【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

 東日本大震災による福島第一原発事故の影響を受け、国は、エネルギー政策を大きく方向転換することを判断しました。併せて、地域主権を基本に、地方に与えられる自由度に見合った自己責任も求められてきます。
 このような背景の中で、公企労働者として地域住民のためにエネルギー政策の確立へ向けた役割をどのように果たし、再生可能エネルギー導入に取り組んで行くべきかを考察します。



公企労働者としての再生可能エネルギーへの取り組み


徳島県本部/自治労中央本部・公営企業評議会・副議長 生田 浩二

1. はじめに

 未曾有の被害をもたらした3・11東日本大震災は、福島第一原発の電源設備を破壊し、水素爆発を発生させ、原子炉からの放射能漏れによる大きな原子力災害を与えました。国は、その事故を受け、脱原発への国民意識の高まりにより、エネルギー政策を大きく方向転換しました。震災後、基幹エネルギーとして運用されていた原子力発電が、安全性の面から大飯原発を除いて再稼働の見通しが立たない状況が続き、原子力に頼らないエネルギー供給に向け電源構成をどのようにシフトしていくかが最大の論点となっています。
 また、2012年7月1日から再生可能エネルギー特別措置法に基づく固定価格買取制度がスタートし、さらに、国民的議論を踏まえたエネルギー基本計画の見直しが行われようとしています。
 これまで、温室効果ガス排出量抑制など環境面から導入が進められてきた再生可能エネルギーに対して、国策として、早急な導入が求められる状況になっています。地方公営企業による再生可能エネルギーの導入に関しては、それぞれの地方公共団体におけるエネルギー政策との整合性や財政事情により期待される度合いが異なるものの、行政の一翼を担う地方公営企業に対しては、そこに働く組合員の知識や経験を活かした取り組みが求められています。
 地方公営企業に働く労働者として、再生可能エネルギー導入にどのように取り組んでいくべきか、その制度や現状における課題も含めた視点で考察してみたいと考えます。

2. 地方公営企業とエネルギー政策

(1) 地方公営企業の制度
 地方公共団体が、公営企業法に基づき運営する事業は、多岐に及んでいます。エネルギー政策が地方公営企業にどのような影響を及ぼすかを考える上で、各事業の性質による分類を説明します。
 地方財政法第6条に規定する事業{いわゆる法定7事業[水道事業(簡易水道を除く)、工業用水道事業、電気事業、ガス事業など]に加え、簡易水道事業、港湾整備事業、宅地造成や公共下水道事業}については、法的規制が必要であることから、特別会計を設けて、その経費は原則として、その事業の収益を持って充てることとなっています。
 中でも、地方公営企業法第2条に規定される「法定7事業」は、企業経営のための「組織」や「財務」をはじめ「職員の身分取り扱い」に至るまで、地方自治法の特例を定めている「地方公営企業法」の規定の全部または一部が適用される事業となっています。一方で、財務適用が任意となっている事業については、複式簿記を採用しているかどうかによって、採算性を検討する場合に減価償却などの費用配分の面で違いが現れます。
 また、地方公営企業をエネルギーの需給という観点で分類すると、電気事業やガス事業のような「エネルギーを供給する立場」と、水道事業や下水道事業のほか大部分の事業に該当する「エネルギー需要者の立場」に分類することができます。経営面からは、電気料金の高騰が、売る立場と買う立場により単年度収支に違った影響を受けることになります。

(2) 地方公営企業と一般行政との違い
 地方公営企業では、一般行政と法体系や制度が異り、「公営企業の経営原則」として地方公営企業法第3条に「地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。」と明記されています。最近になって「民間的経営手法」という言葉が強調されますが、この考え方は、制度上において地方公営企業に従前から導入されていたものであると言えます。
 また、公共性の原則に沿った形で、公共福祉の向上を目的として地方公共団体の施策に整合した事業を運営していますが、経済性の原則では、経費を営業収益で賄うという部分、つまり税という形で徴収する財源ではなく、サービスの対価である料金収入が財源となっている点が大きく異なります。
 さらに、財務関係の特徴として事業ごとに特別会計を設けて、経営成績や財務状況を明らかにしている点や、会計制度についても企業会計方式を採用し、複式簿記を採用する等、官公庁会計と異なる部分が数多くあります。
 このような制度の下で運営する地方公営企業にとっては、「独立採算」という枠の中で、エネルギー政策の動向が「収益」や「費用」に直結する問題であり、事業収益の面から見ると、電気事業やガス事業の契約料金を左右する大きな要因にもなってきます。
 しかし、ほとんどの地方公営企業の職場では、人事制度の運用面から、一般行政職場との人事交流で一定の期間のみ従事する職員が多くなるため、一般行政の延長線上で地方公営企業を運営する傾向にあるのが現状となっています。
 これまでも、経営という要素が欠如したトップダウンの政策によって、アドバルーン的な事業への荷担を余儀なくされてきた事例も存在しています。事業管理者の見切り発車により数十年後に経営が悪化する様なケースもあり、その影響を受けるのは、そこで働き続ける労働者やサービスを受ける住民となってしまいます。  
 このような現状も踏まえ、公企労働者として、長期的な視点で経営を監視し住民サービスを維持することが重要となっています。

(3) エネルギー政策への関わり方
 自治労公営企業評議会は、電気事業やガス事業に従事する労働者の視点で、公共の福祉を基調にエネルギー政策にどのように向き合っていくべきかを議論し、その職場環境を的確に捉え、労働条件を改善していくことを目的として、エネルギー政策に関する取り組み方針をまとめて来ました。
 地方公営企業が、再生可能エネルギーを導入する場合には公共性の有無について評価し、人員を雇用できるような一定規模以上となる事業として取り組むか、小規模であっても地域住民の福祉の増進に寄与すると判断し取り組むか、いずれかの理由付けが必要と言えます。
 電気事業を例に挙げると、全国各地で行われてきた河川総合開発事業は、多目的ダム建設により水害を防止するとともに、ダムに貯留した水をかんがい用水、上水道及び工業用水道並びに発電など多目的に使用します。このため、地方行政を総合的に執行している地方公共団体が行う事業としてふさわしいとの理由付けがありました。
 現在は、行政組織の中で、地方公営企業がその技術的なノウハウを活かして、民間企業の本格的参入を導くまでの先駆的な取り組みとして、一定規模以上の風力発電や太陽光発電設備を設置する事例や、普及啓発を目的として小規模の設備を導入するなどの事例が見られます。
 これまでにも、公営電気事業において水力発電を中心とした開発が行われてきました。2011年4月1日現在の公営電気事業の設備は、風力10地点3万7千kW・太陽光4地点200kWなど、300地点で合計最大出力が246.1万kWとなっています。2011年10月には、新潟県新潟東部で公営電気事業初のメガソーラー1,000kWが運用を開始しており、全国的に運用開始や建設計画が進展しています。
 また、電気事業以外の事例を挙げると、水道事業、工業用水道事業及び下水道事業において余剰水圧を利用した小規模水力発電や、場内の遊休地や沈殿池等の上部を利用した所内消費電力用の太陽光発電等への取り組み事例も多く見られます。
 しかし、大規模な再生可能エネルギーの導入を考えた場合には、独立採算という枠のなかで、水道事業や工業用水道事業は、料金にはね返ることを最小限にするため、取り組みに慎重にならざるを得ないところがあります。経営リスクや資金面で考えると、電気事業は制度上のルールに基づき、これまでに確保された引当金等の内部留保資金を活用して、その役割を担うことができる事業であると言えます。
 地方公共団体がエネルギー政策に関わる場合には、地方公営企業という制度の枠内で建設目的に合致することが重要となってきます。一方、公企労働者の視点としては、労働条件にはね返ってくる維持管理面の費用の算入をはじめ、設備撤去までのライフサイクルコストを十分に反映させること、地域の環境や騒音被害などにも配意した、住民目線での提言を行うことなど長期的な展望を持つことが最も重要となってきます。
 また、いわゆる「箱物行政」と一線を引く必要もあり、流行に飛びついたばかりに、本体事業の経営を悪化させ、住民サービスの低下や労働条件の切り捨てを招くような本末転倒の結果とならないよう、導入判断時に労働者も十分な検討を実施することが必要です。

3. 規制緩和の進展と労働組合の役割

(1) 規制緩和と自己責任の明確化
 地方公営企業は、エネルギーを供給する立場から、規制緩和の流れに沿って、電気事業のみならずガス事業においても「再生可能(クリーン)エネルギーの導入」といった住民ニーズに応える必要があります。
 地方公営企業法の枠組みでも、様々な取り組み手法が考えられますが、エネルギー政策への関わり方を踏まえた上で自己責任について改めて考察すると、電気を作るためには設備が必要であり、原子力と同様に、安定した水力発電を行うためにはダムが必須となります。また、それらの設備を継続して安全に維持管理することにより、下流住民の生命財産を守っていくという責任も担います。
 このように、事業を開始した責任を果たすという趣旨からすると、適正な維持管理を行い住民の財産を守るために必要な人材や財源を育成・確保するなどした上で事業を継続していくことが、大変重要な事項となります。
 4月3日にエネルギー分野における規制緩和の方針が閣議決定され、再生可能エネルギーの開発に追い風が吹く一方で、この規制緩和の中には公営電気事業で売電する場合には、電力会社への随意契約から新電力(特定規模電気事業者)も含めた一般競争入札とすべきというような項目も示されています。総務省との協議では、地域性を加味した中では、従来どおり随意契約が可能とされていますが、これまで、地域の電力会社との売電交渉を行うことにより単価を決定して地域内へ供給していた電力が、一般競争入札の結果により地域外へ電力供給することも考えられます。
 この売電先の課題は、東京電力の電気料金値上げが発端となっており、公営電気事業の目的である地域福祉の向上という観点からかけ離れた考え方となります。地方で発電した電気を、特定規模電気事業者が地域の電力会社より高く買い上げ、東京電力管内に安く提供するという形になることは、地域の電力会社が、その穴を埋める電気を他の電力会社等から高く買うことになり、電気料金の実質的な値上げに繋がることが推定できます。
 また、地方公営企業の資本制度見直しによる資本造成や会計基準見直しによる説明責任を果たす場合と同様に、自由度は増したものの将来に向けて説明責任を果たしていくことが強く求められるようにもなっています。
 このため、地方公営企業で事業化する場合には、耐用年数間の経営リスクについて、十分検討し、住民への説明責任を果たすことが重要となっています。例を挙げると、メガソーラーの建設は、数億の投資が必要であり、震災や津波リスクのほか、設備修繕等の費用を十分見込んで吟味する必要があります。
 経営面の失敗が、自己責任という形で最終的に住民にツケが回るということを考えると、例えば、設備のトータル的な完成度や製品のバラツキがあることも考慮し、理論的な故障率では想定できない補修費用が発生することまで加味した上で建設計画を立て、人材を確保して自己責任が果たせるような維持管理をしていくことが事業者としての責任であると考えられます。公企労働者が必要に応じて事業者責任を追及することも、自己責任を果たすための一つの方法だと言えます。
 地方公営企業が、それぞれの主たる事業であるライフラインに直結した設備を適正に維持管理していくことを置き去りにした政策優先の議論によって、安易に新たな事業展開を求められる場面も見受けられますが、公営企業が運営する事業は、先行投資で長期間をかけて安価な料金で回収するというシステムであり、維持管理も含めて長期間サービスを安定供給できることが最も重要であることを忘れてはなりません。
 一般行政や、民間企業とも異なるスタンスで事業を経営することから、説明責任のコストは行政並みに必要となり、効率的な業務執行に反するような場合でも、公営企業という特殊性が認められない中で、効率的な事業運営を行わなければならないのが実態となっています。
 行政的な非効率から脱却するためには、労働組合も含め、人事交流職員とプロパー職員が一体となって、地方公営企業法の趣旨に沿った制度を正しく理解して運用していくことが必要です。そのことが、公営企業として与えられた自由度に対する自己責任の果たし方であると確信しています。

(2) 労働組合から見た今後の課題
 エネルギー政策が大きく変化する状況において、公企労働者の視点で制度の変化に対応することは、組合員の雇用の場を守るだけでなく、これまでの住民出資によって確保した地域インフラという「住民の財産」を守ることに繋がると言えます。
 住民の代表である議会の要望を踏まえた上で、一過性の利益にとらわれず長期安定経営に重点を置き「公共の福祉を増進する」役割を発揮することが「安定経営により継続した安価なサービス提供を行う」ことに繋がっていきます。
 公企労働者は、「エネルギー政策」への取り組みに対して、労働者の視点から方針を確立し、使用者と共有化することが重要であると考えます。事業者が短期的な政策に振り回されてはならないことと同様に、労働組合も当面の労働条件のみにとらわれて長期的視点に欠けた交渉を行うことは、次世代への悪影響を及ぼすこともあり得ることを理解しておく必要があります。
 国民的議論が行われているエネルギー政策は、国民全体が注目しており、議会やマスコミも様々な意見を述べる状況が続いています。今後も、公営企業の事業内容に対して、肯定的な意見や否定的な意見が錯綜することが考えられます。
 これらの批判が始まってから、ものごとを検討していたのでは、経営判断が批判的な意見に流されて行く恐れがあります。その対策として、労使が一体となって再生可能エネルギー導入への取り組みについて、日頃から労使で十分な議論を行い方針を確立しておくことが重要です。
 労働組合も、自分たちの職場環境を取り巻く情勢について学習を重ね、制度の変更点などを的確に捉え、使用者側の提案が「事業経営や労働条件にどう影響するか」を短期的及び長期的な観点で、業務量のみならず経営面も含めて交渉できる力を身につけることが必要です。
 このことは、私達の労働条件を改善するだけでなく、将来にわたる地域住民サービスを継続することに繋がります。また、職場環境を守ることが、住民サービスの水準を維持・改善することであるという自覚を持ってエネルギー政策に向き合うことが、公企労働者としての重要な課題となってきます。

4. まとめ

 原発事故を背景に、再生可能エネルギーが着目を浴び、これまでにない早さで導入が進んでいます。一方で、原子力政策の方向性が定まらず、地域での議論が不十分な中で全量買取制度だけがスタートしました。
 エネルギー基本計画の見直しが、その時点で考えられる課題を反映し、方向性を大きく変化させることがあったとしても、国全体のエネルギーセキュリティーや環境面を考慮すべきことは、普遍的な課題であることを忘れてはなりません。これまでに、2030年時点の原発依存度について国民的議論が行われましたが、温室効果ガス削減と原発依存度低下を両立させるためには再生可能エネルギーの積極的な導入が必須となります。
 原発依存度を低減させるという国民の選択は、経済的負担が重くなってでも省エネルギーを推進しながら、安定供給を求めることに繋がります。地方公営企業として地域住民の福祉に貢献することを通じて、地域のライフラインや地方での雇用を継続的に守ることを基本とし、環境面において有利な再生可能エネルギー導入に関わっていくことは避けることのできない課題です。
 地方公営企業に働く労働者は、事業管理者と十分な議論を行い、地域事情を反映させた取り組みを求めることにより、地域住民に公営企業の重要性と役割を理解してもらえるよう努めることが重要です。
 また、長期的な安定経営により、原発依存度の低減に向けて住民と協同して役割を果たし続けるという観点で、労働者としての意見を述べていくことこそが公企労働者の役割であると確信しています。