【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 文化財建造物の保存修理工事は長期間の工事となることが多く、今回実施している「国宝姫路城大天守保存修理工事」も例外ではありません。姫路城のような文化観光施設は、市の観光行政の中心施設となっていることが多く、長期にわたって閉鎖することは観光面でのダメージは非常に大きなものとなります。今回の修理では、工事の様子を常時公開することにより、新たな姫路城の魅力を発信しようとする取り組みです。



姫路城大天守修理見学施設「天空の白鷺」
〜姫路城の新たな魅力を発信〜

兵庫県本部/姫路市職員組合・城周辺整備室・姫路城改修担当 小林 正治

1. はじめに

 姫路城は池田輝政の手により1601年から1609年まで9年の歳月をかけ築城されました。今回工事に着手した2009年は姫路城築城後400年の節目の年にあたり、大天守においては「昭和の大修理」以後初の本格的な保存修理工事となります。工事は2009年度から2014年度までの6年間を要し、現在工期折り返し点を迎えたところです。大天守修理見学施設「天空の白鷺」の開設も残すところ1年余となり、工事もそろそろ大詰めを迎えようとしています。本レポートでは、「天空の白鷺」の計画段階から現在の運用状況までの概要を報告したいと思います。

2. 工事の概要

 工事の内容は大きく分けて以下の3つです。

(1) 屋根瓦の葺きなおし
 大天守の屋根は、寺院建築でよく見られるような本瓦葺きと呼ばれる瓦の葺き方で葺かれています。面積は約2,060m2あり、これを約18ヶ月かけて葺きなおします。2011年4月から半年間で瓦を解体していき、葺き方や瓦の仕様、破損や雨漏りの状況などを細かく調査しました。文化財の修理は、原則現在使用されているものは可能な限り再利用しますので、延べ8枚に及ぶ瓦を一枚ずつ破損の有無を調べていきました。昨年10月ころから、屋根葺きを開始し、現在8割程度を終えたところです。

(2) 漆喰の塗りなおし
 姫路城は、別名「白鷺城」とも呼ばれるように、壁・軒裏のみならず屋根目地まで白漆喰で塗られた漆喰総塗籠造りとなっています。漆喰塗りの総面積は、屋根目地を含めて約9,500m2にも及びますが、そのうちの約7,500m2の漆喰を塗りなおします。左官工事は約38ヶ月を要し2013年暮れまでかかる予定です。現在約5割程度を終えたところです。

(3) 構造補強
 地震による柱の折損防止のため、最上層と1・2階部の柱の一部を鋼材で補強します。今年秋頃までには完了予定です。


@ 屋根瓦葺きなおし 最上層屋根
A 漆喰の塗り直し 最上層壁

3. 修理見学施設「天空の白鷺」

(1) 施設のあらまし
 大天守をすっぽりと覆う素屋根は、東西47m、南北47m、高さ53mと非常に大きなボリュームがあります。中は8階建てとなっており、1階と7、8階に見学用のスペースが設けてあります。1階はエレベーターの待合室と姫路城の修理の歴史を紹介する展示がされています。8階まではシースルーエレベーターで大天守を間近に見ながら一気に昇ります。8階からは、最上層の屋根が目前に迫り、ここから今回の工事の一つである瓦葺きや屋根目地漆喰の修理の様子が見学できるようになっています。また、南面、西面の窓からは眼下に広がる姫路城の縄張りが一望できます。次に7階へと階段を降りると最上層の壁面の修理の様子が見学できます。「天空の白鷺」の愛称は全国からの公募のなかから選ばれました。


「天空の白鷺」外観
断面図
8階修理見学室
7階修理見学室から

(2) 大天守保存修理検討会
 学識経験者を中心に構成する大天守保存修理工事検討会は2006年2月に第1回が開催されましたが、同年8月の第2回検討会ではすでに、見学室の設置についてさまざまな意見が交わされました。姫路市としては観光面でのダメージを考慮するとともに、工事中ならではの姫路城の姿を見てもらいたいと考えておりましたので、常時公開ということは念頭においておりましたが、委員のなかからは「文化財修理を間近に見てもらうまたとない機会である」「しっかりとした見学室を設ける」「普段城に来られない車いすの方などもこの機会に来てもらう工夫を」「素屋根内にエレベーターをつけては」などなど、工事によるデメリットを逆手にとった前向きな意見が多数出されました。

(3) 見学施設スペースの確保
 姫路城の大天守は独立した天守ではなく、連立式天守という複雑なかたちをしています。それゆえ大天守を覆う素屋根の設計にあたっては、基礎を据える位置、柱を建てられる位置が制限されてしまいます。構造的に堅固なものにしようとすればおのずと大天守の南側に広がる備前丸という空地で建物の構造を固める必要がありました。素屋根は、作業をするための最低限の面積があれば良いのですが、連立式天守という形式が見学室のスペースを生み出す要因となりました。また、1階は天守台石垣の部分で今回作業は全くない空きスペースであったこと、大天守は上層へいくほど面積が小さくなっていくことも見学室のスペースを生み出す一因となりました。

(4) バリアフリー
 城はもともと敵からの防御のため、縄張りは複雑かつ起伏を利用したつくりとなっています。姫路城も例外なく急な坂、階段などバリアだらけの施設です。素屋根の中にエレベーターを設置するまでは良いのですが、入城口から素屋根までは約300mの区間にたくさんのバリアがあります。歴史的な価値を損なわない範囲でスロープを3箇所設置し、段差も舗装を改修することで可能な限りバリアを軽減したのですが、ハード面の整備だけでは現在のバリアフリーの基準を満たすことはとてもできませんでした。スロープの角度は基準勾配の2〜3倍の急角度になっています。ソフト面の対応は、それまで身障者手帳を所持される方には同伴1人に限り無料入城としていたのですが、これを契機に3人まで無料とすることにしました。また、城内では、車いすの誘導が出来るスタッフを配置し、ハード面の不備を補うこととしました。2011年3月26日の「天空の白鷺」オープン以来、2012年7月末までの間に合計2,572人の車いす利用者の方に来城いただきました。「天空の白鷺」オープンまでは年間10〜20人程度の来城でしたので一定の効果は見出せます。


車いす試験走行風景(菱の門付近)
車いす試験走行風景(ぬの門付近)

(5) 施設運営
  施設運営には、姫路市の姫路城改修担当の職員11人(主幹以下)と運営業務委託業者のスタッフ約60人であたっています。予約の受付、来館者整理、誘導、入館料徴収、展示替えなどが主な委託内容となります。これとは別に約90人の方にボランティアとして観光客の誘導、介助、案内(日本語・外国語)などを行っていただいています。予約については「天空の白鷺」への入館者数が、1日あたり最高で3千数百人程度と限界がありますので時間予約制を採用しています。事前にインターネットまたは電話で予約受付を行い混雑緩和を図りできるだけゆっくりと見学していただこうというのが趣旨です。しかし、桜の時期やGWなどの繁忙期には入館待ちがでることもしばしばあります。

(6) 広 報
 ・工事をとおして姫路城の新たな魅力の発信 ・文化財修理の現場を見ていただくことにより文化財への愛着や修理への理解を深めてもらうことが「天空の白鷺」を設置した主な目的です。姫路城改修担当として行っている広報活動としては工事進捗情報の提供があります。市のホームページではトップページにバナーを掲載し、情報を得やすいようにしています。また、工事は日々進捗していますので、「今週の姫路城」として毎週工事現場の様子を更新しています。これは、金曜日に工事現場の様子を撮影し、翌月曜日にアップされるようにしています。あわせて、週間工程表も掲載していますので、今どこでどんな作業をしているのかがわかるようになっています。


2010/8
2011/4
2011/10
2012/2
2012/6
2012/7

 このほかには、姫路城大学校・小学校などのイベントや講演活動、記事素材の提供などは多数行っております。

(7) 入館者数
 2011年3月26日のオープンから2012年7月末までの入館者数は、「天空の白鷺」が約769千人。姫路城への入城者数は、約867千人です。約10万人の開きがありますが、姫路城には入ったが天空の白鷺には入らなかった、または入れなかった人数になります。一昨年素屋根の建設等で大天守に入れず、外観も見れない年に比べると倍増はしていますが、平常時の姫路城への入城者数は年間90万〜100万人程度ですので、工事期間中35%程度減となっています。

4. さいごに

 今後、大天守本体の保存修理工事は2014年早春頃まで完了し、その後素屋根等仮設物の撤去に入り2015年3月には全ての工事が完了する予定です。工事は進行中で今回の試みを検証する時期ではありませんので概要報告とさせていただきました。言葉たらずのところが多々ありますがご容赦ください。
 文化財の修理現場を常時公開する「天空の白鷺」は、日本で始めての取り組みであるため、同様の取り組みを検討している自治体等からの視察も多くあります。モデル的な事業として、全国にこのような取り組みが広がり、文化財に対する理解や愛着がより深まることを期待します。