【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第10分科会 「地域力」「現場力」アップにむけた学び合い

 人間社会が複雑・多様化してきている現代において、企業だけでなく自治体においても持続可能な社会の実現に向けて、いかに取り組むかということが求められている。労働組合も要求主体の活動だけでなく、社会を構成する当事者として社会的責任を果たし、組織の存在意義を高めていく必要があると考える。ここでは、公営交通事業者として地域に根差した取り組みとなっている「神戸イルミネーションバス」の概要を紹介したい。



労働組合の社会的責任(USR)の発信
~神戸イルミネーションバスの運行から~

兵庫県本部/都市交兵庫県協議会・神戸交通労働組合・書記長 加地 幸夫

1. はじめに

 「持続可能な社会の実現を目指す」この言葉には、多様な概念が含まれており、目的・手法・結果に至るまでさまざまなアプローチが考えられるが、近年の企業活動に見受けられるように、企業として利害関係者に対する活動だけでなく、企業活動に基づいた社会的責任や企業の地域社会に対する社会貢献等を通じて、地域とともに企業発展していこうという機運が高まってきている。これら取り組みの総称をCSR(Corporate Social Responsibility)として表現し、企業の自発的な行動としての社会貢献が活発化してきている。
 労働組合としても、これまでのように組合員の生活向上、生活安定のための要求・交渉・実現という活動だけではなく、労働運動の一環として社会的責任や社会貢献を行うことで、地域社会や広くは社会全体から存在意義を認められ、その土台の上に組織が成り立ち発展していくという認識を深めていくことが重要である。この考え方を先に述べたCSRに対してUSR(Union Social Responsibility)として、労働組合の社会的責任を実現することが、労働運動の一翼を担う取り組みになってくると考える。
 以下、「神戸イルミネーションバス」の運行を通じて、労働組合が取り組んできた地域とのコミュニケーションや地域連携の活動についてお伝えしたい。

2. 神戸イルミネーションバスが運行されるまで

(1) 運行企画の誕生
 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災。神戸市内すべての市民は一瞬にして多くのものを失った。
 その年末、大震災で亡くなられた人達への慰霊と鎮魂の意を込めた「送り火」として、また、神戸の復興・再生への夢と希望を託して、「神戸ルミナリエ」が始まった。「神戸ルミナリエ」のあたたかい灯りは、まさに犠牲者の鎮魂と神戸復興のシンボルとして、多くの市民の心を癒し、元気を与える大切なものとなった。
 神戸交通労働組合では、この復興のシンボルである「神戸ルミナリエ」のあたたかい灯りを、直接ルミナリエの会場に足を運ぶことが出来ない方々にもお届けしたいとの強い思いから、2003年に約1万個の電飾(LED)を施した市バス車両「KOBEイルミネーションバス」の製作・運行を企画した。

(2) 神戸イルミネーションバスの製作
 神戸イルミネーションバスの製作にあたっては、基本デザインを神戸芸術工科大学の学生の皆さんにお願いし、神戸マイスター(広告美術)の井上誠氏により、バスの実車デザイン及びすべての部材等の製作がなされた。このバスの製作費用については、神戸交通労働組合の組合員だけでなく、神戸市労働組合連合会を通じて、神戸市で働くすべての組合員・職員からのカンパ金で賄うことができた。



3. 神戸イルミネーションバスの運行

(1) 神戸市内の皆様へ
 2003年以降、毎年、神戸ルミナリエの開催期間中に、神戸市内の特別養護老人ホーム、老人保健施設、児童養護施設、知的障害者施設、身体障害者施設、精神障害者施設、重症心身障害者施設などを訪問しており、昨年も30箇所を訪問、約2,000人の皆様にこの灯りを届けることができた。これまでの9年間では、延べ376施設、約23,000人の皆さんにお届けし、合わせてこの企画に賛同を頂いている企業や仲間のみなさんから提供頂いた、心温まるプレゼントも一緒にお届けしてきている。それぞれの場所ではさまざまな出会いもあり交流が深まっている。
 この運行にかかわる運転士や設営・案内等のスタッフはすべて組合員・職員からボランティアを募り、多くの組合員に参加、協力していただいている。各施設へ「神戸ルミナリエ」のあたたかい光をお届けするという使命感にも似た思いで運行にあたるが、施設訪問後には参加のメンバー全員、訪問先の人たちがほんとうに喜んで笑顔いっぱいの姿を見て、また心の通う温かい交流ができたことで、自分自身も笑顔になり元気づけられた気がするという感想も多く聞かれた。



(2) 新潟県中越地震の被災者の皆様へ
 2004年10月23日に起こった新潟県中越地震の際には、組合員から同じ震災被害を受けた神戸として、イルミネーションバスを現地に派遣し、被災者の元気を取り戻す一助にならないかとの意見から、被災地との調整を図りながら、イルミネーションバスの派遣を決定した。派遣費用を賄うための支援カンパを組合員に募り、多くの支援金が寄せられた。そして、2005年1月21日~23日にかけて長岡市の仮設住宅へ、同年2月18日~19日にかけて十日町の「十日町雪まつり」の会場へ、雪の降る悪天候ながら陸路にてイルミネーションバスを派遣することができた。
 神戸市内で行う以上に、準備・調整の労力が必要となったが、神戸交通労働組合また神戸市交通当局も一丸となって準備に奔走し、まさに「光の出前」として、復興を祈る「神戸ルミナリエ」のあたたかい灯りをバスに乗せて届けることができた。加えて、阪神・淡路大震災時の支援に対する感謝の気持ちを込めて、震災の経験や教訓をともに語り合う交流会も開催でき、復興支援のお手伝いができたと感じた。



(3) 東日本大震災の被災者の皆様へ
 2011年3月11日に起こった東日本大震災の際にも、新潟県中越地震の時と同様に、神戸からあたたかい灯りを被災地へ届けたいとの強い思いから、組織の総意でイルミネーションバスの派遣を決定、派遣費用を賄うための支援カンパを組合員に募ったところ、多くの賛同を得ることができ、非常に多くの支援金が寄せられた。そして、2012年2月29日~3月3日にかけて仙台市・名取市の仮設住宅を訪問することができた。
 この時には、仙台市・名取市の行政当局はもとより、仙台市交通労働組合の皆さんからも取り組みの趣旨に賛同して頂き、多大な協力を得ながら各所を訪問することができた。阪神・淡路大震災時と同様に、ハード面の復旧・復興は着々と進む中、遅れているソフト面、いわゆる心の癒しをほんの少し感じてもらえるひとときを提供できたと感じている。



4. おわりに

 労働組合の社会的責任を(USR)と表現し、少々背伸びしながらレポートとして綴らせて頂いたが、いま公務員や公務労働組合に対する風当たりが非常に厳しくなってきていることは言うに及ばない。さらに言えば理不尽なまでのバッシングにより、世間全体が一方的な情報のみで“公務員像”また“労働組合像”を捉えているように感じてならない。
 私たちは、日常の業務を粛々とこなすだけでなく、労働組合としての結束力や行動力を存分に発揮し、地域社会や市民生活の中に直接入り込むことで、さらなる付加価値を創造し提供していける潜在力は十分にある。それらを実践し訴え続けることで、私たちの存在意義を高めていくことに繋がると信じている。
 「神戸イルミネーションバス」は、ほんの小さな取り組みであるが、いまの私たちにできうる精一杯の発信であり、あたたかい灯りを届ける「心の贈り物」であるとも自負している。この取り組みから得るものが何であるか、その答えはすぐには出ないかも知れない。しかしながら、各所を訪れたときの皆さんの笑顔が自らのモチベーションになり、さらなる労働運動の活性化や発展に繋がっていくと確信している。