【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 秋田県の大館市で取り組まれている「大館市農業後継者育成事業実施要綱」による農業の担い手作りについて報告していきたい。



農業の担い手作りにむけて
大館市農業後継者育成事業の取り組みについて

秋田県本部/財政局長 丸屋 千幸

1. はじめに

(1) 大館市の概要
 大館市は秋田県と青森県の県境に位置し、面積913.70平方km、人口77,355人の小さな市である。2005年に大館市、比内町、田代町の1市2町が合併し、現在の大館市になっている。産業は天然秋田杉による林業や花岡の黒鉱に代表される鉱産物が主力であったが、天然杉の減少や鉱山の経営悪化による閉山により衰退したため、現在は鉱山跡地を利用したリサイクル産業や従来からある農業が主な産業である。

(2) 大館市の農業の現況
① 耕作面積 8,912ha
② 農家の現状
 ア 農家数 3,718戸  イ 主業農家 446戸  ウ 農業生産法人 12法人
 エ 認定農業者 335経営  オ 特定農業法人 1法人  特定農業団体 13団体
  農林業センサスのデータによると5年前に比べ、販売農家数及び主業農家数とも20%を超える減少傾向にあり、担い手の育成、確保は急務である。
③ 農地の利用集積の状況
  集積面積 3,679ha 
  担い手の高齢化や後継者不足等により基盤整備がされていない農地ほど集積は進まない。担い手への集積を進めるためにも農地の基盤整備を図るとともに、集落営農や農業経営体の法人化や認定農業者の育成を推進し、担い手を確保する必要がある。
④ 主な作物
  主に稲作中心であるが、特産の比内地鶏、とんぶりや山の芋、中山梨などの果樹などがある。

(3) 大館市の雇用状況
 大館市の2012年6月時点の有効求人倍率は0.67(原数値)であり、秋田県平均0.72(全国32位)、全国平均0.82(ともに季節調整値)とは単純に比較できないが、低い水準にある。


2. 大館市農業後継者育成事業について

(1) 秋田県緊急雇用創出等臨時対策基金事業
 秋田県では2010年度から現下の厳しい雇用情勢を踏まえ、国からの交付金をもとに「秋田県ふるさと再生臨時対策基金」の二つの基金を造成し、県・市町村等で雇用創出に向けた事業を実施している。そのうち、大館市農業後継者育成事業で利用している「緊急雇用創出等臨時対策基金事業」は下記の内容で実施されている。(必要項目のみ抜粋)


(1) 事業の目的
   失業者を対象として、次の雇用までの臨時・短期の雇用・就業機会の提供及び再就職に必要な知識や技能を習得させる機会を提供する。
  ① 緊急雇用事業(平成23年度で終了)
    失業者に対して、次の雇用までの臨時・短期の雇用・就業機会を提供。
  ② 重点分野雇用創出事業  
    重点分野(「介護」「医療」「農林水産」「環境・エネルギー」「観光」「地域社会雇用」「教育・研究」「産業振興」「少子化・子育て」「安全・安心」「情報通信」の11分野)に該当し、失業者に対して、次の雇用までの臨時・短期の雇用・就業機会を提供。
  ③ 地域人材育成事業
    重点分野に該当し、失業者に対して、次の雇用までの臨時・短期の雇用・就労機会を提供し、就職に必要な知識や技能等を修得させる。
  ④ 震災等緊急雇用対応事業
    東日本大震災等の影響による失業者に対して、次の雇用までの臨時・短期の雇用・就業機会を提供し、又は、就職に必要な知識や技能等を習得させる。
(2) 事業の実施期間
   平成21年度から平成25年度までの5ヵ年(①は23年度で終了、②、③は24年度まで)として実施。
(3) 事業の実施方法
   次の二つの方法により実施 
  ① 県・市町村等の直接実施事業
    県・市町村等が事業を実施し、失業者を直接雇用。
  ② 委託事業
    国・市町村等から民間企業、NPO法人等への委託方式で実施し、民間企業等が失業者を雇用。
(4) 新規雇用者の雇用期間
  ① 重点分野雇用創出事業及び地域人材育成事業は、雇用期間を原則1年以内として実施(更新不可)
  ② 震災等緊急雇用対応事業は、雇用期間を原則1年以内として実施。(更新不可)
(5) 基金造成額(4ヵ年)
   基金造成額は157.2億円(平成24年8月1日現在)となっており、5ヵ年にわたって基金を活用し事業を実施。 
(6) 求人の方法
   求人募集は、県、市町村等、事業を委託する民間企業等が原則公共職業安定所(ハローワーク)等を通じて公開の上で実施。

(2) 事業を行うまでの経緯
 県からこの事業の提示があった際に、地域の農業の担い手・後継者不足解消を目的に就農者の人材確保・育成をし、就農に必要な技術・知識を実践の中で習得させて即戦力となる後継者を育てることができればと考え、農業後継者育成事業を始めた。
 事業の説明会に関しては49農家が出席し、うち27農家から受け入れ希望として申し込みがあった。指導農業士や経営農業士、認定農業者であること、年間を通しての研修計画を策定することができ実際に研修を行うことができること、研修終了後も継続して雇用できることなどを精査した上で16農家を選定した。委託先の農業者にとっては労働力を確保できるメリットがあるため、希望する農業者は多い。

(3) 事業の状況
 2010年度は18人の応募で研修生10人、2011年度は35人の応募で研修生26人であるが、途中で9人が研修をやめているため、2年間で27人が研修を終えている。年齢は22歳から63歳までと幅広く、女性も3人いた。2012年度も49人の応募で17歳から54歳までの20人が研修を受けている。
 研修内容は、県内外への実践的な研修に行き、土や肥料・農業簿記など様々な分野を学び独立経営できるよう研修を受けている。また、ハウス栽培や雪下キャベツ・うどなど冬期間も作業のある農家を選考の段階で選定しているため、年間を通して作業はある。
 緊急雇用対策という性質もあり、とりあえず一定の収入を得ようという方もいたようだが、研修終了後も農業生産法人等の社員として働いたりして、農業に従事している人が1/3以上の14人いる。自分で農業経営するという人はいなくて農業経営の厳しさも見受けられるが、農業を一つの就職先と捉えて12人の方が社員として継続して農業に従事している。

(4) アンケート結果
 市農林課では2012年8月10日に開いた研修生と委託先農業者の合同研修会の際にアンケート調査を実施し、参加した研修生18人全員が回答した。研修終了後の予定については農業以外への就職を希望するとしたのは1人であり、「独立して経営」→4人、「親元で就農」→3人、「農業法人に就職」→6人、「研修を継続」→4人と農業に従事したいという意向を示している。

(5) 今後の見通し
 2010年度、2011年度の研修後の状況と今回のアンケート結果からも今回のこの事業が就農者の確保に一定の成果があったと思われる。農業者確保という観点で委託先農業者からの要望もあることから、県の基金を活用しての事業は2012年度で終了するので、資金面では十分とは言えないかもしれないが、来年度以降も新規就農者の確保に向けて取り組んでいきたいと考えているようだ。


大館市農業後継者育成事業実施要綱

第1 目 的
 (1) 雇用情勢の厳しい中で、成長が見込まれる農林分野の新たな雇用機会を創出するとともに、地域ニーズに応じた即戦力の人材を育成するために、就農に意欲的な離職者、非正規雇用者及び新卒者を一定期間、認定農業者等が雇用し就農に必要な技術を習得させ、円滑な就農を促すほか農業法人等での雇用拡大を促す。
第2 委託先
 (1) 委託先の選考は、農業後継者委託先選考要領による。
 (2) 委託先農業者は、研修終了後の就農についても配慮すること。
 (3) 委託先農業者は、農業後継者育成事業研修生受入認定農業者等申請書に必要な事項を記入し、農業経営改善計画書の写しを添えて申し込むものとする。
 (4) 大館市は、(3)により提出を受けた申請書を審査し、委託先を選考するものとする。
第3 研修期間
 (1) 平成23年4月1日から平成24年3月31日までの12ヶ月間とする。
第4 研修生募集
 (1) 研修生の選考は、農業後継者委託先選考要領による。
 (2) 研修生の募集は、ハローワークを通じて募集するものとする。
 (3) 研修生の決定は、委託先農業者が面接等を実施して候補者を選考し大館市と協議した後決定するものとする。
第5 研修計画
 (1) 委託先農業者は、月毎の研修計画を大館市に提出して研修を実施するものとする。
 (2) 委託先農業者は、自己において実施する研修のほか、農業研修センター等が実施する研修に研修生を参加させること及び、講師を招聘した研修を実施すること。
 (3) 委託先農業者は、大館市と連携を図りながら就農に必要な研修を実施すること。
第6 研修報告
 (1) 委託先農業者及び研修生は、毎月の研修実施状況を、また、すべての研修終了後研修結果報告書を速やかに大館市へ報告するものとする。

大館市農業後継者育成事業委託先選考要領

 農業後継者育成事業の委託先相手は、大館市農業後継者育成事業実施要綱に定めているもののほか、次の第1から第6までのすべての要件を満たすものとする。
第1 大館市内に住所を有しており、次の1つ以上の要件を満たすこと。
 (ア) 農業法人 (イ) 集落営農組織 (ウ) 農業指導士 (エ) 認定農業者 (オ) その他、大館市が特別に認めた者
第2 研修生に外部団体による研修を受けさせること。
第3 研修プログラムを作成して、年間を通して次の1つ以上に該当すること。
 (1) 施設等において、冬期間の農作業があり、実践研修が可能。
 (2) 畜産業を営んでおり、冬期間においても実践研修が可能。
 (3) 収穫作物の出荷作業等があり、継続的に実践研修が可能。
 (4) その他、大館市が特別に認めた研修を実施できることとする。
第4 研修生に必要な各種保険を適用すること。
第5 就業規則、給与規定及び労働時間に関する協定書等が定められていること。
第6 その他、大館市からの指導に対応可能であること。

大館市農業後継者育成事業研修生選考要綱

 農業後継者育成事業の研修生は、大館市農業後継者育成事業実施要綱に定めるもののほか、次の第1から第6までのすべての要件をみたすものとする。
第1 就農する意欲を有し、本事業での研修終了後も継続して就農する意志がある者とする。
第2 平成23年4月1日~平成24年3月31日の期間内に当該事業の委託先に就業が可能である者とする。
第3 農業就業に必要な健康状態であること。
第4 過去の農業就業が3年未満の者で、研修が必要な者とする。なお、就業期間とは農業生産に従事した期間の合計とする。
第5 当該委託先代表者の親族(3親等以内)の場合は、過去3年以内において、他の業種で就業が確認できる者又は新卒者に限る。
第6 日本国籍を有していること。
第7 大館市より、研修に関する調査及び実施状況の確認を求められた場合は協力すること。また、事業を適切に実施するための指導等を受けた場合は、これに従うこと。
第8 本要領に定めのない事項及び疑義の生じた事項に対しては、大館市の指導に従うこと。

3. 終わりに

 4月に県本部専従になり自治研中央推進委員になったが、当県本部では自治研活動が活発でないため、レポートの準備をしていなかった。以前、農業委員会に勤務していて、農林課とも関係が深かかったので、今回の内容を紹介してもらって、本来の意味の自治研活動とは言えないかもしれないがレポートを書いてみた。
 後継者不足やTPP問題など農業は大きな問題を抱えており、農業食料自給率が40%を切るなど農業の未来については明るい話題は少ないが、農業の活性化につながる一つの試みになればと感じた。