【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第9分科会 農(林漁業)から考える地域づくり

 近年、木材価格の低迷により、森林が伐採された後の再造林が進んでいないことが問題になっている。2009年に労働組合を結成、自治労加盟した東城町森林組合からの相談をきっかけに、広島県本部では、プロジェクトチームを立ち上げ、この問題に取り組んできた。実態の把握、フィールドワーク、県外調査を通して議論した今後の森林づくりの方向性、自治体、森林組合などの事業体、地域のあり方についてまとめました。



未来の森づくりプロジェクト報告
~自然と共存する森づくりをめざして~

広島県本部/自治労広島県本部・自治研推進委員会・未来の森づくりプロジェクトチーム 中原 雅信

1. はじめに

(1) 庄原市では伐採後、放置される森林が増加
 庄原市は土地面積の約84%、10万4千ha(その内、民有林は9万8千ha)を森林が占めており、民有林の約42%(4万1千ha)はスギ・ヒノキの人工林が占めている。その庄原市において、数年前から木を伐採後、放置される山が増えてきている。その理由としては、①木材価格低迷により、木の売上代金で再び木を植え、育てる費用を考えると採算が合わない。②木材価格は安いが植える状況にはあるため、将来の木材価格に希望が持てないから売れる時に売りたいなどがあり森林所有者の林業に対する意欲が低下している。

(2) PTの立上げ
 2009年10月に労働組合を結成し自治労加盟した東城町森林組合分会(全国一般)から、「最近、山の木が伐られた跡地が放置され木を植える仕事がなくなっている。このまままでは山の荒廃が心配。という相談を受け、県本部の提案で、県本部の自治研プロジェクト(未来の森づくりプロジェクトチーム、以下「PT」)として、この問題に取り組むことになった。最初は「どうやって木を植えるか」から始まり、「どのような森林をつくりたいのか」について、主に①会議の開催(森づくりについての調査・研究)、②庄原市の現状把握(放置された面積調査、フィールドワーク)、③県外調査などの活動を行ってきた。


2. 庄原市で伐採後放置された山の面積を調査

 正確に調査した資料がなく、航空写真と聞き取りによる推定しかできなかったが、少なくても市全体で1,700haから3,000ha(民有林面積の2~3%)ぐらいと想定した。このことは1年間にどれだけの木が伐られ、放棄された山がどれだけあるのか、行政も森林組合も把握できていないことを改めて証明することとなった。


3. フィールドワーク

 庄原市東城町内の伐採跡地(面積182.6ha)で実施。調査目的は、大面積皆伐後どのような被害があるか。もとの環境に戻すにはどうすればいいかの視点で調査を行った。(写真1)
 現地調査の結果は、全体に伐採をするため大型機械の入るために作業道が開設されていた。①工事は山を掘るだけの簡単な方法で行われている。②木を運ぶ運搬車が通った跡が木の重みで作業道が水路のようになっている場所がある。③霜くずれにより道としては使えなくなっている場所もあった。④一方、木が伐られだけの場所では、広葉樹の切り株から新たな芽が出ていた(萌芽)。このように芽が出れば木を植えなくても森林の再生ができる。

(1) 調査を終えた感想
 参加者からは、災害の危険性を感じたとか、山が荒れているとう表現がぴったりなどの意見があった。
 しかし、木を伐るためには機械化は必要であり、そうしないと若い人が林業に就いてくれない現実があることも事実である。木を伐ることが全て悪いのではなく、その方法、作業道のつくり方、枝などの後片付けなどが悪いと結果として災害を起こす危険性が高い。広葉樹であれば萌芽により再生することが可能であるが、スギやヒノキは切り株からは芽が出ない。森林を再生させるためには、木を伐った跡に植えることだけを考えるのではなく、自然の力で森林が再生する場所であれば、自然の力に任せるのも選択肢としてあるのではないか。

(2) みんなが森に期待するものについて検討
 フィールドワークを踏まえ、森林の役割(水度の保全、資源の循環利用など)を考えながら、みんなが森林に対して持っているイメージ、期待するものを想定し活動研究の方向性を決めることとした。
 みんなが森林に期待するものとしては、①自然風景やきれいな空気などや、野生生物が生育・生息することができる環境。②森林は水の源であり一年中をとおして水を供給できること。③キャンプや魚釣り、ウォーキングなど遊び、癒しの場。④スギやヒノキなど木材生産を中心とした林業をあげ、そのイメージを写真で確認した。


【写真1:伐採現場】
【写真2:めざす森(環境・空気)】
【写真3:めざす森(林業)】

4. 県外調査

 視察先は、地方自治職員研修2010年1月号の記事に「森と生きる 21世紀 西粟倉の可能性」を紹介された岡山県西粟倉村を選んだ。ここでは、村長のリーダーシップをとり林業を中心とした経済活動を行っており、住民を巻き込んだ取り組み、豊かな森づくりを学びたいと考えた。

(1) 「100年の森構想事業」と「森の学校事業」
 西粟倉村の総面積5,793haのうち森林が5,498ha(総面積の95%)で、その86%がスギやヒノキの人工林である。村の隣がスギの人工林の先進地の鳥取県智頭町であったため見習いスギを植えられ、現在、これら先代の植えた木が40~50年生に育っている。平成の大合併では村民アンケートの結果により単独村制を選択した。
 村長が「50年生まで育て上げてきた森林(もり)をここで諦めず、村くるみであと50年がんばろう。そして50年後に樹齢100年の美しい森林に上質な田舎を実現しよう」と「100年の森構想」の実現を村民に呼びかけ新たな挑戦として「100年の森構想事業」と「森の学校事業」の二つの事業がスタートした。
① 「100年の森構想事業」
 森林を村が預かり取りまとめ、村の予算で森林整備を行い、10年間を一区切りとして長期に森林を管理していくもの。村と森林組合と東京の㈱トビムシ(ファンド会社)の三者が森林管理を協定しており、村は森林所有者から管理委託を受け、森林組合に間伐や作業道開設を委託する。「100年の森」は村が一括管理、FSC森林認証を受けているので伐採に制限があり、たとえ所有者でも無計画な伐採はできない。㈱トビムシは素材販売支援、資金調達や、出資者に対し「西粟倉ツアー」を企画し、西粟倉村での自然体験や間伐現場などを案内するなど都市との交流を実現している。
② 「森の学校事業」
 廃坑となった小学校を「西粟倉村・森の学校」としてリニューアルして開設し、ここで情報発信などのプロジェクトが行われている。木材製品等の販売や、村のスギ・ヒノキの無垢の木を使ったモデルハウスを建設し実際に宿泊してもらうなど消費者へのPRも行っている。
 これまで山側の情報しか持っていなかった村や森林組合に、㈱トビムシや森の学校を通して都会のニーズが入るようになった。また、これらの取り組みに応える形で産業が生まれ人口1,600少々人の村に40人がIターンし、Iターン者に対しては、生活環境の整備、子育て支援による定住支援を村が中心になって行っている。

(2) 視察を終えて
 参加者の主な感想は、①村と森林組合が二人三脚、三者で契約を結ぶことにより、リアルタイムでデータが役場と共有できるなど行政が関わる効果は大きい。②所有者から森を預かり所有界の明確化など一番しんどい部分を行政がしている。③森林認証の取得など循環型の森づくりが確立さているなどであった。
 同じことは庄原市では無理であろうが、豊かな森づくり、行政や森林組合の役割、地域住民の巻き込み方などPTとしてできることを探すこととした。


5. 循環型の山にすることが必要

 最初は伐採跡には全て木を植え森林を再生させることを考えていたが、活動を進める中で、「木を伐ったら森を再生させ育て、再び伐って使う」この繰返しのシステムを確立させた循環型の山づくりをめざすことが大切であり、そのために何をするべきか考えることとした。
 三重県では、自然の力で豊かな植生を再生した事例があるが、自然の力に任せるのも選択肢だが、それには何十年という長い時間を要する。また、広葉樹は萌芽により再生するが、それにも最盛期を過ぎると新たな芽が出にくくなるという条件がある。炭や薪が燃料として主流だった時代は、伐る時期(林齢)が最も芽が出やすい時期と重なっていて、人間の営みの中で森林が自然に再生、循環する仕組みができていた。しかし、炭や薪が燃料として使われなくなると、この仕組みもくずれてきた。循環型の山にするためには、まず、植えなくても再生するには、①伐り株から芽が出る種類の木であること。②一定の林齢を超えると芽の出る力が弱まるので、芽が出やすい林齢・時期に伐られている条件が整っていることとし、それ以外では木を植える必要があると考えた。

(1) 木を植える目的
 木を植える目的は何か、木材として利用し林業経営を持続させることが一番であろう。では、現在の人工林が全て利用でき持続可能かと見直してみると、植えた当時(50年前)は、木材価格も高く伐っても再造林が可能と予想していましたが、その後、木材価格が下がったことにより採算が合わない場所や、手入れ不足のため価値がない木になるなど林業経営ができない山も出てきている。そこで、木を植えて育てる作業と必要な経費について林業経営(木材生産)を考えたパターンと考えないパターンで比較するための試算を行うこととした。

(2) 木を植え育てるための作業
 木を伐って次に伐れるようになるまで、植えるための準備として「地ごしらえ」から始まり、間伐までの作業が行われる。主な作業としては、①地ごしらえ:木を植える準備のために、雑草木や伐採木の枝・葉をとりのぞく作業。②植付け:造林地に苗木を植える作業。③下刈り:植栽した苗木の生育を妨げる雑草木を刈り払う作業で、おおむね5年間ぐらい行われる。④徐伐:下刈り終了後、植栽した木の生育を妨げる他の樹木を切り払う作業。⑤間伐:木をより太くするため全体の本数を減らし、太陽の光を十分受けられるように植えた木を伐る作業などがある。
 これをサボると、多くの場合利用価値の低い木になる。

(3) 木を育てるための費用
 「地ごしらえ」から「下刈り」が終わるまでで、一般的に木材生産を目的としたスギ、ヒノキを1haに2,000本から3,000本植えた場合で1ha当たり148万円~160万円必要となった。木材生産を目的としないモミジ、サクラ、イチョウの場合だと1haに1,000本から1,500本植えればよいと考えられるので、1ha当たり78~88万円となった。費用の違いは、木材としての利用を考えないため、植える木がスギ、ヒノキよりも大きく本数が少ないことと、下刈り回数が少なくて済むためである。


6. 私達のめざす理想の「森づくり」

(1) 理想の森づくりを考える
 目的をはっきりさせて森づくりをすべきである。PTでは、目的を一つに絞らず、最初にみんなが森に期待するもので描いた、「木材生産(林業)」「きれいな風景、空気などの環境」「水源」「遊べる、癒し」に「野生生物等の生息」を加え、それぞれの目的を果たす森づくりを考えた。
 ①木材生産を中心とした林業を考えると、木材として利用するための条件として、すでに作業道等がついているなど木を伐った場合、必ず搬出できる条件が整っていること。植えた木は、利用できようになるまで適切な保育作業を行うこと。②景観・きれいな空気などの環境を考えると、これを守るためには適切な森林の維持、そして更新が必要である。広葉樹であれば、伐ったあと萌芽する力が強い林齢(30年から40年ぐらい)で伐ることが望まれる。スギ、ヒノキであれば再び植えることが必要である。③水資源の確保を考えると、森林に落ち葉の層が厚い方が水質浄化と合わせ洪水の緩和などの効果が大きいため、水源地に近いほど、スギ・ヒノキよりも、落ち葉が多い広葉樹の森が好ましい。④遊べる場、癒しの場としての森を考えると、身近な自然とのふれあいの場として、キャンプや、森林でのウォーキング、魚釣りなどを考えると、木の種類が豊富な混交林にした方が面白みも増えると思われる。⑤野生生物の生育・生息を考えると、スギやヒノキよりも、餌が豊富な広葉樹の方が好ましい。林業として経営が成立たない奥地や、スギ、ヒノキの成長が悪い、山の頂上付近はスギやヒノキを植えない選択肢も必要。これらにより,野性動物と人間の棲み分けができないか。

(2) 伐採による災害を防ぐ
 木を伐ること自体が災害の全ての原因ではないと考えているが、裸地化された結果、雨による濁り水、土砂の流出などの課題があり、伐採のための道のつくり方にも問題があると考えられる。
 フィールドワークで見たように道を作って木を出しているのは、皆伐だけでなくスギ、ヒノキの間伐作業においても行われており道の作り方の基本は同じはずである。災害の原因となる雨水などによる崩壊を防ぐための対策をした道づくりを行う必要がある。また、九州では、事業体自らがNPO組織を立ち上げ、環境に配慮した素材生産をめざして理念を示し具体的な行動指針として「伐採搬出ガイドライン」を作成している例がある。

(3) 変わる林業
 森づくりを考える中では、国の動きも見ておく必要がある。国は「森林・林業再生プラン」を策定し2020年までに木材自給率50%をめざすとしている。
 2012年7月からは、再生可能なエネルギーでつくった電気を全量、きまった価格で電力会社が買い取る制度(FIT)が始まる。これについて、朝日新聞に記事が載っていた。FITの買い取り価格が高くなると、森に放置された「林地残材」の利用が進む以上に燃料に木材チップを出荷する動きが活発化し、間伐や皆伐が必要以上に進む恐れが生じる。特に発電所側のコスト削減のため、近場からチップをかき集めることも考えられ、そうなると局地的に大規模な「はげ山」が出来るとの指摘もある。
 皆伐が進むほど、再造林を行う仕組み作りが必要になる。


7. 未来の森づくりをめざすための役割分担

(1) 県・市などの行政
 地域の林業施策方針を決めるのは自治体の大きな役割で、地域の基本的な方針を決めるのは市町村である。また、森林の所有者境界が引き継がれず不明になりつつある中、境界の明確化には行政の支援が最も求められる課題といえる。さらに、過剰な伐採を規制し計画的で循環が可能な林業を行うため、地域の合意を得るには西粟倉村のように行政のリーダーシップが必要となる。

(2) 森林組合などの事業体
 森林組合は、これまで植林を行い、木を育てることを行い大きな成果をあげきてきたが、残念なことは、「植えて、育てて、伐って使う、伐ったら植える」循環させる仕組みができていないこと。
 森林所有者も世代交代し、林業のみならず自分の山の所在をしらない所有者も増えて現状においては、所有者にかわって森林の管理・経営を担うのが森林組合の重要な役割となっている。

(3) 地域とのつながり
 地域の基本的な方針を決めるのは市町村の役割ではあるが、森林に関心を持っているのは、行政や森林組合、民間事業体などだけではなく、「こういう森が好き」「将来の森はこうあってほしい」と考えている市民も存在しているはずである。このような市民、地域の声を反映させる方法として、専門家や事業者、一般市民などで構成する組織を設置し、地域の森林のあり方を計画段階から幅広い委員の意見を聞く仕組みが必要。一緒に考え合意形成を行うため全体で責任を持つこと。そこで決定された方針は、首長の判断だけで一方的に方針を変えない。方針を変更するときは、みんなで議論して合意形成を行うことにより地域の森づくりの方針が継続されるのではないか。


8. おわりに

 地域とのつながりについては市民運動による啓発活度も必要と考え、逆節的な発想も含め木を伐った跡地に①木を植えてきちんと手入れをする、②木を植えるが手入れをしないで放置する、③何もせずに放置して結果を検証することも視野に入れ、それらを実践する候補地を絞り込みながらどういう啓発活動ができるかを検討したが具体化に至らなかった。課題である地域と協働した森づくりや、行政だけで考えるのではなく市民と一緒に考えるための市民運動のきっかけをどう作るかについて、県本部の協力を得ながら課題別集会等での現地活動などを活用して実践する方法を検討している。