【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第12分科会 被災地における女性への支援と保護~伝えられなかった真実~

 東日本大震災・福島第一原発事故により、福島県内の住民はもとより自治体・機能までもが避難を余儀なくされた。これほどの規模・期間の避難は、日本の歴史上初めてであり、避難自治体のみならず受け入れ自治体でも混乱を極めた。特に、避難業務時の女性職員の尊厳や母性保護を優先、配慮する余裕もなく、様々な課題や問題が浮き彫りとなった。
 福島県本部は、大震災・原発事故を契機に各自治体で防災計画の見直しや協議が進められる中、女性の視点、立場での被災経験や現場検証を進め、計画策定への提言を行う。



東日本大震災・福島第一原発事故における災害対応時に
女性が直面した問題・課題について(報告)

福島県本部/書記長 今野  泰

 今回のアンケートの回答は、36単組2,430人の女性組合員から回答を得た(回答率30.3%)。県本部のアンケートの期間を考えると、高い回答率を示し、女性組合員の訴えが聞こえてくる。中には、震災当時の過酷な記憶が蘇ることを理由に拒否する組合員もおり、まだ苦しさや悩みから開放されない実態もあることが理解できる。
 年齢は、50代が最も多く、30代、40代、20代と続く。また、市町村合併の影響もあり市役所が最も多く、女性職員が多く働く幼稚園・保育所、特に保育士が多い。
 災害対応時の業務におけるパワー・ハラスメント調査では、28.7%の回答があった。また、別項目の避難所運営業務では同程度の率を示しており、多くの職員が業務を経験した。この中で、15.7%の職員がパワー・ハラスメントを受けたと回答し、その相手は避難者が半数近い数値となった。この結果は、本部が調査した心のアンケートの中で避難者からの暴言を受けたとの回答が54%あったことからも見て取れる。年齢階層でみると、30代から50代に均等に分布しており、中堅職員がその対象となったことがわかる。
 一方で、セクシャル・ハラスメントの調査ではパワハラの調査以上の回答率があり、76人の職員が受けたと回答している。そして、同様にその相手は避難者が74.0%と過半数を示した。


 


仮役場で避難者の対応に追われる職員
 今回の原発事故による避難は、情報の未伝達・不足によって自治体も住民も翻弄された。
 同心円状に避難区域が拡大され、放射線量を測定する機材や放射能の知識もない中で不安は高まり、さらなる再避難、自主避難する住民が増加した。調査では、約6割の職員が不安項目に健康と回答している。自治体職員は、勤務や業務の関係で自主避難をできない職員も多く、特に子どもを持つ職員は自らの被曝よりも子どもの被曝を不安としている。これは、現在でも継続しており、早期退職の原因にも結びつく。
 このような中で、避難から職場復帰した職員と、留まり継続勤務した職員間での感情の対立が顕著となっている。
 職場の同僚を思い業務遂行に耐えた職員、家庭の事情で残らざるを得なかった職員、家族や子どもの被曝による健康被害に悩み避難した職員、放射能は地域コミュニティー、職場、家族さえも崩壊させた。
  このような場合の子どもや要介護者の受け入れ施設やその解決策として要望する意見も多く寄せられた。
住民の行政や公務員への期待は高まる一方で、公務員の健康や生活は軽視される。健康維持のための諸制度整備は当然ながら、家族的責任のある職員の処遇改善は必要な課題である。

  さらに、避難区域以外の自治体でも被曝不安から家族を自主避難させた職員もいるものの、大半の女性職員は継続し勤務していた。帰宅できない職員は、家事や育児、介護に心配や不安を抱えていた。
 これらの解決策は、67.1%の組合員が家族の理解や協力、22.3%の組合員が職場の理解によって解決・解消したと答えている。職場の理解は、勤務のローテション変更や休暇取得などの具体的内容は示されたものの、職場や業務によってバラツキもあった。このため、職員間で、不公平感や不満の高まる原因ともなっている。


 


昼夜を問わず避難者への支援にあたった職員
 次々に訪れる避難者を受け入れる自治体。その数も時間の経過とともに増加し、放射能の影響によって避難所は混乱し、飽和状態に陥る。災害対応に終始し、帰宅できない職員も多かった。避難所では、女性への配慮や母性保護に対する問題や課題が浮き彫りとなった。間仕切りがない中での生活と勤務でプライバシーは無視され、気の休まることもなく、ともすれば廊下や事務作業の場で仮眠を取らざるをない職員もいた。また、一部の避難所ではアルコールに依存する避難者もおり、女性の就寝時以外にも日中でさえ他の避難者は警戒心を高め、職員はその対応も求められた。また、間仕切りのない空間での長期避難、更衣室や仮眠場所も確保されず、トイレも男女兼用とされ、授乳やオムツ交換さえも気兼ねしなければならず、女性のストレスは高まった。
 避難自治体の職員は避難所での生活も強いられる中、住民優先の衣食住の提供を強いられた。育児のための哺乳ビンや粉ミルク不足、生理用品や衛生用品、下着等は住民に優先された。自治労福島県本部でも可能な限りの支援物資提供を行ったが、避難自治体・組合員数も多く、組合員への支給までには時間を要した。


 
廊下や事務室が職員の仮眠場所となっていた状況



 


 
仮眠場所も確保できず雑魚寝を余儀なくされた職員


 避難所業務は、避難自治体では職種により二分された。行政職は被害状況と避難者の所在確認・行政機能復旧、行政情報発信等の多種多様な業務、未経験業務を担った。一方、保育士等の専門職が避難所運営を担う傾向にあった。受け入れ自治体は、大半の職員が通常業務に加え、避難所業務を交代で担った。
 ガソリン不足が深刻化し、さらなる追い討ちをかけた。地方都市では、公共交通機関が不十分であり、大半の職員が私有車で通勤している。しかし、当時は東日本を中心にガソリンが不足し、近隣の職員は自転車による通勤を余儀なくされたが、放射能不安と深夜の帰宅に不安を感じていた。


 
情報収集と避難者の受け入れに翻弄された自治体職員


 防災計画や復興計画の策定に際し「男女の性差」に配慮した対策が必要だと感じているか、という問いに対しては、約5割が「必要がある」と回答しており、「どちらかといえば必要がある」という回答と合わせると実に9割近くが男女の性差への配慮が必要だと感じていることが分かった。
 このことは、自らも被災者でありながら、情報や物資等が不足するなど非常に過酷な状況下で増え続ける避難者への対応に追われ、既存の防災計画では避難者はもとより「支援者(職員等)」に対する配慮が欠けていたことが理由となっている。
 今回の経験を活かし、女性の意見や要望を取り入れ、「男女の性差」や「支援者」にも配慮した新たな防災計画や復興計画の策定が望まれる。

早期退職・病気休暇・メンタル疾患者の状況
(2012年7月31日現在)
 
早期
退職
病気
休暇
メンタル
疾患者
避難自治体
12 50 16
以外の自治体
26 191 60
全  体
38 241 76
 最後に、県内自治体における早期退職者、メンタル疾患者の現状について報告する。今年3月31日現在の早期退職者は457人、メンタル疾患による病気休暇取得者は262人であったが、4月~7月末までの間に、既に早期退職者38人(うち避難自治体12人)、メンタル疾患病休者76人(うち避難自治体16人)が発生しており、新規採用職員の退職者も含まれている。
 理由としては、震災・原発事故からの復旧・復興業務が多忙を極める中、避難区域再編や放射能被曝による健康不安等が追い討ちをかけ早期退職やメンタル疾患に繋がっている。
 これまで、自治労本部・福島県本部では「こころの相談室」や「自治労顧問医による健康相談」等を実施してきたが、引き続き職員のメンタル対策を強化し、職員が安心して働ける職場作りに取り組みます。