【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 昨年3月に起きた東日本大震災、東京電力福島第一原発事故によって大量の放射性物質が大気中に放出され、福島市も土壌等が広く汚染されました。市では安心して暮らせる郷土を取り戻すため「福島市ふるさと除染計画」を策定し、現在、行政と市民との協働で放射性物質の除去(除染)を進めています。計画の基本的な考え方や除染の進め方の概要や特徴を記載するとともに、その中での福島市職労の取り組みについて報告します。



福島市ふるさと除染計画と福島市職労の取り組みについて


福島県本部/福島市役所職員労働組合・副執行委員長 丹治 英之

1. はじめに

 昨年3月11日に発生した巨大地震、その後の大津波は東北3県を中心に大きな被害をもたらしました。福島県双葉町と大熊町に立地している東京電力福島第一原発では、地震の発生により当時稼働していた原子炉すべてが自動停止しましたが、数度にわたる大津波で非常用電源を含む全電源が失われたことにより冷却機能が作動せず、原子炉建屋で水素爆発が発生し建屋が大破しました。東京電力の発表によれば、推定90万テラベクレル(テラベクレル=1兆ベクレル)もの放射性物質が大気中に放出されるという最悪の事故となりました。
 東京電力福島第一原発から北西方向に位置する福島市にも、当時の風向きや雨により大量の放射性物質が飛散しました。それ以後、市民は放射能という目に見えない不安に苦しみながら生活しています。

【表1-1 2011/5/2~7/11の各地区の空間放射線量率】 単位:マイクロシーベルト/時

地 域

空間放射線量率

平均値

中央地区

0.71~3.32

1.59

渡利地区

1.02~4.05

2.23

杉妻地区

0.42~2.02

1.17

蓬莱地区

1.03~2.22

1.55

清水地区

0.71~2.95

1.80

東部地区

0.55~3.00

1.60

大波地区

1.25~3.87

2.24

北信地区

0.77~2.73

1.43

吉井田地区

0.58~2.20

1.19

10

西地区

0.26~1.14

0.63

11

土湯温泉町地区

0.11~0.40

0.26

12

信陵地区

0.74~2.64

1.63

13

立子山地区

1.19~2.33

1.76

14

飯坂地区

0.42~2.13

1.05

15

茂庭地区

0.12~1.05

0.33

16

松川地区

0.52~2.08

1.16

17

信夫地区

0.56~1.75

0.91

18

吾妻地区

0.32~1.78

1.15

19

飯野地区

0.76~6.65

1.58

 今回の災害では、国が責任をもって放射性物質の除去等に取り組むとしていますが、それには相当の時間がかかると考えられます。福島市では、一日も早く市民の不安の解消を図ること、さらに真の復興には市民、民間、行政などの「地域」による前向きな取り組みが不可欠であると考え、昨年9月、市内の除染の基本方針となる「福島市ふるさと除染実施計画」(第1版)を策定し、行政と市民が「協働」で市内全域の放射性物質を除去することにしました。
 その後、国で「放射性物質汚染対処特措法」(2012年1月1月施行)を制定したことから、市では法に基づく形の「福島市ふるさと除染実施計画」(第2版)を今年5月に策定し、現在、その考えに沿って除染活動が進められています。


2. 「福島市ふるさと除染計画」の概要

(1) 除染の基本的な考え方
 計画では、除染に際しては緊急性を考慮し、①地域別(空間線量率の高い所から)、②用途・利用頻度別(市民の利用頻度が多い空間から)の視点で除染箇所を選定していくとしています。
 市が実施した空間線量測定によると、地域別では渡利、大波、東部、中央地区などで比較的空間線量率が高くなっています(表1-1参照)。よって、上記の地区から順次除染実施区域に選定し、除染を行うこととしました。また、用途・利用頻度別では、小・中学校等の教育施設、保育所等の児童施設などがすでに昨年度除染が実施され、終了しています。
 今後、空間線量率が0.23マイクロシーベルト/時以上の地区で除染を実施し、最終的な目標を、①2年間で日常生活環境における空間放射線量を1マイクロシーベルト/時以下とすること、②1マイクロシーベルト/時以下の地域は2年間で現在の空間線量率を60%軽減すること、③将来的に推定年間被ばく線量を年間1ミリシーベルト(=0.23マイクロシーベルト/時)以下にすることを掲げています。

(2) 除染の流れと地域の除染の取り組みについて
 除染の実施にあたっては、住民説明会の実施など、当事者である住民の理解と協力を得ながら進めています(表2-1参照)。
【表2-1 除染の流れ】
1. 住民説明・調整
 ① 除染に関する住民説明会の実施
 ② 除染要領、除去土壌等の保管要領等の調整
2. 現地調査・測定
 ① 現地確認、除染施設等測量、放射線量の測定
 ② 施設等所有者との現場打合せ、要望の聴取
3. 除染設計
 ① 除染方法の検討、工程等の策定
 ② 施設等所有者との除染要領、日程の通知
4. 除染作業
 ① 目標とする放射線量レベルになるよう除染の実施
5. 除染作業監督
 ① 目標とする放射線量レベルになるよう除染作業の監督・指導
6. 除染結果測定
 ① 除染結果の確認、記録
 ② 除染結果の評価
 ③ 線量低減がない場合、次の除染ステップへの検討
7. 除去土壌の保管
 ① 除去土壌の収集、運搬、保管・現場保管、仮置き場保管
 ② 中間貯蔵施設への搬出

 福島市では従来から「市民との協働」によるまちづくりを進めてきました。市には872の町内会が組織されています。また、町内会をはじめとする地域の各団体の代表者や知識経験者によって構成されている「自治振興協議会」が各地区にあり、市民の意見を市に伝え市政に反映させています。
 今回の計画においても、協働のまちづくりの考えに基づき、「市では地域の実情に応じ地域やコミュニティの範囲等で行政と地域(市民)との協働で除染を進める」としています。
 地域における主な除染の取り組みをまとめると以下のとおりです。
① 地域除染対策委員会等の設置
  市民の意向反映と迅速な実施に向け、地域内の各町内会・企業等で構成される。市と地域の調整、ボランティアの受け皿としての機能を担う。市内18地区で設置される予定である。
② 地域除染計画の策定
  地域における除染の基本となるもの。行政との役割分担、スケジュール等が明記され、行政と住民で情報を共有することを主な目的とする。
③ その他、地域の除染活動への市の支援等
  空間線量率の測定(情報提供)、補助金の交付、除染マニュアルの作成、除染講習会の開催、除染の相談窓口の設置、除染アドバイザーの派遣、ボランティアの募集と派遣、地域除染計画策定の支援等。

(3) 福島市職労の取り組み
 この計画について、福島市職労でも執行部で協議を行いました。計画では、まず「除染に関する住民説明会」を実施して住民の理解を得ることになっていますが、「住民から除染時の大気中への影響を懸念する意見が出た際に、健康への影響はなく安全であることを裏付ける科学的データを提示しなければ、住民の理解を得ることが出来ないのではないか」との意見が出されました。また、「実際に作業に携わる作業員、職員、ボランティアの健康上の安全性を確認することも必要ではないか」との意見もありました。そこで市職労では、一連の除染作業が作業従事者や周辺の環境に及ぼす影響を明らかにするため、福島県本部から自治労・労働科学研究所を通じて早稲田大学創造理工学部名古屋研究室に「除染作業によって発生するインハラブル粉塵濃度調査」を依頼しました。
① インハラブル粉塵濃度調査について
  インハラブル粉塵とは、「鼻や口から吸引される粒径の粉塵」を意味する。厚生労働省が2011年12月に制定した「除染等業務に従事する労働者の放射線障害防止のためのガイドライン」は、「高濃度粉塵作業の判断方法」としてインハラブル粉塵を測定対象としている。
② 調査の目的
  除染作業を行うことによって放射性物質を含む土壌などの粒子が空気中へ飛散する状況や、作業者にどの程度曝露されるのかを数値的に把握する。
③ 測定方法
 ・作業中の作業者が曝露されるインハラブル粉塵の濃度を、①屋根の高圧洗浄作業、②表土剥ぎおよび除去土壌の現場保管作業、③落ち葉の収集作業、④植木の剪定作業、の4つの作業別に測定する。
 ・曝露濃度測定にはデジタル粉塵計(LD-6N型)を用い、これを作業者に装着して作業時間全般にわたる質量濃度の測定と、相対濃度の連続測定を同時に行う。
 ・作業内容、作業場所、作業時の姿勢などを記録し、粉塵曝露データを照合することにより除染作業ごとの曝露状況を把握する。
デジタル粉塵計装着時(後)
デジタル粉塵計装着時(横)
除染作業(屋根の高圧洗浄作業)
除染作業(表土剥ぎ)
④ 結果と考察
 ・測定日:2012年7月4日(水)~7月5日(木)
 ・天 候:晴れ
 ・測定地:福島市南向台(渡利地区)
 ・結果と考察
  今回の測定の結果、作業者1~4が曝露した粉塵濃度は0.0~0.92mg/m3であり、ガイドラインで定められた高濃度粉塵作業(10mg/m3)ではなく、粉塵への曝露について注意を要するような状況は見当たりませんでした。作業別では、表土剥ぎや落ち葉の収集作業が比較的高い濃度が検出されたが、作業者はマスクを着用していることから作業者の安全は確保されていると考えられます。屋根の高圧洗浄作業は、ほとんど粉塵粒子は捕集されませんでした。
  また、環境中の平均粉塵濃度は午前が0.092mg/m3、午後が0.054mg/m3で、作業者が曝露する粉塵濃度よりもさらに低いことが確認されました。これは土壌粒子の大きさが比較的粗大なものが多いために飛散距離が小さいことや、季節的な要因で土壌粒子に含まれる水分が比較的高いことなどが理由として考えられます。
 市職労では、今回の調査結果を当局に提供しました。当局ではこのデータを住民説明会で使用し、住民の不安払拭に貢献しました。


3. 福島市の除染の進捗状況について

 住宅地では、大波地区の除染がすでに終了し、現在(2012年7月時点)、渡利、東部地区で除染作業が進められています(表3-1参照)。除染の効果については項目別や高さで異なりますが、除染前に比べ約2割~6割の放射性物質の減少が確認されました(表3-2参照)。
 また、小・中学校等の教育施設、保育所等の児童施設についてはすべて除染が終了しており、現在は公園や道路の除染が進められています(表3-3参照)。

【表3-1 住宅地の除染の進捗率】

地区名

発注件数

除染中・終了

進捗率(%)

大 波

418

418

100.0

渡 利

5,819

689

11.8

東 部

1,027

0

0.0

合計

7,264

1,107

15.2

【表3-2 大波地区の除染の効果】
単位:マイクロシーベルト/時

項 目

除染前

除染後

除染率(%)

玄 関

1㎝

1.632

0.679

58.4

1m

1.437

0.793

44.8

1㎝

2.083

0.750

64.0

1m

1.696

0.868

48.8

屋 根

1㎝

1.101

0.779

29.2

雨どい

1㎝

2.384

1.067

55.2

室内

1F

1㎝

0.554

0.400

27.8

2F

1m

0.757

0.554

26.8

【表3-3 公共施設の除染の進捗率】

区 分

発注件数

除染中・終了

進捗率(%)

小・中学、幼稚園

99

99

100.0

保 育 所

75

75

100.0

児童福祉施設

32

32

100.0

公園・児童遊び場

113

68

60.2

市営団地内幼児公園

2

2

100.0

体育施設、運動場

6

1

16.7

その他の運動施設

7

3

42.9

合 計

334

280

83.8


4. おわりに

 福島市の除染の特異性として、「住民が暮らしている中で除染を進めなければならない」ということが挙げられます。住宅戸数は膨大な数にのぼりますし、また、工場が稼働し、店舗が運営され、農業も営まれるなど経済活動も行われています。1986年に発生した旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、本格的な除染は行われませんでした。また、警戒区域に指定されている福島県内の双葉町や浪江町等は住民が町外に避難しており、国直轄で除染が行われることになっています。
 福島市は、「2012年を復興元年としてその一歩を踏み出す」としています。仮置き場を何処に設置するかなど課題は山積しており、大変困難な道のりが予想されますが、市と住民、そして市職労も地域に住む当事者として協力して復興に取り組み、協働の力で必ず乗り越えていきます。この困難を乗り越えた先に、住民の笑顔と、住民の団結力・地域力・自治力の向上があると信じます。
 全国の皆さんの引き続きのご支援・ご協力をお願いします。