は、「平成の大合併」を進めるために、旧多紀郡四町合併を実現させ、篠山を合併の「モデル」として全国に宣伝し、利用した。
  交付税算定の経過措置5年→10年、合併の呼び水として特例債というアメを用意し、市の要件をわざわざ篠山の合併に合わせて、4万人(その後3万人)に引き下げた。
  この合併で旧多紀郡4町は、広域課題の解決と地方分権の動きに対応することを目的とすると同時に、各町が持つ課題を「合併事業」として合併特例債を活用し、その実現を図ろうとした。
  旧自治省は、合併すれば立派な施設ができると宣伝するため、“豪華”な施設を建てるよう促し、行政も議会もそれに乗ってしまった。しかも、合併後5年以内にすべてやりきってしまった。その直後に、小泉内閣の「三位一体改革」による交付税削減が強行され、財政計画の見込み違いはさらに大きくなった。
④ 財政執行に慎重さ欠ける(財政の項参照)
⑤ 将来予測人口「6万人」と県営水道導入について
(財政の項参照)
⑥ 公共事業と入札制度について

  合併前後は、公共事業が大幅に増えたが、その後、篠山市の公共事業は、激減した。加えて、入札制度が、従来の指名競争入札中心から、原則、一般競争入札となった。入札参加業者は、一般競争入札になってからは、市外の業者(建設業以外の会社も)入札に参加し、落札価格は下がり、赤字覚悟で、仕事確保のために落としている現状にある。
  大きな仕事は、市外の大きな業者が取った仕事に、孫受け、それ以下で仕事をもらっても、きわめて低い単価である。結果、会社の継続が困難となり、次々と廃業し、建設業者が激減している。
⑦ 合併によって行政と地域の距離はどう変わったか
  合併による弊害は、行政と地域の距離が大きくなり、周辺部が取り残されることである。中山間地域では、役場を中心に市街地が形成されていたが、合併で基盤が失われている。
  合併後、旧町単位に、支所を置き、合併当初は一定の職員数の配置が行われ、支所長には、僅かではあるが予算権限が与えられ、地域の小さな要望に応えていた。
  その後支所の職員数は徐々に削減され、現在は、支所の職員も数人の配置となり、戸籍・住民票などの窓口業務のみとなり、予算権限もなくなり地区・住民も要望を上げる場がなくなっている。
  町の時代には、行政・職員と住民との距離は近く、職員の多くが、その地域に生まれ・育った、また、PTA、消防団などの活動に参加し、まさに地域の中心的存在であった。
  合併後、市外からの採用者が増え、職員の中にも、市の中心部へ転居する傾向もみられる。人事異動によって、地域の事情が分からない職員配置が行われ、職員と住民との距離は、物理的な距離以上に拡大している。
  市当局は、旧小学校区を単位とした「まちづくり協議会」を地域対策の中心にしようとしているが、行政が、地域に丸投げしようとする傾向がうかがえる。
  一方、地域は、過疎化と少子高齢化が進んでいる。団塊の世代が退職し、地域活動に比重を置きつつあるが、将来に展望が見いだせない状況にある。
⑧ 地域サポート職員制度
  篠山市では、この「地域サポート職員制度」を「参画と協働による地域づくりの推進」を目的として、2009年4月から実施している。(ア)地域支援、(イ)自治会連絡、(ウ)住民学習の3つの任務を、それぞれ担当者を班分けして行っている。
  従来から地域活動は、自治体職員が、その住んでいる地域で、住民の一人として、自主的に行ってきたが、地域担当の職員として、“職務”としてかかわらなければならない。ある意味で24時間、職員として職務に専念することを求められる。住んでいる地域と異なった地域を担当する職員は、市外から遠方の担当地域に、時間外、土・日曜日出勤すら求められることとなる。
  人員が大幅に削減され、職員は、日常業務に追われ、長時間労働・労働強化の中で、健康破壊、メンタルヘルスが拡大している。そのような職場の現状のままで、地域サポート職員制度は機能しない。
⑨ 議会改革について
  合併前の4町合わせた議員数57人が、合併1年後の選挙では、26人。今年4月に行われた市議会議員選挙では、18人にまで減少。議員報酬についても、35万円(月額)であり、決して高額とはいえない。政務調査費は、2万円(月額)、議会事務局体制も4人にすぎない。
  少数意見や多様な意見などが反映されるためには、ある程度の議員定数が必要であり、議員の活動に専念するためには、生活できる報酬も必要である。また、議会・議員の政策機能を高めるためにも、議会事務局の体制強化、政務調査費の確保が必要である。

3. 篠山市の合併前後からの財政状況と課題

(1) 篠山市の財政の現状(別紙資料参照)

(2) 1999.4.1の合併後に起きたこと
① いわゆる合併特例債関連の問題
  合併当初の主な施策は、以下のような事例がある。
 ア 中央図書館、たんば田園交響ホール、総合運動公園などの文化施設の整備
 イ 小中学校の改修、生涯学習拠点施設など教育施設の整備
 ウ 国民宿舎の改修、泉源採掘とクアハウスの整備、中山間地域の振興など産業振興
 エ 地域福祉センター、保育所などの健康・福祉面の整備
 オ ごみ処理施設、し尿処理施設拡充、斎場建設の推進など生活環境関連施設の整備
 カ 広域河川改修事業、消防・防災施設などの生活安全面での施設整備
 キ 駅前広場、都市公園、公共下水道、丹波の森構想の推進などの都市基盤整備
  これら以外にも、多紀郡全体の課題として国立病院の廃止、兵庫医科大学篠山分院の誕生という地域医療の課題や、水資源の確保などの広域課題もあった。
  これらの多くの施設整備は、合併前の旧4町の「均衡ある発展」や従前の旧4町の街づくり計画などの延長上に描かれた。財源は、合併特例法に規定された合併特例債の活用で確保された。篠山市は、特例債は充当率95%、交付税の基準財政需要額への算入率は70%で、実質的に数字の上では篠山市の負担は33.5%としているように、たしかに「使い勝手」のよい特別な「起債」であったはずである。


事   業   名
期 間
事業費
特例債
斎場・火葬場整備事業
99~01
20億円
19億円
チルドレンズミュージアム整備事業
99~01
18億円
17億円
篠山口駅周辺整備事業
99~03
9億円
6億円
広域道路ネットワーク整備事業
99~
20億円
11億円
中央図書館建設事業
00~02
19億円
17億円
市民センター建設事業
00~02
25億円
13億円
県営水道導入事業(水道会計出資金)
00~05
40億円
38億円
こんだ薬師温泉施設整備事業
01~03
15億円
8億円
篠山中学校移転改築事業
02~03
40億円
26億円
西部給食センター建設事業
05~06
8億円
7億円
地域振興基金積み立て
99~ 
20億円
19億円
防災行政無線施設整備事業
06~09
12億円
11億円
保育所・幼稚園統合整備事業
06~09
12億円
3億円

  問題は合併前・合併後、人口や財政が実態として伸びない中で、対象事業の優先順位、「計画の見直し」「計画の修正」という決断がなぜできなかったのか、検証されるべきである。
  当時の関係者の聞き取り調査でも「合併後は用意ドンで、事業が進んだ面は否定できない」旨の言葉を聞いた。「合併」そのものが自己目的化され、ここに住み、働く人々の生活や労働という側面が相対的に低位に置かれた。
  ここを不問にしたままの財政健全化について市民の理解は得られない。財政悪化の「原因」「理由」の究明と市民への周知があって、はじめて財政健全化の議論の入り口に入れるはずである。
  県営水道導入事業について、市民には水源が乏しい、といった断片的な情報はあったものの、県営水道の総事業費120億円のうち40億円もの大金(うち特例債で38億円)を投じる政策的妥当性は必ずしも提示されなかった。ましてや「6万人都市構想」は破綻している。聞き取り調査でも「人口6万人構想の破綻と水需要の伸びの見誤り、ひいては県営水道への出資金について」の後悔の言葉が聞かれた。
② 合併直前の旧4町の財政執行の問題
  合併前の旧4町は、とくに合併の動きが具体化する前と、合併協議が始まって以降の決算はきわめて興味深い傾向を示す。合併前の「駆け込み事業の増大」という傾向である。たしかに合併後も旧4町間で「較差」をなくすため、事前に必要な事業もあったかもしれないが、「いま事業着手して、その起債償還は新市に」とばかりに、投資的経費の増加傾向がみられる。
  当時の決算から見る限り、旧4町の普通建設事業の突出した「伸び」の傾向と各種基金の「取り崩し」がそれを示している。現在判明している合併前の大きな事業(約10億円以上)は次のとおり。
  篠山町 東中学校整備事業       1993~1998
      緑地公園整備事業       1997~1998
  西紀町 西紀庁舎建設事業       1996~1997
  丹南町 篠山口駅自由通路整備事業   1994~1996
      コミュニティプラント整備事業 1998
  旧4町の財政調整基金等の基金残高の「増減」も、取り崩しの理由もふくめて検証される必要がある。合併直前にいかなる事業を旧4町は急いだのか、その緊急度はどの程度のものであったのか、などは市民にあらためて開示されるべきではないか。
  全国的な地方財政の厳しさはあったが、財政的に厳しい、という町はなかった。
  合併の議論が起きて以降、具体的な合併協議会が設置され、合併が避けられない頃から旧4町共通して財政執行が「ふくらむ」傾向を示している。旧4町での合併前の普通建設事業の「伸び」、くわえて財政調整基金をはじめとする各種基金の「取り崩し」の減少はなにを物語るのか。旧町時代の「済んだこと」で済ませるのでなく、ていねいな検証が必要である。
  もう一つの要素は、小泉首相の三位一体改革による地方交付税制度の総額の大幅な減少は、まったく予期していないことであり、篠山市の合併後の財政運営を困難に至らせた。聞き取り調査でも、小泉構造改革とりわけ地方交付税の削減に強い「怨嗟」の言葉を聞いた。予期しなかったこととはいえ、篠山市の財政計画の見直しや人口予測の見直しなどは、もっと臨機応変になされてもよかったはずである。
③ 前年度繰り上げ充用金の問題
  一般的にはめったにない「前年度繰り上げ充用金」が、篠山市は新市発足の1999年度決算において約23億円が計上されていた。1998年度の旧4町の実質収支比率がいずれも「マイナス」であったことをあわせて考えると、「課題は合併後に先送り」というような一種のモラル・ハザードに似た財政執行が旧4町であったのではないか。
  この「前年度繰り上げ充用金」という歳出項目は年度をまたいで財政が執行されるきわめてイレギュラーなものであるが、1999年度の歳出決算総額が299億5,671万円であり、その7.7%も占める「前年度繰り上げ充用金」の比重の大きさに驚かされる。
  1998年度の旧4町の最後の決算における実質収支比率は、調べると以下の通りであった。


篠山町
-16.1%
西紀町
-38.7%
丹南町
-14.7%
今田町
-0.7%

  旧4町ともにマイナスを示していた。1997年度は旧4町いずれも赤字決算ではないために、きわめて「不自然な」比率を示した。すべてを合併後の新市に「背負わせる」予算執行があったのではないか。当時の事業執行の動向と事業の優先度が検証されるべきである。
  上記の指摘に対して「篠山市の合併は1999年3月末打ち切り決算」とされ、「翌年度の出納閉鎖期間に入るべき国庫支出金等が1999年度の歳入とされた」のであるから、たまたま1998年度決算上に「アナ」があき、これを前年度繰上充用金として1999年度予算として計上された、という具体的な反論がある。では1999年度決算でたとえば国庫支出金はどの程度の「伸び」であったか。


1998年度決算国庫支出金
186億5,239万円
1999年度決算国庫支出金
283億9,548万円
2000年度決算国庫支出金
228億4,576万円

  この推移を見ると、確かに年度をまたいで入る国庫支出金等が前年度繰上充用金というかたちで環流したようにうかがえる。引き続き徹底的に精査される必要があろう。
④ 職員への賃金カット問題等の発生、株式会社「プロビス」の登場
  篠山市では合併後において職員数の削減も進んだ。その分の公共サービスは残った職員や外部委託等によって担われている。
  同時に超過勤務手当の「未払い」問題や基本賃金等の10%カットという未曾有の賃金合理化などが進行している。
  また、財政の健全化をめざす篠山市再生市民会議は、篠山市は、何が原因で今日の財政悪化を招いたのか、といった原因や理由・背景を明らかにせず、当面の財政危機を乗り越えるためのいくつかの方策が盛りこまれた。市民にはかなりの負担を求め、職員の賃金削減などが盛りこまれた。
  再生会議では、職員の賃金の「20%カット」が論じられるなど、関係者にはまったく情報が知らされないままに進行していた。その後、篠山市当局から、行政職で月額賃金と一時金で10%削減、管理職手当10%削減をベースにした内容が提示され、事務折衝、交渉を重ねた結果、2008年10月1日から2011年3月末まで給料月額、諸手当5%削減、一時金は級別に対象職員を絞りながらも削減などで妥結を見た。
  同時に合併後急速に進む職員数の減少は、公共サービスを継続していく上でのヒューマンパワーの減少は大きな今後のマイナス要因をかかえたままとなった。
  職員のモチベーションは下がり、市民にとっても大きな影響をもたらしている。正規職員数の大幅な減員は、非正規職員や公共民間労働者によって補われている。
  職員数を「減らす」一方で、求められる公共サービスの提供や水準の維持、たとえば施設の維持管理などでは難しい問題を惹起した。こうした背景をもって篠山市に登場してきたのが、市が全額出資した「株式会社プロビス」であった。
  プロビスは、篠山市のもつ施設関係の維持管理だけでなく、ここから人材の派遣・業務請負を可能にするものとの推測が当時からあった。
  具体的な事業としては (ア)公共施設の維持管理業務、用務員業務、(イ)給食サービス業務、事務事業支援業務、市役所窓口サービス業務、公用車運転・添乗業務、(ウ)企画運営業務、があげられていた。
  市役所の現業部門と臨時職員・嘱託職員等が担っていた公共サービス部門が大半である。当時の市役所の設立動機は多分に、(ア)公共サービス提供を「会社」に補完させ、「法の規制による非効率性」からの脱却、(イ)「会社」に任せることによる「運営の効率性」の追求、(ウ)「会社」に一元的に管理を委ねることで市側は最小限の人員配置ですみ、市の定員管理に寄与できる、(エ)市民のニーズに合わせた時間帯に公共サービスを展開でき、フレキシブルなサービス提供が可能、といったものであった。
  すでに多くの指摘があるように、前述の合併特例債の活用による人口6万人都市に向けての事業の推進という財政の膨張、同時に合併効果として期待された職員数の削減というなかでの株式会社プロビスの登場であった。
  現状の自治体の臨時職員、非常勤職員、嘱託職員等の任用根拠は地方自治法や地方公務員法の規定から逸脱している実態にあり、いわば脱法的任用が多くの自治体でまかりとおっている。その意味では株式会社プロビスという形態でのあらたな任用(採用)手法は注目された。
  ただし、すでに内部からの指摘があるように職業安定法違反、労働者派遣法違反といった事案が株式会社プロビスにおいて顕在化し、兵庫労働局の是正勧告を受けた。本来のありかたを逸脱して経費的にコストをいかに下げるかに着目したような「手法」といえる。合併直後の篠山市では、「余剰」人員対策的にこうした株式会社プロビスの設立があったのではないか、とさえ思わせる。
  市民にも公共サービスの提供手法の変更という流れが必ずしも十分に周知されず、議論にも及ばなかった。「公」の責任とは、主権者である市民に恒常的な生活の保障・セイフティ・ネットを構築することであり、その意味からも株式会社プロビスの設立経過と現在の一般社団法人ノオトの業務内容などは点検されるべきであろう。
⑤ さらに残っている検討課題
 ア 特別会計、例えば下水道会計のように、旧町時代に遡り検証が必要である。
 イ 兵庫医大の病院のあり方、市として何を求め負担するのか、地域医療の確保の責任の分担、政策判断をふくめて地元負担金や操出金等の判断が必要である。

4. まとめと篠山市・篠山市職労の今後の課題

(1) まとめ
 篠山市の合併は、歴史的な篠山市(旧多紀郡)の一体性、広域的な課題の必要性、地方分権への対応などから、行政・議会主導で行われた、「自主合併」であった。その後合併した自治体の多くが、主に財政問題を理由に、国・旧自治省、県の強力な指導の下に行われた事実上の「強制合併」とは異なる。
 国・旧自治省は、「平成の合併」推進のために、地方交付税の特例5年→10年、合併特例債というアメを用意した。旧多紀郡の行政・議会は、広域課題の解決のみならず、各町は、合併に対する住民合意を得るためとして、合併事業を計画・実施し、合併特例債をほぼ使い切った。
 しかも、旧自治省は、篠山市の合併を成功させ、「平成の合併」第1号として宣伝するために、“豪華”な施設を建設するよう誘導し、当時の行政・議会は、それに乗ってしまった。
 後発の自治体が、小泉内閣の「三位一体改革」による地方交付税4兆円の削減という厳しい状況の中で、合併特例債の活用に慎重にならざるを得なかったのに対して、篠山市は、合併後5年以内に主要な合併事業をやりきってしまった。その直後に交付税削減が強行された。しかも、各町は、合併直前に「駆け込み事業」を実施したことが、篠山市の借金が膨れ上がる一因ともなった。
 加えて、「新市建設計画」において、将来人口を6万人と想定し、それに基づく財政計画などが立てられた。しかし、合併以降、人口は、予想に反して、合併時の4万7千人から、4万3千人にまで減少している。(ア)交付税の大幅減額、(イ)当初計画にない「合併事業」、合併直前の「駆け込み事業」による予定外の支出増、(ウ)将来人口6万人を想定した「財政計画」の破綻、などの変化に対応し切れなかったことが、今日の財政状況を作り出したといえる。
 現酒井市長が就任して以降、「篠山市再生計画」が策定され、大幅な人件費削減、(水道料金など)公共料金の引き上げ、住民サービスの切り下げ、建設事業など投資的経費の縮減が進められている。結果、市民生活に大きな影響を与え、地域経済は萎縮し、縮小再生産の悪循環となっている。
 確かに厳しい財政状況にあることは事実であるが、見方を変えれば、主要な事業はやりきっているだけに、現在市が進めている、財政再建計画を、長期に、緩やかな形で進めていくことが必要ではないか。今が、転換のときではないか。
 また、合併による弊害として、行政と住民との距離の拡大と周辺地域に対する対策がある。支所の体制・機能強化、地域コミュニティの再生・強化が大きな課題となっている。今ならその芽が残っている。地域コミュニティを継承・発展させるための施策が必要とされている。住民に依拠し、住民とともに前に進む決意こそが求められているのではないか。

(2) 篠山市行政の課題
① 「住民自治」の基本に立って、改めて、将来計画を策定する必要がある。住民とともに地区・地域ごとの計画づくりを基礎に、市全体の計画づくりを進めることが重要である。
② 合併による弊害としての、行政と住民との距離の拡大と周辺地域に対する対策の必要性が指摘されており、支所の体制・機能強化、地域コミュニティの再生・強化が大きな課題となっている。今なら地域コミュニティ再生・強化の芽が残っている。聞き取り調査の中でも、地域の再生を目指して活動する地域のリーダーの姿が見て取れた。地域活動の担い手が60、70歳代中心であるが、地域コミュニティを継承・発展させ、次世代へと引き継がれるための施策が必要とされている。そのためにも、行政の「下請け」としてではなく、地区(自治会)→小学校区(まちづくり協議会)→旧町毎に、住民、自治会・各種役員、行政、NPО、企業の役割分担・連携・協力体制のあり方を議論することが重要である。

(3) 地域産業づくり、地域コミュニティと行政
① 産業とまちづくり、若者が地域・篠山を愛し、将来に希望を持って、住み・働けることができる地域社会をめざし、(ア)子育て、医療・福祉など少子高齢化対策、(イ)農業、モノづくり、観光、商業など地域産業の活性化、(ウ)地域・生活関連投資を重視し、地元企業の育成、入札制度の見直し・「公契約条例」の制定、(エ)都市との人、モノの交流の拡大、(オ)自然・伝統・文化・技能を生かした地域・まちづくり、へ向けて、地域の叡智を結集する。
② 「良好な人間関係」「食べ物がよい」「自然環境の良さ」を生かすとともに、これまでのやり方・関係にとらわれず、“まつり”、各種行事、防災などを通じた新たな地域の人と人とのつながりの再構築、時代とともに歩む伝統・文化・技能の継承・発展を図る。
③ 廃校などを利用した地域活動、健康対策などの拠点づくり、校区・旧町・市の役割分担、住民、自治会・各種役員、行政、NPО、企業の役割分担・連携・協力体制の構築を図る。また、地域担当職員の配置、地域支援員制度の活用などを検討する。

(4) 篠山市職労の課題
① 自治体労働組合・自治体労働者は、その性格と任務からして、住民とともに、「住民自治」を確立し、地域の教育・労働・福祉の充実、平和・人権・環境を守る、安全・安心のまちづくりを進めていく。
② 自治体労働組合の活動にとって、賃金・労働条件改善のたたかいと「自治研」活動は、車の両輪である。自治体労働組合及び組合員は、地域活動に積極的に参加するとともに、自治研活動を進める。