【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

 人が生活していく上で、電力エネルギーは不可欠です。反面、昨年の福島原子力発電所の事故以来、電力供給の仕組みや安全性に疑義を持つ声もしばしば聞かれます。「電力エネルギーはどうあるべきか」という疑問を紐解いていく過程のなかで、そのあるべき形も、時代とともに進化し、わたしたちの暮らしに直結しています。本レポートでは、地域特性を活用した自然エネルギー推進型の新たな電力の仕組みづくりについて提案します。



エネルギーをシフトする


福井県本部/特定非営利活動法人丹南市民自治研究センター・理事 牧野 博之

1. 研究趣旨

 福井県は、現在、原子力発電所が十数基設置されており、発電所が集中している地域は「原発銀座」とも呼ばれています。このような地域に大規模な地震や津波がきたら……。われわれ地域住民のみならず、日本中に被害がおよぶことも考えられます。「そんな危ない施設は、ないほうがいいに決まっている」みんなそう感じているはずです。では、そんな原子力発電所がなぜなくならないのでしょうか? 私たちが主宰する丹南市民自治研究センターでは、「エネルギーシフト部会」を設立し、自分たちのまちに望ましい新しいエネルギー資源について模索を始めるとともに、原発立地地域が抱えるさまざまな問題をどのようにクリアしていくべきか、研究活動を開始しました。

2. 原発についての正しい知識を知ろう

 福島原子力発電所の事故以来、マスコミや電力会社に頼った知識の収集は、意味を成さなくなりました。わたしたちが、是非を問う、または、判断をする材料として、原子力エネルギーについて本当の実情を知る有識者から、偏りのない正しい知識を知る必要があります。そこで、原発の立地自治体の一つである福井県美浜町の元町議会議員・松下照幸さんを講師として招き、原発の実情と地元の生の声を交えた講演会を2012年3月2日、越前市内で開催しました。この講演では「福島原発の事故は起こるべくして起こったもの」「国や電力会社側は不都合な事実を隠蔽している」など、いままで私たちが知ることができなかった事柄について、講師の実体験や科学的な根拠を元にした説得力十分の解説がありました。また、脱原発において今後課題となる自然エネルギーを利活用した新たなエネルギー政策についての提案、産業や雇用の仕組みづくりなどを学びました。

3. 市民の声をいかに国に伝えるか?

 これを受けて、丹南市民自治研センター理事長の三田村輝士越前市議会議員は3月議会において「原発問題と地域防災」について一般質問を行い、原発に対する地元意識の有無や脱原発に対する考え方、住民避難のあり方などを質すとともに、原発事業者との原子力安全協定の締結を提案しました。
 「原発は要らない」と脱原発社会を求める声を地方から情報発信するように迫ったところ、「一定の期間を設けて、原子力から再生可能エネルギーへと着実に転換を図っていくことが望ましい。国は原発依存度の低下に向けた工程表の策定中で、まずは高経年炉の廃止を明確に位置づけるべき。」との回答を引き出しました。
 また、3月議会最終日(3月19日)には「大飯原発3、4号機の拙速な再稼働に反対する意見書」を全議員の賛成で可決し、国に提出しました。
 6月議会においても、県知事が大飯原発の再稼働に同意するのではとの報道がなされている中で、危機感をもって県知事宛の「大飯原発3、4号機の再稼働に慎重な対応を求める意見書」を全会一致で採択しました。

4. チェルノブイリへの視察

 2012年4月15日から同月23日までの間、三田村てるし氏(現越前市市議会議員)が26年前に史上最悪の原発事故を起こしたチェルノブイリ原発事故の現状調査のため、旧ソ連(現ウクライナ)へ現地入りされました。
 その後、「現地で今なお続く、事故の爪あとの惨状をみんなに伝えたい」との三田村氏の想いもあり、2012年6月12日、越前市内で「チェルノブイリの遺言」と題し、市民参加型の視察報告会を設けました。三田村氏からは、事故の実情、廃墟と化した都市、現在もなおつづく事故への対応など詳細な説明がありました。事故後26年経過した現在でも、事故への対応が続いており、解決策が見つかっていないという事柄もあり衝撃を覚えました。また、私たち原発立地地域周辺に生活しているものにとって、この事故は他人事ではなく、将来を担っていく次世代のためにも、「電力エネルギーのあり方」という課題について、一歩でも前進させていく必要があることを改めて再認識しました。

5. 原子力発電所と立地自治体との関係

 原子力発電所と立地自治体との関係は、現在、経済的な需要と供給で成り立っている一面があります。行政は、固定資産や立地交付金等により潤い、住民は立地給付金や雇用により潤い、立地自治体を形成する経済基盤として原子力発電所が存在しているのです。そのようなまちに住んでいる住民は、みずから「脱原発」と発言し活動を行うことについて、歯止めがかかりやすい環境にあるのが現状です。このことが、現在も原発依存から脱却できない一つの要因であるといえるでしょう。例えば核家族家庭において、お父さんが原子力関係施設で働き、お母さんはその食堂で働いている、その子どもは「脱原発」という意識を持つかは残念ながら懐疑的です。したがって、立地自治体のみならず、周辺地域の自治体が声を上げて活動を行うことが求められているのです。その中で、経済的な需要と供給の成り立ちのシェアにおいて、極めて慎重に電力エネルギーを自然エネルギー型にシフトしていくことが求められています。

6. 電力料金って適正なのか?

 電力は、現在ほぼ電力会社の独占事業であり、私たちが使用料として支払っている価格は適正であるか? という民主主義では根本となる思考が機能していません。また、発電に必要な資源については海外から購入していますが、諸外国が購入している価格よりもかなり高額で購入しています。「不要な値引きをしない」のです。なぜならば、購入価格はそのまま私たちの電力使用料として徴収できるような制度があり電力会社側が損をすることがないからです。また、世界的な情勢不安からも化石燃料の高騰は今後さらに続くと考えられます。

7. 電力エネルギーは 「買う」→「つくる」の時代へ

 そんな中で、電力エネルギーを自然エネルギー型にシフトをしていく。という動きもあります。
 2012年7月1日から開始された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」です。再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、バイオマス、太陽熱、地熱などの自然の力を利用した電力発電のことで、固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーによって発電された電気は電力会社が買い取ることを義務付けた制度のことです。この推進によりエネルギー自給率を高め、新たな産業の育成が期待されています。電力エネルギーは「買う」から「つくる」の時代が始まりました。これからの課題としては、自分たちのまち単位での電力づくりの仕組みをつくっていくことが大切になるでしょう。買取制度に基づいて買い取られた電気価格は、幅広く利用者の電気料金に反映されるからです。すなわち、A市の発電企業が、B市エリアで発電を行い収益を上げている場合、B市民は、A市発電企業に経済的貢献をしていることになります。自らのまちのエネルギー資源は、自らのまちの経済に活かさないと勿体ないのです。自然エネルギーを地場産業として取り入れ、新しい産業を作り出すことが、ひいては原発依存から脱却していく有効な手段であるとして提案いたします。